特別死刑

木村壱

エピソード1(脚本)

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木村壱

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〇草原の一軒家
  だだっ広い草原の中にポツンと一軒だけ家が建っている。
  聡は携帯で地図を確認して、家の戸を叩いた。
高山聡「ごめんくださーい!未来課の高山です。 斎藤さんはいらっしゃいますか?」
  扉の向こうから一定のリズムで音が聞こえる。
  キイィっと扉が開き、湿った匂いが家から漏れた。
斎藤幸雄「あぁ、よくいらっしゃいました。 どうぞ、上がってください」
  聡は困惑して、少しの間硬直してしまった。
斎藤幸雄「どうなさいました?」
高山聡「あ、あぁ・・・ 事前に見た資料と印象が違ったので・・・」
  男は言葉の代わりに柔らかい笑みを浮かべて、中へと促した。
  聡は悟られないように、背筋を伸ばし敷居をまたいだ。

〇広い畳部屋
  斎藤は台所から、緑茶と和菓子を手にして居間へと戻ってきた。
斎藤幸雄「よかったらどうぞ、手作りなんですよ」
高山聡「ありがとうございます。 でも、規則で対象者から何かもらうのは禁止されているんです」
斎藤幸雄「そうですか・・・ 規則なら仕方ないですね」
  斎藤のしおれた表情に聡は揺らいでしまった。
高山聡「あ、でもそろそろ休憩時間だ。 規則では休憩時間のことなんて書いていないので・・・」
斎藤幸雄「でしたら」
  斎藤は目じりにしわをつくった。
高山聡「いただきます」
  聡の目の前にあった和菓子はみるみるうちに無くなった。
高山聡「ごちそうさまでした。 資料の確認と報告してよろしいでしょうか?」
斎藤幸雄「えぇ、構いません」
高山聡「では。あなたは斎藤幸雄  2021年 7月10日生まれ 69歳で間違いないでしょうか?」
斎藤幸雄「はい」
高山聡「あなたは2061年から2062年にわたって、無差別に殺害を繰り返し、2065年に逮捕。間違いないですね?」
斎藤幸雄「えぇ、間違えありません」
高山聡「その後最高裁にて、”特別死刑”の判決を下された。 それでこの一軒家に隔離され、現在に」
  斎藤は静かにうなずいた。
高山聡「事実の相違はないようなので、報告に移らせていただきますね」
  一瞬、部屋の空気がピリッとした。
斎藤幸雄「大丈夫です」
高山聡「・・・斎藤幸雄さん、あなたの特別死刑が執行が昨日決定しました。 明日9時に刑務官が迎えに来るので、準備をお願いします」
斎藤幸雄「わかりました。 ・・・でもなんで今なのでしょうか?」
高山聡「『ようやく幸せそうになったから』と被害者遺族からの要望です」
  深いため息をついたかと思うと斎藤の表情は、鋭くなった。
斎藤幸雄「ったく、本当に悪趣味な刑だな」
  余りの代わりように、聡は何も言えなかった。
斎藤幸雄「何が、幸せそうだからだ。 逐一監視されて、いつ殺されるかもわからねぇのに」
斎藤幸雄「本気でそう言っているなら、あいつら、いかれてるぜ」
  斎藤はこめかみを指で数回つついた。
斎藤幸雄「しかもあいつらが俺を殺すように言ったんだろ?ならあいつらもこっちの仲間じゃねぇか。被害者なら何でもしていいのか?」
高山聡「それがあなたの刑です。被害者たちは、何の予告もないままあなたに未来を奪われた」
高山聡「明日は何しよう、何食べよう、どんな服を着よう。 そんな些細な日常をあなたは奪ったんですよ!!」
斎藤幸雄「説教か?そんなの要らねぇよクソガキ。 大体、いつまで昔の事引きずってるんだよ」
高山聡「お前・・・ふざけるな! 被害者の方たちは・・・」
  聡の胸の内には怒りで溢れていた。目の前の犯罪者を殴ってやろうとまで、考えていた。
  しかし、彼は体を少しも動かせずにその場にへたり込んだ。
斎藤幸雄「効いたみたいだな。お人好しでよかったぜ」

  『速報です。特別死刑受刑者の隔離施設にて、執行の報告のために訪れた職員が殺害されました』
  『犯人は、監視カメラの映像を見て駆け付けた警察官らに取り押さえられた模様です』

コメント

  • 死刑の執行までの間、幸せそうに暮らしていた…とのことですが、いつ執行されるかわからない不安はつきまとってますよね。
    後半の描写にそれが上手く出せててすごいなぁと思いました。

  • 人をこんなふうにいとも簡単に殺してしまうことができるなんて、殺人犯というのは罪悪感というものを感じないのだろうか。それとも殺しすぎてもう麻痺してしまったんだろうか。どちらにしても恐ろしいです。

  • 死刑等の刑罰については、従前より色々論議されているところですが、社会的感情に影響を受けています。作品のような特別死刑が設けられる未来もあるかもしれませんね。

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