読切(脚本)
〇体育館の舞台
俺は終業式が嫌いだ。
各学期の総評が下されるその日は、成績が良くなければ態度も良くない俺にとって憂鬱な日だ。
特に終業式の親玉とも言える高校の卒業式は、俺を最も憂鬱にさせる。
こう言うと『成績を気にしなくてもよい卒業式は、むしろ唯一心安らぐ終業式ではないか』という反論が聞こえてきそうだが、
俺に言わせれば卒業式とは最も残酷な成績表が配られる日である。
その成績表とは涙だ。
その学生生活の終わりにどれだけ寂しくなり、切なくなり、涙を流せるかどうかで
学生としてはおろか、人間としての成績すらも決定される。
成績が良くなければ態度も良くない上に
放課後は自分と似た様な奴らと教室の隅っこでカードゲームをしていただけの俺にはとても憂鬱な日だ。
今日はそんな卒業式の前日だった。
無表情の俺を尻目に目尻を潤ませている他の奴らの姿を思うと、今から悔しさとやるせなさで胸がいっぱいになる。
俺にも涙ぐめるような青春が欲しい。
故に、俺は青春の捏造に走った。
〇教室の教壇
——俺には好きな人が居た。
それは二年生の時のクラスメイトで、
向こうも若干こっちを好きっぽかったけれど
互いに想いを秘め、すれ違ったまま終わった淡い恋だった。
そして俺は自分の想いが自分の中にしか残らないのが辛くて、ラブレターにして放つことにした。
しかし本人に渡せない俺は、校舎の裏にその手紙を埋める——。
〇渡り廊下
校舎裏で辺りを見回しながら、捏造したエピソードを反芻する。
うん。中々切ないのができたんじゃないか。本気で思い込めば、ちょっとだけ泣けるかもしれない。
これで後半部分を実行出来たら更にリアリティも増すだろう。
そうして土の柔らかそうな所を探している時に気が付いた。スコップが要る。じゃあ近くの百均で買ってくるか。
唐突に、俺は何をやっているんだという気持ちになった。
スコップだけ持ってレジに並ぶのか。使い終わったスコップの処分はどうするんだ。
計画になかった『スコップ』という物理的存在の登場が俺の意識を学校の外へものすごい勢いで引きはがしていく。
馬鹿馬鹿しい。帰ろう。帰ってラブレターはビリビリに破いて捨てよう。
そう思って踵を返すと、丁度校舎裏にやって来る女子生徒が居た。
その女子は片手に便箋、片手にスコップを持っていて、お互い、ピンと来た。
女子「貸しましょうか? よかったら、スコップ・・・」
俺「お願いします」
まず女子が自分のを埋め終わるまで隣で待つことになった。
女子「彼は剣道部でした」
なんか語り出した。
女子「明るい人でした。そういう人は全員本なんか読まないと思ってたんですけど、あ、私図書委員で」
女子「夏休みの読書課題の時、おすすめの本とかない? って聞いてくれて、そこで結構話が盛り上がって・・・」
多分言うほど盛り上がってなかったんだろうなぁ、と察するが口にはしなかった。
女子「本を返しに来た時も少し喋ったんですけど・・・それっきり、でした」
そう言いながら、女子は手紙を埋めた場所をスコップの背でポンポンと、丁寧に叩いた。
そのまま無言でスコップが差しだされる。軽く首を曲げて礼をし、穴を掘る。その間女子は俺をじっと見つめてきた。
俺も何か語らないといけない感じなのか。
俺「えっと、俺の場合は、好きな人はクラスメイトで・・・よく、髪とか綺麗だなーって・・・」
半分嘘のつもりなのに、気恥ずかしくてスコップを持つ手が熱くなった。
女子が自分の前髪をつまんでじっと見つめる。手入れされてないんだろうなって感じの髪だった。
俺「じゃあ、これ、ありがと」
埋設作業を完了し、借りたスコップを返す。
土にまみれたスコップに、一つの雫が落ちた。そして女子はか細い涙を流し始めた。
俺「えっ」
女子「ぐっ、すみ、ません・・・なんか、色々思い出したらっ・・・」
色々って言えるほど思い出ないだろというツッコミを飲み込んで別の言葉を探す。
俺「そういうのは、卒業式までとっとけよ」
女子「ふぅっ・・・ぐぅ・・・」
返事とも呻きともつかない何かが返って来る。
ただでさえ女子との会話経験が少ないというのに、その上泣かれては俺にできることはこれ以上ない。
何にもできないまま女子がすすり泣くのを聞くしかなかった。
そんな時間が数十秒経っただろうか。女子が涙を拭いながら立ち上がった。そしてもう一度俺を見つめる。
女子「帰りましょうか」
俺「あ、いや、俺はもう少しここに居る」
一緒に帰るのが気まずかった。
女子「・・・そうですか」
それを最後に女子は踵を返し、スコップ片手に校舎裏を去って行った。俺は時々震えるその背中を黙って見送った。
俺「なんだよ、ガチじゃん・・・」
自分の目を触ってみる。からっからに渇いていた。多分明日の卒業式もこんな感じだろう。
青春をした人間の中に、思うまま恋をした奴と失恋してしまった奴がいるとして。あの女子は失恋すらうまくできなかった奴で、
俺は失恋すらうまくできなかった奴にすらなれなかった奴だ。
素手でラブレターを掘り返した。帰ってビリビリに破いて捨てよう。
捏造するのも青春の一つですよね(笑)思い返せば青春っていう青春はなかったように思いますが、全てが楽しかったような青春だったような気もします。
卒業式に涙することができるように青春を捏造、その発想力に脱帽です。泣いている女子を見て軽く引いていた私も見習って今からちょっと捏造しようかと(←大人がやると悲惨)
題名からして面白そうだなと思い読んだら切なくなりました。笑過去を美化して思い出にとかはあるけど0から捏造、、本人は思っていなくても何気ない日々が思い出になっている場合もあるんだよ!って伝えてあげたい笑