こなゆきの本気ごっこ!

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こなゆきのゾンビ映画(脚本)

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〇綺麗な一戸建て
  住宅街の至るところから灯りが漏れている
  武藤家の大黒柱──武藤誠一は、
  仕事を終え、ようやく帰路に着いていた
武藤 誠一「あぁ・・・疲れた」
武藤 誠一「足が思うように動かないや」
武藤 誠一「こういうときは 熱いシャワーと冷えたビールが欲しいかな」
  自宅までやって来て、妙な雰囲気に足を止める
武藤 誠一「うん? なんかおかしいな・・・」
  いつもなら外まで聞こえている喧騒が
  嘘のように一切ないのである
武藤 誠一「まさか、ね・・・」
武藤 誠一「ただいまー」

〇飾りの多い玄関
  帰宅した誠一の目に飛び込んだのは、
  玄関で仰向けになっているこなゆきの姿だった
武藤 誠一「何やってんだ、こなゆき」
武藤 誠一「こんなところで寝ちゃ駄目だろうが──」
  いや、よく見ると違う
  こなゆきの首元が赤く染まっている
  こなゆきは血を流して倒れていたのだ
武藤 誠一「ま、まさか・・・」
  ちらりと下駄箱の上に目を移す
武藤 誠一「くっ、そういうことか・・・」
武藤 誠一「おい、大丈夫か! こなゆき!」
武藤 誠一「しっかりしろ! おい、こなゆき!」
武藤 誠一「息をしていない・・・」
武藤 誠一「こうしちゃいられん! 救急車だ!」
建野 建三「ひひ、ヒ・・・その必要ハない、ですよ」
建野 建三「せんばぁい」
武藤 誠一「建三、お前、その格好!」
建野 建三「ひ、ヒヒヒ・・・」
武藤 誠一「なんで、こんな・・・!」

〇部屋の前
  二階へと駆け上がり、ドアを叩く
  鍵が閉まっているということは、
  生きた人間の気配に違いない
武藤 誠一「おい、開けてくれ! 中に誰かいるんだろ!」
武藤 誠一「俺だ! 誠一だよ!」
武藤 直美「入って」

〇書斎
武藤 誠一「直美、お前だったのか!」
武藤 誠一「おい、こりゃ一体どうなってんだよ?」
武藤 誠一「建三が急に襲ってきて・・・」
武藤 誠一「しかも玄関に倒れてた、あれって・・・」
武藤 直美「こなゆきは・・・亡くなった」
武藤 誠一「亡くなった? 何言ってんだよ!」
武藤 直美「私だって嘘だって思いたいわよ!」
武藤 直美「これが夢だったら、どんなに幸せか!」
武藤 直美「でも見たのよ! 建三君が・・・」
武藤 直美「こなゆきの首元を噛み千切るところをね・・・」
武藤 直美「だからきっと、こなゆきはもう・・・」
武藤 誠一「遊也は? あいつはどこにいる?」
武藤 直美「わからない」
武藤 直美「私が夕飯を作ってる間、 リビングでテレビを見てたんだけど・・・」
武藤 直美「建三君が襲ってきて、慌てて逃げ出して・・・」
武藤 直美「きっと大丈夫よ!」
武藤 直美「遊也は賢いし、隙を見て逃げたかも!」
武藤 誠一「玄関の鍵は閉まってた。 多分まだ家の中にいるだろうな」
武藤 直美「そんな・・・」
武藤 誠一「悲鳴を聞いてないんだろ? なら、どこかに隠れてるのかもしれん」
武藤 直美「あなた・・・」
武藤 誠一「遊也を探しに行く」
武藤 誠一「それから、この家を脱出しよう」
武藤 直美「本気・・・?」
武藤 誠一「ここに居ても何も変わらない」
武藤 誠一「いけるか?」
武藤 直美「・・・えぇ、わかったわ!」
  誠一は物差しを
  直美はハンガーを持って──
  勢いよく部屋を飛び出した

〇廃墟の廊下
建野 建三「せ・・・ん、ぱい」
武藤 誠一「すまない、建三! 許してくれ!」
武藤 誠一「さぁ直美、行こう! 遊也を探すんだ!」
武藤 直美「えぇ!」

〇荒れた倉庫
  廊下を駆け抜け、階段を下っていく二人
  しかし、行く先を阻んだのはこなゆきだった
武藤 こなゆき「駄目だよ、パパ、ママ・・・」
武藤 こなゆき「ここからは、もう逃げられないんだよ」
武藤 誠一「こなゆき! 無事で良かった!」
武藤 直美「ねぇ、遊也を見なかった?」
武藤 直美「早くこの建物から逃げないと!」
武藤 こなゆき「逃げ・・・る?」
武藤 こなゆき「そんなの許さないよ・・・」
武藤 こなゆき「あは、ハ・・・二人もこっちにおいで」
武藤 こなゆき「仲間に・・・なる、の」
武藤 誠一「まさか、こなゆきまで・・・」
「せんぱぁい・・・」
「あなた! 後ろに建三君が!」
武藤 誠一「くそ! 挟み撃ちか!」
「きゃ! 銃が!」
  ハンガーが転がり落ちる
「きゃあああ! あなた助けて!」
建野 建三「ヒヒヒ・・・」
「あな、た・・・」
「逃げ、て・・・」
武藤 誠一「直美・・・」
武藤 誠一「くそっ!」
武藤 誠一「俺に、愛娘を撃てって言うのかよ!」
武藤 誠一「そんなこと出来るわけがないだろう!」
「伏せて!」
  ライトの点いたスマホが放り込まれる
「うぐっ!」
武藤 遊也「今のうちだ!」
武藤 遊也「ぼくに付いてきて!」

〇廃倉庫
武藤 遊也「父さん、ケガはない?」
武藤 誠一「俺はなんとか大丈夫だ」
武藤 誠一「遊也、お前こそ平気なのか?」
武藤 遊也「ぼくのこと、舐めて貰っちゃ困るよ」
武藤 遊也「母さんはどこ?」
武藤 誠一「それが・・・直美は襲われて・・・」
武藤 誠一「俺としたことが・・・」
武藤 遊也「そう、だったんだ・・・」
武藤 遊也「仕方ないよ・・・」
武藤 遊也「父さんだって、死にそうになったんだ」
  とにかく、この状況を打開しないと!
武藤 遊也「今のぼくたちに出来ることは、 みんなを解放してあげることでしょ?」
武藤 遊也「くっ!」
武藤 遊也「父さん! 手を貸してくれ!」
武藤 遊也「一緒に戦うんだよ!」
武藤 誠一「そうかもな・・・」
武藤 誠一「いや、その通りだ!」
武藤 誠一「吹き飛べぇえええ!」
「ギャアァアア!!」
  もくもくと天高く上がる黒煙
「それはちょっと違うんじゃない?」
「え?」
  だが、ふいに聞き慣れた声が耳に届くと
  見る見るうちに景色が様変わりし、
  二人は、酔いが覚めていくような気分になった

〇綺麗な一戸建て
武藤 こなゆき「お兄ちゃんさぁ、せっかくの山場だったのに どうしてそれを無駄にしちゃうの?」
武藤 誠一「山場?」
武藤 こなゆき「そーそー」
武藤 こなゆき「パパの名演技が見たかったのに」
武藤 こなゆき「自分だけいいとこ持ってってさ!」
武藤 遊也「なら、こなゆきのシナリオはどうだったんだよ」
武藤 こなゆき「んとねー」
武藤 こなゆき「まずは格好良くピンチを切り抜けて貰って」
武藤 こなゆき「最後に感動シーンね!」
武藤 誠一「感動かぁ・・・」
武藤 誠一「そっちの方が良かったのかな」
武藤 こなゆき「うん、わたしを抱いてわんわん泣くんだよ」
建野 建三「それは面白いね、こなゆきちゃん」
建野 建三「僕も先輩の泣き姿見たかったなぁ」
建野 建三「あーもちろん演技のですよ!」
武藤 直美「私も、お膳立ては整えたつもりだったんだけどな・・・」
武藤 直美「こなゆきとは言わずに、 家族全員に涙してもらってね!」
  おいおい、しんどいこと言うなよ・・・
武藤 直美「こら! 何がしんどいのよ!」
武藤 こなゆき「あーあー。こんなんなら わたしがお兄ちゃんの役やりたかった!」
武藤 こなゆき「ズババババ!」
武藤 こなゆき「へへへ!」
武藤 遊也「こなゆき・・・」
武藤 遊也「自動小銃なら両手で持たないと駄目だよ」
武藤 遊也「そういうところにリアリティーがないんだ」
武藤 こなゆき「じどうしょー? なに?」
武藤 こなゆき「いーの! わたしのは特別なの!」
武藤 誠一「はぁ・・・」
武藤 誠一「とりあえず、風呂に入らせてくれ・・・」

〇綺麗なダイニング
  一時間、夕食にて──
武藤 誠一「こっちは仕事で疲れてんのに、 カロリーの高いことするなよな」
武藤 誠一「一瞬信じそうになったぞ」
建野 建三「そりゃ良かったです」
建野 建三「こっちだって、 救急車呼ぼうとするから焦りましたよ」
建野 建三「そこで終わらせるわけにはいかねぇ! って、咄嗟に出ちゃいました」
武藤 こなゆき「ま、喋るゾンビもアリかもね」
武藤 こなゆき「ナイスアドリブだぞ! ケンゾー!」
建野 建三「こなゆきちゃんにそう言って貰えると嬉しいよ」
武藤 誠一「ったく、居候のくせにご機嫌取りは上手だよな」
武藤 誠一「早く自分の家に帰ったらどうだ?」
建野 建三「そんな、ご無体なこと言わないで下さいよ」
建野 建三「僕が頼れるのは先輩だけなんですよ」
建野 建三「家内の怒りが冷めるまで、もう少しだけどうか」
武藤 遊也「別にいいんじゃない?」
武藤 遊也「ケンゾーが居た方が、幅が広がるし」
武藤 遊也「役者が増えるなら、こなゆきは万々歳でしょ」
建野 建三「そうですよ。賑やかな方が楽しいですよ」
  武藤家には、とあるしきたりがあった
  看板が出ている間は──
  いかなるごっこ遊びにも全力投球すること──
  その看板とは、玄関の花瓶の有無である──
  通称「本気ごっこ」
  これを始めたのは他でもない、こなゆきだった
武藤 直美「別にいいんじゃないの」
武藤 直美「家族円満の秘訣って こうやってみんなで遊ぶことだと思うわ」
武藤 直美「あなただって、 いつもはノリノリにやってるでしょ」
武藤 誠一「今日は仕事で特に疲れてたんだ・・・」
武藤 誠一「静かだから嫌な予感はしたよ」
武藤 こなゆき「次はホラー繋がりでエクソシストでもやる?」
建野 建三「いいね!」
建野 建三「悪魔の特殊メイクなら僕に任せてくれよ」
武藤 誠一「やらん! 子どもはさっさと寝る時間だ!」
武藤 誠一「建三、お前も帰れ!」
武藤 遊也「ありゃりゃ、もう出来上がってる」
武藤 直美「そういうごっこ遊びだったりして」
武藤 遊也「フフッ、かもね」

〇綺麗な一戸建て
  翌日──
建野 建三「悪いね、買い出し手伝って貰って」
友人「いいさ、お前も大変だな。 家、締め出されてんだろ?」
建野 建三「そんなことないよ」
建野 建三「むしろ先輩の家の方が楽しくていいかもね」
建野 建三「手土産を持っていく必要はあるけど」
建野 建三「あと、他にも色々あるけどね・・・」
友人「色々?」
武藤 こなゆき「お帰りなさいませ、ご主人様」
武藤 誠一「お待ちしておりました」
武藤 誠一「ご夕食の用意が出来ております」
武藤 こなゆき「さーさー、どうぞ、こちらへ!」

〇洋館の玄関ホール
建野 建三「と、まあ、こういうわけなんだ・・・」
友人「えーと・・・」
友人「つまり、どういうわけなんだ・・・?」
  困惑して頭を搔く友人
  廊下の奥では、
  嫌味なくらいに真顔の二人が待っていた
建野 建三「丸井公爵! 宜しければ食事でも如何かな?」
友人「だーかーら! 意味わかんねぇってば!」
  常人の理解を越えた「本気ごっこ」
  こなゆきを止める者は誰もいない
  ちなみに、夕食はカレーライスだった──

コメント

  • 仕方なく付き合うんじゃなくて、むしろノリノリの居候健三に笑えました。アクションやバトルが激しい本気ごっこの場合、近所の人が通報しちゃうかもですね。

  • イントロダクションとキャラクタープロフィールを先に見たからこそ、本気ごっこをニヤニヤしながら読めましたが、未読だったらきっと面食らっていましたねww
    やるからには本気というこなゆきちゃんの意気込みが伝わってくるようでした!

  • 途中母親のリアクションに違和感を感じながらも、実話だと思いこんでいた私がいました! さすが、こなゆきちゃん! 臨場感抜群の皆さんの演技に脱帽です。

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