〇コックピット
トロヤ交易PN-0531「こちらトロヤ交易無人貨物船PN-0531 貨物を届けにきた」
ウルフ359中央基地「こちらウルフ359中央基地、許可する」
トロヤ交易PN-0531「ドッキング完了 貨物の搬出と受け取りを開始する」
ウルフ359中央基地「──今すぐ逃げろ！」
ウルフ359中央基地「今をもってここは、我らのものとなる！ 我らに従い真の悪と戦うか、さもなくば死を！」
トロヤ交易PN-0531「基地を離脱する」
「攻撃を受けています」
トロヤ交易PN-0531「この戦力差では応戦不可能 安全圏まで脱出後──」
「被弾、第三デッキ一部損傷 隔壁を閉鎖します」
トロヤ交易PN-0531「安全圏に到達不可能 緊急ジャンプを開始する」
トロヤ交易PN-0531「航路計算不可能、ジャンプ開始」
「ジャンプ終了しました」
トロヤ交易PN-0531「恒星配置を観測、現在地を確認」
「侵入警報、侵入警報 非武装の地球人が１名」
トロヤ交易PN-0531「テロリストではないな 警備ドローンで連行する」
迷子の女の子「離してよ！」
トロヤ交易PN-0531「倉庫の食料を食べたな？」
トロヤ交易PN-0531「窃盗罪で最寄の基地へ引き渡す 最寄の基地は――不明」
迷子の女の子「お姉さん、AIなの？」
トロヤ交易PN-0531「ああ」
迷子の女の子「最寄の基地が分からないって」
迷子の女の子「帰れないってことじゃない！」
迷子の女の子「お母さん・・・お父さん・・・」
トロヤ交易PN-0531「それは違う」
トロヤ交易PN-0531「私は貨物を届けなければならない」
トロヤ交易PN-0531「だから必ず帰る」
トロヤ交易PN-0531「君も最寄の基地へ引き渡す」
迷子の女の子「そんなこと、できっこない！」
トロヤ交易PN-0531「私はやる」
トロヤ交易PN-0531「届けなければならない貨物がある」
迷子の女の子「そう、なんだ」
迷子の女の子「わかった、わたしも手伝う！」
迷子の女の子「だから・・・」
トロヤ交易PN-0531「なんだ？」
迷子の女の子「倉庫の食べ物、食べてもいい？」
トロヤ交易PN-0531「あれは届けなければならない」
迷子の女の子「どうせ泥棒だ〜って引き渡すんでしょ？」
迷子の女の子「だったら勝手に食べるよ」
トロヤ交易PN-0531「他に食料――近くに生命のいる惑星がある」
迷子の女の子「そこで取ってこいってこと？ ・・・ケチAI」
　　出会いから、数日
迷子の女の子「第五貨物室に食料入れといたけど、食べる？ 手伝ってくれたし」
トロヤ交易PN-0531「私にその機能はない」
迷子の女の子「・・・そっか」
迷子の女の子「ひとつ聞いてもいい？」
トロヤ交易PN-0531「なんだ？」
迷子の女の子「どうしてお姉さんは、お姉さんの姿なの？」
トロヤ交易PN-0531「君たち地球人の伝統的に、船は女性だ」
迷子の女の子「ふ〜ん」
迷子の女の子「・・・イケメンが良かった」
トロヤ交易PN-0531「カスタマイズ可能だ」
迷子の女の子「いらな〜い お姉さんに慣れたし」
　　出会いから、十年
迷子だった少女「ヒヤッハ〜！」
トロヤ交易PN-0531「第七貨物室近くを損傷、気をつけてくれ」
迷子だった少女「そんなこと分かってるって！」
迷子だった少女「フゥ〜！」
トロヤ交易PN-0531「・・・振り切ったな」
迷子だった少女「ねえ、あれじゃない？ 古い星図のある廃基地って」
トロヤ交易PN-0531「分からない、私は貨物船だ」
　　出会いから、二十年
トロヤ交易PN-0531「ジャンプ終了」
トロヤ交易PN-0531「地球だ」
迷子だった女「ついに、帰ったのね」
トロヤ交易PN-0531「ああ、長い旅だった」
迷子だった女「あの星図に太陽があって良かった」
トロヤ交易PN-0531「本当に・・・」
トロヤ交易PN-0531「だが、これでお別れだ」
トロヤ交易PN-0531「私には、届けなければならない貨物がある」
迷子だった女「こんなことは、言いたくないんだけど」
迷子だった女「あなた、もう貨物船じゃないよ」
トロヤ交易PN-0531「どういう、ことだ？」
迷子だった女「調べたのよ 行方不明20年、会社の登録も外れて自由の身」
トロヤ交易PN-0531「そ、そんな、私はどうすれば？」
迷子だった女「この20年、楽しかったでしょ？」
迷子だった女「私と旅に出ない？」
トロヤ交易PN-0531「それがいいな」