時空タクシー「小さな手の温もり」

6Bえんぴつ

小さな手の温もり(脚本)

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〇土手
  満月の夜
  時間も空間も超えて
  あなたが望むその場所へ
  連れて行ってくれる
  タクシーがあるとしたら
  どうしますか?

〇土手
タクシー運転手 「そろそろ仕事に行きますかな」
タクシー運転手 「お~、なんとも美しい満月」
  ポケットから取り出すと、ホイッと口に放り込んだ。
タクシー運転手 「甘い!幸せじゃ」
タクシー運転手 「さて、どんなお客様か」
タクシー運転手 「楽しみですな」

〇アパレルショップ
店長「ちょっと、こんなに発注したの誰!」
新人店員 井上「私です」
店長「どう考えても、数、間違ってるわよ」
新人店員 井上「そうですか、言われた通り注文しました」
店長「もういいわ」
新人店員 井上「ハーイ」
店長「高橋さん、居る?」
店員 高橋理奈「はい、店長」
店長「あなた、井上さんの教育係でしょ どうなってるのあの人、発注数間違ってるし」
  説教は永遠と続き・・・。
店長「ともかく、多店舗に掛け合ってあの数の段ボールだけは何とかしておいてね」
店長「もう閉店だから、後はよろしく」
店員 高橋理奈「えっ!私がですか? 待って・・・くだ・・さ・・」
店員 高橋理奈(は~、どうしてこうなるかな)
店員 高橋理奈「井上さん 間違えて発注したのを多店舗にお願いするから、事務所に残ってもらえます」
新人店員 井上「すいません、今日は無理です」
新人店員 井上「彼氏がお誕生日でこれからデートなんです」
店員 高橋理奈「は?」
新人店員 井上「では、失礼します」
店員 高橋理奈(どういうことですか?)

〇店の事務室
店員 高橋理奈「なんで、私がやらなくちゃいけないのかな」
店員 高橋理奈「ミスったのは、井上さんでしょ!」
店員 高橋理奈「あんな子どうやって教育したらいいのよ やめる気満々だし」
店員 高橋理奈「彼氏とデートだと!」
店員 高橋理奈「私もそんなこと言ってみたいわ」

〇飲み屋街
店員 高橋理奈「こんな遅くなっちゃよ!」
店員 高橋理奈「でも、何とか他店で引き取ってもらえて、 ホント、よかった」
店員 高橋理奈「急に、お腹が空いてきたな」
店員 高橋理奈「一杯飲んでくか~」

〇立ち飲み屋
店員 高橋理奈「く~!美味い」
店員 高橋理奈(仕事の後の一杯は、サイコー!)
店員 高橋理奈(一人居酒屋・・・オッサンまっしぐらだな)
  ブーブー
店員 高橋理奈(メール、お母さんからだ)
  お誕生日おめでとう。
  たまには、連絡しなさいよ。
  りんご送ったから。
  明日届きます。
  体に気を付けてね。
  
  母より
店員 高橋理奈(今日って、私の誕生日じゃん そっか・・・)
店員 高橋理奈「すいません!」
店員 高橋理奈「生ジョッキもう一つ、お願いします」
  空いている向かい側にジョッキを置いた。
  そして、飲みかけの自分のジョッキと乾杯した。
店員 高橋理奈(理央、お誕生日おめでとう)
店員 高橋理奈(私、25歳になったよ)
店員 高橋理奈(理央の分も頑張って生きるって思ってたけど)
店員 高橋理奈(最近ホントうまくいかない・・・)
店員 高橋理奈(ちょっと、疲れちゃった)
店員 高橋理奈(理央はまだ、怒ってるのかな・・・)

〇ダイニング
父方の祖母「やっと生まれた男の子なのに どうして理央くんの方なの・・・ でも・・・ はい、はい・・」
父方の祖母「理奈ちゃん? 居るわよ ちょっと待って」
父方の祖母「理奈ちゃん お母さんから電話よ」
「お母さんよ、良い子にしてる? 理央くんがね、 理奈ちゃんに会いたいって言ってるの」
子供の頃の理奈「いかない」
「どうして?」
子供の頃の理奈「ママ、ここに来て そしたら行く」
「理奈ちゃん、今は病院を離れられないの わかるでしょ」
子供の頃の理奈「そんなのわかんない」
子供の頃の理奈「わかんない!」

〇立ち飲み屋
店員 高橋理奈(あの後、急に容態が急変して結局会えないまま)
店員 高橋理奈(今でも、理央じゃなくて私だったらよかったのかなって・・・)
店員 高橋理奈(お母さんもお父さんもきっと、そう思ってるよね)
店員 高橋理奈(何泣いてるのよ!)
店員 高橋理奈(一人で酒飲んで、よくないな)
店員 高橋理奈(ここは、理央の分のビールも飲んで)
店員 高橋理奈「ゴクッ、ゴクッ はぁ~」
店員 高橋理奈「すいません! 焼き鳥3本お願いします」

〇街中の道路
店員 高橋理奈(調子に乗って、飲みすぎたかな)
店員 高橋理奈(焼き鳥が、おいしかった!)
店員 高橋理奈(もう遅いし、タクシーで帰ろうかな)
店員 高橋理奈(今日は誕生日だし、ぜいたくしてもいいよね)
店員 高橋理奈「と、思ってたらタクシー来たじゃん!」
店員 高橋理奈「すいません!乗りま~す!」

〇タクシーの後部座席
タクシー運転手 「どこまでですか?」
店員 高橋理奈「富士見団地の前のコンビニまで、 おねがいします」
タクシー運転手 「かしこまりました」
店員 高橋理奈「あっ!満月、きれい」
  ぼんやりと窓の外の月を眺めていた。
タクシー運転手 「お嬢さん」
タクシー運転手 「どなたか会いたい人、 行きたい所はありませんか?」
店員 高橋理奈「えっ?運転手さん変なこと聞くんですね」
タクシー運転手 「よろしければ、お連れいたしますよ」
店員 高橋理奈「無理ですよ、だって私が会いたいのは」
店員 高橋理奈「6歳で亡くなった双子の弟」
店員 高橋理奈「私に会いたがっていたのに・・・ あの頃の私は・・ただ寂しくて・・」
店員 高橋理奈「両親を独占している弟がうらやましかった」
店員 高橋理奈「もしも会えるなら・・・」
タクシー運転手 「お客さん、着きましたよ」

〇総合病院
店員 高橋理奈「ここは、理央が入院してた病院?」
タクシー運転手 「くれぐれも、運命を変えるような行動には気を付けて下さい」
タクシー運転手 「では、行ってらっしゃいませ」

〇病院の待合室
店員 高橋理奈(あれは、お母さん・・・若いな)
店員 高橋理奈(誰かと電話してる)
理奈の母「お義母さん、どうしてそんなことを言うんですか!」
理奈の母「理奈だって大事な私の子供です」
理奈の母「あの子には我慢ばかりさせてしまって」
理奈の母「お義母さんには、感謝しております ですからお願いです」
理奈の母「理奈と話をさせて下さい」
店員 高橋理奈(お母さん、私の事もちゃんと大事に思ってくれてたんだね)
店員 高橋理奈(バカだな私って、分け隔てなく私たちを思ってくれてたのに)
店員 高橋理奈(早く、理央に会いに行かなくちゃ)

〇病室
店員 高橋理奈(理央・・・静かに寝てる)
双子の弟 理央「お姉ちゃん・・・だれ?」
店員 高橋理奈「ごめん、起こしちゃった?」
店員 高橋理奈「痛い?苦しくない?」
双子の弟 理央「大丈夫だよ、さっき薬飲んだから」
店員 高橋理奈「そう、偉いね・・・寂しくない?」
双子の弟 理央「うん、寂しくないよ」
双子の弟 理央「でも、理奈が寂しがってると思う」
店員 高橋理奈「えっ!どうして?」
双子の弟 理央「ぼくが・・・ お母さんとお父さんを取っちゃったから」
双子の弟 理央「理奈はとっても寂しがりやなんだ」
双子の弟 理央「きっと怒ってる」
店員 高橋理奈「そんなことないよ!」
店員 高橋理奈「理奈ちゃんは素直じゃないことあるでしょ」
店員 高橋理奈「思ってる事と反対のことしちゃうの」
店員 高橋理奈「だから、怒ってないよ」
店員 高橋理奈「理央くんのこと、だーい好きなんだから」
双子の弟 理央「お姉ちゃん、理奈のこと知ってるの?」
店員 高橋理奈「うん!」
店員 高橋理奈「理央くんのこと、ず~と、ず~と、 大好きだから」
双子の弟 理央「ほんとうに?」
店員 高橋理奈「もちろん!」
双子の弟 理央「よかった」
  安心したのか、理央はまた寝てしまった。
店員 高橋理奈「理央、ゴメンね」
店員 高橋理奈(自分のことで精一杯なはずなのに、 心配かけて)
  傍の椅子に座り、理央の小さな手をそっと、握った。
店員 高橋理奈「あったかい」
  寝顔を見てるうちに眠くなり目を閉じた。

〇タクシーの後部座席
タクシー運転手 「お客さん着きましたよ」
タクシー運転手 「お客さん」
店員 高橋理奈「すいません!寝ちゃったみたいですね」
店員 高橋理奈「夢見てました、とても懐かしい夢」
  支払いを済ませ、タクシーを降りた。

〇小さいコンビニ
店員 高橋理奈「ありがとうございました」
タクシー運転手 「弟さんに会えて良かったですね」
  そう言うと、タクシーは走り去った。
店員 高橋理奈「えっ?夢じゃないの?」
  手には、弟の小さな手の感触と温もりが、確かに残っていた。
店員 高橋理奈「よし!明日も頑張るよ」

〇アパレルショップ
店員 高橋理奈「いらっしゃいませ!」
店員 高橋理奈「何かございましたら、いつでもお声掛けください」
  おわり

コメント

  • 理奈は過去に遡ってやりたかったことを実現したのと同時に、過去の後悔から開放されて晴々とした未来も手に入れることができましたね。その後の人生を左右するような大きな心残りがある人は、みんなこのタクシーに乗れたらいいのになあと思います。

  • 感動しました。あのときに戻ってかけてあげられる精一杯の言葉を伝えられて。お母さんからもちゃんと愛されていて、過去にはもう戻れなくてもこれからまた仲良くなって欲しいな

  • うわ〜こういう話大好物です。タクシー運転手がお爺さんっていうのもいいですね。他の乗客たちの話があればぜひ読んでみたいです。ほっこりする話をありがとうございました

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