リアル脱出ゲームとお侍 / 光脱毛器とお侍(脚本)
〇黒
〇怪しげな部屋
爆発まで
4分
蔵之助「ええい!」
蔵之助「狼狽えるでない!」
佐吉「父上!」
佐吉「扉が施錠されております!」
蔵之助「ぐぬう!」
千代「いやあ!」
お鶴「落ち着きなさい千代」
千代「お、お母さま」
お鶴「武家の娘たるもの」
お鶴「いかなる時も冷静であらねばなりませぬ」
蔵之助「いかにも」
蔵之助「冷静に物事を見定め」
蔵之助「活路を見出すのじゃ!」
蔵之助(とはいえ)
蔵之助(この窮地、どう脱したものか)
〇黒
数分前
〇おしゃれな受付
受付スタッフ「リアル脱出ゲーム」
受付スタッフ「『機密文書を奪還せよ』にようこそ」
受付スタッフ「ご予約いただいた帯刀(たてわき)様ですね?」
蔵之助「うむ」
蔵之助「我こそは帯刀家が当主」
蔵之助「帯刀蔵之介なり!」
蔵之助「本日は家族を引き連れあい参った」
蔵之助「リアル脱出ゲームとやら」
蔵之助「いざ尋常に勝負!」
受付スタッフ「・・・」
受付スタッフ「お手柔らかにお願いします」
受付スタッフ(侍だ・・・)
受付スタッフ「皆様はこれから」
受付スタッフ「新米エージェントとして活動して頂きます」
佐吉「なんと、わたくしめらがエージェントに御座いますか」
千代「エージェントとは何をすれば・・・」
ゲーム開始
お鶴「何事か!」
会場スタッフ/山城「新入りエージェントってのはお前たちだな!?」
蔵之助「何奴!」
会場スタッフ/山城「俺はこの組織のエージェント、山城だ!」
佐吉「先達に御座いますか」
会場スタッフ/山城「不味い事になった!」
会場スタッフ/山城「機密文書を敵に奪われちまったんだ!」
蔵之助「よもや!」
会場スタッフ/山城「これから奪い返しに行く!」
会場スタッフ/山城「お前達も着いてこい!」
蔵之助「是非もなし!」
蔵之助「皆の者! 出陣じゃあ!」
蔵之助「山城に続けえぃ!」
「おー!」
受付スタッフ「・・・」
受付スタッフ(元気なお客さんだなぁ)
〇地下室への扉
会場スタッフ/山城「この扉の向こうに」
会場スタッフ/山城「機密文書が隠されているらしい」
佐吉「すでに情報を掴んでおられるとは」
蔵之助「優秀な忍びを飼っておるようじゃの」
会場スタッフ/山城「俺が先導する!」
会場スタッフ/山城「後に続け!」
〇怪しげな部屋
会場スタッフ/山城「あった! 機密文書だ!」
お鶴「解せぬ」
蔵之助「如何した、お鶴」
お鶴「敵方から奪った文を」
お鶴「あのように放置するもので御座いましょうか?」
蔵之助「・・・」
蔵之助「!」
蔵之助「山城! それに触れるでない!」
会場スタッフ/山城「よし、取り返した!」
セキュリティシステム作動
当施設は
5
分
後
に
爆
破
さ
れ
ま
す
佐吉「罠にございますか!?」
蔵之助「佐吉! 退路を確保せよ!」
佐吉「御意!」
千代「いやあ!」
蔵之助「ええい!」
蔵之助「狼狽えるでない!」
佐吉「父上!」
佐吉「扉が施錠されております!」
〇黒
今に至る
〇怪しげな部屋
蔵之助「状況を整理致そう」
蔵之助「残されし時は」
爆発まで
あと三分
千代「あ、あと三分・・・」
蔵之助「退路は」
佐吉「扉以外に出入口は御座いませぬ!」
蔵之助「くっ」
蔵之助「山城!」
蔵之助「打開策はござらぬか!?」
会場スタッフ/山城「おおっとぉ!」
会場スタッフ/山城「こんな所にこんな物が!」
会場スタッフ/山城「この部屋の暗号を解いて」
会場スタッフ/山城「その端末に答えを入力したら」
会場スタッフ/山城「扉が開くような気がするぜ!」
千代「暗号を解けば助かるのでございますね!?」
爆発まで
あと二分
お鶴「やや!」
お鶴「壁に意味深な文字と絵が御座います!」
千代「ひたらたけ たごたま?」
蔵之助「右下の獣は狸であろうか」
佐吉「たぬき・・・」
蔵之助「ぐぬうっ」
蔵之助「分からぬ!」
蔵之助「もうよい!」
蔵之助「扉を斬り捨てる!」
お鶴「なりませぬ蔵之介様!」
お鶴「令和の世での切り捨ては」
お鶴「御免では済まないのでございます!」
蔵之助「ぐぬう!」
爆発まで
あと一分
千代「じ、時間が・・・!」
蔵之助「もはやこれまでか!」
佐吉「ひたらたけ たごたま・・・ たぬき・・・」
佐吉「!」
佐吉「解け申した!」
蔵之助「まことか!」
佐吉「『たぬき』は『た抜き』」
佐吉「『ひたらたけたごたま』から『た』を抜くのでございます!」
佐吉「つまり答えは」
佐吉「『ひらけ ごま』にございまする!!」
蔵之助「でかした!」
蔵之助「千代! 入力せよ!」
千代「お任せを!」
千代「『ひらけ ごま』」
お鶴「扉が開きました!」
爆発まで
10秒
蔵之助「皆の者、脱出じゃあ!」
会場スタッフ/山城「うわ!」
会場スタッフ/山城(ヤベ 素でこけた)
蔵之助「山城!」
蔵之助「何を遊んでおる!」
会場スタッフ/山城「す、すまねえ! 俺は置いて行ってくれ!」
会場スタッフ/山城(恥ずかしいから気にせず行ってください お客様!)
蔵之助「見損なうでない!」
蔵之助「ワシがお主を見捨てるような武士に見えようか!」
蔵之助「共にゆくぞ!」
会場スタッフ/山城「お、お客さま・・・」
爆発まで
5秒
蔵之助(このままでは間に合わぬ・・・)
蔵之助(かくなるうえは)
蔵之助「せいやあ!」
会場スタッフ/山城「うおああ!?」
爆発まで
3秒
〇地下室への扉
会場スタッフ/山城「ぐはあ!」
会場スタッフ/山城「俺を扉の外までぶん投げただと!?」
千代「お父さま! お早く!」
〇怪しげな部屋
蔵之助(もう、間に合わぬな)
2秒
蔵之助「佐吉!」
蔵之助「お主に帯刀家を」
1秒
蔵之助「任せたぞ!!」
0
佐吉「父上ぇ!」
〇黒
〇地下室への扉
お鶴「あ、ああ」
お鶴「蔵之介、さま・・・」
千代「お父、さま・・・?」
佐吉「父上! 父上えぇ!!」
会場スタッフ/山城「うわああ! 嘘だろお客様あ! 俺なんかの為にい!!」
〇おしゃれな受付
「お父さまあ!」
受付スタッフ(あの人達、ゲームだって忘れてる)
受付スタッフ「・・・」
受付スタッフ「お客様」
蔵之助「なんじゃ」
受付スタッフ「行かれないのですか?」
蔵之助「・・・」
蔵之助「今行くのは」
蔵之助「気まずいのう」
受付スタッフ「ですよね」
〇黒
〇黒
〇玄関内
蔵之助「今帰り申した」
蔵之助(む 殺気・・・?)
蔵之助「・・・」
蔵之助「ふ」
蔵之助「ここは我が家ぞ」
蔵之助「そんな筈ござらん」
佐吉「父上」
蔵之助「佐吉 何をコソコソと」
佐吉「しー!」
佐吉「声が大きゅうございますっ」
蔵之助「・・・なんぞあったか」
佐吉「母上と姉上が・・・」
お鶴「蔵之介さま? お帰りになられたのでございますか?」
佐吉「まずい 父上、こちらに」
蔵之助「これ、引っ張るでない」
〇白いバスルーム
蔵之助「一体何があったというのじゃ」
佐吉「謀反に御座いますっ」
蔵之助「なに!?」
佐吉「母上と姉上が謀反を起こしたのでございます!」
蔵之助「・・・」
蔵之助「くくく」
佐吉「父上?」
蔵之助「はーっはっは!」
蔵之助「異な事を申すな佐吉!」
蔵之助「お鶴と千代が謀反?」
蔵之助「あり得ぬ!」
蔵之助「お主は夢でも見ておったのじゃろう」
佐吉「ち、違います! 決して夢などでは」
蔵之助「おぅい」
蔵之助「お鶴、千代、ワシが帰ったぞ~」
佐吉「ああ・・・」
佐吉「くっ」
佐吉「わたくしめだけでも生き残らねば!」
〇おしゃれなリビングダイニング
お鶴「蔵之介様 お帰りなさいませ」
千代「お父さま、お帰りなさいませ!」
蔵之助「うむ」
蔵之助(やはりいつも通りの二人ではないか)
蔵之助「?」
蔵之助「お鶴、お主」
お鶴「如何されました」
蔵之助「何やらお主が いつもより美しく見えたのじゃが」
お鶴「まあ・・・」
千代「お分かりになるのですね!」
蔵之助「千代、お主はお鶴の変容に心当たりがあるようだのう?」
千代「勿論にございます」
千代「お母さまは最近」
千代「光脱毛器を使用されておられるのです!」
蔵之助「光脱毛器?」
お鶴「左様にございます」
お鶴「おかげ様で最近では」
お鶴「ムダ毛はほぼ生えず、肌も若返ったかのようです」
蔵之助「それは素晴らしき事じゃ」
蔵之助「して、その光脱毛器とはなんぞや?」
お鶴「光脱毛器とは光の力で脱毛し」
お鶴「ムダ毛を生えにくくさせる物に御座います」
千代「最近では殿方も使用されるのですよ!」
蔵之助「なんと」
蔵之助「男までも毛を抜くというのか」
お鶴「左様に御座います」
お鶴「近頃の殿方はヒゲを脱毛することで」
お鶴「髭剃りにかける手間と時間を省くのです」
蔵之助「なるほどのぅ」
蔵之助「確かに毎朝ヒゲを剃るのは億劫ではある」
千代「お父さまもそうお思いになられますか」
お鶴「朝の時間はほんに貴重でありますから」
蔵之助「そうじゃのぅ」
お鶴「それでは、蔵之介様」
お鶴「蔵之介様の」
お鶴「毛髪を」
お鶴「脱毛致しましょう」
蔵之助「・・・」
蔵之助「む!?」
蔵之助「血迷ったかお鶴!」
蔵之助「ソレを使えば 生えてこなくなると申しておったではないか!」
お鶴「だからこそに御座います!」
お鶴「毎朝毎朝、マゲを維持する為に」
お鶴「蔵之介様と佐吉の」
お鶴「頭を剃り上げる私の身にもなってくださいませ!」
お鶴「私も朝はゆっくりしたいのです!」
千代「しかり、しかり!」
お鶴「どうせ剃るなら生える必要ないではありませぬか!」
蔵之助「あえて剃るのと 生えておらぬのでは」
蔵之助「天と地程の差があるのだ!」
お鶴「ええい 往生際の悪い!」
お鶴「覚悟を決めてくださいまし!」
お鶴「私は生えぬ蔵之介様も愛します!」
千代「真実の愛にございます!」
蔵之助「く・・・っ」
蔵之助「撤退じゃあ!」
「あ!」
〇白いバスルーム
蔵之助「すまぬ佐吉!」
蔵之助「お主の忠言、まことであった!」
蔵之助「むっ」
蔵之助(佐吉の姿が見えぬ)
蔵之助(別の場所に身を潜めたか)
蔵之助「ワシも身を潜めねば」
〇清潔なトイレ
蔵之助(ここは鍵もあり、水もある)
蔵之助(籠城するにはうってつけであろう)
蔵之助「な!」
佐吉「父上!」
蔵之助「佐吉か」
蔵之助「脅かすでない」
佐吉「申し訳ございませぬ」
蔵之助「如何様にして入った」
蔵之助「鍵をかけておいたはずじゃが」
佐吉「トイレの鍵は十円玉で」
佐吉「外から開ける事ができるので御座います」
蔵之助「なんと」
佐吉「ところで父上」
佐吉「謀反の件は信じていただけましたか」
蔵之助「うむ まことであった」
蔵之助「まさか二人が謀反を起こそうとは」
佐吉「ここに留まっていてはいずれ捕まり」
佐吉「毛を毟られます」
蔵之助「うむ」
佐吉「わたくしめにお任せくだされば」
佐吉「見事解決いたしましょう」
蔵之助「ほう」
佐吉「しかし、タダでという訳にはまいりませぬ」
蔵之助「なにっ」
佐吉「条件がございます」
蔵之助「貴様・・・っ」
佐吉「わたくしめは、スマホが欲しゅうございます」
蔵之助「・・・」
蔵之助「ならぬ!」
蔵之助「お主にスマホはまだ早い!」
佐吉「・・・」
佐吉「交渉、決裂にございますね」
佐吉「母上ー! 姉上ー!」
蔵之助「乱心したか佐吉!」
佐吉「父上はトイレにこもっておりますー!」
蔵之助「な!?」
お鶴「でかしました佐吉 貴方は見逃します」
蔵之助「佐吉ぃ! ワシを売りおったなあ!」
〇おしゃれなリビングダイニング
お鶴「覚悟はよろしいですね、蔵之介様?」
蔵之助「・・・」
お鶴「いざ、脱毛をば!」
蔵之助「ビューティサロンの年間パス」
お鶴「え」
千代「お母さま! 甘言に惑わされてはなりませぬ!」
蔵之助「新型タブレット」
千代「え」
蔵之助「もし、ワシの毛根を見逃すというのならば」
蔵之助「それらを下げ渡そうぞ」
「・・・」
蔵之助「返答はいかに」
「毛根に手を出さぬと誓います」
蔵之助「かかっ!」
〇黒
佐吉「ち、父上! わたくしめには!?」
蔵之介「裏切り者に与える物などあるはずなかろう!」
佐吉「そんな殺生な!」
演出も設定も凝ってて面白かったです!
受賞おめでとうございます🎉
ギャグセンスが突き抜けてて笑いました😆
トイレの鍵は10円玉で開けられますね。
受賞おめでとうございます!
とっくに読んでいたと勝手に思っており、あらためて開いてみてビックリ!今更ながら拝読いたしました。テンポもよく、笑うツボも盛り沢山でめっちゃ笑いました( ;∀;)ヒーッ 武家が使う◯ーバーイーツとか、母上のパートとか。ネタが尽きませんね!