〇ホテルのレストラン
チーフウェイター「ご予約名を伺っても？」
館林　美登利（みどり）「館林と申します」
チーフウェイター「こちらへどうぞ」
ウェイター「あれが例の」
ウェイトレス「しっ、聞こえたらどうするの」
ウェイター「だって興味そそるだろ」
ウェイター「うち、前日でも予約取れるのにさ」
ウェイター「５年前から予約してるんだぜ、あの人」
ウェイトレス「失礼します」
ウェイトレス「先にお飲み物などいかがですか？」
館林　美登利（みどり）「ありがとう。でも大丈夫」
館林　美登利（みどり）「もう一人が来るのを待つわ」
ウェイトレス「かしこまりました」
館林　美登利（みどり）（懐かしいわね）
館林　美登利（みどり）（あの時もこうしてあなたを待った）
館林　慎司（しんじ）・20代「すみません！　館林ですが！」
館林　慎司（しんじ）・20代「あのっ！　待ち合わせで！」
チーフウェイター・若い頃「お静かに願います」
チーフウェイター・若い頃「お客様、当店はまもなく閉店です」
館林　慎司（しんじ）・20代「お願いします！」
館林　慎司（しんじ）・20代「一度だけ店内を見せて下さい」
チーフウェイター・若い頃「・・・」
チーフウェイター・若い頃「他のお客様のご迷惑にならないなら」
館林　慎司（しんじ）・20代「あっ、ありがとうございます！」
館林　慎司（しんじ）・20代「すみません、すみませんっ！」
館林　慎司（しんじ）・20代「失礼します！」
館林　慎司（しんじ）・20代「み、美登利さん・・・！」
中野　美登利（みどり）・20代「慎司くん。予約18時だったよね」
中野　美登利（みどり）・20代「今、22時・・・」
中野　美登利（みどり）・20代「ラストオーダーも終わっちゃった」
館林　慎司（しんじ）・20代（水だけで四時間も・・・!?）
館林　慎司（しんじ）・20代「本当にごめん！」
館林　慎司（しんじ）・20代「埋め合わせは何でもする！」
館林　慎司（しんじ）・20代「あと、こんな時に変だと思うけど」
中野　美登利（みどり）・20代「指輪・・・？」
館林　慎司（しんじ）・20代「おっ、俺と結婚して下さい！」
ウェイトレス「いや、そりゃそうなるわ」
ウェイター「断る方に1000円」
ウェイトレス「ちょっと！　私が断る方よ！」
中野　美登利（みどり）「お受けします」
（えっ!?）
中野　美登利（みどり）・20代「ただし条件が二つあるわ」
館林　慎司（しんじ）・20代「何でも言ってくれ！」
中野　美登利（みどり）・20代「一つは、私を世界一幸せにすること」
中野　美登利（みどり）・20代「もう一つは、50年後──」
中野　美登利（みどり）・20代「同じようにこの店に来ること」
館林　慎司（しんじ）・20代「約束だ！」
館林　慎司（しんじ）・20代「俺は50年、君を幸せにする！」
館林　慎司（しんじ）・20代「そしてまたここへ連れてくる！」
中野　美登利（みどり）・20代「約束ね。楽しみ」
館林　美登利（みどり）「５年前、お店を予約してくれた時は」
館林　美登利（みどり）「約束覚えてくれるって・・・」
館林　美登利（みどり）「嬉しかったのに」
館林　美登利（みどり）「慎司さん・・・」
チーフウェイター「お水のお代わりをお持ちしました」
館林　美登利（みどり）「ありがとう・・・ございます」
館林　美登利（みどり）「あの、すみません」
館林　美登利（みどり）「料金はお支払いします、ですから」
チーフウェイター「ええ、構いませんよ」
チーフウェイター「閉店まで、ごゆっくり」
館林　美登利（みどり）「・・・」
館林　美登利（みどり）（時間ね・・・）
館林　美登利（みどり）「ウェイターさん、会計を・・・」
館林　慎司（しんじ）「くぉら、美登利！」
館林　慎司（しんじ）「自宅で脱出ゲームとか洒落にならんぞ！」
チーフウェイター「お客様、もう閉店のお時間でして」
館林　慎司（しんじ）「でしょうね！　だから・・・ん？」
館林　美登利（みどり）「約束守ってくれてありがとう」
館林　慎司（しんじ）「ま、まさか。50年後同じようにって」
館林　慎司（しんじ）「ふふ・・・ははははっ」
館林　慎司（しんじ）「なあ、二つ目の約束は果たせたな」
館林　慎司（しんじ）「一つ目はどうだ？」
館林　美登利（みどり）「うん、一つ目も出来てる」
館林　美登利（みどり）「私、この50年──」
館林　美登利（みどり）「世界一幸せな女、だった」