読切(脚本)
〇特別教室
ツグミ「カイちゃん、話って何?」
カイ「あのさ、ツグミ──」
カイ「俺と付き合ってくれ!」
俺はカイ。
そして目の前にいるのはツグミ。
幼馴染でクラスメイトだ。
彼女は他人の頼み事は基本、断らない。
ちょっとした掃除から、部活の助っ人。
その他諸々。
そんなツグミに俺は悪戯をした。
何でも断らないツグミのサガを利用し、ウソ告白をしたのだ。恋愛感情はない。
ツグミは俺の告白にどう応じるのか。
答えはイエスに決まってる、断らないから。
汚いマネだと、自分でも思う。
けれど、その時の俺は、俺なりに警告したかったのかもしれない。
人の言うことばかり聞いてると、体良く使われて痛い目を見るぞ、って。
ツグミ「ダメ」
カイ「え!?」
ツグミ「分かってたよ。最初から嘘だってね」
驚いた。まさか断るとは。
カイ「だよな! ツグミには嘘なんて通じないもんな、はは・・・」
ツグミ「そう。カイちゃんは、私に嘘をつけない。 だって分かっちゃうんだもん」
ツグミ「だって、カイちゃんの言葉から私、「好き」、って気持ちを感じなかったの」
ツグミ「それに、元々あんまり主張するタイプじゃないしね、カイちゃんは」
カイ「バレたか・・・! ツグミ、お前って人の心、読めたりする?」
ツグミ「心読めたとかどうとか関係ないよ。 カイちゃん、悪い事したな、って思ってる? 貴方がやった事は、重罪なんだよ」
ツグミ「──ウソだけの中身無い告白するとかさ」
ツグミの声がナイフの如く、鋭利に、冷たく響く。
こんな音、聞いた事はない。
汗が止まらない。
カイ「わ、悪かった・・・ もう、しない・・・! こんな事・・・!」
謝りながら、ツグミの顔色を見てみる。
そこには・・・
ツグミ「いいんだよっ! 分かればよし!」
満面に微笑むツグミがいた。
でも俺は・・・ツグミに恐怖していた。
彼女には裏表はない、と思っていた。
ツグミの、幼馴染のあんな一面を見たら・・・!
カイ「今日は、悪かった! じゃ、じゃあ俺、帰るから!」
逃げるように、教室を出ようとする。
しかし。
ツグミ「あ、ごめん。 カギ、閉めといたから」
カイ「──へっ!?な、なんでっ!」
ツグミは俺に近づいてくる。
逃げられない。
ツグミ「罪は贖わなきゃダメよ、カイちゃん。 ──私の心を弄んどいてさ」
壁際に追い詰められた俺に、ツグミの身体が密着した。
息がつまる。
ツグミ「カイちゃんにはココで、 私のことを好きになってもらうから。 ・・・覚悟してね?」
カイ「お、オテヤワラカに・・・」
これが俺とツグミの馴れ初めだ。
勿論この後、俺が色んな意味で干からびたのは、言うまでもないだろう。
ツグミさんが急にスイッチが入ったがごとく変貌し、ラストまで加速していく様が凄まじいですね。彼女が、カイくんの告白以外は『断らない』の理由、ちょっぴり気になってしまいました
まるで【断れない女】のように始まったお話から段々と【断らない女】と変化し、最後はかなり恐い女になっていく過程の描写がとてもよかったと思います。
「断らない女」を敵に回したら「断れない男」になっちゃった、というオチですね。カイくん、これからも幸せに干からび続けていってくださいね。