Ep.1「うちの妹のあぐらはブラックホールにつながっていた」(脚本)
〇おしゃれなリビングダイニング
紅葉「(うちの妹は美人で可憐な容姿をしているが、がさつで椅子に座っていてもあぐらをかく)」
紅葉「(妹があぐらをかいたときにできる三角形のスペースを、私はブラックホールと呼んでいる)」
千鶴「・・・・・・何、お姉。何見てんの」
紅葉「(今日もまた朝から。妹のブラックホールは健在である)」
紅葉「米、こぼした」
千鶴「え? どこ?」
紅葉「ちいちゃんのバミューダトライアングル」
千鶴「ちょっと! 人のデリケートゾーンのこと都市伝説みたいに言わないでよね!」
紅葉「(バカじゃないの、と言いつつ米粒を探す妹。ちなみにあぐらの中の三角形はブラックホールではあるがデリケートゾーンではない)」
紅葉「(うちの妹は美人で可憐な容姿をしているが、がさつで少し頭が悪い)」
千鶴「・・・・・・どこに落ちてんの?」
紅葉「え、落ちてるでしょ?」
紅葉「(出た。ブラックホールだ)」
千鶴「でもないよ?」
紅葉「そんなわけないでしょ? ジャージの上に落ちてるんじゃない? あぐらかいてズボンの股の部分広げてんだから」
紅葉「(『そんなわけないでしょ』とは言うけれど。もう落ちた米粒は本当にないんだろうなと思う)」
紅葉「(だって落とした米粒はもうあぐらの間のブラックホールに吸い込まれてしまっているんだから)」
千鶴「ないよ!」
紅葉「またぁ・・・・・・? ちいちゃん、よく探しなよ」
千鶴「そんなに言うならお姉が探してよ!」
紅葉「やだよ。時間ないんだから」
紅葉「(妹が食べ物をこぼし、それが私の視界の隅に入り、私が指摘し、妹が見つけられなくてお姉が探してと言う。いつもの朝の流れだ)」
千鶴「ごちそうさま!」
紅葉「(妹はそういうと洗面所に駆け込んでいく。私は横目で妹がいなくなるのを確認すると、さっきまで妹が座っていた席を確認した)」
紅葉「(米粒らしきものはない。ついでに米粒を探すのをあきらめた後にこぼしていた自家製の肉みその破片もない)」
紅葉「(やっぱり、うちの妹のあぐらの空間はブラックホールだ)」
〇住宅街の道
紅葉「(私が通っている高校は、県立で、上の下の中くらいの学力レベルのゆるい学校だ)」
紅葉「(家から歩いて通える距離なので、私はここにしたのだが、どうやら妹もこの高校を 狙っているらしい)」
紅葉「(勉強している姿を見たことがないか大丈夫なのだろうか)」
紅葉「(まあ、バミューダトライアングルを都市伝説としてでも知っているのであれば、多少は記憶力に期待が持てるだろうか?)」
「そこの人、そこの人!」
紅葉「(そんなことを考えながら通学路を歩いていると、どこからか声がした)」
紅葉「(立ち止まって周りを見渡してみるが、誰もいない。今朝食べたものが中って幻聴が聞こえているのだろうか)」
紅葉「(しかし、眼はまだ死んでいないはずだ。気のせいだと思い込み、歩みを再開させる)」
「おい! お前だよ! そこのお前!」
紅葉「(どうやら気のせいではなかったようだ。しかも、さっきよりも言葉遣いが荒くなっているし、声も違う)」
紅葉「(もう一度周りを見渡してみるが、それらしい人影は見えない)」
「下だよ! 下!」
紅葉「(言葉遣いの悪いほうがそう言うので、試しに下を向いてみる)」
紅葉「(すると、足元になんだかよくわけのわからない毛むくじゃらの生き物が二体いた)」
〇住宅街の道
紅葉「え、きもっ」
紅葉「(私は思わずそこから飛びのく)」
「なっ!きもいとは何だ!」
「まあまあ落ち着いてください。相手はあの救世主の御姉さまですよ!」
紅葉「(黒い毛むくじゃらが二体、なにやら話している。昔のアニメ映画に、同じのがいた気がする)」
紅葉「(だけど、彼女のように触ってみようという気にはとてもじゃないがなれない。怖いし。あと手が黒くなるのはちょっと勘弁)」
「おい! そこのお前!」
紅葉「何?」
「お前、本当に救世主様の御姉さまなのか?」
紅葉「まず救世主様って誰よ・・・・・・それとあんたたち何? なんなの?」
「いきなり申し訳ありません。私たち、かhxろあjr。ここの言葉では『フェルカド』と発音するのでしょうか」
「その星に住んでいるものでございます。つまり、貴女様にとっては、私たちは宇宙人ということになります」
紅葉「・・・・・・宇宙人?」
「左様でございます」
紅葉「・・・・・・それで、宇宙人が私になんの用?」
紅葉「(人間は自分の理解の範囲を超えたものを目にしたとき、案外すんなりと受け入れるということをどこかで読んだ気がする)」
紅葉「(今の私が完全にそれだ。いきなり宇宙人とか無理すぎる)」
「私たちの星の民は、あなた様の妹様であり我らの救世主様である千鶴様に、感謝の贈呈品をお渡ししに来たのです」
紅葉「・・・・・・贈呈品?なぜに?」
「救世主様には、我々の食糧難を救っていただいたのです」
紅葉「?」
紅葉「(何を言っているのか全く分からない。うちの妹が宇宙人の食糧難を救った?そんな馬鹿な)」
紅葉「・・・・・・何言ってんのかわかんないんだけど」
「だろうな」
「仕方ありません。時に千鶴様は、よくモノをこぼすのではないのですか?」
紅葉「その通りだけど・・・・・・」
「それが我々の食糧難を救っていたのです」
紅葉「はぁ!?」
紅葉「(ウソだ。妹のあぐらの空間がどこかに繋がってたってこと? マジで?)」
「そこで、私たちは、危機を救っていただいた千鶴様に、贈呈品をお渡ししたいと思っているのです」
「そのために我々はこの地球にやってきたのです」
紅葉「はぁ」
紅葉「(全くもって言っている意味がわからなかった。どれくらいかというと空間ベクトルくらい)」
紅葉「・・・・・・でもなんで本人に直接言わないわけ?」
紅葉「(それでもとりあえず疑問をぶつけてみた。なぜなら私は空間ベクトル以外はデキる女だから)」
「それは、私達が救世主様にお目通しさせて頂くなぞ恐れ多いからでございます」
紅葉「はぁ」
「だけど、お前なら全く恐れ多くないから適任ってわけだ」
紅葉「なにそれ。失礼ね」
紅葉「でもまあ良いわ。つまり、あんたたちの危機を救った妹にお礼がしたい。でも妹には直接会えないから私を介そうってことね」
「まあ、そういうことだ」
紅葉「男子中学生みたいね」
紅葉「(まどろっこしいったらありゃしなかった。このまま話を聞いていると眠くなりそうだし、学校に遅刻してしまう)」
紅葉「(正直、毛むくじゃらの話に集中できていなかった。王が死のうが生きようが知ったこっちゃなかった)」
紅葉「(それよりも気になるのは、本当に妹のあぐらの空間がブラックホールであったということだ。どういう理屈なのだろうか)」
「ご理解いただけましたか。ありがたい。では、さっそく・・・・・・」
紅葉「(さっきっからやたら長くしゃべっていた方が、自分の体をガサゴソとまさぐっている。そして、何かを取り出した)」
紅葉「なにそれ」
「これは、我々の星で出土する古代文明の遺物です」
紅葉「・・・・・・なんでそれを?」
「私たちの星は、今でこそ落ちぶれていましたが・・・・・・」
紅葉「あ、長くなりそうだからしゃべんなくていいや。聞いてもしょうがないし。で、これを妹にわたしゃいいのね」
「そうでございます」
紅葉「じゃあ渡しとくわ。あ、でも妹捨てるかもよ?」
「それは大丈夫だ。古代技術によって・・・・・・」
紅葉「そう、大丈夫ならいいや」
「最後まで聞けよ!」
紅葉「(生意気な方の話を流しながら、話の長い方の毛むくじゃらからものを受け取ると、私はその場を立ち去ろうとした)」
紅葉「(いったい何だったんだろうか。未だに信じられない感じがする)」
紅葉「あっ、そうだ」
紅葉「(私は動かした足を止めて、毛むくじゃら二人組の方に向き直る)」
紅葉「ねえ、一つ聞いてもいい?」
「なんだよ」
紅葉「うちの妹のあぐらの空間ってブラックホールなの?」
「そうですよ」
紅葉「じゃあもう一個だけ。それって、どこにつながってるの? あなた達の星だけ?」
「いいえ、宇宙のどこかです」
紅葉「へぇ~、なるほどね」
紅葉「(と言ったものの、やっぱり聞いてもわからなっかた。そもそもブラックホールって何?それがあぐらの間にあるのも何?)」
「お気をつけ下さい。中には千鶴様を狙った宇宙人が来るかもしれません故」
紅葉「(不穏な言葉を聴いた気がしたが私は気にせず学校へ向かった)」
紅葉「(そしてその日、私は無事に学校を遅刻した)」
股座が三角形だからピラミッドと同じで強いエネルギーの集積と放出のパワーを持ってしまったんでしょうね。それにしても宇宙人がお礼として千鶴に渡そうとしたものが何なのか気になる・・・。
そのあぐらかいて生まれる空間をブラックホールと名付けた発想がすごいです。そこから話がこれほど展開していくとは思いませんでしたが、遅刻しちゃいましたね。
最初は、おっちょこちょいで可愛い妹だなあと思いながら読んでいましたが、読んでいくうちにお話が壮大になっていっておもしろかったです🤣
妹は宇宙人を救っていたけれど、私の場合はご飯粒をこぼしてもパリパリになって終わりなのでうらやましいです。笑