case1:Installation(脚本)
〇おしゃれなリビングダイニング
???「こら、アキくん」
???「ちゃんと人参も食べなさい」
???「ぼく、これなんか嫌い」
???「お姉ちゃんが食べてよ」
???「うーん」
???「あ、そうだ」
???「こうして小さくすれば──どう?」
???「食べれる!」
???「でしょ、やっぱり見た目が苦手だと思った」
???「ほら、それじゃいっぱい食べて」
???「うん!」
〇郊外の道路
???「おじさん」
瀬川 秋広「んぁ」
???「起きて」
瀬川 秋広「ふあぁ」
瀬川 秋広「悪い美雪、客こなさ過ぎて──」
瀬川 秋広「──誰?」
石津 小春「おじさん、ここ何?」
瀬川 秋広「なんだ冷やかしか」
瀬川 秋広「──まあいい、ついてこい」
〇美術館
瀬川 秋広「これは個展だよ」
石津 小春「こてん」
瀬川 秋広「俺の作品がいっぱいってこと」
石津 小春「変な部屋」
瀬川 秋広「たしかにな」
瀬川 秋広「でも見渡してどう感じた?」
石津 小春「んー」
石津 小春(全体が大きかったり小さかったり)
石津 小春「玉石混交?」
瀬川 秋広「おお、その年で素晴らしい!」
瀬川 秋広「これはインスタレーションという場所や空間全体を作品とし・・・」
山中 美雪「なに子供に講釈垂れてるのよ」
瀬川 秋広「聞いてくれ美雪、この子は本物だ」
山中 美雪「はいはい、それで今日の集客は?」
瀬川 秋広「この子だけ」
石津 小春「客です」
山中 美雪「はあ・・・」
山中 美雪「ねえ、アキ」
山中 美雪「この前の話、やっぱり考えてみない?」
瀬川 秋広「断る」
山中 美雪「でもこんな誰も来ないとこじゃなくて大通りで」
瀬川 秋広「違うんだよ美雪」
瀬川 秋広「この作品はここだから意味がある」
山中 美雪「だからっていつまでも燻るつもり?」
瀬川 秋広「わかってくれる人間もいる!」
山中 美雪「それがこんな子供だと?」
瀬川 秋広「年齢は関係ない!」
「ギャーギャー」
山中 美雪「大体いつも自分の意見曲げないし!」
山中 美雪「デートの場所だっていつも私が合わせてる!」
瀬川 秋広「人込み苦手だって言ってるだろ!」
山中 美雪「もういい! 貴方のパトロン下りる!」
瀬川 秋広「おい、個展は!?」
山中 美雪「知らない! アキのバカ!」
石津 小春「おわないの?」
瀬川 秋広「客を待たないといけないからな」
〇おしゃれな廊下
瀬川 秋広(結局誰も来なかった)
瀬川 秋広「まあ、美雪も暫くすれば頭冷やすだろ」
瀬川 秋広「ただい・・・ん、なんで俺の荷物が外に?」
瀬川 秋広「まさか」
瀬川 秋広(開かねえ)
──ピラッ
瀬川 秋広「ん?」
さよなら
瀬川 秋広「ええ・・・」
〇公園のベンチ
瀬川 秋広「家も締め出すことはないだろ・・・」
瀬川 秋広「はあ、明日からどうするか」
谷口「瀬川秋広様ですね」
瀬川 秋広「そうだけど、どなた?」
谷口「私、こういった者です」
瀬川 秋広「家庭裁判所?」
谷口「ひとまず落ち着ける場所に行きましょう」
〇校長室
谷口「どうぞ」
瀬川 秋広「ども」
瀬川 秋広「ん?」
石津 小春「よっ」
瀬川 秋広「なんでこの子が?」
谷口「それは私からお話しします」
谷口「まず落ち着いて聞いてください」
谷口「先日、貴方の御姉様が亡くなられました」
瀬川 秋広「──そうか」
谷口「お悔み申し上げます」
瀬川 秋広「そういうのはいい、それよりこの子は」
谷口「御姉様の娘様、つまり貴方の姪に当たる」
石津 小春「石津小春です」
瀬川 秋広(たしかに昔の姉貴に似てる)
瀬川 秋広「それで、相続の話?」
谷口「いえ、貴方は未成年後見人に選任されました」
瀬川 秋広「みせ──なにそれ?」
谷口「平たく言えば彼女の監護養育と財産管理などを行う者です」
瀬川 秋広「なっ」
瀬川 秋広(財産って)
谷口「ああ、彼女の財産を不正に費消した場合、損害賠償責任もあり得ますから」
瀬川 秋広「わ、わかってるよ」
瀬川 秋広「でもなんで俺?」
瀬川 秋広「姉とも昔に縁を切ったけど」
谷口「小春さんが選任の申立をしたからです」
石津 小春「名前で調べてみつけた」
瀬川 秋広(賢いな)
瀬川 秋広「なるほど、つまり俺に姪の子守をしろと」
谷口「勿論、拒否することも可能ですよ」
瀬川 秋広「うーん」
瀬川 秋広「──ちなみになんだけど」
谷口「なんでしょう?」
瀬川 秋広「それって、一緒に暮らすことになったりします?」
〇一軒家
瀬川 秋広「よっ」
石津 小春「おじさん、よくきた」
瀬川 秋広「邪魔するぞ」
石津 小春「邪魔じゃない、家族」
瀬川 秋広「歓迎どうも」
〇本棚のある部屋
石津 小春「この部屋自由に使うといい」
瀬川 秋広「ではここをアトリエとする」
石津 小春「おじさん、ルール決めたい」
瀬川 秋広「まあ、共同生活だし必要だな」
石津 小春「小春、臭いのムリ」
瀬川 秋広「換気は気をつけよう」
石津 小春「うるさいのも嫌」
瀬川 秋広「日中作業だから安心しろ」
石津 小春「汚いのダメ」
瀬川 秋広「後で掃除当番を決める、全部俺は許さん」
瀬川 秋広「あ、俺からも一つ」
瀬川 秋広「部屋には入っても良いが、作りかけの作品は絶対に触るな」
瀬川 秋広「完成品は良いが、未完成品はダメだ」
瀬川 秋広「いいな?」
石津 小春「まかせろ」
石津 小春「じゃあ飯は頼んだ」
瀬川 秋広「そうだ、俺しか作るのいねえ・・・」
瀬川 秋広「仕方ない、さっそく朝食にしよう」
〇おしゃれなリビングダイニング
瀬川 秋広「ほれ」
石津 小春「よくやった」
「いただきます」
瀬川 秋広「姉貴みたいに上手く作れないのは簡便な」
石津 小春「お母さん、そんなに作らなかった」
瀬川 秋広「一人で食べてたのか?」
石津 小春「仕事大変だったから」
瀬川 秋広(そういや過労死だっけか)
石津 小春「おじさんは死なないでね」
瀬川 秋広「安心しろ、今はほぼ無職だ」
石津 小春「ごちそうさま」
瀬川 秋広「食うの早いな」
瀬川 秋広「っておい!」
瀬川 秋広「全然食ってねえじゃんか!」
石津 小春「小春、ウインナー嫌い」
瀬川 秋広「いやパンとイチゴ以外全部残してるが」
石津 小春「嫌いだもん」
瀬川 秋広「はあ・・・」
瀬川 秋広「あのな小春」
瀬川 秋広「新しいルールその1、好き嫌いはするな」
瀬川 秋広「じゃなきゃ大人になってから後悔するぞ」
石津 小春「や!」
瀬川 秋広「あ、おい!」
石津 小春「いってくる!」
瀬川 秋広「ったく」
瀬川 秋広「ん、なんだこれ?」
瀬川 秋広「──授業参観?」
〇学校の廊下
瀬川 秋広(学校なんて何年ぶりだ)
瀬川 秋広(お、水彩画)
瀬川 秋広「小春のは・・・」
瀬川 秋広「うお、飛びぬけて上手い!」
瀬川 秋広「やはりあいつ、センスあるな」
瀬川 秋広(それにやたら音やら臭いやらの注文も多かったし)
瀬川 秋広(人より五感が鋭いのか?)
きりーつ
瀬川 秋広「おっと、始まる」
〇教室
瀬川 秋広(小春は一番前か)
先生「それでは皆さん、今日は感想文を発表しましょう」
瀬川 秋広(ごんぎつねか、懐かしい)
女子「私はごんが可哀想だと思いました」
女子「だからこれからもペットを大切にしたいです」
瀬川 秋広(子供らしいな)
先生「それじゃあ次は、石津さんお願いします」
石津 小春「はい」
石津 小春「ごんは幸せです」
瀬川 秋広(ほう)
石津 小春「だってごんは最後、浜十に気付いてもらえました」
瀬川 秋広("兵十"な)
石津 小春「なのでごんは可哀想じゃないです」
石津 小春「おかわり」
瀬川 秋広("おわり"な)
瀬川 秋広(中々面白い視点だ)
瀬川 秋広(だが)
男子「あいつ変なの」
瀬川 秋広(子供の中では浮くか)
先生「はい、石津さんありがとうございました~」
石津 小春「──!」
瀬川 秋広(あ、気づかれた)
瀬川 秋広「仕方ない、帰るか・・・」
〇部屋の前
石津 小春「ただいま」
瀬川 秋広「お帰り」
瀬川 秋広「今日の夕飯は」
瀬川 秋広(無視された)
瀬川 秋広「おーい、どしたー?」
小春「・・・学校辞める」
瀬川 秋広「残念ながらまだ義務教育だ」
瀬川 秋広「今日のあれは気にするな」
小春「宇宙人」
瀬川 秋広「ん?」
小春「あだ名、宇宙人になった」
瀬川 秋広「おお・・・」
小春「一人にして・・・孤独な宇宙人だから」
瀬川 秋広「わかったから飯までには地球に下りて来い」
〇おしゃれなリビングダイニング
瀬川 秋広「遅い、寝たなアイツ」
瀬川 秋広(宇宙人か)
瀬川 秋広「・・・」
山中 美雪「なに」
瀬川 秋広「あー、その」
瀬川 秋広「気持ち、分かってなかったなって」
瀬川 秋広「だから、ごめん」
山中 美雪「謝んないでよ、どうせ折れない癖に」
瀬川 秋広「それも含めて、ごめん」
山中 美雪「別に・・・私も感情的だったし」
山中 美雪「それで、再契約の話?」
瀬川 秋広「いや、それはまだいい」
瀬川 秋広「住処は確保できたし、別の問題があってさ」
山中 美雪「なに?」
瀬川 秋広「ってな訳なんだ」
山中 美雪「ふーん、別にいいんじゃないの」
瀬川 秋広「というと?」
山中 美雪「小春ちゃんは周りとずれてる」
山中 美雪「でも、それがおかしいわけじゃない」
山中 美雪「むしろその優れた五感を活かす方向に育ててあげればいいのよ」
山中 美雪「下手に周りと合わせずに、その子が輝く場所に行かせなきゃ」
瀬川 秋広「うーん」
山中 美雪「なに?」
瀬川 秋広「子供の素材を活かすのは大事だけどさ」
瀬川 秋広「才能だけで判断して可能性を奪うことは避けたいんだ」
瀬川 秋広「そこに小春の好きと拘りがなくなるからな」
山中 美雪「あんたらしいわ」
瀬川 秋広「そうか?」
山中 美雪「あの場所での個展に拘ってたのは誰?」
瀬川 秋広「はは、たしかに」
山中 美雪「そういえば、どうしてあそこなの?」
山中 美雪「正直この街って、大した特徴無いじゃない」
瀬川 秋広「あー」
瀬川 秋広「ここ、地元でさ」
瀬川 秋広「姉との思い出があるんだよ」
瀬川 秋広「縁は切れてたけど、いつか芸術で恩返ししたかった」
瀬川 秋広「だから、この土地を作品に重ねたんだ」
山中 美雪「そう・・・仲良かったのね」
瀬川 秋広「どちらかと言えば親代わりかな」
瀬川 秋広「小さい頃、人参を残す俺に姉が」
でしょ、やっぱり見た目が苦手だと思った
瀬川 秋広「ちいさくして・・・」
山中 美雪「アキ?」
瀬川 秋広「そうか!」
山中 美雪「何がよ?」
瀬川 秋広「悪い、後でかけ直す!」
山中 美雪「あ、ちょっと」
〇L字キッチン
瀬川 秋広(小春の偏食の原因は多分、他人より鋭い五感だ)
瀬川 秋広(視覚や聴覚でも食事を感じ取ろうとするから、好き嫌いが増えてしまう)
瀬川 秋広(なら、逆にそこを利用すればいい)
瀬川 秋広「インスタレーションだ」
瀬川 秋広「教室全体を弁当という作品に取り込めばいい」
瀬川 秋広「そうやって五感で食事を体験させれば──」
〇おしゃれなリビングダイニング
瀬川 秋広「よっ」
石津 小春「・・・おはよう」
瀬川 秋広「朝ごはん食うか?」
石津 小春「いい」
瀬川 秋広「ならこれ持ってけ」
石津 小春「でも」
瀬川 秋広「ただの弁当じゃないぞ」
瀬川 秋広「新しいルールその2、皆の前で開けること」
瀬川 秋広「約束できるか?」
石津 小春「コクッ」
瀬川 秋広「よし、じゃあ行ってこい!」
石津 小春「・・・いってきます」
〇教室
石津 小春(特別ってなんだろ)
石津 小春「わっ」
男子「おい宇宙人、お前──」
男子「うおっなにこれ!」
女子「なになに?」
男子「お前の弁当すご!」
石津 小春(タコさんウインナーだ)
石津 小春(その周りも花畑みたいで)
石津 小春(宇宙人が地球に降りてきた?)
女子「作ってもらったの?」
石津 小春「う、うん」
女子「いーなー」
石津 小春「──食べる?」
女子「いいの!?」
石津 小春「これ嫌いだから」
石津 小春「あ、でもこれ──」
石津 小春(皆と食べたら・・・なんか美味しいかも)
〇おしゃれなリビングダイニング
小春「ただいま」
瀬川 秋広「おかえり」
瀬川 秋広「弁当箱洗うから出しな」
石津 小春「ん」
瀬川 秋広(さあ、結果は・・・)
瀬川 秋広「小春、お前──」
石津 小春「皆にお裾分けした」
瀬川 秋広「なんだ・・・」
瀬川 秋広(まあ、周りと楽しく食べれたなら上出来か)
石津 小春「でも」
瀬川 秋広「ん?」
石津 小春「タコさんウインナーはおいしかった」
石津 小春「可愛いから、明日もお願い」
瀬川 秋広(そうか、食べてくれたか)
瀬川 秋広「ありがとな姉貴」
瀬川 秋広(せめて恩返しに)
瀬川 秋広(これから小春のことは任せてくれ)
瀬川 秋広「よし!」
瀬川 秋広「明日はどう工夫してやるかな!」
叔父と姪がここまでピタっと自然に戯れているのが、ただただ微笑ましかったです。秋広の今後の作品つくりに良い影響を与えてくれそうな、新しい人間関係ですね。
作品とそれを展示する環境を総体的な芸術空間として見なすインスタレーション。人の生活や人生もそう捉えると新たなアプローチが見つかるということか。秋広と小春は互いに良い影響を及ぼしあって幸せな家族になれそうですね。