エピソード1(脚本)
〇実家の居間
早いもので、あれからもう10年。
私は17歳になり、兄は20歳。
私たち家族にとって今日は特別な日になるはずだ。
ハハ「みんな、おはよう 分かってると思うけど、今日であれから10年よ」
これが私の母親。
心の中では、カタカナで「ハハ」って呼んでいる。
漢字の「母」だと、改まった感じが似合わないのだ。
元気「おはよう・・・」
天気 晴(はれ)「おっはよ〜! 10年か・・・早いね本当 俺、当時10歳だったのになぁ・・・ 成長した姿をパパにも見てもらいたかったもんだよ」
こちらは私の兄。
名前は「天気」。
今日の天気は「晴(はれ)」だ・・・
私としては「雨(あめ)」の兄の方が好きだな。
ハハ「あれ、今日は雨じゃなくて晴の日だっけ?」
天気 晴(はれ)「そうだよー 記念すべき日に辛気臭い雨より、ぱっと晴で行きましょ〜」
ハハ「アンタは気楽で良いわねぇ 雨は雨で真面目すぎるし、曇りくらいがちょうど良いんじゃない?」
天気 晴(はれ)「えー!ひどいなぁ・・・ 俺的には割と楽しくやってるんだぜ 雨とだって仲良くやってるし」
ハハ「よく言うわ 雨がこないだアンタのこと愚痴ってたわよ アンタがやたらと筋トレするから、翌日の雨は筋肉痛で辛い、とか」
ハハ「知らない女の子が、彼女ヅラして近づいてきたり、知らない男の子に殴りかかられたり・・・ もっと節度を持ちなさいよ!」
天気 晴(はれ)「あはは、雨って神経質なんだよなぁ お互い楽しくやって行けたら良いのにねぇ」
予備知識がなければ意味不明な会話である。
簡単にこの兄について説明しよう。
このヘラついた兄の名前は「天気(てんき)」という。
20歳の大学生である。
そして、とてもややこしいのだけれど・・・
兄はいわゆる二重人格というやつなのだ。
兄の中の2人の人格・・・
1人は「晴」という名前で、もう1人は「雨」。
その名の通り対照的な2人である。
面白いことにこの2人は、1日ごとに入れ替わっている。
今日が晴なら明日は雨・・・明後日は晴。
という具合に。
そして、私は元気。
「私は元気」ってなんだかおめでたいなぁ・・・
昔からイジられることの多い名前だった。
っていうか、天気の妹の元気って、アホな兄妹感丸出しでとても恥ずかしい・・・
ハハ「あの時決めた通り、今日で一つの大きな区切りね。 2人とも・・・っていうか、雨も入れて3人とも、今まで苦労かけたと思うわ」
ハハ「本当に・・・ごめんね」
元気「お母さん・・・」
改まって口に出されると、なんだかむず痒いし、どう反応したら良いか分からない・・・
天気 晴(はれ)「なんだよママン・・・改めて言われるとなんか照れくさいなぁ」
晴の天真爛漫さが羨ましい・・・
ハハ「あの時決めたように、もうあの出来事で悩むのはやめましょう みんな、あの事からは解放されて良いのよ」
天気 晴(はれ)「そだねぇ・・・ パパのことで思い悩んでたもんねみんな 雨なんて、人からパパのこと言われるとさ、気に病んじゃってさ」
天気 晴(はれ)「あいつ、何も食えなくなっちゃって、翌日の俺は腹減って仕方なかったよぅ! ははは!」
なんて能天気なんだろう・・・晴というやつは
でも・・・
この能天気さに救われてきたし、そもそも晴という人格が兄の中に生まれたのは、あのことがキッカケなんだよな・・・
〇時計
・・・10年前
元気「えーん、えーん」
10年前の今日のことだ・・・
天気「げーんきー! 元気だせよー!!」
覚えてるよ天気。
この時、声が震えてたよね
無理してたんだよねきっと
本当は不安なのに私のことを慰めてくれてた
元気「えーん!えーーん!!」
私も怖くて怖くて仕方なかったな
父「大丈夫だよ」
父「大丈夫」
父「パパが必ず元気を元気にしてやるからな」
そうそう、この顔とこの声
これが私の
・・・お父さんだ
この日、父は私のために何処かへ行ってしまった。
そして二度と
戻ってこなかった
〇黒背景
父がいなくなったのは私のせいだ
全部私が悪い
元気って名前に不釣り合いなことに
私はとてもとても病弱な子供だった
呼吸器系の疾患でいつもぜぇぜぇ言ってたな・・・
健康診断のたびに新しい問題が見つかってたな・・・
9歳の時、私はとある病におかされた。
もともと病気の見本みたいな身体だったにも関わらず、その新しく患った病はとても深刻で
ハハも父もとても悲しそうだったのをよく覚えている。
ハハ「あなた、いろんな方法があると思うわ そんなに自分を責めないで」
父「だめだ、とにかく金が必要なんだ・・・ 元気のために・・・」
ハハ「ねぇ、もう一度親戚中に声をかけてみるわ まだ貸してくれるところがあるかもしれない」
父「もう無理だよ・・・ キミも分かってると思うけど、これ以上貸してくれる人なんていないさ」
ハハ「・・・」
私の医療費の話だ・・・
ごめんね、ハハ、お父さん
その頃の私は泣いてばかりだった。
天気が慰めてくれても、涙は止むことがなかった。
天気は私を大切にしてくれていた。
天気は泣く私を見て、不安な気持ちを抑えて必死で慰めてくれたというのに、その天気の不安な気持ちを私は読み取って
一層不安になって、泣き続けるのだった
そうそう、父がいなくなった日と、天気が「晴」と「雨」に分裂したのは同じ日だったんだ
これだって私のせいだ・・・
天気「大丈夫!!元気元気元気!!元気!元気出して!!!」
元気「えーんえーん!!」
父「おい!天気!!余計なことを言うんじゃない!泣いてるじゃないか!」
天気「あ!う、うん!ごめんねお父さん! 元気もごめん!!気にしないで!」
私のせいだ・・・
父「天気!何のためにお前はいるんだ?」
天気「な、何のために・・・?」
父「元気をからかうためなのか?」
天気「ごめんなさい、でも、からかっているつもりはないんだ」
天気「ははははは!」
父「何を笑っているんだ!」
天気「はは!はははは!!」
父「おい!!」
父は天気を叱り続けて、天気はなぜか笑い続けた
天気が壊れ始めていたのは随分前からなんだ
私が生まれた時からなのかもしれない
なぜ両親がその方に気づかなかったのか・・・
本当は私はずっと気づいていたのに
名前が天気で雨と晴の人格が毎日交互に現れる、という設定の斬新さに驚きました。天気くんだけで一つの物語ができそう。というか、天気君の視点による家族や日常生活の物語を読んでみたいです。
天気さんは比較的お父さんに厳しくされていたのだとしたら、元気ちゃんと天気さんでは、お父さんとの思い出とかお父さんに対する気持ちが少し違ったりするのかなあ?と思いました😌
続きが読みたいと思いました!