読切(脚本)
〇実験ルーム
ホスカ「先ほど連絡を受けました。 宇宙船ディアシュペーは予定通りに旅立った、と」
ミジュリー「はい・・・」
ホスカ「どうした? そんな顔をして?」
ミジュリー「これで本当に良かったのか。 そう思いまして・・・」
ホスカ「うん?」
ミジュリー「正直、不安なんです。 プロジェクトは成功するのか、 マインド・イーターは予想通りの動きをするのか・・・」
ホスカ「ハハ! そんなに怖がるな。 この培養槽を泳ぐ、イーターの姿をよく見てみろ。 どこに不安要素がある? 健康そのものだ」
ミジュリー「いえ、そういうことではないんです。 えぇと、なんていうか・・・」
ホスカ「気持ちは分かるさ。 ここにいるイーターと、宇宙船に潜りこませたイーター、 それぞれ別の個体、別の個性だからな」
ホスカ「宇宙船のイーターが予想外の動きをする可能性は、まぁ・・・認める」
ホスカ「だがな。 知的生命体に寄生し、脳を操り、 イーターの利益となる行動を強制実行させる そういう根本的な動きは共通さ」
ホスカ「宇宙船の中で孵化したイーターは、 さっき言った通りに行動し、 乗組員の脳を・・・ いや、心を喰らい尽くす」
ホスカ「そして我々は、この安全地帯からイーターの様子を見守り、 ノー・リスクで活動データを手に入れる。 完璧なシナリオだろう?」
ミジュリー「イエス、おっしゃる通りです。 それでも僕は不安ですよ・・・ なにか大事なことを見落としている気がして・・・」
ホスカ「まったくお前は! よく聞け、プロジェクトはスタートした。 仮に欠陥があったとしても、もはや止められない」
ホスカ「我々は、覚悟を決めてやり遂げるしかないんだ」
ミジュリー「はい・・・」
ホスカ「命令だ、退勤したら医務室に行け。 精神安定剤をもらえ、不安を落ち着かせろ。 それと、これだけは言っておく」
ホスカ「我々は、宇宙船の自爆装置の起動コードを知っている。 即ち、いざとなったら自爆させ、証拠もろともイーターを殺せばいいのさ」
ホスカ「計画がどんな結果に終わろうと、 イーターが宇宙船から脱出し、この地球で増えていくなんてことは、 絶対にあり得ない」
ホスカ「そうだろう?」
ミジュリー「・・・おっしゃる通りです」
ホスカ「これで少しは気が楽になったか? だったら、さっそく仕事を始めよう。 やらねばならんことは山積みだぞ!」
ミジュリー「イエス。ただちに取りかかります・・・」
ミジュリー(ダイスは既に投げられた。 事態はもう、誰にも止められない)
ミジュリー(今の僕に出来ることは、 犠牲者たちが苦しまず逝くように願うこと、 ただそれだけ・・・)
〇花火倉庫
ブギー「ルード! 例のブツ、どこに置いた!?」
ルード「ホスカ研究所から預かった、アレっすよね? もちろん指定の場所っすよ」
ブギー「いいか、安全第一で管理しろよ。 もし中身がこぼれたら、下手すりゃ死ぬって話だからな・・・」
ルード「分かってますって、大丈夫っす。 そもそも、あの培養ケース、 象に踏まれても壊れないほど頑丈って ホスカが言ってました」
ルード「それに、あぁやって鎖でガッチリ固定してるんです。 誰かマヌケが爆弾でぶっ飛ばすとか、 そんな事態が起きない限り、安全っす」
ブギー「馬鹿野郎! だからお前はいつまで経っても三下なんだ! そういうマヌケが近寄らないよう、しっかり見張るのが仕事だろうが!」
ブギー「ついてこい、様子を確かめるぞ!」
ルード「おおげさだなぁ、兄貴は・・・。 俺たちはさっきからここにいて、 誰も入ってこないよう見張ってきた。 事件なんて・・・」
ブギー「つべこべ言うな! ほら!」
ルード「りょーかい!」
ルード(まったく、兄貴は慎重すぎだよなぁ・・・ 何をビビってんだか)
ルード(麻薬の密輸に比べれば、ずっとチョロい仕事じゃねーか。 それでいて儲けは麻薬の数倍、へへ・・・ 金が入ったら何をしよう?)
ルード(そうだなぁ、日本に旅行してフグを食べて、 あと、バイクも新しいのが欲しいよな・・・ ヒヒ! わくわくするじゃん!)
ブギー「これは・・・!」
ルード「兄貴? どうしたんすか?」
ブギー「ケースの端が壊れて、中身が漏れ出してやがる・・・・・・」
ルード「えっ・・・」
ブギー「なんだ、これは? 芋虫? いや、ハリガネムシというか・・・」
ブギー「近寄って来る・・・!? やめろ、来るな! クソッ!」
ルード「兄貴! どうしたんです!」
ブギー「ルード、逃げろ! こいつはきっと、研究所が造った、寄生能力を持つ・・・」
ブギー「うわああああああああああっ!」
ルード「兄貴! 兄貴ぃ!」
ルード(何がどうなってやがる? ただの事故? いや、それとも・・・)
緊張感漂う感じですが、なんか大変なことになってませんか!
研究者って、異様に自信があるタイプの人がいて、最悪の事態はあまり想定してない場合か多い気がするのですが、この人たちはどちらなんだろう?と思いました。
とても緊張感のある会話スタイルが、マインド・イーターの恐ろしさを描き出していて読み入ってしまいました。今後起こるべき大災厄の物語を期待せずにはいられませんね。
閉じられた空間でこの生き物が暴れ出す…ゾッとします。運んでいる2人が徹底的な悪人ではなさそうで、助かってほしいと思ってしまいます。海外ドラマみたいなしゃべり方が小気味よくて好きです。フグの下りは特に味がありました。