読切(脚本)
〇黒
・・・懐かしい記憶が蘇った。
〇けもの道
小さい頃の私が泣いている。
カズハ「うえぇ〜ん! みんなどこ〜!?」
楽しいはずのピクニックが一転。
はぐれた私は喚き続ける。
カズハ「もーやだぁ〜! パパー! ママー!」
そして・・・衝動的に
幼なじみの名前を叫んだ。
カズハ「タイチーーー!!」
タイチ「カズハ・・・!!」
カズハ「タイチ・・・!! うそ、本物!?」
タイチ「それは僕のセリフだよ・・・。 カズハ、心配したんだからね」
カズハ「だって・・・蝶々追いかけてたら みんないなくなって・・・うぅ」
タイチ「もう大丈夫だよ。 ほら、これで顔拭いて」
カズハ「・・・ありがと。 でも、どうしてここがわかったの?」
タイチ「僕にはわかるんだ。 カズハがどこへ行っても」
カズハ「・・・どこへ行っても?」
タイチ「うん。だからカズハが迷っても 必ず見つける・・・約束だよ」
カズハ「約束・・・?」
タイチ「うん、約束」
カズハ「うわぁぁぁーーーーん!! タイチィィーーー!!」
タイチ「顔拭いたばっかりなのに。 しょうがないなぁ」
〇黒
これは私の大切な思い出。
私が・・・恋に落ちた日の思い出。
「カズハ・・・どうしたの、カズハ」
「ねえ・・・聞いてる?」
〇校長室
カズハ「わわっ、えっ、あれ!? タイチ・・・大きくなってる?」
タイチ「僕、高校入ってから身長伸びてないよ」
タイチ「ボーッとしてたみたいだけど、大丈夫?」
カズハ「う、うん・・・確かタイチと 校長室に呼び出されて・・・」
でも呼んだのは校長先生じゃなくて──
ハットリ「呼び出したのは私だ」
ハットリ「・・・自己紹介しよう。 宇宙方面防衛局のハットリだ」
カズハ「うちゅう・・・ぼうえい? えーっと、何かの映画の話ですか?」
ハットリ「宇宙の脅威から地球を守る公務員だよ。 その仕事でここへ来ている──」
ハットリ「まあ、説明するより 映像を見てもらう方が早いな」
〇黒
それは突然はじまり・・・
〇荒廃した街
怪物「キシャァァァァッッーー!!」
見知らぬ女性「いや、来ないで・・・来ないで──」
見知らぬ女性「ギャァァァァーーーッ!!」
〇黒
女性が絶命したところで
映像は途切れた──
〇校長室
カズハ「な、なんですか今の・・・。 やっぱり映画のお話じゃ・・・」
ハットリ「現実にいる地球外生命体だよ」
タイチ「それを信じろと?」
ハットリ「20年前。遠い星の人類に似た種族から、 地球宛に2つのものが送られてきた」
ハットリ「今の映像と、この脅威が近い将来に 地球を襲うという確かな情報だ」
カズハ「何がなんだか・・・。 その話をどうして私たちに?」
ハットリ「君たちには明日から養成機関で 戦闘訓練プログラムを受けてもらう」
タイチ「あの怪物と戦えって言うんですか!?」
ハットリ「そうだ」
カズハ「む、無理、絶対に無理です! 100メートル走とかいつもビリだし、 テストも赤点ギリギリだし・・・!!」
ハットリ「・・・君たちが拒否すれば、 地球が奴らに滅ぼされるだけだ」
「・・・・・・!!」
カズハ「あの・・・この話、 パパやママにしてもいいですか?」
ハットリ「必要ない。君の記憶は今夜なくなる」
カズハ「なっ、それどういうことですか!?」
ハットリ「脳の無駄遣いはできないからな。 戦闘に関するメモリー以外は消す」
タイチ「それじゃロボットじゃないか!!」
ハットリ「人類のためだ。拒否権はない」
カズハ「いや・・・です」
タイチ「カズハ・・・?」
カズハ「思い出がなくなるなんて・・・」
カズハ「そんなの絶対イヤです!!」
タイチ「カズハ!!」
〇空
「ひぐ・・・ひっぐ・・・!」
〇けもの道
カズハ「私、やだよぉ・・・」
カズハ「パパ・・・ママ・・・」
カズハ「タイチ・・・!!」
タイチ「カズハ!!」
カズハ「タイチ・・・?」
タイチ「カズハ・・・大丈夫?」
カズハ「ふ・・・ふええぇぇん! 大丈夫じゃないよぉ〜〜!!」
タイチ「そう・・・だよね。 あんな怪物と戦うなんて──」
カズハ「そっちじゃない!! タイチってバカなの!?」
タイチ「えっ!! バカなのかな・・・」
カズハ「だって・・・全部忘れちゃうんだよ!?」
カズハ「楽しかった思い出も、 そうじゃない思い出も──」
カズハ「──大好きな人のことも、 ぜんぶ忘れちゃうんだよ!!」
タイチ「・・・そう、だね」
カズハ「そうだね、じゃないよ!! やっぱりバカだ、バカタイチだ!!」
タイチ「・・・でも、必ずカズハを見つける」
カズハ「バカバカバカ!!」
カズハ「・・・え?」
タイチ「どこにいても必ず見つけ出す」
カズハ「だって、でも・・・忘れちゃうんだよ?」
タイチ「忘れても見つける」
カズハ「次に会うときは、 はじめましてかもしれないんだよ?」
タイチ「はじめましてでも絶対に見つける」
カズハ「なんで・・・どうして・・・」
タイチ「・・・大切な君との約束だから」
カズハ「う・・・うぅっ──」
カズハ「うわぁぁぁぁっーーー!! うあああぁぁああん!!」
〇空
私たちは強く抱き合った。
明日になっても、すべてを忘れても
この温もりが消えないように・・・
キツく・・・ずっと──
〇黒
・・・・・・・・・・・・
〇近未来の手術室
カズハ「・・・・・・」
ハットリ「メモリーは残り23%・・・ 明け方には完全にデリート、か」
ハットリ「データ通りなら戦闘特化の素体だな。 害虫どもを駆逐する強力な駒になれる」
タイチ「・・・・・・」
ハットリ「来たか・・・伊川タイチ── いや、監督官と呼ぶべきかな」
タイチ「大袈裟ですよ。彼女に取り付けた GPSを監視してただけですから・・・」
ハットリ「それを10年間務めたのだ。 おかげで今日を迎えられている」
タイチ「・・・組織に育ててもらった恩返しです」
ハットリ「ふっ・・・あと数時間で 彼女は目覚める──」
ハットリ「もう迫真の演技も必要ない」
タイチ「・・・・・・」
ハットリ「さて、私は少し眠るとしよう」
ハットリ「明日からは訓練漬けだ。 君も早く休むといい」
タイチ「──カズハ」
〇黒
私は夢を見ていた。
〇けもの道
もう思い出せない、遠い過去。
薄れていく景色、顔、心──
最後に聞こえたのは『カズハ』と
”誰か”を呼ぶ声だった・・・
どうかかずはが傷つくことなく目を覚ましてほしいですね。何十年も騙されていたと知った時の彼女の傷心さは想像しがたいです。話が180度ひっくりかえった巧さに脱帽です。
まさかの展開でびっくりしました。
まさかそっち側の人間だったとは…しかも「どこにいてもわかる」っていうのは比喩じゃなかったことにまたびっくり!
タイチ、すっごくロマンティックですてき、推せる♪こんなに愛されて幸せね〜♪とかあったかい気持ちで読んでいたのに、どんでん返しでびっくり。いつでも見つけられるっていうか常に監視されていたなんて、、彼女の気持ちを思うと切ないです〜。続き気になります。