読切(脚本)
〇通学路
友子「遅刻だぁぁ!」
通学路を走っていると、曲がり角から黒い人影が飛び出してきた。
紙子「私は死神よ! あんたを殺」
友子「ど、どいてぇぇ!」
紙子「え、ぎゃあ!?」
勢いあまって突き飛ばしてしまった。
友子「ごめんなさい! 大丈夫ですか?」
助け起こそうとして、私は戸惑った。
友子((黒いフードの、小さい不審者?))
紙子「あんた、私の死神の鎌が見えなかったの! ん? 死神の鎌は?」
眼鏡を探すように地面を這うその人。
友子((あ、危ない人だ。今のうちに逃げなきゃ))
バキッ
友子「ばきっ?」
見ると足下で大きな鎌の持ち手が折れていた。その刀身は赤く濡れて――。
友子((血? だとしたら結構やばい状況かな? 死神とか言ってたから、殺し屋さんとか――))
夢なら覚めろと頬をつねる。
痛い。現実だ。
泣きそう。
紙子「あー! 私の鎌折ったの!? なんてことを!」
フードの奥からの射殺さんばかりの視線に私は確信する。
友子((や、やっぱり殺し屋だ!))
友子「ご、ごめんなさい! 私学校があるので! し、しつれいしまひゅ!」
舌噛んだ、痛い! 逃げなきゃ!
紙子「あ!? 逃げるな! まてぇぇ!」
友子「いひい! 殺されりゅうぅ!」
〇教室
必死に逃げたら始業時間に間に合った。
友子((あの人、遅刻しそうな私を助けにきた天使だったのかも?))
色々な安堵と共に席に着く。
落書きだらけの机には、今日も花瓶が置いてあった。
友子((わ~、今日も絶賛いじめられてる~))
慣れって怖いなぁ。
なんて思っているとチャイムが鳴った。
先生が入ってきて同級生達は席に着く。
先生「おはよう。さて、今日は転校生を紹介する。入って」
入ってきたのは、
紙子「初めまして。私、四二紙子です」
お辞儀した彼女が私を睨む。
瞳が、お前を殺すと語っていた。
友子((ひぃ! 制服だけど今朝の! お、追ってきたぁ!?))
私は机に伏せて顔を隠す。
先生「四二の席は・・・・・・空いてるあの席だな」
紙子「はい」
友子((そこ私の隣ぃ!))
まさかの展開に私は冷や汗が止まらない。
紙子「お隣さん、よろしく」
笑顔で手を差し出された。
友子「よ、よろしく紙子さ――手が潰れるぅ!」
〇体育館裏
休み時間。紙子さんは私を体育館裏へと連れ出した。
友子「あの、怒ってる?」
尋ねると、紙子さんの手に大鎌が。
紙子「死ねぇ!」
友子「やっぱりぃ!」
大鎌は私を一刀両断に・・・・・・せず消失した。
紙子「チッ、やっぱり夜まではダメそうね」
殺意山盛り紙子さんが舌打ちした。
紙子「言った通り、私はあなたを殺しにきた死神よ」
友子「す、姿が人に見えてるのに?」
紙子「鎌が壊れて力が弱まったせいよ!」
友子「すみません!」
土下座をすると紙子さんはため息をつく。
紙子「あなた、そんなだからいじめられんのよ? その様子だと友達なんて──」
くどくど言い始める紙子さんの両手を、私は思わず握った。
友子「紙子さん!」
紙子「な、なに? 命乞いには応じないわよ」
友子「そんなふうに心配されたの初めてだよ私! 友達になって?」
紙子「は? 私が心配してるって? と、友達とかならないからね!」
紙子さんは真っ赤になって走り去った。
〇教室
友子「あれ?」
目を覚ますと教室は真っ暗だった。
紙子「やっと起きたわね」
友子「紙子さん?」
紙子さんは黒いフードを被って大鎌を振り回していた。
力が戻ったのかも。
友子「なんで殺さなかったの?」
紙子「ね、寝込みを襲うのはだめでしょ。さ、行くわよ」
友子「どこに?」
〇学校の屋上
紙子さんの後に続き、屋上に出た。
友子((ここ、生徒が転落死したから閉鎖されてたはず――))
紙子さんは大鎌を構えた。
紙子「朝の話だけど。私は友達にはなれない」
友子「それを言うためにここに?」
紙子「それともう一つ」
友子「え、なんで紙子さん私を押すの? この先――は?」
私は目を見開いた。
私、宙に浮いている。
友子「(なんで?)」
紙子さんはうつむいた。
紙子「あなたは既に死んでるわ。 ・・・・・・死神は死者の前に現れるのよ」
私は思い出した。
〇教室
そう、私は飛び降りた。皆に無視されて、つらくて、寂しくて──
〇学校の屋上
友子「私は幽霊なの?」
紙子「そうよ。あなたは未練があるせいで死を受け入れてない」
友子「そっか」
紙子「私たち死神は幽霊を殺す。正気を失って人を襲う悪霊になる前に」
唇を噛む紙子さん。
友子「ねえ、紙子さん。転生ってあるのかな」
紙子「あるわ」
断言されて私は安心した。
友子「じゃあ、お願いがあるの」
紙子「なに」
友子「来世で私と友達になって」
唖然とする紙子さん。
私は目をつぶった。
友子「じゃ、一思いに殺して?」
紙子「ちょ、え? 受け入れるの早すぎない?」
紙子さんは狼狽している様子。
友子「ふふ、優しいね紙子さん。遠慮しなくていいんだよ?」
紙子「わ、わかってるわよ!」
鎌を振り上げる紙子さん。
そして、
紙子「できるかぁ! 後味悪いでしょ! 今友達になって未練全部私が叶えてやるわ!」
鎌を捨てた紙子さん。
私は驚く。
友子「私いっぱい未練あるよ、いいの?」
紙子「うっさい! 友達なんだからいくらでも叶えてやるわよ!」
私は思わず紙子さんの手を握った。
友子「そ、それじゃあ最初は友達と買い食い! クレープ屋さんにいこ!」
紙子「こんな時間にやってるわけないでしょ!」
友子「あ、そっか」
紙子「そうよ! で、友達って他に何するの? 月でも眺めて朝を待つ?」
友子「あ。いいね、友達っぽいねそれ!」
紙子「あ・・・・・・ 一日一殺のノルマを忘れてたわ。 ねえ、友達なら殺されてくれるわよね?」
友子「え、私成仏しない?」
紙子「・・・・・・友情パワーで復活するわ! 多分」
紙子さんが近づいてくる。
友子「と、友達は明日からで!」
紙子「ああ! 待ちなさいよ!」
友子さんが現実世界で命を絶たなくてはならなかったのは残念でしかたないけれど、彼女の魂が彷徨いながらも紙子さんという存在に出会い成仏され、周期を閉じれたことはよかったです。
死神に襲われたら鎌を壊そう
そうすればできた時間で、俺は交渉して生き抜いてみせる!
悲しいお話のような気がするんですが、楽しく読めるところがすごいと思います。
友子さんは友だちが欲しくて、それを叶えられた点に救いがあるんですよね。