読切(脚本)
〇整頓された部屋(ハット、靴無し)
「明日、一緒に死体埋めてほしいんだけど、 時間ある?」
あいつがいつものように俺の家に遊びに来て、酒を飲んでいた時のことだ。
新しいのとってくるわ、と立ちあがろうと膝に手をかけたタイミングだった。
まるで遊びに誘うように、いつも通りの声色で、聞きなれない言葉が耳に入る。
弾かれたように顔をあげると、親友はいつもの人懐こい笑みを浮かべていた。
〇整頓された部屋(ハット、靴無し)
こいつとは高校からの付き合いだ。
入学初日、席が隣だったから仲良くなった。
ちょっと抜けてるところがあって、俺がいないと生きていけないんじゃないかと思った。
実際にはそんなことはないのだろうけれど、そう錯覚するぐらいには俺に甘えていた。
周りの人間にも同じようなことを言われたから、俺の思い過ごしじゃないことは確かだった。
それが計算なのか天然なのかはわからない。
高校を卒業してからもずっと連絡をとっていた。
あいつは地元の大学に行って、俺は隣の県の専門学校に行った。
毎週のように通話をして、毎月のように会って、一人暮らしを始めていた俺の家によく泊まりに来ていた。
俺が就職してからもそれは変わらなかった。
あいつの就活のときには色々アドバイスもした。
一緒にいて楽しくて、気兼ねなく喋れて、俺がバカ言ったらそのノリに付き合ってくれて、あいつのバカに俺も付き合って。
いきなり旅行に誘われても仕方ねえなあって準備を始めるような、そんな関係。
俺にとって、かけがえのない親友。
こいつさえいれば恋人なんていらなかった。
そんな親友が放った言葉を理解するのに多少時間がかかった。
死体を埋めるから、手伝ってほしい。
親友の無茶には色々付き合ってきたつもりだが、流石に初めて聞く誘いだった。
「どこまで埋めに行くんだ?」
ほかに聞くことあるだろ、と自分でも思った。
でも俺の口から出たのはその言葉だった。
その言葉しか出てこなかった。
親友は驚いたように瞬きをひとつして、
手に持ったままの酒の缶に力を込める。
アルミ缶がべこ、と音を立てた。
親友「なんで、とか聞かないの?」
最もな問いだった。
こいつは、すべてを覚悟して俺に相談を持ち掛けたのだろう。
それでどうなったとしても、起こるすべてを承知のうえで、俺に話したのだろう。
「なんだよ、聞いてほしいのか?」
茶化すように、あくまでいつも通りを心がけてそう言った。
親友はまさか、と笑って話を続ける。
親友「親戚が持ってる山があるから、そこに埋めるんだ」
親友「車で高速に乗って8時間ぐらいのとこ」
「結構遠いな」
「運転久々だからちょっとこえーわ」
「あ、弁当作ってく? パーキングエリアの方がいいか?」
俺があまりにも自然に返事をするものだから、親友の口からほっと息がこぼれた。
緊張がゆるんだのだろう。
気にしないようにしていたが、家を訪れたときから親友の顔色は悪く、目の下にはあいつには似つかわしくないクマがあった。
親友「旅行かよ」
眉を下げて、珍しい笑みを見せる親友に、旅行なら美味しいもん食べようぜ、とおどけてみせる。
親友は手にしていた缶を机に置いて俺に近づくと、手を握ってきた。
なんだよ、と笑いながら親友の顔を見る。
親友「ありがとな、親友」
今にも涙が溢れそうな表情で、震えた声で、そんな言葉が紡がれる。
そのまま俺の肩に頭を預けるようにして倒れ込んできた親友を、体勢を崩しそうになりながらもなんとか支える。
握られていた手をほどいて、眠ってしまった親友の頭を優しく撫でた。
友人の切迫した思いと、主人公の会話でそれがほぐされていく描写がすごかったです。
墓の下まで持っていくつもりで受け入れたんでしょうから、主人公の肝の据わり具合もすごいです。
友達だからこそ話せること、話せないことってあると思いますがすべてを受け入れてくれる友人がいるって素晴らしいですよね。親友を思い出させてくれるいいお話しでした。
理由はなんであれ、こんなふうにすべてをいったん受け止めてくれる友達がいたら幸せですよね。相談をもちかけたほうは「こいつが親友でよかった…」と心から安堵したと思います。