ニートすぎる僕に、家族はアメをあげたがる!?

浅井檜

ニートは妹と夏祭り(脚本)

ニートすぎる僕に、家族はアメをあげたがる!?

浅井檜

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〇簡素な一人部屋
聡「僕は吉川聡」
聡「僕には嫌いな四字熟語がある」
聡「それは・・・」
聡「社会復帰」
聡「仕事をする、と考えただけでこわばる身体」

〇散らかった職員室
上司「吉川くん、これ、今日までにスライドにしといて」
聡「え、でも、本日は他の作業で手一杯で」
上司「え、何だって?」
聡「あ、はい、頑張ります・・・」

〇散らかった職員室
聡「あの、先ほどの資料でお尋ねしたいことがあるんですけど」
上司「それ、全部上司にきいてたら、君に頼んだ意味なくない?」
聡「あ、はい・・・」

〇散らかった職員室
上司「吉川くん、さっきの資料のスライド間違いだらけだったよ」
上司「ちゃんと直してから退社してよね」
聡「そんなぁ、もう23時なのに・・・」
上司「じゃ、お先」

〇簡素な一人部屋
聡「ブラックな会社に勤めていたあの頃のことを時々思い出す」
聡「辞表を出す時は、手だけじゃなく足も震えたっけ」
聡「でも、ずっと布団の中で暮らしてゆくわけにも行かない」
聡「だから、僕は今日、求人を見つけに行こうと思う」
聡「そう、僕はいわゆるニートだ」
聡「しかも、実家暮らしのニートだ」

〇島国の部屋
  リビングに行くと、お母さんがいた
母「あら、起きたの?」
聡(もう14時だ、これは怒られるだろうなぁ・・・)
  そんな心配でドギマギしている僕の肩を、お母さんは掴んだ
聡「!?」
母「まだ寝てていいのよ?」
聡「え?」
母「あともうちょっとで出来上がるから」
聡「出来上がるって、何が?」
母「今日はね、アップルパイを焼いたの、ぜひ、食べて欲しくって!」
母「あと20分で焼きあがるからね」
聡「いや、でも、そろそろ、出かけなくちゃ・・・」
母「え!? なんで!? 食べてくれないの!?」
聡「いや、その、食べたいけど・・・」
聡「求人を紹介してくれる施設に行こうかなって思って」
母「あ、わかったわ!」
母「聡の大好きなバタークッキーも焼いてあげるから、ちょっと待っててね」
聡「聞いてよ、お母さん・・・」
母「バターはまだたくさん余ってたはず・・・」
聡(僕の話を聞いてくれない・・・)
聡(僕はどのくらいここに拘束されるんだろう)
聡(施設が空いてる時間に間に合うかなぁ)

〇島国の部屋
  結局、アップルパイ、バタークッキー、カラメルの乗ったプリンをアールグレイでいただきながら、気付くともう16時
母「美味しかったかしら!?」
聡「うん、すごい美味しかったよ」
「食べてくれる人がいると嬉しいわ!明日は何作ろうかしら?」
  そう言ってお母さんが満足そうに洗い物を始めたので、立ち上がると、
  机の上の何かを落としてしまった
  僕はそれを拾い上げる
南「ただいまー」
  妹の南が大学から帰ってきた
  そして、僕を見つけるなり、ズンズンと足音を立てて近づいてくる
  僕はさっき拾ったものを見る、それは南がお気に入りの浴衣だった
南「触んないでよ! ニートのくせに!」
  と、言われると思いきや、
南「嬉しいー! お兄ちゃんもやっぱりそう思ってた!?」
聡「!?」
南「え、だから、お兄ちゃんも、今日やる夏祭りに行きたいんでしょ?!」
南「私も行きたかったんだけど、友達誰も誘えなかったら、ぜひ一緒に行きたいと思ってたの!」
聡「いや、僕はこれから求人を探しに・・・」
南「お母さんー! お兄ちゃんの浴衣も出しといてー!」
聡(誰も話を聞いてくれない!)

〇神社の出店
南「見て、お兄ちゃん!いっぱいお店あってワクワクするね」
  南は無邪気に笑うけど、僕は顔がこわばっている
  正直、こんな他人が沢山いるようなところにいるのが怖い
  みんな、僕を間抜けで、仕事のできない、ただのデクノボウだと思っているに違いない
  そう思ってしまうんだ
聡(南は、そんな僕と一緒にいて恥ずかしくないのだろうか?)
  「あれ、もしかして、南ちゃん?」
南の友達「南ちゃんだよね?」
南「きゃー、のんちゃん! 久しぶり!」
南の友達「高校卒業して以来だね! 久々すぎる! 最近どう?」
南「大学めっちゃ大変なんだよね、バイトも全然できない」
南の友達「わかるー」
南の友達「あれ、今日は一人できたの?」
南「ううん、今日はね──」
南「あれ?」
  僕は南の友達が去ったのを確認してから、南と合流した。

〇学校脇の道
南「はぁー、楽しかったね」
  南はヨーヨーで遊びながら下駄を鳴らし、帰り道を歩いていた
南「ってか、途中でお兄ちゃんどこ行ってたの?急にいなくなるんだもん」
聡「・・・」
聡「さっきの友達に、バレてなかった?」
聡「兄と来てるって」
南「え?」
南「お兄ちゃんと来てるって言ったけど?」
聡「言っちゃダメでしょ!」
聡「兄と来てるって知られるならまだしも」
聡「もし、ニートだってバレたら、南が・・・」
聡「まぁ、ずっとニートの僕がいけないんだけど・・・」
聡「いつも求人見に行こうとして、でも、結局、何かのせいにして止めてしまう」
聡「ごめんな」
南「うっ・・・」
聡「!?」
南「やめて」
聡「!?」
南「仕事なんかしないで!」
南「じゃないと私・・・」
南「私、遊ぶ人いなくなっちゃう!!!」
聡「いやいや、何言ってるの!?」
聡「いるじゃん友達たくさん・・・僕と違って」
南「でも、お兄ちゃんはいつでも遊んでくれるじゃん!」
「()()」
聡「そんな、僕を暇人みたいに言わないで!(誰よりも暇だけど)」
聡「ってか、仕事しないと、お金なくなるから!」
南「一生実家暮らしでいいじゃんー!」
聡「親のすねかじりにも限界があるんだ」
南「わかった!」
南「じゃあ私、石油王と結婚するね!」
聡「え!?」
南「そして、お兄ちゃんを養う!」
南「だからお兄ちゃんは働く必要なし!そういうことにしよう!決まり!」
聡「どういうこと!?」

〇島国の部屋
  家に帰ると、料理好きのお母さんが作ったマカロンが並べられていた
南「ということで、私」
南「石油王と結婚して、お兄ちゃんを養うことにしたから」
聡「ちょっ! 何言って──」
母「石油王? 結婚?」
聡「ほら、お母さんが勘違いするだろ! いや、これは違うんだ──」
母「ステキじゃない!」
聡「え!?」
母「石油王って、アフタヌーンティーをこよなく愛している気がするわ」
母「お母さんの作ったお菓子も食べてくれるかしら?」
聡「いやいや、お母さん、そうじゃなくて」
聡「ってか真面目な話、流石に、仕事しないと──」
南「わかった」
南「じゃあ、石油王のカーペットをコロコロしてホコリをとる仕事をあげようじゃないか」
南「週に一回でよし」
聡「頻度低ッ!」
  ゴホン
  僕たちの会話を聞いていたお父さんが、隣で一つ咳払いをした
聡(さすがにこんな会話、お父さんに怒られるよ・・・)
父「週一のお仕事だって!?」
父「いいじゃないか!」
聡「ええ!?」
父「父さん、釣りが好きなんだけど、」
父「土日は混んでいるから平日に行きたくて」
父「でも平日仕事を休める釣り仲間はいないし・・・」
父「だから、聡と釣りに行きたいんだ」
父「ということで、明日も釣りに行くぞ!」
聡「ちょっと待って、何からつっこんだらいいのやら」
聡「ってか、明日釣りに行くの!?」
聡「僕の転職活動はいつやればいいの!?」

コメント

  • 「ニートに対して家族は冷たいはず」という既成概念を逆手にとった展開で興味深かったです。ラスボスのお父さんが一番大きいアメを投げてきましたね。聡はこれからも家庭内マスコットとしての職務に励むんだから、ニートじゃない?ですよね。

  • ニートで引きこもりの人間がいても、その状況のとり方次第でこういう流れにもなるんですね! 彼ならいつかきっと社会復帰できそうだという予感がします。

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