花妖精の共生官

唐草 紺

エピソード1(脚本)

花妖精の共生官

唐草 紺

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花妖精の共生官
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〇霧の立ち込める森
???「お腹が空いた・・・ もう何日もまともに食べてない」
???「何とか人の居る集落を見つけないと」
ツユおばあさま「おやおや、お客様かい」
ツユおばあさま「人間がここにたどり着くのは、 何十年ぶりだろうね」
ツユおばあさま「気の毒だが、 村も今はそれほど余裕がない」
ツユおばあさま「わずかだが食料を渡そう。 それを持ってここから立ち去りなさい」
???「あ、の・・・ あ──」
  とうに枯れた喉を震わせ、
  どうにか声を絞り出す。
???「あ──」
???「食料をいただけるのは大変ありがたいのですが、次の集落を探していたら絶命間違いなし。こう見えて私十にもならない子供なんです」
???「心、痛みませんか?痛みますよね!?人類も絶滅しかけのこの御時世にそんなこと言っている場合でないのは重々承知の上なのですが」
???「助けて!!」
ツユおばあさま「この様子なら食料もなくて大丈夫そうだけど」
???「いや、嘘、嘘です。 全然口なんかまわってないです。これっぽっちも」
???「食料!! どうか食料だけでもお慈悲を!!」
ツユおばあさま「変わった子供だこと」
ツユおばあさま「これもお導きかねえ」
ツユおばあさま「その達者な口に免じて助けましょう。 ついてきなさい」

〇古いアパートの居間
ハル「昨日、おばあさまと 出会ったころの夢を見ましたよ」
ツユおばあさま「あれから五年か」
ハル「今でも思い浮かびますね」
ハル「村長を口八丁で丸め込んだ、 おばあさまの姿」
  あのとき私は悟りました。
  この人も大概口がまわると
アキ父さま「おはよう、ハル」
フユ「おはよ、姉さん」
ナツ母さま「今日は朝からお祝いよ。 貴方がうちに来た日だものね」
  私を拾ってくれたおばあさまと
  その家族には、
  大事なお役目があります
ナツ母さま「あら、リンゴが一つ足りないわ」
ナツ母さま「『盟約に従い、赤き果実を実らせ給え』」
ナツ母さま「これで準備は万端ね」
  植物と人が手を取って暮らす
  このサンクチュアリで
  間を取り持つ
  共生官という仕事
  一族には血の紋章と呼ばれる
  植物を従わせる力があります
ナツ母さま「それじゃあお祝いを 始めましょうか」
  いずれ共生官になる
  弟のフユを支えていくのが、私の夢です
アキ父さま「さて、そろそろお開きかな」
ツユおばあさま「ああ、最後にちょっと良いかい」
ツユおばあさま「大きくなったね、ハル」
ハル「はい、おばあさま」
ツユおばあさま「もう大人の仲間入りだねえ」
ハル「はい、おばあさま」
ツユおばあさま「じゃあ、今日からお前を 次の共生官に任命するから、頑張るんだよ」
ハル「はい、おばあさ・・・ 今何とおっしゃいましたか?」
ハル「私は一族の生まれではないので 血の紋章は使えません」
ハル「それに、次の共生官なら フユが居るではないですか」
ツユおばあさま「あたしもいいかげん腰が痛いのさ。 引退させておくれよ」
ハル「でも、フユが・・・フユがどう思うか」
ツユおばあさま「・・・」
ハル「あ・・・」
ツユおばあさま「次期共生官は先代が決める。 これが決まりだよ」
ツユおばあさま「サクラさまに会わせよう。 ついてきなさい」

〇森の中の小屋
ハル「フユ・・・」
  無口な子だから何も言いませんが、
  気にしていないはずがありません
ツユおばあさま「さあ、着いた」
ツユおばあさま「サクラさまも代替わりされたばかりだ。 新人同士、仲良くおやりなさい」
サクラさま「もう、ツユったら 何で新人ってばらしちゃうのよ」
  手のひらほどの大きさの、
  妖精が降りてきました
サクラさま「はじめまして、人間の子」
サクラさま「あたしが植物側の共生官、”サクラさま”よ」
サクラさま「私達はホロ・フェアリー・・・植物の言葉である香りを、人間に分かる形にしたもの・・・なんだけど」
サクラさま「貴方には難しいわね、人間。 まあ、植物の妖精だと思っておきなさい」
ハル「今馬鹿にしたでしょ!!」
  そう、ここでは
  人間と植物が文字通り”手を取り合って”
  暮らしてきたのです。
ツユおばあさま「あんたたち、うまくやれそうだね。 後はまかせたよ」
ハル「まかせたって言われても・・・」
サクラさま「困り事の依頼があったら、 それを解決すれば良いのよ」
サクラさま「噂をすれば、来たみたいよ」
依頼人「ツユばあさんかナツさんは居るかい?」
ハル「あの、今日は私が・・・」
依頼人「誰でも良いか。聞いてくれ ホロ・フェアリーに襲われたんだ!!」
サクラさま「襲われたって・・・」
依頼人「あいつ、スズメバチを連れてきたんだ!!」
ハル「確かに危険ですね。 何か心当たりは?」
依頼人「あるわけないだろう!!」
ハル「そのホロ・フェアリーの見た目は?」
依頼人「髪はオレンジで、 比較的大きかったな」
依頼人「とにかく、 後は頼んだぞ!!」
ハル「・・・とりあえず、辺りを探してみようか 手伝ってくれる?」
サクラさま「嫌。協力してほしいなら、 血の紋章で命令すれば?」
ハル「私、血の紋章は使えない」
ハル「拾われっ子だから、 一族の血を引いていなくて」
サクラさま「ふうん。 ツユはそれでも貴方を選んだんだ」
サクラさま「良いわ。 今回は協力してあげる」
サクラさま「行くよ!!」

〇霧の立ち込める森
ハル「探すって言っても、 どうすれば・・・」
サクラさま「あ、居た!!」
???「──」
ハル「行っちゃった」
サクラさま「でも、姿は分かったね 次は植物本体を探しましょう」
サクラさま「本体を見つけないと、 また逃げられちゃうからね」
ハル「サクラさまより、ずっと大きかったね 本体は巨木とか?」
サクラさま「まだまだね」
サクラさま「私達には、 元となる植物の特徴があらわれる」
サクラさま「だから草にしては大きい、といった植物でも 大きい子は居る」
ハル「じゃあ、 これだけだと分からないね」
ハル「家で資料を調べてみようか」

〇古いアパートの居間
ハル「これなんだけど」
ハル「元の資料は五十年前に焼失していて 記憶を元に書き出したものなの」
ハル「文章は問題ないんだけど、 絵が・・・」
サクラさま「壊滅的ね」
サクラさま「これじゃ姿から特定するのは 無理じゃない」
ハル「うちの一族、皆こうなんだよね」
サクラさま「人間側共生官の一族として しっかりしてほしいわ、あんたたち」
ハル「面目ない」
サクラさま「うーん 蜂、オレンジ、大きい・・・」
サクラさま「あ!!」
  コンコン
依頼人「さっきの話なんだけど」
ハル「今調べてます。 もう少し・・・」
依頼人「いや、もう良いよ」
「え?」
依頼人「すぐ解決すると思って頼んだんだけど 大変そうだからさ」
依頼人「自分たちでどうにかすることにしたよ」
ハル「どうにかって──」

〇霧の立ち込める森
ハル「ひどい」
ハル「サンクチュアリの外とは違って、 言葉が通じるんですよ!!」
ハル「それに、心当たりはないって 言ってたじゃないですか」
サクラさま「だから、対応したのがハルでも 良かったんでしょう」
サクラさま「ツユに知られたら、 何を言われるか分からないものねえ」
依頼人「あの草、邪魔だったから 適当なところに移したんだ」
依頼人「そしたら付きまとわれるようになって・・・」
依頼人「でも、あっちだって スズメバチで脅してきたじゃないか!!」
サクラさま「虫を引き寄せるのは彼女の特徴。 悪意があったわけではない」
サクラさま「彼女の名前は、ヤブガラシ」

〇霧の立ち込める森
ハル「雨・・・」
ハル「火が消えていく」
ハル「・・・ぜん」
「ん?」
ハル「偶然雨が降ったから良かったものの どうするつもりだったんですか信じられな──」
  樹齢百年のサクラさまに
  『あんなすごいお小言は初めてだった』と
  言わしめる、長いお説教が続きました。

〇森の中の小屋
サクラさま「人間よ。 今後、彼女に明るい場所を提供し、 危害を加えないと約束しますか?」
依頼人「はい・・・」
ハル「ではヤブガラシさん」
ハル「居場所と引き換えに 新芽や若葉を食料として提供すること」
ハル「人が休むための日陰を作ることを 約束してください」

〇霧の立ち込める森
依頼人「納得いかねえ」
依頼人「ババアより利用しやすいと思ったのにな」
依頼人「これならいっそ、 引きずり下ろした方が・・・」
フユ「知ってる?」
フユ「木々って大気中の水分を操って 天候を変えるんだ」
依頼人「ひっ」
依頼人「そ、そうだ お前も共生官になれなくて残念だったな」
依頼人「俺が村長に口利きしてやろう。 なんなら・・・」
依頼人「ひいっ」
フユ「どうでもいい」
フユ「姉さんが共生官になるのは、 ここに来たときから決まっていたこと」
フユ「俺は守護者として 姉さんの弟として」
フユ「危害を加える者を、決して許さない」
依頼人「うわあああ」
フユ「逃げたか」
フユ「今日は喋りすぎたな」

〇森の中の小屋
サクラさま「悪くない調停だった」
ハル「ありがとう」
ハル「でもフユなら もっと早く解決できたのかな」
ハル「私が居るせいで、 色んなことが悪い方に転がっていくみたいで」
サクラさま「ヤブガラシは虫たちの楽園。 蜜を与え糧を生み出す、優しい植物」
サクラさま「その反面、あまりに生い茂るせいで 足元の草を枯らしてしまう」
サクラさま「ヤブガラシの名前の通りにね」
サクラさま「でも、彼女の優しい心根に変わりはない」
サクラさま「そうでしょう?」
ハル「そうだね。サクラさま」

〇古いアパートの居間
フユ「おかえり、姉さん」
ハル「あ、あのね」
ハル「私──頑張るから」
フユ「ん、いいんじゃない」
サクラさま「ふうん。悪くない部屋ね」
ハル「サクラさま!?」
サクラさま「あら、ツユから聞いてなかった?」
サクラさま「新米の共生官は しばらくの間、生活を共にするのよ」
サクラさま「よろしくね、『ハル』!!」
  こうして、
  私にもう一人の家族が増えました
  我が家はこれからますます、
  にぎやかになりそうです

コメント

  • 実はほんとにありそうな設定で面白かったです。ハル、サクラさま、フユの3人がちょうどいい関係でそれぞれが納得して活躍できそうでいいなぁと思いました。

  • 共生官という言葉やアイデア、素敵ですね。妖精を通じて、言葉を持たない植物にもいろんな事情や言い分があることを考えさせられます。ハルとフユ、ハルとサクラの関係もうまくいきそうでよかった。

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