整形手術の前日

浦 みずほ

エピソード1(脚本)

整形手術の前日

浦 みずほ

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整形手術の前日
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〇病院の待合室
  自分の顔がきらいだ。

〇幼稚園の教室
しょうた「おまえ、変な顔!」
まゆ「変な顔!笑」

〇幼稚園の教室
  わたし、へんな顔なんだ・・・。

〇路面電車のホーム
  あれから20年。
  思いきり笑うこともなく、目立たないようにうつむきながら生きてきた。

〇異世界のオフィスフロア
まさたか「みさとさん、お疲れ様」
さおり「お疲れ様、みさとさん。 お元気でね」
みさと「お世話になりました。 皆様もお元気で」
  私のための送別会なんてもちろんない。
  でも、それでいい。

〇空っぽの部屋
  小型のキャリーバックでも隙間ができるほどの荷物だけ。
  家にある物全てを捨てた。
  空っぽになった・・・。

〇病室のベッド
  入院する時に着てきた黒い服と黒い靴はすでに捨てた。

〇病室(椅子無し)
  そして、病室のクローゼットに、小花をあしらった白いワンピースと薄い桜色のカーディガンを静かにかけた。
  退院の日のために。

〇開けた交差点
  暗い私は最後の日。
  明日からの私の事を考えた。
  美容室で髪を切ろう。
  ブティックで流行の服を買おう。
  明るい色のバッグ。
  ヒールの高いパンプス。

〇公園のベンチ
  晴れた日は公園をジョギングしよう。
  休憩のベンチに近寄ってきた仔犬に話しかけてみよう。

〇大きいデパート
  メイクの道具も買い替えよう。
  最新の色合いでナチュラルで清楚で明るい印象のメイクにしよう。
  新しい顔がもっと輝くように。
  そして、名前を「みさと」から「みさ」と名乗ってみる。

  そうだ!パスポート用の写真を撮りに行こう!

〇カウンター席
  お店で珈琲と軽い朝食をすませてから職場に向かおう。
  時々顔を合わせる人と会釈するようになるかもしれない。

〇オフィスのフロア
同僚「今度入った新人さん、すっごいかわいいですよね」
同僚「そうなんだょ。俺のタイプなんだ! ご飯に誘ってみようと思ってるんだ」
同僚「えーっ、抜けがけだめですょ。 ぼくのタイプでもあるんで!」

〇テーブル席
同僚「みさってモデルさんみたいにかわいいよね。 おしゃれだし、仕事もできるし、いろんなこと教えてほしいなぁ」
同僚「ほんと!憧れちゃいます。 きっとモテたんでしょうねぇ。 学校中のアイドルだったんじゃないですか?」
みさ「そんなことないょ。ふつうだょ 笑笑」

〇キラキラ
  キラキラして華やかな毎日。
  私は心から笑う事ができる。
  明日、私は新しい顔になる。
  新しい人生が始まる。

〇病室(椅子無し)
  あと1時間で今日が終わる。
  ワクワクしすぎて眠れない。
  手術は10時から。
  楽しみだ!楽しみだ!
  早く明日がこないかな。

  アイファンが鳴った。
  
  まさたかさんだ・・・。
  辞めた会社の同僚。

まさたか「もしもしわかるかな?まさたかです。 こんな遅い時間にごめんな」

〇病室(椅子無し)
みさと「いえ、大丈夫です。 まさたかさんこんばんは。 どうしたのですか?」

〇綺麗な一人部屋
まさたか「いや、何かあったわけじゃないんだけど・・・。 今日、みさとさん退職で明日から会えないと思うと何だかザワザワするんだょ」

〇病室(椅子無し)
みさと「えっ?」

〇綺麗な一人部屋
まさたか「実は・・・ずっとみさとさんのことが気になっていたんだ。 その・・・いいなって思っていて」

〇病室(椅子無し)
みさと「人違い・・・していませんか? 私、気にしていただけるような者じゃないです」
  爽やかで仕事をテキパキこなすまさたかさんは女子社員の憧れ。
  同性からも上司からも顧客からも信頼され人気者。
  私と住む世界が違う人・・・。

〇綺麗な一人部屋
まさたか「いや、人違いなんかじゃないんだ。 みさとさんを見ていたんだ」

〇病室(椅子無し)
みさと「あの・・・飲み会か何かの罰ゲームですよね? やめてください」
  私を気にして見ていたなんて、そんな事あるわけがない。
みさと「もう切りますね。 さようなら」
  アイフォンの解約手続きする事を忘れていたな・・・。
  退院したらすぐしよう。
  そう!新しい人生がはじまるのだから!

〇綺麗な一人部屋
まさたか「あーっ!切らないで!罰ゲームじゃないよ。 話を聞いて。 正直、僕は賑やかな女の子が苦手なんだ」

みさと「・・・・・・・・・」

〇綺麗な一人部屋
まさたか「もしもし?聞いてる? みさとさんは、物静かで落ち着いた声で話をするね。 大笑いすることなく下を向いて微笑むんだ」
まさたか「人が面倒がる地味な仕事を一人黙々とこなしていたよね。 細かいことにもさりげなく手を貸していたね」
まさたか「君は空気のように大きな、大事な存在なんだ」

  空気のような存在?
  いるかどうかわからないって意味でしょ?
  でも、「大きな、大事な」って?
みさと「・・・切り・・・ますね」

まさたか「待って!切らないで! もう一度君の顔がみたい」

  顔が見たいだなんて、やっぱりからかわれてる!
みさと「私、変な顔しているので。 私、この顔、大嫌い! これ以上この顔で誰とも会いたくないんです。 この変な顔、大嫌い!」

まさたか「そんな風に思っていたんだね。 僕は君の顔、好きだょ。 少しも変じゃない。 君のことが好きだょ」

〇水中
  どうしてだろう、すごくすごく涙が出た。
  大嫌いなはずだったのに。

〇朝日
  気がつくと朝になっていた。
  今日から私の新しい人生が始まる。
  しっかり顔を上げて、閉じていた目を開けてみよう。
  鏡にうつった私は、とても綺麗だ。

コメント

  • コンプレックスを克服するために手術を受けることにした彼女と、そのままの君が好きと言ってくれる彼と…もう少し早く言ってくれてたら、彼女も早く自分の顔を好きになれていたのかもしれないと思いました。

  • 日本に住んでいると外見至上主義だなとつくづく感じます。私自身も自分の顔や体で気に入らない箇所がいくつもある、けれど年齢とともに少しずつそういうコンプレックスも受け入れられるようになってきました。それはやっぱり彼女のように、自分の抱えるコンプレックスを含め、ありのままの受け入れてくれる男性に出会ったからかもしれない。私たちは本当は皆、そのままを受け入れてほしいんですよね。

  • 気持ちはなんとなくわかります。
    私も自分の顔は好きじゃないです。
    まぁ好きな人はそんなにいないと思いますが…。
    でもこうして自分を好きになってくれる人が現れることで、また向き合い方も変わってくるんだろうなぁと思いました!

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