奇跡を運ぶ男

照雨

奇跡を運ぶ男(脚本)

奇跡を運ぶ男

照雨

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奇跡を運ぶ男
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〇レトロ喫茶
加奈子「ありがとうございましたー!」
加奈子「はぁ・・・」
裕斗「やっとランチ終わったな!」
加奈子「きっつい! 混みすぎ!!」
加奈子「もっと他に飲食店あるのに、 なんでみんな、こんな店にくるかなあ!?」
裕斗「お前・・・ 働かせてもらってるのになんてこというんだよ」
裕斗「店長に聞かれたら殺されるぞ?」
店長「何か言ったか?ん?」
加奈子「うわ!店長!」
裕斗「な、なんでもないです!」
店長(・・・)
  確かに、このあたりには
  有名チェーンや人気店が多く立ち並び、
  うちが有利になる理由と言えば、
  馴染みがあるとか、レトロだとか、
  そんなところだ。
  それでも最近は
  ランチ、ディナー共に、
  新規の客で満席になり、
  時には外で並んでもらわなければならないほどに繁盛している。
店長(決して、以前から黒字だったわけじゃない)
店長(俺だって不思議なんだ)

〇店の入口
  この店が変わったのは、
  店を閉めようとしていた崖っぷちの頃
  あの男が来店したことがきっかけだった

〇レトロ喫茶
  数か月前・・・
店長「さて、お客さんも来ないことだし」
店長「今日はもう閉めるか・・・」
店長(・・・)
店長(・・・・・・)
  カランカラン
店長「お!?」
???「もう閉店時間ですか?」
???「腹が減って死にそうなんですが」
店長「いえ!まだ営業中ですよ!」
店長「どうぞ、お好きな席に座って、ゆっくりなさってください」
???「よかった」
店長「広々使ってください、 他に誰もいませんから・・・」
店長「ははは・・・」
???「そうなんですね」
「・・・・・・」
店長「あっ、すみません。 おしぼりとメニュー、お持ちします」
???「店長の好きなものを、お願いしても良いですか?」
店長「わ、私の好きなものですか?」
???「はい」
店長「で、では、お持ちしますね」
???「これが、店長の一番好きなものですか」
店長「好きなもの、というより・・・」
店長「思い入れのあるもの、 特にお客様に食べて欲しいもの、 と言いますか・・・」
???「へえ・・・名前は?」
店長「特製オムレツ、です」
???「どんな点が、特製なんです? 何か特殊な食材を使ってるとか?」
???「って、こんな根掘り葉掘り、聞いちゃダメか」
店長「いいえ、いいんですよ」
店長「もう、隠したって仕方がないですしね」
???「仕方がないって、どういう?」
店長「もう、この店も長くないですから」
???「閉めるんですか?」
店長「・・・ええ、近いうちにね」
???「・・・」
店長「すみません、暗い話して」
店長「冷めないうちに召しあがってください!」
???「いただきます」
???「もぐもぐ」
???「・・・これ」
???「うまいっ!すごく、おいしいですね!」
店長「そ、そうでしょう!?」
店長「昔はみんな、食べたら病みつきになって、」
店長「何度も足を運んでくれたんです!」
店長「常連で賑わっていましたよ」
店長「もう、みんな、離れて行ってしまいましたが・・・」
???「・・・」
店長「レインコートの男が、うちにも来てくれたら、なんて思うんですけどね・・・」
???「レインコートの男、ですか?」
店長「ええ、ただの噂ですが・・・」
店長「とある、飲食店で起きた話でね」
店長「雨予報も出ていないような快晴の日に、 店の前で、レインコートを着た、無一文の男が空腹で倒れていて、」
店長「心配したその店のオーナーは、その男をかわいそうに思って、店の飯を食わしてやったんだそうです」
店長「その時その店は経営難で、そんな余裕は無かったそうなんですが、店長が心優しく、見捨てられなかったんでしょう」
店長「レインコートの男が「この御恩は必ずお返しします」とお礼を言って店を出て行くと、外は突然の土砂降り」
店長「奇跡はその次の日に起きたんです」
???「奇跡って、どんな?」
店長「不思議なことに、 早朝から、大勢のお客さんが店の前で開店を待っていたそうです」
店長「そこから経営は右肩上がり。 ずっと店はつぶれずに続いているそうですよ」
???「へえ、不思議なことがあるものですね」
店長「無一文のレインコートを着た男が現れて、雨が降る。 この2点が奇跡が起きる前兆だ、って噂されてます」
???「へえ・・・」
店長「変な話しちゃって、すみませんね」
店長「魔法にでも頼りたい気持ちだったものですから・・・」
???「僕もこんな格好してるんだし、 何か、粋なプレゼントが出来ればよかったな」
店長「そういえば、どうしてサンタの恰好を?」
???「ついさっきまで、クリスマスイベントのスタッフをやってまして」
???「日払いなので、お金はありますよ」
店長「くそー、無一文じゃないんですね~」
???「あはは、残念ながらね!」
???「ごちそうさまでした」
店長「ありがとうございました」
???「ヘックショイ!」
店長「あ、そうだ。お客さん」
店長「その恰好じゃ寒いだろうし、 これ使ってください」
???「え・・・いいんですか?」
店長「昔に誰かが置いて行ったもので、そろそろ処分しようとしてたものなので」
???「えー・・・誰が使ったかわからないってことですか」
店長「一度洗濯したので大丈夫ですよ!!」
???「あはは、冗談ですよ」
???「ありがとうございます。助かります」
???「今日は、降りますからね もっと寒くなるでしょうね」
店長「降る?雨は降りませんよ、今日は」
???「ああ、雨じゃないんですがね」
店長「??」
???「では、僕はこの辺で」
???「美味しかったです また来ます」
  カランカラン
店長「ありがとうございましたー!」
店長「また来るって言ってくれたけど・・・」
店長「そのとき、うちはあるかな・・・」

〇店の入口
  その時
  まるで魔法がかかったように
  外で粉雪が舞い始めた

〇レトロ喫茶
店長「わあ・・・!!」
店長「雪が降るって彼はわかっていたんだな・・・」
店長「さーて、落ち込んでても仕方がない」
店長「明日から、店を閉める日まで、 美味しい特製オムレツを作ろう」
店長「さっきの彼みたいに、 お客さんが喜んでくれるように」

コメント

  • 特製オムレツすっごく美味しそうですね!
    こんなメニューがあったら、お店も持ち直しますよね。
    あのお客さんがくれたのは「きっかけ」なんだと思いました。

  • 閉店まで追い詰められたお店の物語は感動ものです。いろんな噂や都市伝説がありますが、店長が作る特性オムレツはとっても美味いんでしょうね。繁盛するはずです。

  • すごく素敵なお話ですね。特製オムレツきっとすごく美味しいんだろうなあ。こんなお店が近くにあったら常連さんになりたいですね。

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