百万回のキスよりも

HALPIN

百万回のキスよりも【読切】(脚本)

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〇要塞の廊下

〇牢屋の扉
グスタボ「・・・」
牢番「グスタボさま!」
グスタボ「ここを開けてくれ」
グスタボ「彼と話がしたいんだ」
牢番「彼?」
グスタボ「ルシアをたぶらかした」
グスタボ「あの男だよ」
グスタボ「処刑される前に」
グスタボ「言うべきことは言っておかないと」
グスタボ「腹の虫がおさまらないからね」
牢番「左様ですか・・・」
グスタボ「開けてくれるかい?」
牢番「どうぞ・・・」

〇牢獄
  マルス王国の下級騎士
  レオ(本名:リオネル・エーチェ)
  皇女ルシアと密通した罪で囚われており
  明日、処刑されることが決まっている
グスタボ「いいザマだな」
レオ「お前は!」
グスタボ「十人隊長ふぜいの騎士が」
グスタボ「アルバンの王子をお前呼ばわりとはね」
レオ「何をしにきた!」
グスタボ「君の様子を見に来たんだよ」
グスタボ「処刑を目前にして怯えた君をね!」
レオ「誰が!」
グスタボ「命乞いでもしたらどうだい?」
グスタボ「僕なら、君の命を救うこともできるよ」
レオ「断る!!」
レオ「お前にすがるくらいなら」
レオ「潔く死ぬ方がマシだ!」
グスタボ「たいしたもんだ」
グスタボ「まだ虚勢を張れるとは!」
レオ「・・・」
グスタボ「しかし、ずいぶん高くついたものだね」
グスタボ「聞いているよ」
グスタボ「お姫様と逢瀬を重ねたところで」
グスタボ「肌に触れることも叶わなかったのだろう?」
レオ「そんなことを言いに来たのか?」
グスタボ「悔しいかい?」
グスタボ「婚礼が済めば、ルシアは僕のものだ!」
グスタボ「その肌も、唇も、好きなようにできる」
レオ「負け惜しみに聞こえるな」
レオ「さては、彼女に相手にされないんだろ?」
グスタボ「なんだと!!」
レオ「むきになるってことは、当たりだな」
グスタボ「・・・」

〇宮殿の部屋

〇宮殿の部屋
グスタボ「やあ!」
ルシア「勝手に部屋に入ってくるとは」
ルシア「なんと無礼な!」
グスタボ「いいじゃないか」
グスタボ「僕らはいずれ夫婦になるんだから」
ルシア「まだ先の話です」
グスタボ「もうすぐさ」
グスタボ「じきに君は僕の妃になる」
ルシア「・・・」
グスタボ「早く君の口から愛の言葉を聞きたいよ」
ルシア「言葉など・・・」
ルシア「そのときが来たら いくらでも差し上げます」
ルシア「しかし、この心をあなたに差し上げる日は」
ルシア「永遠に来ぬものと、お思いください!」
グスタボ「酷いなぁ・・・」
ルシア「あなたとの結婚は国王たる父の決めたこと」
ルシア「私には逆らうことができません」
ルシア「ですが、私には・・・」
ルシア「あなたを愛することもできません!!」
グスタボ「いいのかい?」
グスタボ「そんなことを言って?」
グスタボ「アルバンとの関係にひびが入るかもよ」
ルシア「偽りのない気持ちを申したまでです」
グスタボ「・・・」

〇牢獄
グスタボ「だが、君は明日までの命だ」
グスタボ「ルシアの愛は僕のものさ」
レオ「残念だったな」
グスタボ「ん!?」
レオ「たとえ俺が死んでも」
レオ「彼女は俺を愛し続ける」
グスタボ「強がりだな!」
レオ「こうして目を閉じれば・・・」
レオ「隣にはいつでもルシアがいる」
グスタボ「触れることすら叶わなかったくせに!」
レオ「ふんっ」
レオ「お前が力づくで彼女から奪うであろう 何万回のキスよりも・・・」
レオ「たった一度、彼女が囁いてくれた 『愛してる』の言葉の方が」
レオ「俺にはずっと価値があるんでね」
レオ(それに・・・)
レオ(彼女にとって一番最初のキスは・・・)

〇ヨーロッパの街並み
  十年前、マルス郊外

〇ヨーロッパの街並み
ルシア(幼少期)「お父様、どこ?」
ルシア(幼少期)「お父様・・・」
怪しい男「迷子かい?」
ルシア(幼少期)「おじさん、誰?」
怪しい男「お父さんのところに案内してあげようね」
ルシア(幼少期)「・・・」
レオ(幼少期)「待てっ!!」
怪しい男「なんだ?」
レオ(幼少期)「そいつに付いていっちゃダメだ!」
レオ(幼少期)「貴族の子どもをさらう悪い奴なんだ!!」
ルシア(幼少期)「えっ!」
怪しい男「嘘はいけないよ!」
レオ(幼少期)「嘘じゃない!!」
怪しい男「ほら、お嬢ちゃん」
怪しい男「あんな悪ガキは放っておいて行こう」
ルシア(幼少期)「いや!!」
レオ(幼少期)「その子から手を放せ!」
???「すまんが」
アンセル王「その子に何か用かな?」
怪しい男「へ!?」
アンセル王「用を聞いておる!!」
怪しい男「いえ・・・」
怪しい男「父親を捜してやろうとしただけで」
アンセル王「父親は私だ」
アンセル王「分かったら、娘から手を放せ!!」
怪しい男「あっ、左様で・・・」
怪しい男「それは失礼」
怪しい男「へへっ」
アンセル王「ふんっ」
レオ(幼少期)「良かったね! 危ないところだった」
アンセル王「ルシア、行くぞ!」
アンセル王「もうはぐれるな!」
レオ(幼少期)「お礼もなしかよ!」
ルシア(幼少期)「ごめんね」
レオ(幼少期)「べつにいいけど・・・」
ルシア(幼少期)「ねぇ」
レオ(幼少期)「なに?」
ルシア(幼少期)「これ、お礼!」
  チュッ・・・
レオ(幼少期)「えっ?」
ルシア(幼少期)「ただのお礼だからね!」
レオ(幼少期)「う、うん・・・」

〇牢獄
レオ「ルシア・・・」

〇牢獄

〇西洋の城

〇闇の闘技場
アンセル王「リオネル・エーチェ」
アンセル王「我が娘、ルシアをたぶらかした罪・・・」
アンセル王「覚悟は良いな?」
レオ「俺はそんな罪を犯しておりません」
アンセル王「言い逃れるつもりか?」
レオ「犯したのは別の罪だと申しているのです」
アンセル王「別の罪とな?」
レオ「許されざる人物を愛した罪です」
レオ「俺はルシアを愛した・・・」
レオ「それが罪だと言うのなら」
レオ「いかなる罰でも甘んじて受けましょう!!」
アンセル王「なるほどな」
アンセル王「ルシア!」
ルシア「なんですか・・・?」
アンセル王「彼にこの薬を飲ませなさい」
ルシア「そんな!」
ルシア「できません!」
アンセル王「ふんべつの足りぬお前への罰だ」
アンセル王「やりなさい!」
レオ「ルシア様ください」
レオ「あなたにいただくのなら」
レオ「たとえ毒薬だって喜んで飲みます」
ルシア「嫌です!」
ルシア「お父様のご命令でも こればかりは従えません!!」
ルシア「こんな薬、私が!」
ルシア「ゴクッ・・・」
レオ「ルシア!!」
レオ「そんな・・・」
レオ「待ってろ 俺も今すぐに・・・」
  ゴクリ・・・
アンセル王「・・・」

〇西洋の城

〇巨大な城門
レオ「・・・」
レオ「ここは?」
アンセル王「目が覚めたかね?」
レオ「ルシア!!」
アンセル王「心配いらん」
アンセル王「お前たちが飲んだのは眠り薬だ」
レオ「えっ?」
ルシア「あれ?」
レオ「これは・・・?」
アンセル王「お前たちはすでに死んだ身」
アンセル王「これを持って、どこへでも行くがいい!」
ルシア「・・・」
レオ「なぜ?」
アンセル王「私も父親だ」
アンセル王「まことに願うのは娘の幸福・・・」
ルシア「ですが、グスタボとの婚約が破談になれば」
ルシア「マルスとアルバンの関係は?」
アンセル王「気にするな」
アンセル王「お前は死んだ」
アンセル王「グスタボも文句は言わんさ」
ルシア「でも・・・」
アンセル王「仮にルシアをやったところで」
アンセル王「同盟など長続きするまい」
アンセル王「どのみちアルバンとは戦は避けられぬ」
アンセル王「早いか遅いかだけのことだ」
ルシア「お父様・・・」
アンセル王「私がしてやれるのはここまで」
アンセル王「幸せになるのだぞ」
ルシア「うん!」
アンセル王「リオネル・エーチェ!!」
レオ「はい!」
アンセル王「娘を頼んだぞ!」
レオ「はっ!!」
ルシア「・・・」
レオ「行きましょう」
ルシア「はい」
レオ「国を捨てることになってしまいましたね」
レオ「後悔はありませんか?」
ルシア「ええ、あなたとともにあれるのなら」
レオ「そうですか」
ルシア「レオは?」
レオ「俺もです!!」

〇美しい草原
ルシア「どこへ行きましょうか?」
レオ「どこまでも・・・」
ルシア「どこまでも?」
レオ「ええ、どこまでも」
レオ「二人で歩いて行きましょう!」
ルシア「そうですね・・・」

〇草原の道
  The End

コメント

  • 昔の時代は政略結婚が当たり前のことでしょうね。愛する者と愛される者が手を携えて未来へ歩く二人のラストストーリーに感動しました。

  • 途中死んじゃったのかと思ってびっくりしましたけど、こんなラストが待ってるとは…。
    王様も粋な計らいをしますね!
    愛する人と一緒ならどこへ行っても幸せですよ。よかったです!

  • めっちゃお父様がいい人!
    子供思いで…昔は地位や名誉の道具として子供を扱っていたような話はよく聞きますが、幸せを願ってる人はどれくらいいたのでしょうか…。

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