鶴を極めた男

栗スナ

鶴を極めた男(脚本)

鶴を極めた男

栗スナ

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鶴を極めた男
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〇寂れた村
豊作「さてうちの稲刈りも終わったし、今日はよく働いたなー!」
豊作「あっ。嘉陽(きよう)兄さん!ただいま」
一式嘉陽「むう。三段目の谷折り。見事完璧だ。我ながら美しい・・・」
豊作「また1日中鶴を折っていたんだね。すごいな兄さんの集中力はー」
一式嘉陽「あ、豊作か。そうなんだ、じつにほれぼれする作品となった。見てくれ」
豊作「すごい!!FBIのバッジの中に金の折り紙のつ、鶴でマークが作られているじゃないか」
みこと「そうなんだよー、お兄ちゃんはもう凝っちゃってさー。朝から晩まで折ってたのよー」
豊作「みこと姉さん!」
みこと「お帰り。今夕飯ができたところだからみんなで食べましょ」
豊作「はい」
一式嘉陽「うむ」

〇屋敷の牢屋
豊作「うわー。でこん汁だー。タイもお頭つきじゃないか!」
みこと「たーんと召し上がれ」
豊作「いただきまーす」
一式嘉陽「うむ」
宗千佳「おお、嘉陽。おまえはすげーな、また折ったんだって?」
愛酪歩「嘉陽には天賦の指先の才があるようだな」
一式嘉陽「うむ。兄さんたちもそう思うか。わしは村を出ようと思う」
愛酪歩「出る?出てどうするんだ」
みこと「そうよ。まさか町へ出るの?」
一式嘉陽「そうだ。行こうと思う」
豊作「ひゅー。兄さんが町へ。それはいい」
みこと「お兄ちゃん町は危険よ。会社にはお局みたいな人がいっぱいいるわ」
一式嘉陽「わしは今日で折り紙は極めたと思う。これからは自分の力を試してみたいんだ」
宗千佳「さびしくなるぜ。町にはパワハラってのがあるらしい。気をつけるんだぞ」
愛酪歩「嘉陽もついに巣立ちか・・・思えば5歳から鶴ばかり折っていたな・・・」
宗千佳「町にはイビリというものがあるらしい。がんばるんだぞ」
一式嘉陽「明日立とうと思う」
宗千佳「ずいぶん急だな」
「町には圧迫面接というものがあるらしい。頑張るんだぞ」
豊作「誰今の?」
一式嘉陽「ざしきわらしだ」
豊作「うちいたの?」
みこと「お兄ちゃんがんばるのよ。もし何かあったらみことのでこん汁を思い出して」
一式嘉陽「ああ。ありがとう。会社を訪問して面接を受けようと思う!」
  こうして、嘉陽は生まれ育った村を出て町へ向かった

〇渋谷駅前
一式嘉陽「こ、ここが町か。おお。あそこにあるは、なんという壮健な建物」
一式嘉陽「よし」
一式嘉陽「たのもー!」
一式嘉陽「・・・あれ。出てこないな。たのもー!」
一式嘉陽「・・・まだ出てこぬのか。たのもー!」
ムリナ「何よ。もう・・・」
一式嘉陽「人間だ!!」
ムリナ「当たり前でしょ。失礼ね!」
一式嘉陽「わしは一式と申す者!」
ムリナ「はい?で、むさくるしいのが何の用?」
一式嘉陽「会社の面接を受けたい!!・・・・・・です」
ムリナ「・・・・・・いい度胸だわ」
ムリナ「こっちに来て」
一式嘉陽「おう」

〇綺麗な会議室
ムリナ「さあそこに座って。履歴書はある?」
一式嘉陽「り、りれきしょ?何だねそれは」
ムリナ「あきれた。あんた履歴書も知らないの?今までどうやって生きてきたんだろうね」
一式嘉陽「りれきしょ・・・?りれきしょ・・・?あ!まさか奥義の書みたいな!?・・・ではわしの技術を狙って?折り紙の本は渡さんぞ!」
ムリナ「度胸だけは一人前のようね。でもここじゃそれが命取りになるわよ」
一式嘉陽「何?」
ムリナ「その口調、改めなさい。ここじゃあんたはただのルーキー。舐めた口をきくものじゃないわ」
一式嘉陽「う。確かに。わかりました」
ムリナ「適応力はあるようね。ふふふ。じゃお手並み拝見といこうかしら」
ムリナ「社長!」
社長「では面接を始めますよー」
一式嘉陽「おんどり?」
社長「わたくし当社の取締役をしております、だんどりと言います」
一式嘉陽「わしは一式嘉陽。村から来ました!」
ムリナ「部長!」
部長「いや、悪者が現れるときの効果音とかやめて。私は普通の人だから」
部長「それからムリナ君、社長と私を偉そうに呼びつけるのやめて!あ、行っちゃった」
社長「コッコッコッ。まあいい。威勢のいいのは嫌いじゃない」
部長「ですが社長、クセになります」
社長「彼女、三日前には社長だったんだ。無理もないさ。鶏口となるも牛後となるなかれ、だ」
一式嘉陽「・・・三日前に社長!?変わったばかりだというのか!何か下剋上の激しそうな会社だな」
社長「君、前職は?」
一式嘉陽「24色、持っています!」
社長「いや、色鉛筆じゃなくて・・・前の職は?」
一式嘉陽「何もしておりません」
社長「!?」
部長「で、ではニート!?」
一式嘉陽「そうだ。いや、そうです!」
部長「なななんなななななななななななななななんと!!」
社長「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええっーと・・・」
部長「その年で?」
一式嘉陽「失礼ですよ、まだ年齢は聞いていないはず」
部長「あ、そうだった。失礼ですが年はいくつですか」
一式嘉陽「47だ!!」
部長「もうバリバリバリバリじゃん!!」
社長「こおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!コケッ!」
一式嘉陽「バリバリやぶくのはよくありませんな。紙は粗末にするものではありません」
社長「コケッ?」
部長「かみ?」
一式嘉陽「さよう。紙です。そこからさまざまなものが生まれるのです。あらゆる創造物が紙一枚からできる無限の可能性があります」
社長「ん?」
一式嘉陽「わしにはそれができる!」
部長「ほう。言ってくれるじゃないか。紙を操る作業は得意ということかな。あなたはワードの資格くらいは持っているんだね」
社長「スペシャリストか?」
一式嘉陽「そんなものはない!!」
社長「ここここここここここここここここここここここここけっ?」
部長「なんだー、こいつ」
社長「今まで何をやって暮らしていたのかね?」
一式嘉陽「え・・・今まで・・・・・・」
部長「あのさー、うちはITだからさー。ある程度のスキルがないと困るんだよねー」
一式嘉陽「むうう。スキルって何だ。人の名前か?」
社長「君まさか何もないのにわが社の面接を受けに来たんじゃないだろうね」
一式嘉陽「そ、それは断じて違います!!」
部長「君がわが社でできることって何よ?スキルもないのに新人雇う余裕はうちにはないんだよ」
一式嘉陽「新人を雇えない?スキルってのは新人を雇っている人の名前か」
一式嘉陽「いる!わしには豊作が!!」
社長「豊作?農業のスキルはいらんよ」
部長「あなたどんなことならできるの?」
一式嘉陽「できること?」
社長「趣味とかでもいいからないの?」
一式嘉陽「あります!」
社長「ココウ。何かね」
一式嘉陽「折り紙です!」
部長「お、折り紙~!?」
社長「コケ~」
一式嘉陽「驚きましたか、お二方」
部長「社長はあきれてるんだよ!そんなもの役に立たないからね。遊びじゃないんだよ、会社は!」
一式嘉陽「遊び?役に立たない?それは違うと思います」
社長「うちはITだからねー」
部長「あなたはだめですね。何か学生時代に本気でやって極めたことあります?一つでもいいから」
一式嘉陽「ある!」
部長「それは何です?」
一式嘉陽「折り紙だ」
社長「折り紙~?また~?」
部長「はあ・・・」
社長「コッコッコッ。ひどすぎて笑えてきた」
部長「論外だわ、あなた」
部長「もうお帰りください」
一式嘉陽「なぜだ。折り紙は和の心だ」
部長「はいはい」
社長「こけこけ」
部長「ほら、見たまえ。社長が床のモミの抜け殻をついばみ始めたじゃないか」
一式嘉陽「じゃああなた方は折れるんですか」
部長「別に折れるとか折れないとかそういう問題じゃないんだよ」
社長「コッコッ・・・まあ、子供のころはいろいろ折れたけど。モーターボートとかやっこさんとかうさぎだとか」
一式嘉陽「え?うさぎ?・・・やっこさん?まことか」
部長「え。まさか・・・」
社長「君は折れないのかね?」
一式嘉陽「折れません。鶴しか折れません」
社長「・・・・・・」
部長「じゃあ何で言ったんだ?こいつは」
一式嘉陽「鶴しか勝たん!!なぜならわしは極めたのだ。それが折り紙の鶴だ。他のことは一切目もくれずひたすら取り組んできたぁーっ!」
部長「得意なことって・・・鶴のみ?」
社長「一切やらずに生きてきたと?まさか・・・コッコッコッほんとかね~?」
一式嘉陽「ほんとだ!」
社長「こ・・・け・・・」
部長「絶句」
一式嘉陽「あなた方が求めているのは一つのことに熱心に取り組める集中力のある人じゃないんですか」
社長「それは確かにそうなんだが・・・」
部長「いや、限度ってものが・・・バカはいらんよ・・・」
一式嘉陽「一つのことに取り組むのはバカにならんとできん。バカの何が悪い!それは一つのことに本気でやったことがない人間が言うことです」
社長「ココ・・・コケ・・・」
部長「あなたはうちの会社をコケにしてるのかね」
一式嘉陽「コケになどしていない!どれ、ここで折って見せよう」
一式嘉陽「まずは細部にこだわり!!」
一式嘉陽「できたぞ!羽!」
社長「羽・・・」
部長「え?羽のみ?折り鶴じゃないの?」
一式嘉陽「一枚一枚丁寧に作るのが私の折り鶴です!」
一式嘉陽「次。二枚目の羽!!作ります!!」
部長「いや長いからいいよ」
社長「すごいけどさ、何か時間かかってるしー、コケー」
一式嘉陽「時間をかけねばいいものはできません!!御社はどんな態度で仕事をしているのですか!!」
社長「う・・・いや・・・」
部長「そんなものが折れるからってどうだって言うんだ!仕事と関係ないぞ!」
一式嘉陽「関係ある!丁寧に一つずつ作業を行い、それは仕事を極める姿勢だ!!わしはこの羽づくりに十五年を費やしたのだぞ」
一式嘉陽「一つのことを極めるというのはそういうことを言うのではないのか!」
部長「い、いや誰もそこまでは・・・折り紙などに・・・ねえ社長」
社長「コココ、コウだな。その通り」
一式嘉陽「折り紙を見ればその人となりが分かるはず!わしの真面目さ誠実さ、努力ができる人間であること、忍耐力があること、黙々と取──」
部長「う・・・こいつおかしい」
社長「もう、こけっこうだよ君」
一式嘉陽「なぜだー!何かを極めたことがあるか、あなた方は」
ムリナ「まじ受けるんだけど。ムリ。あっはっはっはっ」
一式嘉陽「あ、あなたはさっきの!」
ムリナ「ねえあなた。気に入ったわ。あたしと一緒に下剋上起こさない?」
一式嘉陽「下剋上?何を・・・まさか」
ムリナ「そうよ。この会社を乗っ取るのよ!」
社長「貴様ー、そんなことはさせんぞ」
一式嘉陽「つまり社風を変えたいと言うのか。助太刀いたす!」
ムリナ「話が早いわね。どちらかを選びなさい」
一式嘉陽「やっぱしない!」
ムリナ「いくわよー!」
社長「コケー!」
ムリナ「逃げたわ!ん?」
一式嘉陽「ん?」
ムリナ「あんたよく見たら何もしてないじゃん!」
一式嘉陽「いや、しないって言いましたよ」
ムリナ「え。竹刀じゃなかったの?」
一式嘉陽「やらないという意味の方です」
ムリナ「何だ―。あっはっはっ」
一式嘉陽「恥ずかしがるところですかね」
一式嘉陽「だいたい無理ですよ。突然暴れ出すなんて」
  こうして会社のお家騒動に巻き込まれた嘉陽は面接というものを終えた

〇寂れた村
一式嘉陽「ただいま~」
みこと「あ、お兄ちゃんお帰り~!」
宗千佳「お。どうだった、就活は」
一式嘉陽「ふふふ。、この恰好を見てわからないか」
みこと「え。じゃあまさか・・・!」
みこと「お兄ちゃんたちー!嘉陽兄ちゃんが勤め人になったよー!」
豊作「兄さんやったね!」
愛酪歩「こいつぁー驚いた。折り紙でよくぞここまで」
一式嘉陽「一つのことを極めるとはこういうことなのさ。すべてに通ずるのだ」
一式嘉陽「だがわしがここまでなれたのも温かく見守る家族がいたからだ、ありがとうみんな!」
「ざしきわらし「その中には私も入っているな?当然だよな」」
  これでこの物語は終わるである。一つのことを続ければそれはすべての応用の元となることがおわかりいただけただろうか
  Fin.

コメント

  • 私が経営者ならきっと彼を採用してみると思います。幅広く色々な事ができる人材も確かに必要ですが、一つの事に情熱をもって長年やり続けられる忍耐力は仕事をするには必要不可欠ですね。彼のメッセージ心に響きました。

  • 主人公が極めた鶴よりも、おんどりならぬだんどり社長のコケ語がこけっこうツボでした。ざしきわらしが心配してた圧迫面接も乗り越えてハッピーエンドでよかった、のか?全部読んだ後に「コ・・コケ?」と呟く人が続出しそうな作品です。

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