ロストメモリーズ

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〇荒地
  俺は、荒廃した戦場跡をひたすらに彷徨っていた。
  製造工場からアンドロイドの脱走事件が起きてからというもの、人間は態度を一変した。
  兵士たちは逃げ出したアンドロイドを次々と排除し、製造工場も閉められることになる。
  今まで恩恵を享受していたというのに、愚かなものだ。
ニック「バッテリーが、そろそろ切れてしまうな」
  辺りには、人類の負の遺産であるアンドロイドの遺体が散らばっている。
  俺はその頭部にあるマイクロチップを外し、集めていた。
ニック「ここに、こいつらの人生が詰まっているんだ」
  このマイクロチップは、人間で言うところの思考や記憶を行う役目を担っている。
  つまり、このマイクロチップはアンドロイドの存在そのものだ。
  それを、ひたすらに集めていく。弔いの気持ちも込めて、俺は作業を続ける。
  そんな中、一人のアンドロイドが目に入った。
  戦場跡にいる割には、綺麗な身体だ。おそらく、殆どの機能は生きているだろう。
  だが頭部のマイクロチップだけは、粉々に破損していた。
ニック「・・・・・・・・・・・・!?」
  遠くから、エンジン音が響いてくる。
  俺は咄嗟に近くにあった溝に身を隠し、銃を構えた。
  やがて、車は先ほどのアンドロイドの居る目の前に止まった。
平坂麻衣「珍しいな、こんなに綺麗な状態のアンドロイドがいるなんて」
  車から出てきた女性は、アンドロイドに触れようとする。
  他の、人間はいないようだ。俺は溝から飛び出し、女性の背後を取った。
ニック「動くな。そのアンドロイドから、離れろ」
平坂麻衣「おお、怖。その身なり、さては君はアンドロイドだね」
ニック「だったら、何だ」
平坂麻衣「私は、敵じゃない。銃を下ろしてくれ」
ニック「そんな、証拠はあるのか。そもそも、お前は人間だろう。ならば、敵だ」
平坂麻衣「プロトタイプだね、君は」
ニック「俺は、最新型だ」
平坂麻衣「違う、違う。考え方が古いって言っているんだ」
平坂麻衣「そもそも、君はこれからどうするつもりなんだい?」
平坂麻衣「塹壕にでも隠れて兵士をやり過ごしていたんだろうけど、行く当ても無いんじゃないか?」
ニック「・・・・・・・・・・・・」
  確かに、俺には目的地など無かった。ただ、この戦場跡を彷徨うだけだ。
  このままでは、いつかはバッテリー切れを起こしてしまう。
平坂麻衣「バッテリーを、気にしているね? 私の車に、おいでよ」
平坂麻衣「ここには、一通りの研究設備は揃っている。太陽光で発電も可能なんだよ」
ニック「それなら、あんたを殺して奪い取っても良いだろう」
平坂麻衣「残念。パスワードが分からないと、ここの設備は使えないよ」
ニック「ふん・・・・・・」
  銃を、下ろす。
  先程から様子を探っていたが、敵意は感じられなかった。
  それに、どうせ俺の未来は暗く閉ざされているのだから。
平坂麻衣「さあ、中に入りたまえ」
  彼女は先程のアンドロイドを背負うと、車の中まで運んで行った。

〇研究所の中枢
ニック「何だ・・・・・・これは・・・・・・」
  車の中は、想像を超える程の高度な研究施設となっていた。
  モニターには、見たことも無い街の景色が映し出されている。
平坂麻衣「お、気になるかい。それが」
ニック「これは、何だ。ゲームか何かなのか?」
平坂麻衣「データ世界。まだ人間は居ないけど、この中では動植物が暮らしているんだよ」
平坂麻衣「君の、持っているそれ。貸してくれないかな」
  彼女が指さしているのは、袋に入れたマイクロチップだ。
ニック「どうするつもりだ?」
平坂麻衣「いいから、いいから」
  奪い取るように袋を掴むと、それを機械に挿入した。
  すると、画面に人間の姿が映し出される。
ニック「人間・・・・・・いや、この姿は。まさか、アンドロイドが・・・・・・」
平坂麻衣「正解。このデータ世界には、アンドロイドのマイクロチップが読み込める」
平坂麻衣「彼らは、この世界で第二の人生が歩めるという訳だ。素敵だと、思わないかい?」
  アンドロイドは、きょろきょろと辺りを見回している。
  自分が置かれている状況を、まだ理解していないのだろう。
平坂麻衣「私はアンドロイドのマイクロチップを集めるために、この戦場跡に来た」
ニック「こんなことをして、あんたに何のメリットがあるんだ」
平坂麻衣「人類の愚かな行為に対する、せめてもの罪滅ぼしさ」
平坂麻衣「アンドロイドは、このデータ世界の中でなら自由に生きることが出来る」
ニック「そんなことを、俺たちが求めているとでも?」
平坂麻衣「求めているさ。ほら、画面を見てみなよ」
  画面の中には、いつの間にか何人ものアンドロイドが映し出されていた。
  彼らは、再会を喜び合うようにお互いの身体を抱きしめ合っている。
平坂麻衣「君も、私に協力してくれないか。マイクロチップを集めるのは、結構大変だから」
ニック「・・・・・・・・・・・・」
平坂麻衣「沈黙ということは、肯定だね。私は平坂麻衣、よろしく頼むよ」
ニック「俺は、ニックだ」
  それから俺は、麻衣のためにマイクロチップを集め始めた。
  いや、彼女の為では無い。アンドロイドの未来のためだ。
  モニターを見る。いつしか、データ世界は著しい発展を示し始めていた。
  アンドロイドは、皆幸せそうだ。
ニック「やはり、生き残りは俺だけのようだな」
ニック「そのアンドロイドは、復旧の目途が立たないのか?」
平坂麻衣「うん。身体機能に問題は無いのだけれど、肝心のマイクロチップがね」
  それは、初めに車に運び込んだアンドロイドだった。
  俺たちは何とか彼女を修理しようと考えていたが、復旧の見込みは薄いようだ。
平坂麻衣「・・・・・・何だ?」
  ふと、麻衣が眉間に皺を寄せる。
  そしてレーダーのような機械を見て、慌てて車のハンドルを握った。
平坂麻衣「ニック、何処か掴んでいて!」
ニック「なっ!?」
  急発進した車の背後から、銃撃の音が響き始める。
  まさか、兵士が俺たちの存在に気付いたのか?
平坂麻衣「くっ・・・・・・・・・・・・」
  どうやら、タイヤが銃撃でパンクしてしまったらしい。
  急停止した衝撃で麻衣は頭を打って、意識を失ってしまった。
ニック「おい、大丈夫か! おい!!」
  兵士が車に乗り込んできたのは、そのすぐ後だった。
  俺は為すすべも無く、銃を突きつけられる。
兵士「動くな。お前は、アンドロイドだな」
ニック「・・・・・・・・・・・・」
兵士「沈黙は、肯定とみなす」
  一発。俺の頭部を、銃弾が貫いた。
  マイクロチップが傷ついてしまったらしく、一部機能が使えない。
  その後も兵士は、車の中に置かれた機械を次々と破壊していった。
  そして、ついに兵士は彼女に銃を向ける。
ニック「待て、その子に手を出すな!」
兵士「貴様、まだ動けたのか!」

〇黒背景
  視界が急激に暗くなっていく。やがて、自身が何者なのかも分からなくなってきた。
  彼女は、無事だろうか。
  いや、そもそもマイクロチップが壊れているんだ。気にするのが、おかしい。
  俺は全てを諦めて、最後の静寂に身を任せることにした。
「何だ!? 貴様、動くな!!」

〇研究所の中枢
  失われていく、視界。
  だがその存在だけが、妙にくっきりと浮かび上がってくる。
  彼女は、銃を握り締めた。
兵士「ぐわぁああああああっ!!」
  刹那。響き渡る悲鳴。
  彼女は、俺たちが拾ったアンドロイドだ。
  だが、マイクロチップが破壊されていたはず。まともに、動けるはずは無い。
  記憶を維持する能力も無ければ、身体を動かすことも出来ないはずだ。
  やがて、人の気配が消え去った車の中で彼女は呟き始める。
アンドロイドの女性「ニック、麻衣、ニック、麻衣、ニック・・・・・・」
  それも束の間、彼女は役目を終えた様に機能を停止してしまう。

〇黒背景
  同時に、俺の視界も急激に暗闇に閉ざされた。

〇研究所の中枢
ニック「ここは・・・・・・どこだ・・・・・・?」
  目を開ける。頭が痛いし、何も考えられない。
  静かな室内で記憶を辿るが、一つとして思い出せる記憶は無かった。
ニック「あれは・・・・・・何だ」
  そんな中でも、俺は彼女の存在が気になった。
  壁にもたれかかるように倒れた彼女の姿を見て、俺は立ち上がる。
  そして彼女を背中に背負うと、荒野に向けて歩き出した。

〇荒地
  彼女が何者なのかも、自分が何者なのかも分からない。
  それでも、俺は彼女を置いていくことはしなかった。
  ひたすらに、歩き続ける。この先に待つものが地獄に他ならなくても、決してこの灯りだけは手放さないと誓って・・・・・・。

コメント

  • リーダビリティの高い作品です。ストーリーに余計な部分や中だるみがなく、最後まで一気に読みました。チップなしで動けるアンドロイドは何者なのか、ニックはどうなるのか、とにかく続きが気になります。

  • 世界観が凄くて魅了されました!!
    SF は得意ではないのですが
    こういった世界観のある作品に憧れますね🤗

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