妹に「お母さん」と呼ばれた日(脚本)
〇黒
痛ぇっ!
〇ビルの裏
不良「ま・・・待て! 話せば分かる!」
理恵「いいからさっさと出せよ」
不良「何を?」
理恵「さ・い・ふ」
理恵「とぼけるならもう一発」
不良「分かった!」
理恵「よし!」
不良「クソが・・・」
理恵「ふむ」
不良「なんだよ」
理恵「態度が悪い」
不良「え・・・ ちょっとストップ!」
不良「覚えてろよーっ! 不良女!」
理恵「完了っと」
〇街中の道路
「おい・・・あれ見ろよ」
「高城理恵!」
「殺気だ・・・目を合わせるな!」
理恵(ふん)
理恵(勝手に言ってろ)
私はいわゆる不良で名が通っている
さっきの奴みたいに
気に入らない奴は力で黙らせる
これが私の生き方だ
〇綺麗な一戸建て
理恵「家に着いてしまったか」
理恵「スイッチ切り替え・・・よし」
理恵「ただいま!」
〇おしゃれなリビングダイニング
紗奈「あ・・・」
理恵「紗奈! 元気にしてた?」
この子は私の妹
紗奈
泣き虫、怖がり、甘えん坊・・・
私とは正反対の性格だ
〇おしゃれなリビングダイニング
それゆえ
いつもならこうなる
理恵「さ・・・紗奈 一緒に風呂でも入るか?」
紗奈「あ・・・」
理恵「おい!」
理恵(ダメか)
理恵(やっぱり怖いのかな?)
近寄ってもくれない
〇おしゃれなリビングダイニング
しかし今はというと
紗奈「お帰りーっ!」
私を見ても警戒心は無い
なぜなら・・・
紗奈「お母さん!」
※紗奈の視点
理恵「た・・・ただいま!」
理恵「紗奈!」
紗奈には私が母さんに見えているのだ
〇黒
冗談半分だったのに
まさかあれが現実になるなんて
〇本棚のある部屋
昨日の出来事
正典「理恵・・・ 折り入って頼みがあるんだ」
理恵「な・・・何?」
理恵「急に改まって」
正典「お前は寂しくないか?」
正典「綾子・・・いや母さんが 海外に行ってしまって」
理恵「そりゃまあ── でも仕事だから仕方ないし」
正典「だが問題は紗奈だ」
正典「あの子はまだ幼稚園児 母が必要な時期だ」
理恵「確かにそうだね」
理恵「いつも母さんにべったりだったし」
正典「だからだ!」
理恵「何?」
〇黒
僕はこう考えた
綾子が帰って来た事にしよう!
〇本棚のある部屋
理恵「母さんが帰って来た事に?」
正典「その通り」
理恵「どうやって?」
正典「フフ・・・」
正典「僕の職業を忘れたのか? カウンセラーだ」
理恵「いや それは知ってるけど」
正典「紗奈に催眠をかける」
理恵「は?」
正典「すると、お前の姿が変わって見えるんだ」
正典「ズバリ、母さんに見えるようになる」
理恵「はぁ!?」
正典「頼む! 紗奈の為なんだ」
正典「母さんになってくれ!」
理恵「いやはや・・・」
理恵(バカらしくて怒る気にもなれない)
理恵(でも心意気だけは認めるか)
理恵「よし! 引き受けた」
正典「本当に?」
理恵(どうせ成功するわけないし)
〇おしゃれなリビングダイニング
紗奈「お母さーん!」
いとも簡単に成功してしまった
理恵「あの・・・紗奈?」
紗奈「お母さん 今日は一緒に寝ようね!」
※紗奈の視点
理恵「え・・・ そうね」
理恵「一緒に・・・寝よう」
〇黒
こうして演じる事になったのだ
「紗奈の前だけ、お母さん」を
〇おしゃれなリビングダイニング
正典「お帰り・・・理恵」
理恵「父さん」
正典「紗奈の様子は?」
理恵「今トイレに行ってる」
理恵「私を母さんだと思い込んでる」
正典「大成功だな!」
理恵「何言ってんの 娘に実験みたいな事して」
正典「じゃあ成功したという事で」
正典「あとはよろしく頼む!」
理恵「少しはフォローしてよ!」
理恵(紗奈の前では母さん 私は母さん・・・)
理恵(切り替え完了!)
紗奈「ねぇ お母さーん」
理恵(紗奈!)
※紗奈の視点
理恵「なぁに?」
紗奈「絵本読んで!」
〇女の子の一人部屋
理恵「それからモンタンは・・・」
紗奈「うんうん」
理恵(まあ確かに大変だけど・・・)
理恵(あの紗奈がこんなに 寄り添ってくれるなんて)
理恵(めちゃくちゃ嬉しい!)
理恵(お姉ちゃんやってて良かったよぉ!)
理恵「ふふ・・・」
紗奈「どうしたの? お母さん」
理恵「あっ・・・なんでもない」
理恵(今は母さんだったんだ)
理恵(なんか複雑だな)
紗奈「ねぇ、お母さん」
理恵「なあに?」
紗奈「今日のご飯はオムライスがいいな」
理恵「・・・」
理恵「へ?」
〇おしゃれなリビングダイニング
正典「掃除や洗い物は手伝おう──」
正典「だがご飯だけは作れない!」
理恵「んな堂々と言わないで!」
理恵「私、フライパンすら握った事ないよ?」
正典「そこを何とか!」
正典「今、お前は紗奈のお母さんなんだ」
正典「作ってくれ!」
理恵「マジで言ってんのか」
理恵「料理歴ゼロの私に」
理恵「・・・もう!」
理恵「分かった 何とかしてみる」
正典「それでこそ綾子だ!」
理恵「紗奈の前だけだよ!」
〇商店街
理恵「参ったなぁ」
理恵「料理なんかしたことないっつーの」
理恵「スーパーの惣菜で済ますか?」
理恵「うーん」
〇女の子の一人部屋
紗奈「お母さんのオムライス 美味しいんだよね」
紗奈「楽しみ!」
〇商店街
理恵「いーや! 買うなんてダメだ」
理恵「紗奈が待ってるんだ」
理恵「なんとしても自分で作る!」
〇スーパーの店内
理恵「まずは材料検索」
理恵「卵に」
理恵「玉ねぎと」
理恵「ピーマン・・・は紗奈が苦手だからパス」
孝一「・・・」
理恵「お?」
理恵「よう孝一!」
孝一「理恵さん!」
孝一「じゃあ そういうことで」
理恵「待てコラ!」
理恵「これ渡そうと思ってたんだ」
孝一「僕の財布!」
孝一「でも取られたはず・・・」
理恵「ああ カツアゲされてたな」
理恵「だから取り返してやった」
孝一「・・・ありがとう」
理恵「気にすんな」
理恵「それよりあんな奴に ヘコヘコしちゃダメだろ」
孝一「うん・・・」
理恵「男ならガツンとやってやれ!」
孝一「頑張ってみる」
理恵「じゃあな」
孝一「あの・・・何かお礼させてくれないかな」
理恵「いらない 私が勝手にした事だし」
孝一「このままじゃ悪いから」
理恵「うーん」
理恵「喧嘩でも教える?」
孝一「それは遠慮するよ!」
理恵「それじゃ・・・」
理恵「あ!」
理恵「お前 料理部だったよな?」
孝一「うん そうだけど」
理恵「実はさ 教えて欲しい事があるんだ」
孝一「何を?」
〇おしゃれなリビングダイニング
紗奈「あれ?」
紗奈「なんか味が違う」
※紗奈の視点
理恵「ちょっと料理法を変えたの」
理恵「どうかな?」
紗奈「美味しい!」
理恵「・・・よかったぁ」
正典「フフ・・・」
理恵「何がおかしいの?」
理恵「『あなた』」
正典「別に」
紗奈「ねぇ お母さん」
理恵「なあに?」
紗奈「お姉ちゃんはどこに行ったの?」
理恵「え?」
理恵「それは・・・」
正典「修行の旅に出たんだよ」
紗奈「修行?」
理恵「は?」
正典「あたしもっと強くなる! と言ってね」
紗奈「そうなんだ」
理恵「ちょっとあなた」
正典「はい」
理恵「あとでお話が・・・」
紗奈「寂しいな」
理恵「えっ!」
理恵「本当?」
理恵「寂しいの?」
紗奈「うん」
理恵(紗奈が悲しんでくれてる!)
理恵(感動だよぉ!)
紗奈「私ね」
紗奈「本当はお姉ちゃんと もっと遊びたかったの」
正典「どうしてそうしなかったんだい?」
紗奈「・・・」
紗奈「怖かったから」
理恵「あ・・・」
理恵「ぐっ」
紗奈「お母さん?」
理恵「ごめん」
理恵「ちょっと風に当たってくるっ!」
紗奈「大丈夫かな」
正典「食後の運動だよ」
正典(あの様子 ちょっとまずいかもな)
紗奈「でもね」
正典「え?」
紗奈「きっとお姉ちゃんは優しいの」
紗奈「だからね」
紗奈「本当は私がいけなかったんだ」
正典「紗奈・・・」
正典「大丈夫 その気持ちはいつか必ず伝わるよ」
正典「安心しなさい」
紗奈「うん」
〇本棚のある部屋
理恵「5回」
正典「何が」
理恵「卵を焦がした回数!」
正典「そんなに・・・」
正典「しかし料理の上手い下手は 別だと思うが?」
理恵「いーや! さっきので分かった」
理恵「私は喧嘩に明け暮れる不良!」
理恵「母さんは優しくて紗奈想い!」
理恵「私達は全然違うんだよ!」
理恵「もう私には無理!」
正典「いいや」
正典「君たちは似てると思うよ」
理恵「どこが?」
正典「オムライス」
理恵「は?」
正典「まさか本当に作ってくれるとは 予想外だった」
正典「正直、買うのかなぁ・・・ なんて思ってた」
理恵「それがなんなの!」
正典「理恵は頑張ったんだ」
正典「一度もしたことない料理を」
理恵「・・・」
正典「妹の為に」
正典「母さんのように」
理恵「惣菜に無かっただけだよ」
理恵「なんだかなあ」
理恵「もう寝る」
理恵「明日、紗奈の催眠を解いてね」
正典「お休み」
〇おしゃれなリビングダイニング
紗奈「お母さん」
理恵(見つかっちゃった)
理恵「なに?」
紗奈「お願いがあるの」
〇女の子の一人部屋
紗奈「・・・」
理恵(添い寝か)
理恵(子供の頃 私にもしてくれてたんだよな)
理恵(母さん・・・)
〇校長室
教頭「今度で何回目になりますか? お母さん」
教頭「また喧嘩ですよ」
綾子「申し訳ありませんでした」
綾子「理恵 あなたから言う事はない?」
理恵「・・・」
綾子「あとでよく言って聞かせますから」
教頭「頼みますよ」
理恵「・・・」
教頭「全く」
教頭「どうしたら こんな野蛮になれるのやら」
綾子「野蛮・・・?」
教頭「はい」
綾子「教頭先生」
教頭「なんです?」
綾子「何があったか聞きましたか?」
綾子「相手の男子生徒から」
教頭「いえ 何も言わなかったものですから」
綾子「理恵は理由も無しに手をあげません」
綾子「絶対に」
教頭「そ・・・そうですか?」
綾子「今度は裏を取ってからにしてくださいね」
教頭「は・・・はあ」
綾子「それでは」
〇学校脇の道
理恵「なんで怒らないの?」
綾子「さあ」
綾子「信じてるからかな」
理恵「何それ」
綾子「あら? あれは誰かしら」
女の子「あの!」
理恵「お前は・・・」
女の子「さっきは助けてくれて ありがとうございました!」
理恵「あ・・・うん」
理恵「気を付けなよ なよなよしてると、また男に襲われるぞ」
女の子「は・・・はい!」
理恵「ったく」
綾子「ふふ・・・」
理恵「あの子を助けようとしてさ」
理恵「拳が勝手に動いちゃったんだ」
綾子「そうなんだ」
理恵「ごめんなさい」
綾子「ううん」
綾子「その気持ち分かるから」
理恵「え?」
綾子「実を言うと私もね」
綾子「さっき教頭にパンチしたかったのよ」
理恵「・・・」
理恵「何それ」
綾子「ふふ・・・」
〇女の子の一人部屋
理恵「・・・」
〇黒
私もなれるのかな
母さんみたいに
〇おしゃれなリビングダイニング
正典「理恵」
正典「昨日の事だが・・・」
理恵「おはようございます」
理恵「『あなた』」
正典「え?」
紗奈「お母さん! バスに遅れちゃう」
理恵「じゃ行って来ます」
正典「あ・・・」
正典「ありがとう!」
〇ゆるやかな坂道
「おい見ろよ」
「理恵が児童と歩いてる!?」
「子持ちだったのか?」
理恵「・・・」
理恵「てめえら! 何見てんだよ!」
紗奈「お母さん?」
理恵「あ・・・いや」
紗奈「あっ! バスが見えたよ」
理恵「ヤバい!」
理恵「走ろう!」
紗奈「うん!」
〇黒
私は紗奈の手を握りながら
母さんになりきっていた
〇駅前ロータリー(駅名無し)
紗奈「じゃあね!」
理恵「行ってらっしゃい!」
理恵「さて本業と・・・」
〇名門の学校
理恵「そりゃ遅刻だよな」
理恵「まあ仕方ない」
理恵「母親と学生・・・」
理恵「二足のわらじはキツいって!」
妹のために頑張る理恵の気持ちを支えているのもお母さんとの思い出、という描き方がステキでした。本物のお母さんが帰ってきて、紗奈ちゃんが本物の方を「この人はお母さんじゃない、偽物だ」とか騒ぎ出したらカオスですね。理恵がお姉ちゃんとして紗奈と仲良くなれる日が早くくるといいなあ。
最初、カツアゲしてるのかな!?こわっ!と思っていたけど、実際は盗られた財布を取り返していたのだと知って、本当はすごく良い人なんだなあと思いました🥹
妹ちゃん、素直でとても可愛らしいし胸の内を理恵が知ることができて良かったです。
私の妹と大違いなので、可愛くて素直な妹、羨ましいです😂
この家族、結局それぞれがお互いを思いやっていて素敵です。特に難しい年頃の女の子に対する母親の理解は理恵ちゃんにとってとても重要なんだと思います。サナちゃんの本心を聞く機会を得られてよかったですね。