法事の前日になると亡き母が私を金縛る(脚本)
〇古い畳部屋
「ん?目が覚めたのに身体が動かない?」
「あっ、枕元に誰かの姿・・・ もしかして・・・」
「金縛り!?」
〇古い畳部屋
ヨシコ「おはようショウコ」
ショウコ「ああ、そうか明日は七回忌だものね」
ヨシコ「まさか忘れてた訳じゃないね?」
ショウコ「もう準備は済んでるよ」
ショウコ「それより人を起こすために、金縛りに掛けるの辞めてもらえる?」
ヨシコ「仕方ないじゃない、これしかあんたを起こす方法が無いんだから」
そう、私の亡き母は法事の前日になると準備の確認をするために、私を金縛りで起こすのだ。
〇実家の居間
ショウコ「死んでもお母さんは心配症ね」
ヨシコ「母親ってのはいつでも子供が心配なモノなのよ」
ショウコ「死んでもお母さんは母親のままってことね」
ヨシコ「そうよ それであんた最近は元気にしてるの?」
ヨシコ「あんた昔から身体が弱くて、よく風邪ひいてたから・・・」
ショウコ「それなら大丈夫よ 一家みんな大きな病気も無く健康に過ごしてるわ」
ショウコ「むしろコウシなんて元気過ぎて困ってるくらい」
ヨシコ「何言ってるの、子供は元気が一番じゃないの」
ショウコ「うん、そうなんだけどね・・・」
ヨシコ「どうかしたの? 何かあるなら話してみなさい」
ショウコ「実は・・・」
〇大きな木のある校舎
ショウコ「コウシは自分の好きなモノに夢中になると 他のことに目が向かなくなるとこがあるの」
ショウコ「小さい頃はそれでいいと思ってたけど」
ショウコ「学校では忘れ物が多かったり、先生の言う事を聞けなかったりするみたいなの」
ショウコ「それでこの前の保護者面談で・・・」
〇教室
教師「お母さん、なんでこんな簡単なことがコウシ君にできないんですか?」
教師「他の子はみんな出来ているんですよ!!」
ショウコ「すみません・・・」
教師「みんなと同じことが出来ないなら、特別学級に移った方がコウシ君のためかもしれませんよ」
ショウコ「そ、それは・・・」
〇実家の居間
ヨシコ「それであんたはその先生になんて言ったんだい?」
ショウコ「え?」
ショウコ「謝ってからちゃんと言いつけるので、クラスはそのままにって・・・」
ヨシコ「じゃあコウシにはなんて言ったんだい?」
ショウコ「みんながやってることくらい出来るようになりなさいって」
ヨシコ「バカモノ!!!!!!」
ヨシコ「あんたがコウシの味方になってやらなくてどうする」
ヨシコ「あの子は同じことを先生にも言われてるんだろ?」
ヨシコ「なのにあんたまであの子を叱ったら、誰があの子の味方になるんだい」
ヨシコ「もちろん人として間違っていることをしたら、親は子供を叱らないといけない」
ヨシコ「でもコウシは人として間違ったことをしたのかい?」
ヨシコ「わざと忘れ物や先生の言う事を破ってるのかい?」
ヨシコ「それは親のあんたが一番分かってあげられるはずだよ」
ヨシコ「どうなんだい?」
ショウコ「コウシは人の気持ちを考えられる優しい子よ だからそんなことは絶対ないわ」
ヨシコ「ならあんたはあの子を信じて見守ってあげなさい」
ヨシコ「親がどんなに頑張ったって、結局は子供自身の問題でどうにもならないことはある」
ヨシコ「でも親が子供を信じなければ出来ることも出来なくなる」
ショウコ「お母さん・・・」
ショウコ「そうよねありがとう 私、これからはちゃんとコウシを信じるわ」
ヨシコ「そうしなさい」
ヨシコ「それとそういうことで悩んだらちゃんと旦那さんとも話すのよ」
ヨシコ「あの人は鈍感だけど、あなたが困っていれば必ず助けてくれるはずよ」
ヨシコ「覚えてる?あなたが貧血で倒れた時、あの人大事な会議すっぽかして病院に飛んできて・・・」
ヨシコ「だからコウシに味方がいるように、あなたにも味方がいることを覚えておきなさい」
ヨシコ「特に私はどんなことがあってもあなたの味方よ」
ヨシコ「お母さんはどんな時でも子供の味方なのを忘れないでね」
ショウコ「分かった もう私、大丈夫!」
ヨシコ「そう、じゃあ私はそろそろ帰るわね 次は十三回忌で6年後かしら」
ヨシコ「身体には気を付けて過ごすのよ あと何かあったらすぐ誰かに相談すること」
ヨシコ「それから・・・」
ショウコ「もう大丈夫だって、本当に心配症なんだから」
ヨシコ「母親はそういうものなの それじゃあね」
〇実家の居間
ショウコ「それじゃあ朝ごはんの用意しましょうか コウシの好きな卵焼き作るわよ!」
私の亡き母は法事の前日になると準備の確認をするために、私を金縛りで起こすのだ。
だけど本当は、法事より私のことを心配して現れてくれているんじゃないかと思うのでした。
とても素敵なお話でした。私は幼い頃、父親を事故で亡くして夢でもいいから会いたいとずっと思っていますが、なかなか実現しません。こんな風に父が現れてくれたら・・と読みながら、その願望がつのりました。親の愛って、本当に素晴らしいです。
自分の身内でもお化けなら怖いなと思いましたが、最後まで読み、親子の血縁関係って強いものだなと考えさせられました。親はいくつになっても子どもが心配なんですよね、素敵です。
母の愛を感じる温かい気持ちになれる良作でした。世の中は優しさで溢れている。私たちは、私たちのまわりに味方がいると感じるだけで、他の人にも優しくなれる、共感しました。なにより彼女にとってのいちばんの味方は、お母さんでしょう。お母さんのことを思いだすだけで、本当は法事の前日だけじゃなくて、いつでも会えるんじゃないかな。