エピソード1(脚本)
〇黒
まさふみ「え?」
まさふみ「幽霊?」
まさふみ「ああ、大丈夫です大丈夫です」
まさふみ「そういう類のもの全く信じてないんで」
まさふみ「そんなものに怯えてこんな優良物件を逃すなんてばかばかしいですから」
まさふみ「二人とも問題ないだろ?」
あけみ「いちいち聞かないでよそんなこと。 大丈夫に決まってるじゃない」
あけみ「もしかしてお父さん怖かったりするの?」
まさふみ「まさか。 あははは!!」
まさふみ「てるも問題ないか?」
てる「子供扱いしないでよね」
まさふみ「ということで、我が家はそういうの全く持って真に受けないんで」
まさふみ「幽霊の何が怖いんだかまったく」
まさふみ「それじゃ手続きお願いします」
〇一戸建ての庭先
配送員のあんちゃん「荷物はこれですべてになります。 足りないものがないかご確認下さい」
まさふみ「ご苦労様でした」
まさふみ「これ、良かったら。 コーヒーです」
配送員のあんちゃん「お気遣いありがとうございます。 いただきます」
配送員のあんちゃん「しっかし、お客さん物好きっすよね。 この家に住むなんて」
まさふみ「え?」
配送員のあんちゃん「ほら。幽霊が出るとか、ポルターガイストが起こるだとか」
配送員のあんちゃん「この辺だと有名な訳アリ物件なんすけど、不動産屋から説明なかったんすか?」
まさふみ「ああ。例のうわさね」
まさふみ「うち、そういうの信じるタイプじゃないので」
まさふみ「むしろラッキーくらいに思っていますよ。 駅近のこんな良い物件に格安で住めるなんて」
配送員のあんちゃん「まあそうっすよね。 霊なんているわけないっすよね」
まさふみ「過去に殺人事件があったとか、人が自殺したことがあるとかだったら話は別ですけど」
まさふみ「事故物件でもないのに怖がる必要ないでしょ」
配送員のあんちゃん「ごもっともです」
まさふみ「では、そろそろ」
配送員のあんちゃん「ああ、すいません。 話し込んでしまって」
配送員のあんちゃん「ご利用ありがとうございました」
〇ダイニング(食事なし)
てる「ブシュ!! デュシィ!! キーン!!」
まさふみ「何やってんだ?」
てる「幽霊を倒す練習~」
まさふみ「安心しろ。 幽霊なんて出ないから」
まさふみ「でも」
まさふみ「そんなことしてると、本当に出るかもしれないぞー」
てる「かかってこいやー」
あけみ「おーい。 二人ともー」
あけみ「幽霊だのヘチマだの言ってないで、荷ほどき始めるわよ」
てる「はーい」
〇ダイニング(食事なし)
あけみ「今日はもうこの辺にして、そろそろ夕飯にしましょうか」
てる「やった!」
まさふみ「せっかくだし寿司でも買ってこようか」
てる「お! いつもはケチな父ちゃんが珍しく羽振りがいい」
まさふみ「お前だけ、インスタントラーメンな」
てる「ごめんて」
まさふみ「じゃあちょっと買ってるから」
あけみ「よろしくね」
てる「ところで・・・」
てる「かーさんやぁ」
あけみ「何よ変な顔して」
てる「そろそろ、あれ、見たいんじゃない?」
あけみ「あー。 そうね」
あけみ「引っ越しと一緒に大型テレビ買ったんだったわ」
てる「そうそう」
てる「僕が電源入れるね!!」
あけみ「どうぞご自由に」
てる「スイッチ、オーン!!」
てる「わぁ!」
あけみ「ちょっと何よ」
あけみ「って、砂嵐じゃない。 チャンネルを地上波にしてよ」
てる「いや・・・」
てる「これ地上波だよ」
あけみ「え? おかしいわね。 いまどき砂嵐なんて」
てる「なにこれなにこれなにこれなにこれ・・・・・・」
てる「今、人の声がしなかった!?」
あけみ「まさか、聞き間違えじゃない?」
てる「したもん絶対!」
あけみ「きゃ!」
てる「ほら! したでしょ!」
あけみ「え・・・・・・ええ」
あけみ「したかもしれないわね」
あけみ「ちょっとリモコン貸して」
てる「はい」
あけみ「一回電源を落として、もう一回入れ直してみるわ」
てる「・・・」
てる「野球の中継?」
あけみ「・・・」
あけみ「なんだちょっと電波が悪かっただけじゃない」
てる「そ、そうだよね!」
???「ただいま」
まさふみ「おお、どうしたんだ? そんなに驚いて」
あけみ「脅かさないでよ」
あけみ「さっきね、テレビつけたら砂嵐だったの」
まさふみ「普通に野球中継が流れているじゃないか」
あけみ「電源入れ直したら治ったの」
てる「その砂嵐が流れていたとき、男の人の声がしたんだ」
まさふみ「あははは!! 驚かそうとしてるのか?」
てる「違うもん! ほんとだって!」
まさふみ「変な噂を聞いて勘ぐっているだけだろ」
てる「もう!」
あけみ「いや。 確かにそうかもしれないわね」
あけみ「先入観で神経質になっていただけかもしれないわ」
てる「母さんまで・・・」
まさふみ「テレビで砂嵐が流れたのは単純に電波が悪かっただろう」
まさふみ「それより・・・」
まさふみ「もしかしてビビってるのか二人とも」
てる「はっ」
てる「ぜーんぜん」
てる「テレビの故障かなって思っただけだよ!」
まさふみ「母さんは怖かったんだよね。 女の子だもんねー」
あけみ「怖くないですー。 しかもそれジェンダー差別です」
まさふみ「これはすいませんでした」
まさふみ「てっきりビクビクの足がブルブルだと思ってたよ」
あけみ「まさか。 この家の例のうわさを私たちが信じてるとでも?」
てる「信じてるとでも?」
まさふみ「だよな! 信じるわけないよな!」
まさふみ「それじゃあ切り替えて」
まさふみ「寿司、買ってきたから食べよう」
てる「わーい。食べる~」
〇ダイニング(食事なし)
あけみ「てるー。 食べ終わったらゴミをキッチンに持ってきて」
てる「へーい」
まさふみ「おーい。 洗面所の水道を流しっぱなしに誰だ?」
あけみ「私今日使ってないわよ」
てる「僕もー」
まさふみ「そんなわけないだろ」
まさふみ「勝手に水道が流れるわけないし」
まさふみ「何してんだよてる。 耳障りだな」
てる「僕何もしてないよ!!」
てる「リモコンあっちだし」
まさふみ「本当だ」
まさふみ「まあいい。 消してくれ」
てる「しょうがないなー」
てる「・・・って、あれ?」
まさふみ「何してるんだ? その赤いボタンを押すんだよ」
てる「押してるよ」
てる「押してるんだけど・・・」
てる「消えない」
まさふみ「ちょっと貸してみなさい」
まさふみ「・・・」
まさふみ「消えないな。 電池が切れてるのか?」
てる「うそ、さっき使ったばっかだよ」
あけみ「何よ? 騒いで」
あけみ「あら、また砂嵐が流れてるじゃない」
まさふみ「電源が消えないんだよ」
あけみ「リモコンの電池が消えてるのかしらね。 でも新品だし・・・」
まさふみ「なっ!!」
てる「ほらまた!! 人の声がしたでしょ?」
まさふみ「そ、そうか? ・・・き、聞き間違えじゃないか」
まさふみ「なななんだ? 怖がっているのか?」
あけみ「そう言うあなたも、足が震えているじゃない」
まさふみ「まさか」
まさふみ「母さんこそ唇真っ青にして、怖いの?」
あけみ「全くっ、怖くないっ、けど!!」
てる「声裏返ってるじゃん」
あけみ「元からこういう声質ですけど」
てる「わっ!!」
まさふみ「・・・」
あけみ「・・・」
まさふみ「てる、どうかしたかー?」
てる「・・・」
てる「べ、べつに!!」
てる「・・・」
まさふみ「・・・」
あけみ「・・・」
あけみ「お、お寿司美味しかった、わね」
てる「そだねっ」
まさふみ「・・・そうだろ。 父さん一肌脱いだから」
てる「・・・」
まさふみ「・・・」
あけみ「・・・」
てる「引っ越しって結構大変だね!!」
まさふみ「そうだな」
あけみ「そうね」
てる「・・・」
まさふみ「・・・」
あけみ「・・・」
あけみ「父さん、電話よ」
まさふみ「家の電話は家内が出るべきじゃ・・・」
あけみ「てる、社会勉強で出てみる?」
てる「一番意味わからないでしょそれ」
まさふみ「わかった。 スピーカーにする」
あけみ「なんで?」
まさふみ「家のことはみんなで共有すべきだろ」
まさふみ「・・・」
まさふみ「じゃあ出るぞ」
まさふみ「もしもし」
???「大家の山田ですー」
まさふみ「ふぅー」
まさふみ「お世話になっています」
大家の山田「引っ越しは無事に済みましたか?」
まさふみ「ええ。 おかげさまで」
大家の山田「それは良かった」
大家の山田「ところで伝え忘れていたのですが」
大家の山田「どうやらテレビアンテナの調子が悪いらしくて、上手くテレビが流れないらしいのですよ」
大家の山田「建築指導課の人が明日行くと思うので申し訳ないですけどよろしくお願いします」
まさふみ「そうなんですね。 分かりました。 連絡ありがとうございます」
大家の山田「とんでもない。 何か問題があったら連絡くださいね。 それでは」
まさふみ「はい。 失礼します」
てる「・・・」
てる「なーんだ。 アンテナの調子が悪かっただけか」
あけみ「あ、電源も消せたわ」
まさふみ「・・・」
まさふみ「もしかして本気でビビってた?」
てる「ぜーんぜん!」
あけみ「・・・」
あけみ「うふふ・・・・・・」
あけみ「パパの困り顔ったらなかったわ!!」
まさふみ「馬鹿言うなよー!! 困ってなんかなかったわー」
まさふみ「てるも大丈夫か。 おしっこチビってないか?」
てる「チビる理由がないわー」
まさふみ「あはははは!」
これはちょっぴり臆病で、だけどちょっぴり強がりな3人家族が訳アリ格安物件で暮らす物語
この日の一件は最終的にテレビアンテナの調子が悪いことが原因だったと結論付けた
もちろん3人ともあのテレビからした男の声が何であったかは未だわからない
だけど、それを言わないのは3人にとっての暗黙の了解であった
訳あり物件に住むってある意味賭けみたいなもので、なんでもない場合もありますよね。家族みんなで、その噂を一生懸命突っぱねようとしているところが、より恐怖感を生み出していて怖かったです。
不気味な効果音を最大限まで活用した作品で、読み応えにプラスして聞き応えがありました。わかりやすい幽霊騒動ではなくテレビの砂嵐というところが、恐怖感がジワジワと迫りくる感じがしてよかったです。