同じ星の 同じ屋根の下で

杉本太祐

『Q.6人家族と5つのケーキ』(脚本)

同じ星の 同じ屋根の下で

杉本太祐

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〇シックなリビング
向田テルオ「本ッ当にごめん!」
向田カタル「良いところ見せようなんて、無理するからー」
向田ケント「店員が、最後に数確認してくれなかったのか?」
向田テルオ「してた!」
向田ケント「そこで気付くだろ」
向田テルオ「見ずに返事しちゃった!」
向田カタル「流石は父さん」
向田ケント「この人にお使いさせた俺の責任だな」
向田テルオ「お使いって! 俺は親だよ!?」
向田ケント((無視))
向田ケント「カタル、すまないがマホに連絡頼む。 今あの二人が帰ってくると──」
???「ただいまー」
向田カタル「パーフェクトなタイミング」
向田マホ「ただいま」
向田マホ「えっ? なにこの空気」
向田ケント「あの2人はどうしてる?」
向田マホ「着替えに行かせてるけど」
向田マホ「今度は誰が何したの?」
向田カタル「父さんがミスしたの」
向田マホ「また!? これで何回目!?」
向田ケント「数えてない。 どうせすぐに記録更新するし」
向田テルオ「父親がこんな邪険にされることある?」
向田ケント「買い物もろくにできない。母に逃げられ、仕事をクビになり、今じゃあ中学生みたいな夢追いかける人を──」
向田ケント「──父として、敬えと?」
向田テルオ「・・・しゅみましゃん」
向田ケント「と・に・か・く!」
向田ケント「向田家・・・円陣ッ!!」
向田ケント「身内の不始末は、身内でケリをつける」
向田マホ「家族でピンチを乗り越えましょう」
向田カタル「終わったら家族みんなで」
向田テルオ「うまいもんでも食おう-!」
向田ケント「支払いは父さん持ちで」
向田テルオ「なんでぇ!?」
向田カタル「元凶だし。すべての」
向田テルオ「そこまで言われて、頑張る気になると思う?」
向田ケント「父さんのやる気なんてどうでもいい。 あってもなくても失敗するんだ」
向田テルオ「父親がこんな邪険にされることある?」
向田カタル「デジャブがすごい」
向田マホ「この掛け合い、今日だけじゃないからね」
向田ユカ「ただいまだ! マホ姉から、おやつにケーキがあると聞いたぞ!」
向田ヒロシ「甘い物は・・・心に染みる」
向田ユカ「・・・んん??」
向田ヒロシ「ケーキが、5個しかない」
向田ユカ「これでは誰か一人が食べられないということか?」
向田ケント(一応、見過ごしてもらえる可能性も期待したが)
向田ユカ「これでは、不公平が生まれてしまう」
向田マホ(気にしないでケーキを食べて始めてくれたらと思ったけど)
向田ヒロシ「こんな時──」
向田カタル(まぁ、今回もこうなるよね)
「ーー【家族】なら、一体どうやって解決するのだ?」

〇宇宙空間
「これが単なる、無垢な子供の口にする「どうして?」なら可愛いものだ」
「だけど、我が向田家において「家族」に関する問いへの答えは責任重大だ」
「教育上? いや、違う」
「だってこの二人の子供は、見た目こそこれだが・・・」
「エイリアンなのだから」

〇シックなリビング
向田ケント「参考までに聞くが」
向田ケント「お前の星なら、こういう時どうしているんだ?」
向田ユカ「ケーキとは“嗜好品”であるな? なら、“命”より価値があるということ」
向田ユカ「ケーキを食べる者を、一人<減らせ>ばいいだけだな」
向田ケント(その減らす方法までは聞くまい)
向田マホ「ヒロシちゃんも同じ?」
向田ヒロシ「最初に動いたヤツを・・・○すだけで済む」
向田カタル(今のは完全に、自業自得の藪蛇でしょ)
向田ケント「な、なるほどなぁ。 やっぱり地球とは違うんだなぁ」
向田ユカ「そうかそうか! やはり地球は違うのか!」
向田ユカ「で、どうするのだ?」
向田カタル(今のも自業自得でしょ!)
向田ケント「か・・・簡単だ。 簡単な、その、ペナルティを科す」
向田ユカ「ぺなるてぃ?」
向田ヒロシ「罰則のこと」
向田ケント「6人いるのにケーキを5つしか買ってこなかった。 この行い、間違いに対しては・・・」
向田ケント「罰を与えてやるのが、筋というものだ」
向田テルオ「え〜」
向田ユカ「んん? 意外に我らと変わらないのだな」
向田ヒロシ「程度の違いしか、ない」
向田ケント「そ、そうか?」
向田カタル「感情的には、兄ちゃんのやり方が有りなんだけどね」
向田カタル(今必要なのは、そういうのじゃないだろ!?)
向田ケント(分かってる! つい、いつもの調子で)
向田マホ「あ、別にいいよ。 私食べないから」
向田テルオ「え? いいの?」
向田マホ「間食しちゃうとあれだし、ね?」
向田マホ「食べるのが5人なんだから、5個で問題ないでしょ?」
向田ユカ「だが、マホ姉もさっきケーキが楽しみだと言っていたではないか」
向田テルオ「そうだよ。第一、ケーキをリクエストしたのはマホじゃないか」
(そっちのアシストするな!)
向田ヒロシ「マホが我慢しないといけないのは、違う」
向田ユカ「そうだぞ。誰かが不利益を被るのは、家族のやり方ではあるまい」
向田カタル「やっぱり、こういう時は平等が一番かな」
向田ヒロシ「というと?」
向田カタル「5つのケーキを、それぞれ小さく切り分けて」
向田カタル「合体させて、新たに6個目のケーキを作る」
「おー!!」
向田ユカ「んん? それでは、我の分が少し減る、ということか?」
向田ヒロシ「合体したやつ、色んな味楽しめて・・・お得感と特別感」
向田テルオ「じゃあ父さんは、その6個目がいいなー」
向田ユカ「我もそれがいいぞ!」
向田ヒロシ「新しい不公平が生まれた」
向田ケント(お前もダメじゃないか!)
向田カタル(あれー? こ、こんなハズじゃあ・・・)
向田マホ「・・・」
向田マホ「私のを半分、お父さんにあげるよ」
向田ケント「だから、それだとマホが損するだろ?」
向田マホ「ううん。しないよ」
向田ユカ「楽しみだったケーキが半分になるのは、損であろう?」
向田マホ「損じゃないよ。むしろ、誰か一人だけが食べられない方が、私にとっては損だよ」
向田カタル「まぁ、それはそうかもだけど」
向田ユカ「つまり・・・」
向田ユカ「マホ姉が我慢するしかないということか?」
向田マホ「我慢でもないの。 同じものを食べれば、同じものを食べた人同士で感想も言い合えるし」
向田マホ「違うお得もあるよ。それに・・・」
向田ヒロシ「それに?」
向田マホ「家族のためなら、ケーキが半分になっても損だと思わないの」
向田マホ「普通なら損だと思うことを、損だと思わない相手が・・・」
向田マホ「家族、なんだよ」
向田ユカ「・・・・・・」
向田ユカ「なるほど」
向田ユカ「なるほどなるほど!」
向田ユカ「それはとっても、」
向田ユカ「家族であるな!!」
向田ユカ「そして我は、ケーキを食べてイイということだな!?」
向田ケント「好きなのを、先に選んでいいぞ」
向田カタル「一回決めたら変更なしだから」
向田ユカ「決断を迫られるな!」
向田テルオ「あ、モンブランは──」
向田ケント「父さんは黙って」
向田ヒロシ「マホ」
向田マホ「どうしたの? 早くケーキ選ばないと」
向田ヒロシ「さっきのは──」
向田ヒロシ「本心からの、言葉?」
向田マホ「・・・」
向田マホ「家族相手に、ウソはつかないよ?」
向田ヒロシ「そう」
向田ヒロシ「マホは、大変だね」
向田ユカ「うがー、ダメだ! イチゴが呼んでいるのに、チョコを裏切れん!!」

〇地球
「エイリアンが地球にやって来たのが、もう半年前のこと」
「宇宙航行、ワープ、レーザー・・・今まで映画の中で観てきたまんまのテクノロジーを持つ存在の来訪に、」
「滅亡、侵略、占領・・・・・・暗黒の未来を覚悟したのだが──」
エイリアン親善大使「突然すみませーん! ちょっとだけ、お邪魔させてもらえないでしょうーかー!」
「メッチャ友好的な宇宙人だったので、人類はひとまずの危機を回避した」
「・・・そう、あくまで「ひとまず」だ」
「もしも戦争にでもなれば、人類に勝ち目はない。だから人類もまた、」
国で一番偉い人「どうぞどうぞ! 狭い星ですが、我が家だと思ってくつろいでいってください」
「メッチャ下手に出ることで、この局面を乗り切ると決めた」
「だから、エイリアンからのホームステイの要望にもすんなり応じちゃうわけで」
「誰もやりたがらないだろうと設定した助成金に釣られて、無職で、10年も家を空けていた父親が」
向田テルオ「エイリアンを連れて実家に帰ってきたわけで・・・・・・」
「地球の<家族>という思想に興味を持った二人(二匹?)の相手をする羽目になった」
  ※間違っても、エイリアンの機嫌を損ねないように
  ※間違っても、エイリアンに地球人が「下等な存在」だと思われないように
「当面、何不自由なく暮らしていけるお金と。とんでもない責任を押し付けられた」
「こうして。 いつ終わるとも知れない、6人家族の生活が続いている──」
「あの二人が、」
「<家族>を理解する、その日が来るまで・・・」

〇本棚のある部屋
向田ケント「ケーキ食うだけで、こんなに疲れるのか」
向田ケント「しかし、もう少し感情的にならないよう意識しないと」
向田ケント「・・・ボロが出ないように」

〇書斎
向田カタル「理詰めだけじゃダメか・・・もっと感情的な方が、人間っぽくしないと」

〇ファンシーな部屋
向田マホ「私・・・代わりに・・・もっと・・・」

〇古風な和室
向田テルオ「家族ねぇ・・・これが家族なんだねぇ・・・」

〇二人部屋
向田ユカ「今日はどうであった?」
向田ヒロシ「悪くなかった」
向田ユカ「確かに!」
向田ユカ「ちーずけーきは新境地であった!」
向田ヒロシ「そっちじゃない」
向田ユカ「・・・分かっている」
向田ヒロシ「まだ、検証が必要」
向田ユカ「なかなかボロを出さんな」
向田ヒロシ「正直、この家族の中にはいない可能性もあり得る」
向田ユカ「だが、この家族はちょっと怪しいな!」
向田ヒロシ「・・・同感」
向田ヒロシ「この家族に紛れ込んでいる裏切り者、必ず見つけてみせる」
向田ユカ「同感だ」
向田ユカ「ケント達も、いつも言ってる通りであろう?」
「身内の不始末は、身内でケリをつける」

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