カナヅチ克服大作戦!?

若林 憬

カナヅチ克服大作戦!?(脚本)

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〇黒
  俺は全く泳げない。俗に言う、カナヅチだ。
  ──明日、命運を賭した一大決戦を迎える。

〇学校のプール
  水泳の授業で、50m自由形の実技試験があるのだ。

〇学校のプール
  それに合格しなければ、夏休みに行われる──カナヅチ克服を目的とした過酷な合宿に、無理やり強制参加させられてしまう。
  “鬼軍曹”の異名を持つ厳格な体育教師が、手取り足取りみっちりしごいてくれるそうだ。
  そんな理不尽極まりない罰ゲームはお断りだ。絶対に回避したい。

〇黒背景
  ──というわけで。

〇水泳競技場
  俺は幼なじみの夏希と一緒に、近所の市民プールで猛特訓に励んでいた。
  水泳が大の得意な夏希に頼み込み、急遽コーチを引き受けてもらったのだ。
  普段じゃ滅多にお目にかかれない、幼なじみの超貴重なビキニ姿。
  ついつい目を奪われ、気を取られがちな俺は、肝心の特訓にもいまいち身が入らないでいた。

〇水泳競技場
  本日何度目かの休憩時間が訪れた。
  俺を含めた利用客らが、一斉にプールサイドへ引き上げていく。
  と、そこでふと──夏希の姿が見当たらないことに気付いた。
  どうやら──はぐれてしまったらしい。
  辺りをくまなく見回す。
  ──いた。すぐに見つかった。
  ‥‥のはいいものの、何だか様子がおかしい。
  プールのちょうど中ほどに留まったまま、しきりに潜水を繰り返している。
  一見、何かをさがしているふうに見えなくもない。
  しかし、あの蒼白な顔色と、必死の形相から察するに、事態はもっと深刻かもしれない。
  その刹那──。
  不吉な胸騒ぎと共に、ある考えが脳裏をよぎった。
  途端に背筋が凍りつく。
泳人(えいと)(まさか‥‥!)
泳人(えいと)(いや、間違いない‥‥!)
泳人(えいと)(アイツ、脚が攣って溺れてしまってるんだ‥‥!!)
  いても立ってもいられず、駆け出した。
泳人(えいと)「待ってろ! 今すぐ助けに行くから!」
  最寄りのスタート台から、プールめがけて勢い良くダイブ。水しぶきが派手に飛び散る。

〇水中
  ‥‥驚いた。身体が自然と浮き上がるではないか!
  浮き輪もビート板も、一切使用していないにもかかわらず!
  まるで魔法にかかったみたいだ!
  生まれて初めて味わう、不思議な感覚だった。
  が、今は感慨に浸っている場合ではない。
  こうしている間にも、夏希は命の危機に瀕しているのだ。
  一刻も早く、彼女のもとへ泳ぎ着かなければ。
  両腕でしゃにむに水を掻き分ける。
  両脚をがむしゃらにバタつかせる。
  ゴーグルを着け忘れていたことに、今さらながら思い至る。
  やむを得まい。
  焦点の定まらない瞳を懸命に凝らす。
  夏希らしき人影が、遠目にかろうじて視認できた。かなり輪郭がぼやけている。
  それを灯台代わりにして、一心不乱に泳ぎ続ける。
  と突然、何かが目許に覆い被さった。

〇水の中
  視界が完全に遮られる。
  咄嗟に振り払おうとするが、執拗にまとわりついて離れない。
  早々に諦めて、勘だけを頼りに手探りで突き進む。
夏希(なつき)「ひゃあッ!」
  すぐ近くで、夏希の短い悲鳴が聞こえた。
  声のした方向に、精一杯手を伸ばす。
  何かが指先に触れた。夏希だろうか。
  まだ断定しかねる。
  試しに、今度はむんずと掴んでみる。
  掌には収まりきらないサイズだ。
  感触はとても柔らかい。
  それでいて、適度な弾力もある。
  手触りは滑らかだ。
  一体、これは何なのか。
  判然とせず首を傾げる。
  ──ダメだ。もう限界だ。

〇水たまり
  息苦しさに堪りかねて、とうとう水面に顔を出した。
  肩で大きく息をして、荒い呼吸を整える。先ほどからロクに息継ぎをしていなかった。
  次いで、顔に張りついた不快な物体を引き剥がす。
  その正体はなんと、どこかで見覚えのある──濃紺色のビキニだった。
  そして信じがたいことに、夏希の胸元に本来あるはずのそれがなく、
  なぜか俺の左手は、夏希の豊満な乳房にそっと添えられており──
夏希(なつき)「いつまでアタシの胸揉んどんのじゃボケーッ!!」
泳人(えいと)「ぶふぉぉッ!!」
  繰り出された鉄拳が、有無を言わさず俺の顔面にクリティカルヒット。
  半ば薄れゆく意識の中で、ようやく状況を理解した。
  あの時、夏希がプールから上がってこようとしなかったのは、
  ヒモがほどけて水に流され紛失したビキニを、血眼になって捜索していたからだったのか──と‥‥。

〇白い校舎
  ──その翌日。

〇フェンスに囲われた屋上
  テスト本番を目前に控えた──休み時間。

〇学園内のベンチ
  プールへと向かう道中、俺は夏希をひたすら拝み倒そうとしていた。
泳人(えいと)「──頼む、一生のお願いだ!」
泳人(えいと)「折り返し地点で、ポロリした状態で待機しててくれ!」
泳人(えいと)「そしたら俺、今日のテストにパスできそうな気がするんだ!!」
夏希(なつき)「‥‥ハァ?」
  眉間に深いシワを寄せ、露骨に顔をしかめる夏希。
  ‥‥何やら嫌な予感がする。
  慌てて両手を振り、弁解を試みる。
泳人(えいと)「待て夏希! 一旦落ち着こう!」
泳人(えいと)「話せば分かるってぐふぉッ!!」
  強烈なビンタが、否応なく俺の右頬に炸裂。
  夏希は顔を真っ赤にさせて、怒りにわなわなと震えつつ、俺を涙目で睨み付けて一喝した。
夏希(なつき)「──この、ド変態野郎がぁぁッ!!」

〇空
  喧しいセミの大合唱にも負けない罵声が、抜けるような夏空に響き渡った。

〇学校のプール
  結局その日、俺は50mを泳ぎ切ることができず、無念にも試験に落第。
  と同時に、体育の補習も決定し──

〇学校のプール
  地獄のスパルタ合宿行きが、確定となったのだった。

コメント

  • 楽しく読ませていただきました。
    心配してプールに飛び込んだのに、なぜかラッキースケベになってしまったのおもしろかったです。笑
    それで泳げるようになったのかな?と思いましたが、そう甘くはなかったようですね。

  • エイト君のダメンズ感がすごく可愛くて、面白かったです。笑
    きっとなつきちゃんもこんな幼馴染放っておけないですよね。
    補習がんばれ!

  • (笑)エイト頑張れ!!と応援しながら読ませて頂きました。水泳って一度、できないとか水が怖いとおもうとできないものなんですよね。ストーリーが楽しかったです。

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