微温湯家の人々

da-kura

エピソード1(脚本)

微温湯家の人々

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〇一戸建て
  僕の名前は微温湯のぶ(ぬるゆ のぶ)
  我が家は2年前、福島県の微温湯という場所に引っ越してきた。
  もともと、こっちの人だったんですか?とよく聞かれるが
  2年前まで、微温湯という地名すら聞いたことがなかった。
  これは2年前のお話。
ぱぱ「まま、まま すごいの見つけちゃったよ!」
まま「何よ! ちょっと忙しいんだけど!」
ぱぱ「なんと、苗字と同じ場所を見つけちゃいました~」
まま「はぁ!?」
ぱぱ「我が家「微温湯」と同じ名前の場所を見つけちゃったんです」
まま「・・・」
ぱぱ「・・・」
  歴史や地図が好きな父が
  たまたま見つけた地名
  微温湯。
まま「はっ! あっそ!」
ぱぱ「・・・」
まま「だから何!?」
ぱぱ「・・・」
ぱぱ「・・・行ってみたいなぁと思って」
まま「行けば!!」

〇シックなリビング
  ぱぱは、歴史が好きで
  微温湯という珍しい名前にはきっと何か意味があると思っていた。
ぱぱ「きっと歴史の中で、何か由緒ある名前なんだ。 同じ苗字の人に会ったことないし きっと歴史の中で埋もれた、何かの末裔なんだ」
  僕はこう思っていた
  ご先祖様はきっと
のぶ「温泉を掘り当てて、皆に言ったら めっちゃぬるくて 「あいつこんなぬるい温泉掘りやがった」ってディスられてた人なんじゃない」
ぱぱ「・・・」
  僕と妹が、ご先祖様をかっこ悪いと言って笑ってる時
  ぱぱは、何も言わないで黙って聞いてたけど
ちず「だっさ! 温泉だー-ってイキって 「なにこれ、ぬっる!水?」 みたいな??」
ぱぱ「・・・」
のぶ「「あいつ今日から、ぬるゆって呼ぼうぜー」って感じだよね、絶対」
ぱぱ「・・・」
ちず「うける。 悪口そのまま苗字とか、うける」
ぱぱ「・・・」
  その時ぱぱは
ぱぱ「ぬるくても、温泉は 温泉だ」
  まるで、温泉が出たのにぬるかった、張本人のような顔をしていた。
ちず「・・・」
のぶ「・・・」

〇シックな玄関
ぱぱ「行ってみるぞ~」
  ゴールデンウィークに家族みんなで
  ぱぱが発見した[微温湯]という場所に
  行ってみることにした。
まま「あたしは絶対いや。 あんたたちで行ってきなさいよ!」
  ままは、田舎が嫌いなので、だいぶぐずった。
まま「なんで聞いたこともないような田舎にわざわざ行かなきゃならないのよ!」
ぱぱ「・・・」
まま「なんでわざわざ、ぬるいって分かってる温泉なんかに入りに行かなきゃなんないのよ!」
ぱぱ「・・・」
ちず「まま~、でもさ 私達の苗字と同じ名前のところなんだよ?」
のぶ「面白そうって思うけど」
ちず「どーせ生きてる間に二度と行かないかもしれないじゃん」
まま「なんで二度と行かないかもしれないところに金払ってまで行かなきゃならないのよ!」
のぶ「俺、普通に行ってみたいけどなー」
ぱぱ「何かルーツがあるかもしれないし」
まま「掘ったらぬるい温泉出てきただけのことよ!!」
ぱぱ「・・・ ぬるくても、温泉は、おん」
まま「ぬるい温泉なんて温泉じゃないわ!! 何の役に立つのよ!!」
のぶ「・・・」
ぱぱ「・・・」
ちず「えーままが行かないなら私も行かなーい」
のぶ「・・・」
  妹まで行かないと言い出した。
  僕は困った。
ぱぱ「・・・」
  僕も行かないと言ったら
  ぱぱは、一人で行くのだろうか。
  ゴールデンウィークなのに。
のぶ「ぱぱ、あのさ 二人で行こっか。 俺は行ってみたいし」
ぱぱ「・・・ うーん」
ぱぱ「・・・」
のぶ「・・・」
  本当は家族みんなで行きたかったんだと思う。
  これが箱根や熱海なら、絶対みんなで行けたのに。
のぶ「場所変える? 熱海とか・・・」
ぱぱ「いや、微温湯に行く!」
のぶ「・・・」
  ぱぱは、変なところが頑固だ。

〇田園風景
  ぱぱと二人で、僕たちの苗字と同じ名前の場所[微温湯]に来た。
ぱぱ「すごい田舎だな~」
のぶ「何にもないねー」
ぱぱ「あっ!看板出てる!」
のぶ「ほんとだー! 俺たちの苗字、看板に書いてある~ なんか嬉し~」
ぱぱ「写真撮ろ、写真 写真撮って!」
のぶ「はい、はい」
  僕たちは目的地の近くから、たくさん目にするようになった[微温湯]という文字の
  道路標識や案内板を
  片っ端から写真に撮った
ぱぱ「ご先祖様がここらへんで生きてた証だな・・・」
のぶ「・・・」
  ご先祖様がディスられてた証・・・
  とも言えなくはない。
のぶ「ちずに写真送るねー」
ぱぱ「おー! あいつらビックリするぞ~ 自分の名前の看板なんて、そうそうないからな~」
のぶ「そもそも珍しい名前だからね~」
  妹に撮った写真を送ったら
  すぐに「うける」と返信が来た
ぱぱ「・・・」
のぶ「・・・」
ぱぱ「どう?」
のぶ「うけるって」
ぱぱ「うけてたか。 そっか。よかった」
  何がよかったんだろう。
  確かに、特に何も感想はない。
  自分の苗字の看板を見ても
  おお、と思うのみで後味は特にない
のぶ「うけるよね」
ぱぱ「そうだな」
  それから僕たちは、無事、温泉旅館に到着し
  うちのリビングの倍くらいある畳の部屋に通された
のぶ「意外とちゃんとしてんじゃん もっとヤバいと思ってたけど」
ぱぱ「すごいな~ 歴史を感じるな~」
  情緒ある建物に、自然豊かで上品な景色。
  蒸したお湯の香り。
  風が木の枝を揺らすたびに、マイナスイオンを感じた
のぶ「ぱぱ温泉入ろうか」
ぱぱ「うん・・・」
ぱぱ「・・・ のぶ、入っておいで」
のぶ「え、なんで ・・・ぱぱ、入らないの?」
ぱぱ「・・・ あー、ちょっと後でにしようかな」
のぶ「・・・」
  絶対、入らないパターンじゃん。
  僕はそう思った。
のぶ「・・・ じゃ、俺入ってくるから」
ぱぱ「うん いってらっしゃい」
のぶ「・・・」
  その日、ぱぱは温泉に入らないで部屋のシャワーで風呂を済ませた
  温泉は様々な効能があり、想像以上に良かったが
  結局ぱぱは、次の日も温泉には入らなかった。
  理由を聞くと
ぱぱ「風邪ひいちゃったら大変だから。 だって温泉、ぬるいんじゃぁ ねぇ・・・」
のぶ「・・・」
  さっきまで、まま達も来たらよかったのにって本気で思ってたけど
  やっぱり来なくてよかった。
  その事を妹にラインしたら
  「うける」とだけ返信が来た。

〇シックなリビング
  ぱぱはあれから一人で
  何度も微温湯に行って
  たくさん写真を撮ってきた
ぱぱ「まま見て、ほら 公園もあってね、小さいけど神社も見つけた」
まま「あっそ」
ぱぱ「微温湯の神様だよ」
ちず「ちょーうける」
ぱぱ「いい所なんだよな~」
  ぱぱは、すっかり微温湯の虜になっていたようだった。
  あるか分からない歴史の中に、ご先祖様の姿を夢見てた。
ぱぱ「ゆくゆくは、この近くに住みたいな~」
まま「・・・」
ちず「・・・」
  言い出した。
  ついに言い出した。
  住みたいって言いだした。
ぱぱ「いいよね~ 自然豊かで 温泉もあるしね」
  ぱぱ、温泉入らなかったじゃん。
  
  とは言わなかったけど
のぶ「・・・」
  後日、ぱぱが、微温湯の近くに土地を買って
  不動産屋からの電話でままにバレて
  ものすごいもめた
まま「信じられない!! 勝手にそんな事、よくできるわよね!!」
ぱぱ「・・・」
まま「冗談じゃないわよ!! 頭おかしいんじゃないの!?」
ぱぱ「・・・」
  ぱぱが、ままに
  めちゃくちゃに怒鳴られて
ぱぱ「・・・」
のぶ「・・・」
  僕はぱぱが、もう微温湯に行けなくなるんじゃないかって
  ちょっとかわいそうに思ったんだけど
ぱぱ「もともと、住んでたのと 同じだろ・・・」
まま「はぁっ!?」
  ぱぱが初めて言い返した
ぱぱ「ご先祖様がいた場所なんだから もともと住んでるのと同じだって 言ってるんだ!」
まま「・・・ はぁ!?」
のぶ「・・・」
ぱぱ「俺がどこに住もうが俺の歴史なんだから とやかく言うな!」
  歴史!!!
まま「・・・」
のぶ「・・・」
  頑固なぱぱの意味不明な一言がきっかけになって
  
  僕たちは、なんだか、縁も所縁もない土地に移り住むことになってしまった
  妹が「二度と行かないかもしれない場所」と言ってた場所に
  一生住むかもしれなくなった。
ちず「うける」
  こうして2年前、僕たちは
  微温湯という場所に引っ越してきた
  微温湯という名前の家族となった。

コメント

  • 家族のルーツをたずねるという行動は周囲でも結構見られるのですが、微温湯姓のようないわゆる珍名さんならやはり気になりますよね。とはいえ、家族それぞれの温度差が違うことが、ドタバタコメディ感を生んで楽しいですね!

  • 特に子供たち、苗字やご先祖さまのこと結構ディスってておもしろかったです😂
    そしてお父さんも微温湯に興味津々で来たものの、風邪引きたくないとの理由で温泉に入らなかったのも、ずっこけそうになりました😂
    引っ越してからどんな暮らしが始まったのか気になります!

  • パパがここまで微温湯にこだわるからには、実は・・・みたいなとんでもない理由があるような気がしてきた。微温湯家が微温湯に引越した後、名前を聞いた地元の人たちからどんな反応や対応を受けるのか見てみたいです。

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