2人を焼いた毒 2人が叶えた願い(脚本)
〇神社の本殿
誰もいない郊外の神社に連れて行ってもらったのを覚えてる。俺が初めて里親の両親と出かけた場所だ
なんで神社に連れられたのかは覚えていないが、なんかその神社は自分で描いた絵馬を永遠に飾ってくれるとこだった気がする
当時から絵を描くのが好きだった俺はたぶん大喜びで描いてただろうな。何を描いてたかなんてもう覚えてないな・・・
何せもう20年も前の話だ・・・
〇漫画家の仕事部屋
リンヤ「おいおい!締切間に合わねーぞ!」
リンヤ「この26年かけて手に入れた連載枠だ!それを初手からやらかすわけにはいかねー! 背景出来たらすぐ送ってください!」
アシスタントさんたち「はい!!」
リンヤ(絶対失敗なんてしねー。これはアイツらに見せつけるチャンスなんだ)
〇綺麗な一戸建て
俺は20年前、とある夫婦の養子になった
お父さん「ほら、今日からここが君のお家だよ」
お母さん「ここじゃ遠慮しなくても大丈夫よ。好きに過ごしていいわ」
お父さん「そうだぞ。これからどんどん頼っていいからな」
リンヤ「うん!わかった!パパママありがとう」
お父さん「よし!じゃあ今日はリンヤの歓迎会でもやるか!」
お母さん「ふふっ、じゃあいろいろ準備しないとね。私はケーキでも焼くわね」
それから俺は不自由なく育てられた。高そうなレストランにも行かせてくれて、好きなゲームも買ってくれた。
子供を望んでもできなかった2人だ。俺には溜まっていたその分の愛情が注がれた。この頃は本当に毎日が楽しかった。
〇明るいリビング
でも俺の歳が10だった時に状況が一変した。妹が産まれたんだ。念願だった両親の実子だ。
お父さん「カリン〜ご飯だよ〜」
お母さん「はい。あ〜ん」
リンヤ「ママ、ご飯〜!」
お母さん「冷凍庫の1番下に冷凍食品があるわよ。それ食べててくれる?」
リンヤ「えっ・・・うん・・・」
その後もカリンは俺以上の愛情を注がれ、その分俺へは最初の頃のより随分と冷めていた。
そしてカリンは私立中学に入学が決まってその時も家族で盛大なパーティが行われた
「カリン!中学受験合格おめでとう!!」
カリン「ありがとう!パパ!ママ!」
リンヤ「カリン、おめでとう・・・」
この時から俺はどこか家族の外に置いてかれてる気がしてた
そして漫画家を目指すという夢を決めてからその気持ちは爆発した
〇明るいリビング
「もう決めたんだ」
お父さん「でも・・・漫画家なんてなれるのはほんの一握りだろ?」
リンヤ「だからその一握りになるって言ってんの!」
お母さん「でも・・・もっと他に安定した道もあるじゃない?そんなに急がなくても・・・」
リンヤ「なんだよ・・・カリンには俺に行かせてくれなかった私立行かせて大喜びだったくせして今度は俺の夢まで否定すんのかよ」
お父さん「父さんと母さんだって否定はしてないぞ。ただ他の道も」
リンヤ「もういいよ。家出てくわ」
お母さん「リンヤ、そんなに結論を急がなくても・・・第一お金はあるの?」
リンヤ「バイトで金はあるよ。そもそもこんな居心地悪い家じゃ漫画なんて描けねーよ」
〇シックな玄関
リンヤ「じゃあな」
〇漫画家の仕事部屋
リンヤ(だから絶対ここで売れてアイツらに見せつけてやるんだ!アイツらに蚊帳の外にされても俺は1人だけでやれるってことを!)
ブーブー
その時、俺のスマホが鳴った。画面を見ると非通知だった
リンヤ「もしもし・・・」
カリン「久しぶりお兄ちゃん・・・」
リンヤ「おうカリンか。久しぶりだな。ちょうど良かった。近いうちに実家に帰るって2人に伝えてといてくれ」
カリン「その・・・今ね・・・お母さんとお父さんが・・・事故で・・・亡くなったの・・・」
リンヤ「は?」
〇大きい病院の廊下
リンヤ「なんで死んじまうんだよ・・・」
カリン「お兄ちゃん・・・」
リンヤ「あぁカリン。デカくなったな」
リンヤ「葬式の費用は俺が出す。お前の学費も心配しなくていい」
カリン「でもお兄ちゃんそんなお金・・・」
リンヤ「実はな・・・漫画誌の連載が決まったんだ。今準備中なんだ。俺、絶対その漫画で成功させるから。自信あるんだ」
リンヤ「だから心配するな・・・本当ならあの2人に言って吠え面を見たかったけどな」
カリン「お母さんもお父さんもお兄ちゃんのこと心配してたんだよ」
リンヤ「心配してただけだろ。あの2人はたぶん俺を子供として見てくれてただろう。でも実の子供として見てくれてなかっただろ」
リンヤ「何せお前がいるからな。俺に何かするくらいならまずお前に何かしてからだ。心配はしても期待はしてくれなかった」
リンヤ「だから俺1人でも期待されなくても成功して見せつけたかった。俺はお前らが思ってるより凄い奴だって・・・でも先に逝っちまった」
カリン「・・・・・・・・・・・・・・・・・・お兄ちゃん」
リンヤ「なんだ?」
カリン「お父さんとお母さんにさ。神社、連れて行ってもらわなかった?」
リンヤ「あぁ、そういえば行ったな。あの時は3人だったけど、それからも4人で行ったことはなかったな」
カリン「私もお父さんとお母さんとで3人だった。それでね・・・その時書いた2人の絵馬を見に行かないかな・・・?」
リンヤ「もう何年も前だろ?絵馬なんて残ってないだろ」
カリン「うんん。確かあそこは絵馬をずっと飾っておいてくれる場所だったはず。だから残ってるよ。ねっ、行ってみよ」
正直気は進まない。でもこのやるせない気分を変えてーし、その時の記憶が曖昧で思い出したいってのもあった。でもなにより・・・
これからカリンともコミュニケーションを取っていかないといけないからな。原稿は止めてもらってるし、小旅行気分で行ってみるか
〇古びた神社
リンヤ「なんだ。手入れしてないのか?10年くらいでこんな雑草まみれになるのか」
カリン「お兄ちゃん見て」
カリンの言う方を見てみると絵馬掛けに5つだけ絵馬が飾られていた。
カリン「ねぇ、見てみて」
リンヤ「お、おい。これは・・・!」
そこには過去に俺が描いていた今では比べものにならない汚い絵と〝大人になっても家族と仲良くなれますように〟と書かれていた
その横には〝リンヤが健康でいてくれますように〟と当時の2人の願いの絵馬もあった
リンヤ「父さん・・・母さん・・・!」
自然と涙が出てきた。それはさっきまでのやるせない気持ちからじゃなく、今更込み上げてきた2人への感謝に対してだった。
カリン「お兄ちゃん。こっちは私が来た時のやつだよ」
残りの三つの絵馬は俺が健康でいてくれたお礼の絵馬、カリンの願いの絵馬、そしてまた2人の願いの絵馬だ
リンヤが健康に育ってくれています。ここまで健康にしてくださりありがとうございます
家族でまたここに来れますように
カリンとリンヤがずっと仲良くしてくれますように
その三つの絵馬に願いと共に描かれた絵はどれもひどいものだった。でも、俺の涙がそれをさらにひどくさせる
リンヤ「くそっ・・・早ぇよ・・・」
カリン「ねぇ、一説には絵馬は願い事をしてその願い事のお礼をして完結するらしいよ」
カリン「お兄ちゃんと私の願いはもう叶わないけど2回目のお父さんとお母さんの願いは叶えられるでしょ。だから代わりに2人でお礼書こ?」
リンヤ「あぁ・・・していくか」
お父さんお母さん。お兄ちゃんのことなら任せて、ちょっと行動力強過ぎなとこあるけど2人の代わりに今度は私が見てるから。
父さん母さん。心配すんな。カリンの学費は俺が払うし、最後まで育てるから。今度は逃げないでちゃんと家族を見るよ
リンヤ「そうだ。これからの願いも書いてくか」
カリン「いいね!何をお願いするの?」
リンヤ「お前もう高校生だろ?だから・・・」
カリンの高校生活が上手くいきますように
カリン「じゃあ私は・・・」
お兄ちゃんの連載が人気になれますように
〇古びた神社
リンヤ「よし、またお礼の絵馬を描きにくるか」
カリン「うん!」
〇古びた神社
そこは願いと願いを架ける場所。願えばどこにでもその人だけに姿を現す。
かたみに願はば叶ふ喜び訪れむ
しかし願いはお礼を伴う。互いに願わねばそれは体を焼く毒となる
両親は亡くなってしまったけれど、「兄妹仲良くしてほしい」という絵馬に託された最後の願いは遺言となって二人を再び結びつけてくれたんですね。誤解や嫉妬で綻びかけていた家族の心の架け橋として絵馬を選んだ作者さんのセンスが素晴らしいです。
思っていたより少し重い話でびっくりしたけどめちゃくちゃ面白かったです!自分の願いはお礼により叶うが、お礼をしなければそれは厄災となるということから主人公が願いを忘れてしまったが故の両親の結果なのかという考察をすることができ、非常に良い作品だったと思います!機会があればぜひアフターストーリーなども読んでみたいです。これからも頑張ってください。