僕が名家の執事になった理由(わけ)

浅科ミック

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〇開けた交差点
僕「急いで会社に行かないと・・・」
  僕はコンサルティング会社に勤める社員。今日は取引先の社長に提案をする大切な日だった。
僕「おやっ?」
  僕は、二人の女性が不良に絡まれているのを目撃した。
きちんとした女性「何をするんですか。 そこをどいてください!」
不良1「へへっ、いつもここを通るのは知っているんだ。金持ちなんだからオレたちにも小遣いを分けてくれよ」
身なりの良い娘「私たちを通してちょうだい!!」
不良2「じゃあおとなしく言うことを聞くんだな。 へっへっへっ」
僕(助けていたら僕も遅刻してしまう。 でも・・・)
僕(ええい、放ってはおけない!!)
僕「君たち、この人たちは困っているじゃないか」
「なんだと?邪魔をするな」
僕「君たちこそ、どこかに行きなさい。 警察を呼ぼうか?」
「くそっ!!」
「行くぞ!」
  不良の男たちは立ち去った。
きちんとした女性「あ、ありがとうございます!」
僕「いえ、当然のことをしたまでです。 それでは僕は急ぎますので!」
  僕は二人に軽く会釈をして、その場を走り去った。
身なりの良い娘「あっ、ちょっと待って!」
きちんとした女性「何かお礼を、せめてお名前だけでも・・・」

〇オフィスの廊下
僕「はぁ、はぁ、会議は・・・」
同僚「やぁ、壮大な遅刻だな」
  同僚がニヤニヤしながら会議室から出てきた。
僕「打ち合わせはどうなった?」
同僚「今終わったところだよ」
僕「間に合わなかったか。 でも僕の提案書は渡してあるよな!?」
同僚「そんなもん、出すわけないだろ」
僕「えっ!?」
同僚「あんなもの役に立たないし、お前がいなきゃ使う価値ないよ」
  一生懸命に考えた提案書。
  時間ギリギリまで考えたこの資料。
僕(この提案はきっと役に立つはずだ。なんとか社長に届けたい)
僕「よしっ!!」
同僚「おいっ、どこに行くんだ!」
  提案書と資料を抱えて、僕は走り出した。

〇オフィスビル前の道
僕「来客用の駐車場まで走れば追いつける!」
僕「あっ、あれは」
  年配の女性が、紙袋いっぱいの荷物を重そうに持って歩いていた。
僕「大変そうだ。助けてあげたいが・・・」
  迷っていると、横から突然自転車が飛び出してきた。
年配の女性「あぁっ!!」
「ばばぁ、危ねぇぞ!」
  自転車にぶつかりそうになって女性は倒れてしまった。自転車の男はそのまま走り去った。
  僕は思わず駆け寄った。
僕「大丈夫ですか?」
年配の女性「はい、でも・・・」
  女性の持っていた紙袋が破れて、買い物が散らばっていた。
  僕は周囲の荷物を拾い集めた。
年配の女性「ありがとう。助かりました。 紙袋の代わりにこれを使えば大丈夫です」
  女性は、肩を覆っていたストールを広げて風呂敷のように買い物をまとめて包んだ。
年配の女性「ぶるっ」
僕「寒そうですね。 そうだ、これを使ってください」
  僕は自分の上着を脱いで彼女にかけた。
僕「ちゃんとクリーニングしてあるので大丈夫ですよ」
年配の女性「でも、あなたが寒いんじゃ・・・」
僕「僕はこのとおり大丈夫です!! では!!」
年配の女性「あっ、せめてお名前だけでも・・・」
  僕は急いで走った。

〇地下駐車場
僕「はぁ、はぁ、お待ちください!!」
社長「なんだね、君は」
僕「今日、私はお打ち合わせに間に合わなくて、ぜひこのご提案をお届けしたく・・・」
社長「ほう」
社長「だがもう用はない」
僕「そんなこと言わずに、せめて受け取るだけでも!!」
運転手「受け取るだけならよろしいのではないでしょうか」
社長「ふむ」
  社長は僕の提案書と資料が入った紙袋を受け取ってくれた。
社長「ほう、こんなに分厚い資料は、先ほどの会議では出てこなかったな」
僕「はい、ぜひご一読お願いいたします!!」
社長「ふむ。君の話もぜひ聞きたいな」
僕「はい、ありがとうございます!」
僕「こちらが私の名刺で・・・あっ!!」
  名刺は上着のポケットに入れていた。そして上着はさっきの女性に渡してしまった!!
僕「大変申し訳ございません、名刺がなくて・・・」
運転手「こちらにメモがあります」
  運転手さんが差し出してくれたメモに、僕は自分の名前と連絡先を書き込んで渡した。
運転手「確かにお預かりしました」
社長「では、明日10時に私の事務所までお越しいただけますかな」
僕「はい!必ず!!」
  走り去る車が見えなくなるまで、僕は頭を下げ続けた。

〇トラックのシート
社長「少し甘かったかな」
運転手「彼は誠実そうで熱心な若者でした。 お話をお聞きしてもよろしいかと」
社長「そうか」

〇ファンタジーの学園
社長「ただいま」
社長の娘「おかえりなさい!お父様!」
社長の娘「今日ね、悪い人たちに絡まれたんだけど、優しいお兄さんが助けてくれたの!!」
社長「なんだって?」
きちんとした女性「旦那様、申し訳ございません。明日から通学路を変えてお送りします」
社長「二人とも無事だったのか」
きちんとした女性「はい、通りすがりの人に助けていただきました。お名前を伺ったのですが急ぎだったようで立ち去られてしまって・・・」
社長「なんと」
家政婦「ただいま戻りました」
社長「おや、買い物袋はどうした」
家政婦「買い物帰りに自転車とぶつかりそうになって・・・」
家政婦「でもお荷物は無事です。 通りすがりの方が上着をくださったのですが名乗られなくて・・・」
社長の娘「あっ!この上着、助けてくれた人のだ!」
社長「なにっ」
家政婦「あらっ、ポケットに何か・・・」
  上着のポケットから名刺が出てきた。
運転手「おや、この名前は・・・」
  運転手がポケットからメモを取り出すと、そこに書かれた名前は名刺と同じだった。
社長「娘たちを助けて、家政婦さんに手助けしたのは、彼だったのか」
社長の娘「お父様も知っているの!?」
社長「あぁ、明日会う予定なんだよ」
運転手「社長の人を見る目は確かだったということですね」

〇開けた交差点
僕「よし、今日こそ頑張るぞ!!」
  僕は揃えた資料を持って、社長の事務所に向かった。
  後に社長の執事として働くようになることを、この時はまだ知らなかった。

コメント

  • いいことをすると、必ず自分に戻ってきますものね。もちろん悪いことも。
    いい話だなぁと思って読んでいたので、彼が報われてよかったです!
    気持ちの良いお話でした。

  • すっかり爽やか気持ちのいいお話でした。遅刻するかもしれないと思いつつ、困った人がいたら助けてあげたい。素晴らしい青年でした。

  • 誰も見ていないところだからこそ、人に優しくする、いいことをするっていうこは、日頃の行いっていう意味でとても大切だと思いました。きっといいことも悪いことも巡り巡って自分に返ってくると思う!

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