僕は藤原さんと(脚本)
〇教室
帰りのホームルームが終わり、皆が一斉に立ち上がる。
一目散に教室を出る人、友達と喋り会う人、委員会に向かう人と、放課後のクラスメイト達の過ごし方は様々だ
僕はと言うと・・・・・・
新渡戸翔太「藤原さん!」
「ひゃっ」
藤原朱里「新渡戸君・・・!?びっくりしたぁ」
新渡戸翔太「やっと会えた!今から帰りか?」
新渡戸翔太「一緒に・・・」
『ねぇ、あの席誰の席だっけ?』
「『え?もう忘れたわ。クスクス・・・』」
「『お前それはヤバいって!クスクス・・・』」
新渡戸翔太「・・・藤原さん」
「翔太〜一緒に帰ろうぜ」
藤原朱里「・・・・・・」
藤原朱里「・・・また明日ね。新渡戸くん」
矢島大輔「なにしてんの?帰ってゲームしようぜ」
矢島大輔「あれ、藤原さんはぁ?もしかして帰った?」
矢島大輔「ちょっとアソんでやろうと思ったのに残念〜」
新渡戸翔太「藤原さん!!」
〇開けた交差点
藤原さんは、クラスで浮いている。
大人しく、反論してこない彼女がいじめの標的にされたのだろう。
そんな皆がバカバカしい。
藤原朱里「・・・矢島くんと帰らなくていいの?」
新渡戸翔太「だって、藤原さんと帰りたかったし・・・」
新渡戸翔太「人を虐めるような最低野郎とはもう帰らねぇからな!」
藤原朱里「・・・ふふ」
藤原朱里「ありがとうね。新渡戸くん」
何故彼女が虐められなきゃいけないんだ
こんなに優しくて、こんな笑顔を見せてくれるのに
僕は、そんな藤原さんを守りたいって思うと同時に
──惹かれていた
藤原朱里「今日も疲れたぁ」
新渡戸翔太「・・・そうだね」
僕は決心したんだ
今日、藤原さんに告白する
そして、彼女と一緒に・・・・・・
藤原朱里「・・・新渡戸、くん?」
新渡戸翔太「な、なに!?」
藤原朱里「大丈夫?」
新渡戸翔太「大丈夫!ちょっと考え事・・・」
藤原朱里「ホントかなぁ・・・ふふ」
〇開けた交差点
藤原朱里「私、今日はこっちなんだ」
藤原朱里「またね」
新渡戸翔太「う、うん・・・」
新渡戸翔太(ヤベ、藤原さん帰っちまうぞ僕!)
新渡戸翔太(早く伝えろって!)
新渡戸翔太(僕の馬鹿野郎ー!!)
新渡戸翔太(仕方ない、明日こそはちゃんと言おう・・・)
新渡戸翔太「・・・え?」
歩行者信号が赤になり、車が動く。
藤原さんは
──赤信号になった横断歩道に飛び込んだ。
新渡戸翔太「藤原さん!!」
〇開けた交差点
新渡戸翔太「なにしてんだよ!!」
新渡戸翔太「やめてくれよこんなこと!!」
新渡戸翔太「せっかく会えたのに・・・!」
新渡戸翔太「お願いだよ・・・」
新渡戸翔太「僕は」
新渡戸翔太「君が好きなんだよ」
新渡戸翔太「大好きなんだよ」
新渡戸翔太「だから、もう・・・」
何言ってるの?
だって私、もう
藤原朱里「死んでるのに」
〇開けた景色の屋上
藤原朱里「・・・なんでついてくるの」
新渡戸翔太「・・・君が、好きだから」
藤原朱里「・・・どういうこと」
藤原朱里「なんで今更そんなこと・・・!」
藤原朱里「私もう死んじゃったのに!」
藤原朱里「幽霊になっちゃったのに!」
藤原朱里「遅いよ・・・」
藤原さんは、1年前に無くなった。
交通事故だ。
遺書にはこう書いてあったらしい。
お父さん、お母さん
ごめんなさい。
矢島くんを始めとする人達は、私が居なくなって嬉しいでしょうね。
新渡戸くん
仲良くしてくれてありがとう。
大好きだよ
藤原朱里「新渡戸くんが・・・」
藤原朱里「──翔太くんがずっと好きだった!」
藤原朱里「・・・でも毎日辛かった」
藤原朱里「毎日毎日あの人達に叩かれて、踏まれて無視されて傷つけられて!」
藤原朱里「翔太くんに助けを求められない自分も嫌で!」
藤原朱里「迷惑かけるなら私が居なくなればいいって!」
藤原朱里「邪魔なんだって思ったのに・・・」
新渡戸翔太「そんな事ない」
新渡戸翔太「僕も好きだったんだから」
藤原朱里「翔太くん・・・・・・」
藤原朱里「私、どうしたらいいの」
新渡戸翔太「これから、ずっと一緒にいよう」
新渡戸翔太「やっと君に会えたんだ」
藤原朱里「・・・え?」
藤原さんが亡くなったって知って、僕は
自宅マンションの階段を昇った。
新渡戸翔太「ずっと探してたんだ」
屋上の柵に手をつけて
身を乗り出して
そのまま地面に──
新渡戸翔太「朱里ちゃん」
新渡戸翔太「伝えられなくて、ごめん」
新渡戸翔太「君を守れなかった」
新渡戸翔太「ずっと後悔してた」
彼女はまだ向こう側に行けずこの世をさまよっていたのだろう。
だから、探した。
新渡戸翔太「迷惑なんかじゃないよ」
新渡戸翔太「そうやって抱え込んで、迷惑かけまいと無理して笑って・・・」
やっと、会えた。
新渡戸翔太「僕は」
新渡戸翔太「そんな君が好きになったんだ」
藤原朱里「・・・・・・」
新渡戸翔太「朱里ちゃん」
新渡戸翔太「これからはずっと──」
──一緒だから
僕は、藤原さんと手を取って
屋上を飛び降りた。
生まれ変わっても、一緒がいいな。
・・・うん。
〇開けた景色の屋上
「翔太!!」
「嘘だろ・・・!」
矢島大輔「そんな、翔太・・・!!」
友人A「いい加減目ェ覚ませ矢島!」
田中「新渡戸は1年前に死んだんだよ!」
佐藤「お前は何も見てねぇ!」
佐藤「ただの幻覚だ!」
矢島大輔「だって、翔太、飛び降りて・・・」
田中「新渡戸はもう居ないんだよ」
田中「・・・明日は新渡戸の命日だ。皆でお参りに行こう」
なぁ、翔太。
分かってるよ、お前が死んだことぐらい
でもまだお前がクラスにいる気がするんだよ
幻覚でもいいから、お前と話したい
矢島大輔「・・・ごめんな、翔太」
???「あやまるのは僕じゃなくて」
──藤原さんにだろ?
矢島大輔「なっ・・・!」
その瞬間、俺達は柵の向こうに飛ばされて
〇開けた景色の屋上
好きだという思いを打ち明けていたら、何かが変わっていたのかもしれない。
でも…それは遅すぎて。
最後のオチ、すごくよかったです。
ちゃんと報いを受けなくてはと思うんですよ。
彼も好きな人を生きている間にやっぱり守りたかっただろうし、藤原さんも守ってほしかったでしょうね。彼女がすでに死んでしまっていたこと、死んでしまった彼女を追って逝ってしまったのは、予想外でとてもびっくりしました。
最後がよかったです、びっくりしました。伝えられない思いがさまよって切ないような少しドキドキするようなお話しでした。一気に集中して読ませて頂きました。