読切(脚本)
〇ダイニング
三日続けてもやし炒めともやしのサラダが出てきた・・・・・・。
市役所で働く公務員の奈南子お姉ちゃんがもやしだけじゃと言うことで、もやし入り湯豆腐を作ってくれた。
鈴木奈南子「どう、奈夕、ポン酢もあるのよ」
おっとりとした口調でポン酢を片手に持って笑っている。我が家には両親がいない。なのでこんなに貧乏なのだ。
両親はわたしたちを産んでどこかへ行ってしまった。だから、わたしとお姉ちゃんはおじいちゃんとおばあちゃんに育てられた。
親ガチャのハズレどころかそもそも親がいない。
家計を助けるため、奈南子お姉ちゃんは頭が良かったから、高校を卒業した後は市役所で働き始めた。
鈴木奈夕「もう嫌だ! こんな生活! わたしもクラスのみんなみたいに普通の家庭に育って、たまにはお寿司やケーキを食べたいよ!」
わたしは自分でも子供じみたわがままだとわかっていたけど止められなかった。だって、ずっと我慢してきたんだもの。
鈴木奈南子「そうよね。育ち盛りだもの。ねえ、奈夕。家族ガチャって知ってる?」
鈴木奈夕「大金持ちとかが親だと当たりっていうやつ?」
鈴木奈南子「それは親ガチャでしょ。わたしがいっているのは家族ガチャ。家族がほしい人たちが家族のいない子供をもらう」
鈴木奈南子「家族をつくるガチャの仕組みが富士が丘市にはあるのよ」
鈴木奈南子「奈夕がお金持ちのお父さんお母さんに生まれたかったら家族ガチャをする方法もあるんだよ」
鈴木奈南子「ただし、ガチャだから誰が親になるかはわからないわ」
当たればすごく優しい両親かもしれないけど、ハズレたらいないより悲惨なのだろうか?
鈴木奈夕「ガチャしたら、お姉ちゃんとは会えなくなったりするの?」
鈴木奈南子「そうね。しばらく会えないかもしれないわ・・・・・・」
仮の親とはいえ他人と暮らすのはなんとなく抵抗があったし、何より大好きなお姉ちゃんと別れるのは絶対に嫌だった。
鈴木奈夕「家族ガチャはしないよ・・・・・・お姉ちゃんやおじいちゃん、おばあちゃんといる方が幸せだもん」
そう言って、わたしは箸でもやし炒めをつまんだ。
だが、問題が起こったのは次の日の学校だった。
〇教室
香澄先生「いいですか? 来週には授業参観がありますから、お父さんやお母さんにプリントをちゃんと渡してくださいね?」
香澄先生がプリントを配っていく。前の席の男子が一番後ろの目立たない席に座るわたしにプリントを渡す時にこう言ったのだ。
男子小学生「奈夕は親がいないからもらってもしょうがねぇだろ」
ひどい!
怒りとぶつけようのない悲しみで心が押しつぶされそうだった。先生は気がついていないのか何も言ってくれない。
周りの席の子も気づいていないのか、気づいていて無視しているのか味方になってくれる子もいない。
もともと友達なんてこのクラスにはいないから嫌がらせをされてもどうでもいいけど・・・・・・
せっかく給食でケーキとお寿司が出たのに、気分はサイアクだ・・・・・・。
鈴木奈夕「いるよ! わたしにも親!」
男子小学生「へぇ、なら呼んでみろよ」
女子小学生「奈夕ちゃんがかわいそうじゃない。男子はデリカシーがないんだから」
そういう隣の席の女子もくすくすと笑っている。悔しい。見返してやりたい。
わたしはそんな気持ちで学校から帰る途中にある富士が丘市役所に気がつくと入っていた。
〇オフィスのフロア
出来たばかりだから真っ白で綺麗な建物だ。
鳥山優一「あれ、奈南子さんの妹じゃないか。お姉さんを呼びに来たのかい?」
小さな町だから市役所のお兄さんとも顔馴染みたいなものだ。
鈴木奈夕「違います! 家族ガチャをやりにきました!」
鳥山優一「えええっ!? あれかい? 家族ガチャをするとどんな相手が家族になるかわからないよ。お姉さんとも別々に暮らすことになるし」
鈴木奈夕「いいの! お姉ちゃんのことは優一さんに任せたから!」
鳥山優一「えっ!?」
同じ市役所に勤める優一さんはお姉ちゃんと仲が良くて、たまにデート?しているのを知っているんだから。
鳥山優一「で、でも、大切な家族のことだから慎重にね・・・・・・」
鈴木奈南子「いいのよ、優一さん。それじゃあ、奈夕、このパソコンのタッチパネルを操作してみて」
わたしたちが騒がしかったからなのか、市役所の奥からお姉ちゃんがノートパソコンをもってやってきた。
鈴木奈南子「両親がいない寂しさはわかるわ。わたしは奈夕の意見を尊重する」
鈴木奈夕「う、うん・・・・・・」
いざガチャを引くとなると冷たい汗が背中をつたってきた。心臓が耳元にあるかのようにドクンドクンと音が聞こえる。
鈴木奈夕「引くよ!」
OKのパネルをタッチすると父親と母親それにお兄ちゃんの3人の名前が表示された。名前の横にはSSRの文字。
こ、これでわたしにも家族ができたんだ。なんか現実感がなかった。父親の名前は大滝翔。超有名なスポーツ選手と同姓同名だ。
ガチャを引くと急に外が騒がしくなった。
アナウンサー「サッカーと野球の二刀流で活躍される大滝翔選手が今日、ある女性と入籍したそうです!」
TV局のレポーターが何人も市役所の中に入ってくる。
記者「な、なんと! チャンネル登録者数1億人のスーパーYouTuberヒカリンが結婚するそうです!」
また別のTV局のレポーターがやってきて市役所は大混乱だ。
大滝聡「騒がしいね、こっちへおいで・・・・・・ナユ」
初対面のイケメンだ。中学生くらいだろうか。
大滝聡「僕はナユのお兄さんになる聡。一応、歌い手をやってるんだよ」
こ、この声って、人気アニメの映画ワンビーズに出演した歌手じゃない!?
確かに家族ガチャSSR!
大滝聡「きみ、家族ガチャが当たったって思っているでしょ?」
鈴木奈夕「え? だって、くじ引きじゃないの?」
大滝聡「うーん、確かにそうだけど、実は・・・・・・」
大滝翔「おい、息子になる聡! その話は奈夕にするな!」
なになに? 一体どういうこと?
鈴木奈夕あらため大滝奈夕。彼女は実は超能力者だ。確率を超越して、なんでも思い通りにすることができる能力者。
そのあまりの超能力の強さから政府から要監視対象に選ばれていた。そのことを本人だけが知らない。
ヒカリン(大滝光)「まったく、これから家族になるんだからみんなで仲良くやりましょうね〜ナユちゃん!」
なんでも思い通りになるという便利な反面、ふとした拍子に厄介なことにもなる。親なんていなくなればいいのに・・・・・・
そう思った瞬間に奈夕の両親は消滅したのだった。SSRの家族は奈夕の消滅を避けることができるのだろうか?
新しい家族の物語がはじまる・・・・・・。
市役所で家族ガチャという発想もすごいですが、SSRを引き当てた奈夕が超能力者だったなんて、ラストのラストで驚愕の展開に!超能力で両親を消滅させて新たなスーパー両親を手に入れるなんて、なんという皮肉。全てが思い通りにできる能力はやはり諸刃の剣なんですね。
ナユ‥パラメータを、容姿に全振りしたのではないかと思う位に愛らしいですね❤️新しい家族と末永くお幸せに‥❤️😭
家族ガチャ……、希望する人もたくさんいるでしょうが、それまで精いっぱいの愛情を注いでくれた家族と縁が切れることになると思うと、複雑ですね。。。家族やその繋がりを再確認させてくれるステキな作品ですね