増殖ネームプレート

スネ夫

読切(脚本)

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〇オフィスのフロア
真理「笹倉さん! 一昨日頼んだ資料はできてるの!?」
笹倉「まだで~す」
真理「今日の午後一で使うのよ!?」
  もう何度繰り返しただろう。
  普通ならとっくにクビだ。
  が重役の娘であるコイツにお咎めはない。
  周りの社員達のように無視したいが、
  主任である私はそうもいかない。
笹倉「そんなに怒らないでくださいよ~」
笹倉「そんなだから、拓也さんは私を選んじゃうんですよ~」
真理「――ッ!!」
笹倉「怒られて体調悪くなっちゃいました。 仮眠室行ってきまーす」
真理「あ、待ちなさい!」
  私の制止を無視して、笹倉は出て行った。
真理「クソ!」
  私は席に着くと、急いで資料作りを開始した。

〇大企業のオフィスビル
真理(結局残業か)
真理(何してんだろ、私。もう三十過ぎなのに)
真理(本当なら結婚──)
  結婚――したかった、拓也と。
  五年付き合った。結婚だって秒読みだった。
  笹倉さえ現れなければ。

〇綺麗な部屋
  帰宅して、着替えもせずソファに倒れ込む
真理(疲れて帰宅しても独り)
真理(寂しいよ──)
  ポォン・・・!
真理「何かしら?」
  スマホに通知が来ていた。
  『おめでとうございます! 抽選の結果、『増殖ネームプレート』が当選しました!』
真理「何かの広告?」
  ドサッ――!
真理「!?」
  玄関の外に、何かが置かれた音がした。

〇玄関の外
  ドアを開けると、段ボール箱が置かれていた。
真理「うち、オートロックなのよ?」
真理「いったい誰が?」
  他の住人がやった様子はない。
真理「まあいいわ」
  怪しげなそれを、私は抱えた。
  溢れそうな孤独と寂しさを、
  何かで紛らわしたかったから。

〇綺麗な部屋
  箱の中にはネームプレートが入っていた。
真理「ふむふむ」
  付属の取扱説明書によれば、
  ①増やしたい物を
   ネームプレートに書いてドアに貼ると、
   室内にある物を増やせる。
  ②既にある物しか増やせない。
  ③増えるのには一日かかる。
  ③は、深夜0時を過ぎると増えるらしい。
  前日のうちに指定しておけ、という訳だ。
  時計を見る。時刻は23時50分。
真理「・・・物は試しね」
  私はそれに『社員証』と描くと、ドアの外へと出た。

〇オフィスのフロア
  数日後。
真理((まさか本当とは))
  私は増えた方の社員証――社屋に入館もできた――にため息をつく。
  コップに化粧品・・・色々試したが、どれも一つずつ増えていた。
真理((誰が何の為に・・・って考えても栓がないわね))
真理「(けど――)」
笹倉「主任~。体調悪いんで早退していいですか~」
真理「ええ。どうぞお大事に」
笹倉「えっ?」
笹倉「・・・あ、はい。じゃあ・・・」
真理((けど、本当に増やしたい物なんて――))

〇大企業のオフィスビル
真理(久しぶりの定時上がりね♪)
拓也「あ、真理!」
真理「拓也!?」
真理「どうしたの、そんな疲れた顔して!」
拓也「残業続きでね。今日もなんだ・・・」
  久しぶりに見た拓也は酷く疲労していた。
  睡眠どころか、まともな栄養すら取ってないんじゃないか。
真理「何言ってるのよ。 それに仕事なら自宅ででも──」
真理(! 同棲中の笹倉がいるから自宅じゃ・・・)
真理「・・・来なさい!」
拓也「え、でも」
真理「いいから!」

〇綺麗な部屋
  とんとんたたん・・・
  急いで料理を作ると、テーブルに並べた
真理「ほら、食べて」
拓也「ありがとう! いただきます!」
  拓也は子供のように料理にがっついた。
拓也「美味しい! 真理の料理はやっぱり美味しいなあ」
真理「でしょ?」
  食べ終えると。拓也はウトウトし始めた。やはり相当疲れてたのだ
真理「ベッド使って」
拓也「ごめん。すぐ起きるから」
真理「気にしないで」
  拓也はベッドに入ると、
  気絶するように眠り始めた。
真理(・・・何とかしてあげたい)
真理(けど)
  拓也が笹倉と付き合ってるのが、私を守るためなのも知っている。
  交際を断れば、私が社内で酷い目に遭わされてたから。
真理(どうして私達ばっかり)
真理(拓也と幸せに暮らしたいだけなのに)

〇玄関の外
  私は部屋の外に出た。
真理(これを使えば たぶん人間だって増やせる)
真理「(拓也を助けてあげたい)」
真理「(でも現実には難しい。なら――)」
  だから私は──

〇オフィスのフロア
部下「おはようございます主任」
部下「ご機嫌ですね。何かいい事でも?」
真理「わかる?」
部下「はい。ダダ漏れですし!」
真理「それより笹倉さんは?」
部下「また遅刻ですよ、あいつ」
真理「ふふ。困ったわね」
部下(怒ってない?)
真理「ちょっと席外すわね」

〇オフィスの廊下

〇オフィスの部屋の前
  誰もいないのを確認すると
  私は電話をかけた。
真理「笹倉さん? 今何時だと──」
「しゅ、主任!? た、助けてください!」
  スマホから聞こえる笹倉の声は
  酷く焦っていた。
真理「どうしたの? 落ち着いて?」
「へ、変なんです!」
「わ、わたっ」
「私の目と唇が・・・増えてるんです!!」
真理(でしょうね)
  昨晩。私は彼女のマンションへ行き
  ネームプレートを取り付けた。
  そこに書いたのは――
  『笹倉の、目と唇』。
  昔読んだ
  とあるSF小説を思い出したが故の
  行動だった。
「気持ち悪い! なんなんですかこれええええ!?」
真理「病院行ったら?」
「無理! こんなの見せられない!」
真理「あのね、遅刻ならマシな言い訳しなさい」
「嘘じゃ・・・」
真理「まったく」
真理「でも――それが本当なら。 手術はどう?」
真理「大怪我でもしてたら、見られる心配なく 治してもらえるんじゃない?」
真理「――顔が潰れるような大怪我なら」
「・・・顔が・・・・・・」
  笹倉が何を考えたか
  手に取るように分かる。
真理「安心しなさい。 すぐに治せば助かるわ」
「・・・」
  ガララ、と窓が開く音。
「顔さえ潰れてれば──」
「気持ち悪がられない──」
  ドサッ!
  ブツッ――
  ツーツー
真理(当然の報いだ)
  拓也を増やしたりなんてしない。
  お前が死ねばいい。
真理「これで拓也は解放される」
  ――明日からがこんなに楽しみなんて、
    いつぶりかしら。

コメント

  • 送り主の正体や目的が最後まで不明なのが不気味。「人を呪わば穴二つ」で、ラストには真里にも何か落とし穴が待っているんじゃないかと思いましたが…。続編があったら読んでみたかったです。

  • てっきり彼を増やすのかと思ってました。
    見事に引っかかってしまいました。笑
    でも、彼も彼女のために仕方なく付き合ってるわけで、それをやったら彼の負担が増すだけですよね。
    彼を大切にしてる彼女がそうするはずもないです。

  • すごく面白いです。とても恐ろしい内容にもかかわらず、軽妙な展開で一気に読んでしまいました。どのように”ソレ”を活用するのかと思いながら読んでいたのですが、ラストは想像以上でした。

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