妊娠前日

水野 七緒

妊娠前日(脚本)

妊娠前日

水野 七緒

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妊娠前日
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〇カウンター席
女友達「いよいよ明日だね。 あんたたちの初夜」
女友達「よかったよ やっと子作りする気に なったみたいで」
穂乃花「そう・・・だね」
女友達「え、まさか やっぱりやめたいとか?」
穂乃花「う、ううん、その・・・」
穂乃花「ちゃんとできるか不安で」
女友達「大丈夫、楽勝だよ」
穂乃花「でも初めてだし」
女友達「任せておけば平気」
穂乃花「痛かったりとか・・・」
女友達「ないない! むしろ、めちゃくちゃ 気持ちいいって!」
穂乃花「へんな声が出るのも・・・」
女友達「いいじゃん 出しなよ、声くらい」
穂乃花「でも・・・でも・・・」
女友達「ねぇ、あんた やっぱり嫌なんでしょ」
穂乃花「違っ 私は嫌じゃないよ!」
穂乃花「でも、タケルくんは 私じゃ不満かも」
女友達「えっ」
穂乃花「だって、タケルくんは 昔から・・・」

〇一軒家の玄関扉
タケル「おおお姉さん!」
穂乃花の姉「はい?」
タケル「ど、どどうもタケルっす!」
タケル「ははは、はじめまして!」

〇カウンター席
女友達「それ、いつの話よ。 高校時代じゃん」
穂乃花「でも、初恋って やっぱり特別だし──」
女友達「だとしても、今は あんたの旦那じゃん」
女友達「大丈夫、 今、タケルが好きなのは あんたなんだから」
女友達「もっと自信もちな!」
穂乃花(無理だよ、そんなの)

〇繁華な通り
穂乃花(だって見ちゃったもん)
穂乃花(3日前の夜・・・)

〇繁華な通り
穂乃花「え、あそこにいるの・・・」
穂乃花(どうして?)
穂乃花(どうしてタケルくんとお姉ちゃんが?)

〇繁華な通り
穂乃花(タケルくん、楽しそうだった)
穂乃花(やっぱり 彼が好きなのは私じゃない)
穂乃花(わかってる・・・ なのに、いいのかな)
穂乃花(初夜を迎えても・・・)

〇綺麗なリビング
タケル「いよいよ明日だな」
穂乃花「・・・」
タケル「今日は、もう 寝たほうがいいよな」
タケル「前日のコンディション すごく大事らしいし!」
穂乃花(本当に?)
穂乃花(本当にこれでいいの?)
穂乃花(私たち、ちゃんと 最後までできる?)
タケル「あの・・・」
タケル「やっぱりやめとく?」
穂乃花「えっ」
タケル「穂乃花が望まないなら 延期でも・・・」
穂乃花「ひどい」
穂乃花「どうして私のせいにするの?」
穂乃花「子供を作りたくないの タケルくんでしょ?」
タケル「いや、俺は──」
穂乃花「私、知ってるもん」
穂乃花「タケルくんが、本当は お姉ちゃんとの子供を欲しがってること」
タケル「ええっ!?」
穂乃花「タケルくんが お姉ちゃん目当てで 私に近づいたことも」
穂乃花「お姉ちゃんと仲良くなりたくて うちに遊びに来てたことも」
タケル「いや、それ 高校時代の話だろ!?」
穂乃花「でも、この間 お姉ちゃんとふたりきりで 会ってたよね?」
穂乃花「タケルくん、照れくさそうで」
穂乃花「でも、すごく嬉しそうで──」
タケル「待ってくれ!」
タケル「その件はちゃんと説明する!」
穂乃花「え・・・」
タケル「はい、これ」
タケル「義姉さんから預かってきた」
タケル「初夜の前日、穂乃花は緊張して 眠れないかもしれないけど」
タケル「これさえあれば 大丈夫だからって」
穂乃花「じゃあ・・・」
タケル「穂乃花のためだよ。 義姉さんと会ってたの」
タケル「せっかくの初夜だし 穂乃花に、万全の状態で 迎えてほしいから」
穂乃花「・・・本当に?」
穂乃花「本当にそれだけ?」
タケル「当たり前だろ」
タケル「俺が好きなのは穂乃花だ」
タケル「そりゃ、初恋の相手は 義姉さんだけど」
タケル「俺が選んだのはお前だ。 お前のことが好きなんだ!」
タケル「だから・・・」
タケル「明日、俺と 子作りしてください」
穂乃花「ふっ・・・」
穂乃花「ふぇぇ・・・っ」
タケル「ええっ!? なんで泣くんだよ!?」
穂乃花「だって嬉しくて」
穂乃花「よかった・・・いいんだ・・・」
穂乃花「私、タケルくんと 赤ちゃん作っていいんだね・・・」
タケル「ああ」

〇高層ビルのエントランス
  翌日──
穂乃花「いよいよだね」
タケル「お、おう・・・」
スタッフ「お待たせいたしました」
スタッフ「旦那様は右のカプセルに」
スタッフ「奥様は左のカプセルに お入りください」
タケル「頑張ろうな、穂乃花!」
穂乃花「うん」

〇近未来の病室
穂乃花(これが コウノトリカプセル──)
スタッフ「では、チューブを おつなぎしますね」
スタッフ「判定は 夕方には出ますので」
穂乃花「はぁ、緊張するなぁ」
穂乃花「でも、大丈夫 私、愛されてるもん」
穂乃花「大丈夫、大丈夫・・・」

〇黒
  23XX年
  人類は性欲抑制剤の開発に成功
  さらにその15年後、性交渉を行わずに生殖が可能になる装置──
  通称「コウノトリカプセル」が開発され、生殖事情は大きく進化した。

〇高層ビルのエントランス
穂乃花「なんか あっという間だったね」
タケル「ああ すげー気持ちよかったな」
穂乃花「私、途中で へんな声でちゃった」
タケル「俺も! ほわぁぁ〜って──」
???「ひどい!」
穂乃花「え?」
女性「あんたのせいよ! あんたが、私のこと 愛してないから!」
男性「逆だろ! お前の愛情が足りないから 失敗したんだろうが!」
男性スタッフ「落ち着いてください! 愛情と妊娠の可否は 関係ありませんので!」
穂乃花「あの人たち 失敗したんだね」
タケル「ああ・・・」
スタッフ「お待たせいたしました。 判定が出ました」
スタッフ「おめでとうございます。 妊娠1日目です」
タケル「やった! やったぞ、穂乃花!」
穂乃花「タケルくん、私 昨日のこと絶対に忘れない」
穂乃花「ふたりの心が 本当の意味で結ばれて」
穂乃花「だから、きっと 妊娠できたんだもの」
タケル「だよな、俺たちの愛情が 本物だったからだよな!」
  現在、この国では
  95%の人が非接触行為により
  妊娠するとの報告がある。

〇繁華な通り
  そのため
  本来の生殖行為とはどのようなものか
  知らない者のほうが圧倒的に多い。
タケル「そういえば、昔の子作りって すげーエグかったらしいよ」
穂乃花「エグい?」
タケル「なんかさ・・・」
タケル「コソコソコソ・・・」
穂乃花「やだ、気持ち悪い!」
タケル「だろ? 俺も初めて聞いたとき ゾッとしてさ」
タケル「しかも愛情がなくても 子供が作れるって」
穂乃花「うそ、信じられない」
  性欲抑制剤によって性犯罪は減少。
  さらに、妊娠が手軽になったことで
  出生率も改善した。
  一方──
穂乃花「ねぇ、さっきの夫婦 別れるのかな」
タケル「そりゃ別れるだろ。 愛し合っていないって 証明されたようなもんだし」
穂乃花「よかった、私たちは ちゃんと愛し合っていて」
タケル「だな! ほんと良かったよな!」
  彼らはまだ知らない。
  3年後、2人目ができずに苦しむことを。
  2421年、この国の離婚率――88%

コメント

  • 現代の設定で読んでいたので、違和感を覚えながらも見事にミスリードされました!エグイ子作りシーンがあるのかと想像したのは私だけでないと思いたいですw

  • 時代が変わり子作りの仕方が変わっても、不妊に悩まされる奥さんはいる…ってところでゾクっとしました。
    変わらないものが少し怖いというか。

  • 上手くいって、めでたしめでたし……で終わらなかった!
    まさかまさかのどんでん返しで驚きました。
    (夫婦が直に交わるシーンが見たくて、この作品に辿り着いたとは言えない)

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