オーディションの前日

杏子

読切(脚本)

オーディションの前日

杏子

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〇公園のベンチ
  歌のレッスンを終えた七美は、公園で温かいレモンティーを飲んでいた。
七美「明日はオーディションか・・・ 緊張するなぁ」
春華「遅くまで外にいると、風邪をひいてしまうよ」
  同じ訓練所に通う春華が現れた。
七美「あっ! 春華さん」
  七美は春華と、二人で話が出来ることを嬉しく思った。
春華「喉を悪くしたら、これまでの練習が水の泡になってしまう」
春華「気を付けて」
  そう言うと、春華は七美が座っている隣に腰掛けた。
七美「春華さん、今日のレッスンでも素敵でした!」
七美「やっぱり長く続けていると」
七美「上手になれるんですね!」
春華「うん・・・そうだね・・・」
  七美は、春華が哀しそうな表情になった事が気になった。
七美「春華さん、明日のオーディション頑張りましょう!」
春華「私は、明日のオーディションを受けないんだ・・・」
  七美は、春華も明日のオーディションを受けるのだと思い込んでいた。
七美「ど、どうしてですか?春華さんなら、絶対・・・」
春華「私は、当分オーディションを受けない」
  春華の突然の不受験宣言に、七美は言葉を失った。
春華「今日、レッスンの前にこんな事があったんだ」
  春華は、学校の帰り道で起こった出来事を話し始めた。

〇電車の中
春華「今日も頑張るぞ」
  学校帰りの春華は、レッスンに向けて意気込んでいた。
  そこへ隣の車両から、他校の生徒が現れた。
通りすがりの女子高生①「てかさ、あんな一生懸命な安達を見ていたら、自分も頑張ろうって思えた」
通りすがりの女子高生②「すごいよね。ウチからあの大学に行けたら、天才じゃん」
通りすがりの女子高生①「負けられないわぁ」
  二人は春華よりも一学年上の、高校3年生らしかった。
  話題は進路についての様子だった。
通りすがりの女子高生①「そういえば金岡って、どうしてるかな?」
通りすがりの女子高生②「金岡・・・?」
通りすがりの女子高生②「あぁ、あの漫才師に弟子入りした子!」
春華「(えっ、なにそれ。すごい!)」
  春華は、胸の内で【見ず知らずの金岡さん】に拍手をした。
通りすがりの女子高生①「ウチを中退して夢追うとか、正直無いよね」
春華「(えっ、そうなのかな?)」
  春華は、その冷たい言い方に驚いた。
通りすがりの女子高生②「いいじゃん。本人がやりたい事なんだから!」
春華「(そうだよ)」
春華「(夢を追うって)」
春華「(大変なんだから!)」
  春華は、密かに憤った。
通りすがりの女子高生①「でもさ、金岡の漫才を見たことあるけれど」
通りすがりの女子高生①「つまらないんだ」
通りすがりの女子高生②「それはっ!」
通りすがりの女子高生②「私も思ったけれど・・・」
春華「(そうなの!?)」
  春華の中で、金岡さんを応援する気持ちが縮んでしまった。
通りすがりの女子高生②「修行したら、上手くなるかもよ?」
  春華は、その一言に思わず頷いた。
通りすがりの女子高生①「ん~」
通りすがりの女子高生①「でも金岡の場合は」
通りすがりの女子高生①「人を楽しませるって言うより・・・」
通りすがりの女子高生①「自分が楽しむのが優先で」
通りすがりの女子高生①「観客を見てないって感じ?」
春華「(それ・・・)」
  思い当たる事がある春華は、思わず俯いた。
通りすがりの女子高生②「だったら、いっぱい上手くなれば良いんだよ!」
春華「(そう・・・なんだ・・・)」

〇公園のベンチ
七美「そんな事が・・・あったんですか・・・」
  春華の話を聞いて、七美はやるせない気持ちになった。
春華「まぁ、私も先生から」
春華「「歌を聞く人の気持ちを考えて!」ってよく言われる」
  春華は俯いた。
七美「私も、実は一昨日、こんな事がありました」
  七美は、春華がレッスンを入れていない一昨日の出来事を話し始めた。

〇会議室のドア
妙子「あら、七美ちゃんじゃない」
  七美がレッスン室の扉を開こうとした時、隣のレッスン室から妙子が現れた。
七美「妙子ちゃん、久しぶり・・・」
  七美は、同い年の妙子がやや苦手だった。
妙子「またグループでのレッスン?」
妙子「個別指導じゃなくちゃ、いつまでもアンサンブルのままよ?」
  妙子は、七美より個別指導のレッスンをたくさん受けていた。
七美「妙子ちゃんも頑張っているんだね」
妙子「なに?その作り笑い」
七美「つ、作り笑いなんか・・・」
  七美は、こうして妙子にやり込められる事が多かった。
妙子「ま、良いわ。あなたも頑張ってね」
七美「うん・・・ありがとう・・・」
  七美は、そう返すのがやっとだった。
妙子「そういえば、前にあなたがすごく良いって言っていた山本先生・・・」
妙子「今月でお辞めになるそうよ」
妙子「良い先生だったのにね?」
七美「えっ、聞いてない・・・」
  突然の知らせに、七美の頭の中は真っ白になった
妙子「私ももう少し、レッスンをお願いしておけば良かったわ」

〇豪華な客間
山本先生「ふぅ。今日もこれでお仕舞いね・・・」
  レッスン後の片付けを終えた山本先生は、一息ついた。
七美「山本先生!」
  七美はレッスン室に入ると、泣き出してしまった。
七美「お辞めになるって本当ですか?」
山本先生「ど、どうしたの。七美さん」
七美「山本先生が、今月までって聞いて・・・」
七美「私、今度のグループレッスンで」
七美「山本先生のレッスンは、最後なんです・・・」
  七美は、涙が止まらなかった。
山本先生「明後日よね?たくさん歌いましょう」
  山本先生は、明るく言った。

〇公園のベンチ
春華「だから、今日は頑張っていたんだね」
七美「私、山本先生のレッスンが大好きで・・・」
  七美は、思い出し泣きをしてしまった。
春華「だったら、明日のオーディションは余計に頑張らなきゃ!」
  春華の励ましに、七美は俯いた。
七美「自信・・・無いんです・・・」
春華「七美ちゃん、自分には自信を持たなきゃ!」
  それから春華は、様々な言葉で励ましてくれた。
七美「春華さん、そんな風に思ってくれていたんですか?」
春華「私、七美ちゃんの歌、好きだよ?」
七美「ありがとうございます!」
七美「私、頑張りますね!」
  七美は上機嫌で帰っていった。
春華「私はね、4回オーディションに落ちているんだ」
春華「だから、留学して」
春華「本場で歌を習いたい!」
春華「他の誰よりも、上手になりたい!」
  春華もまた、新たな決意を胸に
  一歩を踏み出すのだった。

コメント

  • 恩師の退職や同期生の嫌味など、自分の努力だけではどうにもならない不安な部分も描かれていてリアリティがありました。歌のオーディションに限らず、世の中全てのオーディションは相手の望む人材が選ばれるだけで、たとえ落ちても自分という人間が否定されたわけではないとポジティブに考えて生きていきたいものですね。

  • 夢に向かってると、どうしても外野の雑音が入りがちですよね。
    耳を傾けるべき意見と、流すべき意見があると思うんですよ。
    でも、彼女たちなら大丈夫な気がしました。

  • 夢に向かって必死に一途に邁進する2人の熱量が伝わってきます。大きく羽ばたく前の足掻いている段階、とても辛い時期ですが前を向いて進み続けてほしいですね。

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