君が死んでしまった暁に

猪野々のの

第四話(脚本)

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〇神社の石段
  走った。とにかく自転車を走らせた。
  僕の家、というか祖母の家から二階堂家は少し距離がある。籠池神社・・・・・・確かに地図アプリにも表示されていた。
  春の少し冷たい風が頬を拭う。
二階堂玲央「おーい、隼人! こっちこっち」
田沼隼人「す、すみません。お待たせしました」
  無事に到着した頃、先輩が寂れた鳥居の前に寄り掛かっていた。
田沼隼人(オフの先輩、格好いい。 絵になるっ・・・・・・!)
田沼隼人(・・・・・・じゃなくて、煩悩はシャットアウト)
二階堂玲央「いいってことよ。そんで、この神社に用があるって電話で言ってたな」
田沼隼人「は、はい。そ、その・・・・・・上手く言葉に出来なくて、申し訳ないのですが」
二階堂玲央「それでも隼人にとって大切なことなんだろ?」
  躊躇い、そして頷く。
田沼隼人(何も話せなくてごめんなさい。何度も死なせてしまってごめんなさい。僕が優柔不断だから巻き込んでしまって、ごめんなさい)
田沼隼人(・・・・・・まだ解決には至っていないけど、これで)
二階堂玲央「ふっ」
田沼隼人「・・・・・・せ、先輩?」
二階堂玲央「ああ、悪い。気のせいかもしれないが。なんとなく隼人が何かに吹っ切れたというか、頼もしく見えて」
田沼隼人(っ・・・・・・そう、感じてくれたなら。それは他でもない、あなたのおかげです)
  その喉まで通した言葉たちは自然と出た苦笑と共に奥へと閉まった。
二階堂玲央「まっ、実は俺もここに用事があったし。一石二鳥ってことで。んじゃ、早速行きますか!」
田沼隼人「はいっ・・・・・・!」
  勢いよく返事をする。
  そして鳥居に足を踏み入れた時──世界が止まった。

〇神社の石段
田沼隼人「・・・・・・」
田沼隼人「・・・・・・え?」
  頭が、思考を置き去りにする。
  隣の先輩は笑顔のまま、動こうとはしない。
  草や木々も、風さえも揺らぐことはなくて。
  この歪な感覚を、僕は知っている。知ってしまっている。
  【終わり】と【始まり】の境目であるということを。
  ・・・・・・神様がおいでになる。
ヨヒト「やっと。やぁぁぁっーと、答えに辿り付いたか人間。遅緩もいいとこだぞ」
田沼隼人「ヨ、ヨヒト・・・・・・ ?」
  それは疑問符だけじゃない、驚きさえも含まれていた。
  そこに皮肉で始まり、気ままな皮肉で去る麗しくも幼き少年の姿があったのだから。
田沼隼人「え、どうしてヨヒトが? まだ先輩は生きているはずなのに。それとも何か」
ヨヒト「ははっ、混乱に溺れるとは愉快よな。安心しろ、お前の好い人は絶賛生を全うしている」
田沼隼人(よ、よかったぁ・・・・・・)
  先輩はまだ生きている、生きていてくれている。それだけでもう。
田沼隼人「って、好い人って・・・・・・! ぼ、僕らはまだそんな関係じゃ!」
田沼隼人「いや、いずれはそうなれたならなぁっていう願望とか、不誠実なことをしたいのは少し、ほんのちょっぴりは持ち合わせてるけど」
田沼隼人「けど、さすがにそれを公にしてしまうのは違うといいますか、心の準備だって完全には整ってないとっ・・・・・・」
ヨヒト「ええい喚くな、鬱陶しい! つまらん惚気は後でやれ」
  ピシャリとぶった切られる。
  そうだ、まだ終わっていない。
  考えろ、頭を働かせろ。
  ヨヒトはさっき、答えに辿り付いたと言った。つまりはこの行動が正解なのは間違いない。
田沼隼人「・・・・・・」
  長かった、もう何周したのかもわからないほどに。
  何度も好きな人が目の前で死を迎えて、何回も絶望して。何をしても本当に駄目で・・・・・・。
  もしもあの時、ヨヒトのヒントがなければ──あれ、ちょっと待てよ?
田沼隼人「も、もしかしてヨヒト・・・・・・サンはこうなった原因を知っていたりしますかねぇ?」
ヨヒト「ふんっ、当然だ。神という肩書きを忘却してしまうほど、お前の脳は腐ってはおらんのだろう?」
田沼隼人(や、やっぱり・・・・・・)
  要するに僕は神様のお膝元。いいや手の内で遊ばれていた、ということか。
田沼隼人「ヨヒト、人が悪い・・・・・・」
ヨヒト「非力な人間という無能な種族ではないのでな。お前の体験した世界は神の力を貸す代償を得たものだ、感謝せよ」
田沼隼人「・・・・・・」
  神の力・・・・・・おそらく、時間が巻き戻る非人道的な能力のことだろう。人知を超えたもの、そう言われれば納得出来る。
  だけど、どうして。
ヨヒト「──だが、呪いは祓えていない」
田沼隼人「っ、の、呪い・・・・・・?」
  つ、次から次へと穏やかではない、対照的な単語が。
  呪い。呪い、呪い呪い・・・・・・。
田沼隼人(時間遡行の能力がヨヒトによるものなら。先輩が無差別に死を引き寄せてしまうのは別の何か・・・・・・考えるのが自然)
田沼隼人(その場合、一切動機は成り立たないのは悔しいが、ヨヒトの──神様の力さえあれば)
ヨヒト「ほう、良い線を行く」
ヨヒト「確かにお前の好い人は自身の生を、理の世を乱した」
田沼隼人「先輩が、自身の身を・・・・・・?」
  ヨヒトはわざとらしく鼻で嗤う。
  四月四日。
  籠池神社。
  神様。
  厄払いと縁切り。
  願掛け・・・・・・。
田沼隼人「・・・・・・」
田沼隼人(・・・・・・もしかしてっ!)
  無造作に置かれたパズルのピースがぴったりと填まるように、無くした小片が不思議と脳内を刺激した。
ヨヒト「され、精進されよ」
ヨヒト「・・・・・・はっ。精々、愛の力という奴で大団円を呼ぶのだな」
  存在が、神様の姿が段々と薄くなる。
  ヨヒトは・・・・・・厄払いの神様だったはずの人ならざる者は皮肉を交えた、下手な支持と共に眠りについた。
  荒魂と和魂。神様は二面性を持つ。
  穏やかで優しさに誇る和魂、そして時には人に祟りを及ぼす荒魂。
  それはヨヒトという僕の前に現れた小さな神様も例外ではない。厄除けの和魂も縁切りの荒魂も。
  これは、僕の推測の範疇に過ぎないけど・・・・・・。
  二階堂先輩はお参りの作法をおそらく間違えてしまった、と思う。
  和魂の厄払いに願うはずが、不手際によって荒魂に・・・・・・。
  しかし、わからない。どうして先輩は神社へ向かったのか──。
  もし、和魂に願うなら何を叶えたかったのだろうか。
  なんて・・・・・・考えても無駄である。
  それを知っているのは当人と、その願いを聞いたはずのヨヒトだけなのだから。

次のエピソード:第三話

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