回る社長

射谷友里(いてやゆり)

読切(脚本)

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〇田舎のバス停
社長「お前がモタモタしてるから最終バスに乗り遅れたぞ! タクシーを呼べ!」
三田「俺のせいですか?! 出された信玄餅は絶対に残さない!って欲張って五つも食べるからじゃないですか!」
社長「うるさい! 早くかけろ!」
三田「分かりましたよ・・・・・・あ、タクシーの送迎を一台お願いしたいんですけど、どれくらいで来て頂けますか?」

〇タクシーの後部座席
  はい、山野タクシーです。送迎? すんません。みんな出払ってて。事前に予約してくれないと・・・・・・

〇田舎のバス停
三田「えっ。一台もですか?」
山野タクシー「そうなんです。すんませんね。じゃあ」
社長「どうした? すぐ来るのか?」
三田「すみません、来られないそうです・・・・・・」
社長「何だと! ん? あれはホテルじゃないのか! 行くぞ、三田!」
三田「えっ。社長、あれってラブホテルじゃ・・・・・・」
社長「だから何だ!このままバス停で、ずぶ濡れのまま一夜を過ごすのか?!」
三田「そうは言ってませんが、他にもあるかもしれませんし」
社長「俺はもう我慢出来んのだ!」
三田「あっ、社長! 待って下さいよ!」

〇ラブホテル
三田「おっさんとラブホテルか (嫌だ、逃げたい)」
社長「何か言ったか?」
三田「い、いえ。 本当にここでいいんですか?」
社長「くどいぞ! 俺は心臓にバクダンがあるんだぞ! 俺が死んだら化けて出るからな!」
三田「(確かに心臓のバイパス手術したけど・・・・・・) 嫌な予感しかない」

〇ラブホテルの受付
ラブホテルの受付係「今なら休憩も一泊も同じ値段だよ」
社長「うむ。じゃあ一泊だな」
三田「もちろん部屋は別々ですよね?」
社長「一部屋に決まってるだろ。金がもったいねえ」
ラブホテルの受付係「はい、部屋の鍵。ごゆっくり」
三田「・・・・・・何でこんな目に。あっ、社長! 待って下さいよー」

〇ラブホテルの部屋
社長「おお、部屋も風呂広いな 回転ベッドか。あとでやってみるか。 三田はソファーで寝ろよ」
三田「分かりましたよ。 (回転ベッドって、まだあるんだな) お風呂はお先にどうぞって、着替え持ってきてたんですか?!」
社長「あ? 元々どこかの旅館に泊まるつもりだったからな。くそ、洋服がびしょびしょだ。 ──三田は用意してきてないのか?」
三田「してませんよ! 日帰りのつもりだったんですから!」
社長「ほら、このバスローブでも着ておけ 下に紙パンツ売ってるらしいぞ」
三田「えっ? 紙オムツちょっと・・・・・・ (プレイ用なのか?)」
社長「垢すりの時にはくやつ知らんのか?  湯が沸いたな。俺が万が一具合悪くなって倒れない様に見とけよ──でも、尻は見るなよ」
三田「えっ・・・・・・(すげ〜やだ)」

〇清潔な浴室
社長「ぬおおお!️」
三田「熱すぎたんだな・・・・・・」
社長「おい、ちゃんと見とるか!️」
三田「(見たくないモノまで見てしまった) まるでカバの水浴びだな・・・・・・」

〇ラブホテルの部屋
社長「あー、サッパリしたな。 ・・・・・・このバスローブ短くないか? 膝までしかないぞ。 でも、ずぶ濡れのズボンよりはマシだな」
三田「・・・・・・俺も風呂に入ってきます (短足の社長であの短さか。大丈夫だろうか)」

〇清潔な浴室
三田「(やっと一人になれた・・・・・・) 何だ? 社長、叫んでるな (聞こえないふりをしよう)」

〇ラブホテルの部屋
社長「うおおお!?️ ベッドが止まらんぞ! こっちのスイッチか!?️ うわ、ミラーボール!?️」

〇ラブホテルの部屋
三田「(社長じゃないけど)スッキリしました〜。 うおっ。何だこの色!?️ よく寝られるな・・・・・・」
社長「ぐおおおおおおおおおおお」
三田「やっぱり形がカバに似てるな」

〇ラブホテルの部屋
三田「やっと照明、元に戻せた。 くそ。仕方ない、ソファーで寝るか (イビキうるせええええええ)」

〇ラブホテルの部屋
社長「三田、朝だ。帰るぞ! 案外よく寝れた」
三田「う、はい。何でまたミラーボールが! (悪夢を見た)」
社長「駅そば食うぞ!」
三田「身体痛い・・・・・・」

〇バスの中
三田「間に合って良かったですね (運転士、何で雨も降ってないのにワイパー動かしてんだ?)」
社長「──そういえば、嫁さん退院したそうだな。これで美味いもんでも買わせてやれ。少なくて悪いな」
三田「えっ(このしわくちゃの一万円札、尻のポケットから出したよな?) お気遣い有り難うございます (ワイパー激しくなったぞ?)」
社長「うむ お礼はいいからな」
バスの運転士「(・・・・・・あの二人、ラブホテルから来たのか? うわ、金を渡したよ)」
三田「はあ (鵜呑みにすると酷い目に合うな)」
社長「・・・・・・」
三田「(嫌に大人しいな) どうしました?」
社長「・・・・・・したい」
三田「何て言いました?」
社長「・・・・・・うんこしたい」
三田「ええっ 駅まであと二十分くらいです! 我慢出来ます?」
社長「ぐぬぬ・・・・・・頑張ってみるが」
三田「(絶対無理だな・・・・・・) コンビニ探してみます」
社長「・・・・・・すまんな」
三田「コンビニがあったので次で降りましょう!」
社長「・・・・・・わ、分かった」
バスの運転士「お気をつけてお降り下さい (年の差カップルか。大変そうだな)」
三田「(絶対、変な勘違いされたな) ──どうも」

〇小さいコンビニ
社長「行ってくる!」
三田「バス停で待ってますよ」

〇田舎のバス停
三田「──次のバス、一時間後だよ。 (ずっとうんこしてれば良いのに)」
社長「いやー、すまんかったな」
三田「──なに、ソフトクリーム食べてるんですか」
社長「なんだ、お前も食いたいのか。ほら、買って来い」
三田「ありがとうございます (コーヒー買ってくるか)」

〇小さいコンビニ
三田「(社長、良いところもあるな) 良い香りだ」

〇田舎のバス停
社長「くそっ、鳩あっちに行け!」
三田「どうしました?」
社長「鳩が集まって来るぞ! 鬱陶しくてかなわん。 三田! 何とかしろ!」
三田「ソフトクリームのコーン、ボロボロ落とすからですよ」
社長「ふん! 蹴散らしてやる!」
三田「あっ ──買ったばかりのコーヒーに羽が・・・・・・」
社長「くそっ、バスはまだか! 三田! タクシーを呼べ!!️」
三田「(前言撤回) バス、早く来てくれ・・・・・・」

〇田舎駅のホーム
三田「電車来るまで少し時間がありますよ。トイレ行かなくて大丈夫ですか?」
社長「うぬう いちいち聞くな。俺は幼児か!! うっ あそこにも鳩が!️ 蹴散らしてくれるわ! ぬはははは」
三田「社長、鳩が可哀想ですよ あ、フンかけられた笑」
  この日を境に社長担当を命じられた三田は、様々なトラブルに巻き込まれる事になるが、それはまた別の話。
  
  おわり

〇田舎のバス停
社長「どうした? すぐ来るのか?」
三田「すみません、来られないそうです・・・・・・」
社長「何だと! ん? あれはホテルじゃないのか! 行くぞ、三田!」
三田「えっ。社長、あれってラブホテルじゃ・・・・・・」
社長「だから何だ!このままバス停で、ずぶ濡れのまま一夜を過ごすのか?!」
三田「そうは言ってませんが、他にもあるかもしれませんし」
社長「俺はもう我慢出来んのだ!」
三田「あっ、社長! 待って下さいよ!」

コメント

  • 終始笑ってしまいました。
    カッコ内の本音部分が痛烈でツボです!
    出張時の男2人のラブホ、知人からも同様のお話を聞かされました。翌日の職場での出張旅費精算が最大の苦痛だったとか。。。

  • カバに似てるけど気前の良い社長さんとなんだかんだ面倒見の良い三田さん、最高のコンビですね。登場人物がシルエットのみなのに表情や動きがありありと想像できました。作者さんの筆力の高さに脱帽です。

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