花晴れる日まで(脚本)
〇華やかな裏庭
──庭に立って花壇を見つめる一人の少女
名前は、花
誰かが庭に入ってきたのに気づいて、花は顔を上げた
???「花、ここにいたのか」
???「ごめん、邪魔しちゃった?」
花「いや、大丈夫」
花「何か用?晴稀」
晴稀「まあ、特に用はないんだけど・・・」
晴稀、と呼ばれた少年はうつむき、少し恥ずかしそうに呟く
晴稀「いいだろ、今日くらいずっと一緒にいたって」
この国の人口の99%は、18歳以下の人間が占めている
百年以上前、急激な人口増加に伴い、この国の政府はある政策を実行した
人口統制だ
政府はまず男女の生殖行為を禁止した
胎児は政府の手によって人工的につくられ、こうやって生まれた新生児は政府の管理下にある街で育てられた
さらに、彼らが18歳の誕生日を迎えると、彼らはある施設に送られる
そこで彼らは一年間を過ごし、19歳の誕生日を迎えると、
政府の手によって安楽死させられる
人口抑制のため、肉体と頭脳のピークである18歳を過ぎた人間は不要だとされたのだ
花と晴稀は互いに18歳で、晴稀の誕生日は半年後
そして花の誕生日は、明日だ
晴稀「花、調子はどう?元気?」
花「・・・あんまり」
晴稀「そっか、ごめん」
晴稀はバツが悪そうに下を向く
晴稀「なあ、もし暇なら、今から街に出て店でも見て回らない?」
晴稀「服とか、アクセサリーとか」
晴稀「どこか行きたい店とかない?」
花はそれには答えなかった
花「ごめん。今日は一人にさせて」
花はそう言うと、晴稀に背を向け、建物の中へと通じる扉に向かって歩いていった
晴稀「なあ花、俺のこと、嫌いか?」
花は晴稀の方を振り向いた
花「嫌いだったら、付き合ってないよ、私達」
今度こそ、花は建物の中に戻ってしまった
〇簡素な一人部屋
晴稀「花が何考えてんのかわかんねえ・・・」
部屋で一人、晴稀はそうぼやいた
晴稀「俺と花って、本当に付き合ってるんだよな・・・?」
晴稀「最後の日くらい、恋人と居たいと思うのが普通じゃないのか?」
この街で育った俺たちは、死ぬ日が決まってることにさほど違和感を覚えない
むしろ、生まれてから死ぬまでの時間が同じなのは公平なことだと思うくらいだ
だから、ほとんどの人は、最後は自分の好きなことをして自由に過ごす
俺だってそうだ
晴稀「俺は花のことが好きだから、花と一緒にいたいんだけどな・・・」
晴稀「花は、どうなんだろう」
俺と花は、16歳のとき、街の花屋で出会った
花は店員として、俺は客として
何度か店を訪れるうちに仲良くなって、自然と恋人の関係になっていた
花が施設に送られたときは悲しかったけど、ここで再開できたときは嬉しかった
晴稀(ただ、施設に来てから花は昔ほど俺と話さなくなった)
晴稀(仲が悪いわけじゃないけど、どこかよそよそしい)
晴稀(なんでなんだろう・・・)
晴稀「俺の気にしすぎなのかな」
コンコン
部屋のドアがノックされた
ドアの前に立っていたのは花だった
花「入ってもいい?」
花はそう言った
〇簡素な一人部屋
花「さっきはごめん」
花「なんか、変な態度とっちゃって」
晴稀「大丈夫。気にしてないよ」
花「そっか。ありがと」
・・・
花「晴稀」
晴稀「何?」
花「私さ、晴稀のことが好きなんだ」
晴稀「俺も花のことが好きだよ」
花「違うの。晴稀が私を好きなのよりもっと、私は晴稀が好きなの」
晴稀「・・・」
花「私、死にたくないよ」
晴稀「え?」
花「私、死にたくない」
花「晴稀と出会ってから、毎日が楽しかった」
花「いつか終わりが来ることも、忘れるくらいに」
俺は頷く。
花「でも、ここに来てから、私は変わってしまった」
花「晴稀に会うのが怖くなった」
晴稀「・・・なんで?」
花「わからない?」
晴稀「・・・ごめん」
花「晴稀のことが好きだからだよ」
花の言葉の真意がわからず、俺は黙ってしまった
花「晴稀と会うたびに、いつか会えなくなることが怖いと感じるようになったんだよ」
花「幸せに感じるほど、怖くなるんだ」
花「晴稀を避けるようになったのもそのせい。ごめん」
俺は何も言えなかった
花「怖い、怖いよ・・・」
花は俺の腕の中で泣いていた
晴稀「・・・」
晴稀「花」
花「ごめん。大丈夫」
花「明日の朝まで、一緒に居ていい?」
俺は花に、花の恋人として、何が言えるのだろう
晴稀「花」
晴稀「ごめん、気づけなくて」
晴稀「花が一人で、悩んでたこと」
花「私もごめん」
花「もっと早く、晴稀に話しておけばよかった」
晴稀「そんな・・・」
花「でも、今は幸せ」
花「最期まで、晴稀と一緒に居られるから」
花はそう言って笑った
俺は思わず、叫んでいた
晴稀「花!」
何を言えばいいのかはわからなかった
だけど言葉は、勝手に口から出てきた
晴稀「逃げよう!」
晴稀「二人で、この街から!この国から!」
晴稀「花は、俺が死なせない!」
花「晴稀・・・」
街から出ることは重罪だ。罪を犯したものは、政府から追われる立場になる
わかってる。
それでも、
晴稀「俺は、この街に生まれたときから、いつ死んでも構わないと思って生きてきた」
晴稀「でも、今はだめだ。俺は花が好きだから」
晴稀「俺はまだ死にたくないし、花にも死んでほしくない!」
晴稀「花が好きだから、花がいるからそう思えるんだ!」
いつの間にか、俺の目からは涙がこぼれ落ちていた
晴稀「ここから逃げて、二人で生きるんだ!」
晴稀「いつ死んでもいいと思えるような思い出を、これから二人で作ろう!」
花が俺の手を握った
俺は更に強く、その手を握り返した
晴稀「花、好きだ」
花「私もだよ、晴稀」
俺は花と生きる
二人でどこか遠い場所へ行こう
そして、ここじゃない場所で、朝日が昇る時が来たら
そのときは花に、誕生日おめでとう、と言おう
俺は心のなかで、そう固く誓った──
Nazunaさんこんにちは
この国の政府、恐ろしいですね😭
この状況下で本当の愛に気付いた2人、良かったです
でもきっとこの後は波乱万丈ですね...!
タイトルに二人の名前が入ってるのも素敵です
これだけ人類がいる中で、奇跡的に巡り合えて、そしてお互いが好きになる確率ってすごく低いですが、気が緩むと当たってしまったりするものですよね。
人口を管理するって、ちょっと怖いですね。
疑問を持たずに育ってきた彼らが、無事逃げられるのか?とか心配になりましたが、好きな人と一緒ならどこへ行っても幸せですよね。