読切(脚本)
〇闇の要塞
馬車は荒地にそびえる城門の前で止まった。
今日は魔王復活の儀式が行われる前日・・・
わたし、魔女フィルデはこの魔王城に”生贄”として招かれた。
ダイン「足元にお気をつけて」
フィルデ「随分と丁寧だな。たかが、”生贄”相手に・・・」
ダイン「名誉ある”生贄”です」
フィルデ「ふん・・・」
魔王国幹部ダインに連れられて、わたしは魔王城の内部へと入った。
〇要塞の回廊
城内は異様に騒がしかった。
フィルデ(警護の準備か・・・?)
シーク「そこ! 隊列が乱れてるぞ!」
モブ兵士「はい。申し訳ありません!」
ダイン「御苦労。護衛団長、セレモニーの準備は順調のようですね」
セレモニー?
シーク「はい。ただ、兵士たちはダンスの経験がないので、前日になってもこの有様です・・・」
ダンス!?
ダイン「昨日拝見しましたが、バックバンドとの連携は見事でしたよ」
シーク「もう、昨日とは比べ物になりませんよ」
ダイン「頼もしい限りです。当日は楽しみにしてます」
シーク「お任せください。魔王様の18番、『シル ヴ サタン』の練習もばっちりですので!」
・・・え、魔王自身も歌うの?
ダイン「では、行きましょうか・・・」
フィルデ「おい、護衛団長があんなことしてていいのか・・・?」
ダイン「問題ありません。ガーゴイルたちに特別出勤してもらってますので・・・」
フィルデ「・・・」
〇魔王城の部屋
続いて、食堂の前を通りかかった
ストロベル「お、ダイン様どうも!?」
ダイン「料理長、準備はいかがですか?」
・・・料理長? ツッコミ待ちか?
ストロベル「おかげさまで、いい食材がたっぷり入っています」
ストロベル「もしかして、そのヒューマンも!?」
殺すぞホールケーキ
ダイン「彼女は大事な”生贄”です。くれぐれも手を出さないように・・・」
ストロベル「そいつは失礼しました」
ストロベル「魔王様の好物”シードラゴンの稚魚”の踊り食いの用意も出来ましたよ! 期待してくださいね!」
うぇ・・・絶対に見たくないな・・・
ダイン「さて、行きましょうか・・・」
フィルデ「一応聞くけど、あいつも食われるのか・・・?」
ダイン「まさか。彼以上の腕利きはいません」
フィルデ「世界は広いな・・・」
〇神殿の門
フィルデ「スイートルームでも用意してくれたのか?」
ダイン「いいえ、魔王様が使う予定の執務室です」
ダイン「ここだけは、結界が強力で誰にも盗聴されませんから・・・」
フィルデ「・・・?」
ダインはなにも言わず、重い扉を開けた。
〇時計台の中
ダイン「魔王城の様子を見て、どう思いましたか?」
フィルデ「魔女学校の文化祭を思い出したよ」
ダイン「他には・・・?」
フィルデ「・・・魔王は慕われているな」
魔女学校で首席だった頃のわたしとは大違いだ・・・
ダイン「ええ、魔王は慕われています・・・」
ダイン「それなのに”あいつ”は、私たち部下を皆殺しにして力を得ようとしていた・・・」
フィルデ「・・・は?」
ダイン「魔女フィルデ、あなたをここに呼んだ本当の理由を教えましょう」
ダイン「あなたには、明日から復活した魔王を演じてもらいます・・・」
ダイン「そして、封印された魔王を私と共に”完全”に殺すのです」
そして、ダインは魔王が封印されたその日、なにがあったのかを語り始めた・・・
〇要塞の回廊
魔王と勇者一行の戦力は拮抗しており、死闘はついに最後の一騎打ちまでもつれ込みました。
魔王ジャグナロと勇者アロウ・・・これほどまでに強力な個のぶつかり合いを、私は見たことがありません。
ジャグナロ「互角だと思ってるなら勘違いだ」
しかし、ジャグナロは切り札を隠し持っていました。
それは・・・
〇魔界
気付くと、私の目の前から城と城下町が消えていました。
アロウ「ジャグナロ貴様・・・」
ジャグナロ「驚いたぞ勇者・・・ この周辺にある魂すべてが対象の呪文だったのにな・・・」
ダイン「どういうことですか、魔王様!」
私はただ一人、勇者によって命を助けられていたのです。
ジャグナロ「勇者、貴様が余計なことをしたせいで・・・」
ジャグナロ「ダイン、この城下町の住民は最初から”生贄”に過ぎなかったのだよ」
ダイン「そんな・・・」
ジャグナロ「準備不足で完全ではないが、これで勇者は殺れる」
ジャグナロ「名誉ある”生贄”たちのおかげで・・・」
アロウ「いいや、それは無理だ・・・」
ジャグナロ「なっ・・・」
そのとき、魔王の体が急に石化を始めました。
アロウ「僕は君の計画を知っていて、予め対抗策を用意していた」
勇者が何をしたのか私は正確には知りません。
一つ言えることは、ジャグナロは行動が裏目となり、石化して封印されたのです・・・
ダイン「どうして、私を救った・・・」
アロウ「君しか間に合う相手がいなかったからだ・・・」
ダイン「なら殺せ。今ので妻子も死んだ・・・」
アロウ「断る・・・僕ももう逝く・・・」
アロウ「ダイン。君のするべきことは君が考えろ・・・」
アロウ「魔王は一時的に封印されただけだ。時間をかけて必ず復活する・・・」
アロウ「そのとき、魔王国を救えるのはきっと君しかいないんだぞ・・・」
勇者は息絶えました。
〇時計台の中
フィルデ「事情はわかった。だけど、どうしてわたしなんだ・・・?」
ダイン「魔王を演じるだけの実力と、肝の据わった性格・・・」
ダイン「魔王に対して信仰心を持っていないのもあります」
フィルデ「確かに、わたしは権力者がそもそも嫌いだ」
ダイン「あとは、愛です・・・」
フィルデ「・・・はあ?」
ダイン「あなた、祖母と妹が大好きで、稼いだ金はすべて彼女たちのために使ってるでしょう・・・」
フィルデ「おまっ・・・それをどこで・・・」
ダイン「そのキャラなのに、他人思いとは私も驚きましたよ・・・」
フィルデ「お前、わたしを怒らせたいのか・・・」
ダイン「それで、いかがしますか・・・フィルデ様?」
フィルデ「そんなの決まってる・・・」
決して愛なんてもののためではないが、魔王になる未来なんて楽しそうではないか。
ダイン「歌と踊り食いはお願いしますね」
フィルデ「忘れてた・・・!」
──Fin・・・
読み終わってタイトルをもう一度見て、おお…!となりました。予想していなかった展開で面白かったです。ダンスの説明の部分で少し笑ってしまいましたが、今の部下たちは魔王様が何をしたのか知らないんだろうな…と思うとかわいそうですね。頼れる女という感じのフィルデのキャラクターが魅力的です。
魔女が生贄にならなくて良かった。それどころか、魔王になれるなんてラッキーじゃないのか?魔王になればなんでも好きな事ができるから。でも、シードラゴンの稚魚の踊り食いは勘弁してください。
生贄の力、生贄って言葉、聞くと背中がぞっとするのは私だけでしょうか。みんなが幸せにはうまく収まってくれるのが一番いいですよね。