エピソード1(脚本)
〇オフィスのフロア
彼の名前はツクヨミ。
ゲーム制作会社に勤める30歳。
『若き天才現る』と書かれるほど、ゲーム作りの才能を発揮する
一週間前に配信された最新のゲームも好評の模様で、調子に乗った彼は最近仕事がさぼりがちになっていた。
押野「すみません、 ツクヨミさんに来客が来ているみたいですよ」
ツクヨミ「あぁ、 新しいキャラクターデザインの人ね。 会議室に通しておいてください」
ツクヨミ「さて、今日も適当に客人に会って、 早めに帰りますかねぇ」
〇綺麗な会議室
ツクヨミ「いやぁ、どうもお待たせしました」
ツクヨミ「それでどんなキャラデザインを・・」
淡雪「あなたは神様を信じますか?」
ツクヨミ「は?」
淡雪「信じますよね 実家が神社なのですから」
ツクヨミ「・・・・・ まず名刺を出すのが礼儀じゃないですか」
淡雪「すみません、 名刺や名前といったものは 持っていないんです」
淡雪「私に名前をつけるとしたら、 あなたの好きなイチゴの品種の名前をいただいて『淡雪』でどうでしょう」
ツクヨミ「・・デザイナーではないようですね。 気持ち悪いから帰っていただけますか」
淡雪はそっと一枚の紙を
テーブルに置いた。
淡雪「神様からお預かりしたものです」
ツクヨミは首を伸ばして
紙を覗き込むとそこには
短い文章が殴り書きで書かれていた
『もう安受神社には戻りません
探さないでください
神』
ツクヨミ「・・こ、これは?」
淡雪「これは神様からの三行半です。 安受(やすうけ)神社から神様がいなくなったことで、みなさんの運命が変わる予定になりました」
ツクヨミ「いや、ないないない。 神様すらいないと思ってるのに、 神様が家出なんて、 あるわけないでしょ」
淡雪「家出ではなく、 神社に帰ってないということです」
淡雪「一年に一回、すべての神様は 出雲大社に出向することになっているのですが、」
淡雪「年に5人から10人ほど 神様が地元に帰らないんですよ」
淡雪「その理由のほとんどが 地元の神社に参拝客が来なくなったのが原因で、叶える力はあるのに叶えられないジレンマがあるんでしょう」
淡雪「安受神社の神様も 今は楽しそうに出雲大社で 参拝客の願いを叶えていますよ」
ツクヨミ「ハハ、 そういう作り話、好きですよ 次の新作ゲームに採用させてもらいます」
ツクヨミ「それに、 本当にそうだとしたら安受神社には弟のタケハがいる。 言うことがあるなら跡を継いでいるタケハに言ってください」
淡雪「タケハさんにも話しました。 せっかく代々守ってきた神様をお父様も大事にされてきて、」
淡雪「そのお父様の意思を継がないんですか? とお話したんですが、 まったく聞き入れてもらえなくて・・」
〇黒
タケハ「シクシク・・・ なんで父さんはヒルコ姉ちゃんを連れて 行ってしまったんだよ」
タケハ「父さんが一人で死ねば良かったんだ・・・ シクシク」
〇綺麗な会議室
ツクヨミ「・・・不幸な事故で 父と妹が亡くなりまして・・」
ツクヨミ「三年ほど経っていますが 二人を一緒に失ってしまったことで まだショックを受けているんでしょう」
淡雪「そうですか・・。 でもゆっくりタケハさんを説得する時間はないのです」
淡雪「あなたの運命は大きく動き出しています」
ツクヨミ「???」
淡雪「あなたの作った新作ゲームが 盗作だと訴えられます。 結果、あなたがすべての責任を取る形で 会社から追い出されます」
淡雪「数年後裁判には勝訴し、盗作ではなかったと認められますが、一度貼られたレッテルは根強く、あなたはどの会社から爪はじきにされ」
淡雪「ゲームを作る機会をすっかり失います。 ・・・そこからの未来はまだ決まっていません」
〇オフィスのフロア
神崎「部長~」
部長「どうした、そんな大きな声をだして」
神崎「今、電話がありまして、 ツクヨミさんが作った新作ゲーム『ツントッピー』が盗作だと訴えられそうなんですけど・・・」
部長「なんだとー つ、ツクヨミはどこに行った」
神崎「さっきから探しているんですが 見つからなくて・・」
部長「くそっ、 また帰りやがったな」
部長「いいか。 もし、盗作だったとしたら すべて、ツクヨミ一人がやったことにする」
部長「・・いいな。 みんな、盗作で訴えられたら、 全部ツクヨミのせいにするんだぞ」
神崎「は、はぁ」
〇綺麗な会議室
淡雪「・・・なんか、聞こえましたね」
ツクヨミ「・・・マジか・・ ・・・ちなみに、 どうすれば運命は元に戻るんですか?」
淡雪「安受神社に来る参拝客の 願いを叶えれば大丈夫です」
淡雪「願いを叶えて参拝客が増えれば、 出雲大社側も神様に地元に帰るように 促すことができます」
淡雪「神様が無事に帰れば、 運命は元に戻ります。 ある程度変わってしまった運命は 出雲大社の社長が、戻してくれるそうです」
ツクヨミ「いやぁ、 参拝客の願いを叶えるっていっても 俺は神様じゃないし、 叶えられないよ」
淡雪「大丈夫です。 一般の人でも叶えられる願いしか 選ばれないはずです。 それに・・」
淡雪「ツクヨミさんを手伝ってくれる人がいます」
ツクヨミ「そんな人いるの?」
コマ「私です」
ツクヨミ「うわっ、びっくりした」
男は燻された煙が地面から立ち上るように、
足元から姿を現したかと思ったら、
一瞬で全身の姿を見せた。
ツクヨミ「おまえ、だれ?」
コマ「はじめまして、コマと申します」
淡雪「こちらのコマさんは、 安受神社の狛犬として、 神様がいなくなったあとでも 神社を守っている存在です」
淡雪「彼には瞬間的に離れた場所に 移動できる能力があるようなんです。 私もこの会社まで連れてきてもらいました」
コマ「ツクヨミ様、このままでは 三百年余り、代々続いた神社が なくなるかもしれないのです」
コマ「弟のタケハ様は 神社のことは何も手につかず 荒れ放題です」
コマ「長兄である あなたに任命責任があると思いまして、 白羽の矢を立てました」
ツクヨミ「い、いや、 急にいろいろ言われても・・」
コマ「ツクヨミ様が小学生時代に 狛犬の土台部分に、五回ほど、 小便をかけたことは・・」
ツクヨミ「な、なんでそれを」
コマ「しっかり天罰として残っていますが、 この際、 水に流すように神様に頼んでおきましょう」
コマ「なので、助けてください。 今、神社を立て直せるのは ツクヨミ様しかございません」
ツクヨミ「でも、このイケメンが狛犬と名乗っても 説得力がないんだよなぁ」
淡雪「まあ、信じられないことも あると思いますが、 このあとも信じられないことが続くと思いますので、」
淡雪「今回は受け入れてもらうしか・・・」
淡雪「ではまず神社に行ってみましょう」
淡雪「一人、参拝者の願いを叶えれば これからの流れはわかると思います」
ツクヨミ「勝手に話を進めるなよ」
コマ「私も一度神社に来てほしいと思っています。 今の神社の荒れ果てた現状を 見ていただきたい」
ツクヨミ「おい、 俺の意思はどこにあるんだよ」
コマ「では、瞬間移動しますので、 乗ってください」
ツクヨミ「乗るって・・・」
コマは
全長三メートルほどの大きな獣に姿を変えた。
全身を包む黒い毛並みは動くたびに所々、銀色に光り、その瞳はどこまでも深く、底が見えない沼の表面のように妖しく光っていた。
ツクヨミ「うわっ、な、な、 なんだこれは」
淡雪「さあ、早く乗りましょう 私もさっき乗ってみましたが、 そんなに乗り心地は悪くないですよ」
ツクヨミ「無理だよ。 めっちゃ怖いよ。 ほら、この目とか、いつでも襲い掛かってきてもおかしくない」
コマ「グルルルル」
淡雪「あ、怒ってるみたいですよ」
ツクヨミ「・・わ、わかったよ 乗るよ乗るよ。 だから噛むなよ」
恐る恐る、身体に触れると、
黒い毛並みは思ったよりフワフワと柔らかく、
その温もりは彼の優しさを表すような温かさだった
淡雪「では、神様を取り戻すために 願いを叶えに行きましょう」
ツクヨミ「いや、弟を説得するために行くんだよ。 俺が言えば聞いてくれるはずだから」
淡雪「どちらでも構いません。 私は、神様が地元に戻ってくれれば、 上司から文句を言われませんから」
淡雪「それでは、 神社まで行きましょう。 コマさん、よろしくお願いします」
ツクヨミの会社でざわつき始めた時から、すごくドラマチックな展開でワクワクしました。コマイヌをこれほどのイケメンにしてしまったのも斬新でした!
神秘的なお話かと思ったら、出雲大社が会社組織で社長が存在して淡雪が従業員みたいな設定に度肝を抜かれました。各地にある神社は支社で、経営の思わしくない支社に三行半を突き付けた支社長が本社に戻っちゃった、という状況なのかな?。犬の姿になったコマに乗って瞬間移動してみたいなあ。