高橋の心、高橋知らず

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修復の一撃(脚本)

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〇高級一戸建て
  それなりに高級な住宅の駐車場
  1台の乗用車に3人の姿はあった──
高橋 慎太郎「遅い」
高橋 慎太郎「これだから女は面倒臭いんだ」
高橋 慎太郎「父さん。無理して行く必要ないよ」
高橋 慎太郎「じいちゃんの言うことなんて無視すればいい」
高橋 晴夫「そうもいかない」
高橋 晴夫「親父が『外食でもしてこい』の一点張りなんだ」
高橋 晴夫「あれだけ凄まれたら、従う外ないだろう」
高橋 睦実「まったく・・・」
高橋 睦実「お義父さんの考えることはわからないわね。 『行かなければ、家に火をつける』なんて」
高橋 慎太郎「更年期障害って奴だ」
高橋 慎太郎「揃って文句あるなら、老人ホームに入れれば?」
高橋 晴夫「慎太郎、冗談でもそういうことは言うな」
高橋 晴夫「それと、すぐにゲームはやめなさい」
高橋 慎太郎「うるさい。いちいち父親みたいなこと言うなよ」
高橋 慎太郎「俺はランカーを維持するので忙しいんだ」
高橋 晴夫「・・・」
高橋 慎太郎「どうせ、亀裂の修復になるとか思ってんだろ」
高橋 慎太郎「こんなんじゃ無理に決まってるのにね」
高橋 睦実「まあ、細かい理由なんていいじゃない」
高橋 睦実「お義父さんがそう言うなら、そうする。 それでいいでしょう?」
高橋 晴夫「ああ・・・そうだな」
高橋 睦実「雨・・・強くなってきたわね」
高橋 薫「ごめーん。遅くなっちゃった!」
高橋 薫「メイクに時間かかっちゃって!」
高橋 薫「相変わらず、空気が平常運転だねー」
高橋 薫「慎太郎、何やってんの?」
高橋 慎太郎「何も変わってないし・・・」
高橋 晴夫「シートベルトは閉めたな? それじゃ、そろそろ出発するぞ?」
  アクセルを踏み込む晴夫
  直後、車は災難に見舞われる──

〇シックな玄関
  昨夜、倦怠感に襲われた家族は
  重なる様にリビングで眠っていた
高橋 晴夫「・・・はいはーい。誰ですか?」
高橋 晴夫「こんな朝から何の用なんだか、ったく」
ユキ「おはようございます! 薫さんのクラスメイトの栗原といいます」
ユキ「薫さん起きてますか?」
高橋 晴夫「起きてるか・・・? まあ、起きてるけど、どうかしたの?」
ユキ「薫さんと早朝ランニングの約束をしてたんです」
ユキ「まだ準備中なんですかね?」
高橋 晴夫「あーはいはい、そういやそうだったわ。 オッケー、すぐ準備するから待っててね」
  玄関を閉めて引き返そうとする中年男性
  男は、洗面所の鏡を見て目を丸くした
高橋 晴夫「え、何これ? どうなってんの?」
高橋 晴夫「鏡に映ってんのお父さんなんだけど?」
高橋 晴夫(薫)「ヤバイヤバイヤバイって! いつか見た映画じゃないんだからさ!」
高橋 晴夫(薫)「こうしちゃいられない!」
高橋 晴夫(薫)「ちょっと起きてってば! 私の体に入ってる誰かさん! ヤバイこと起きてるんだってば!」
高橋 薫「むぅ・・・朝から騒がしい奴だな。 庭に死体でも見つけたのか・・・?」
高橋 晴夫(薫)「寝惚けてる場合じゃないんだよ! こっち! 私の顔をちゃんと見て!」
高橋 薫(晴夫)「何故私が、目の前で取り乱しているのだ・・・」
  しばしの沈黙の後・・・二人は理解した
  二人の体が入れ替わっていることに──

〇お嬢様学校
高橋 薫(晴夫)「──なぁユキよ。ひとつ聞いてもいいか」
高橋 薫(晴夫)「TikTakとは、時計のブランドか何かなのか?」
ユキ「先から何言ってんの薫!」
ユキ「喋り方ずっと変だし、 今日はそのキャラで乗り切る気ー?」
高橋 薫(晴夫)「冗談を言ったことは一度もないのだが・・・」
高橋 薫(晴夫)「もしや、紳士服のブランドか?」
ユキ「てかさ、お腹空いたし購買行こ。 わたし、今日は多めに持ってきたんだよね」
高橋 薫(晴夫)「購買? それは構わないが、白飯はあるのか?」
高橋 薫(晴夫)「私はどうも、昼は白飯じゃないと済まないのだ」
ユキ「ご飯ってこと? お弁当は?」
高橋 薫(晴夫)「妻は料理が得意なはずなのだが、 今日に限って作れないとのことで」
ユキ「『妻』? 薫、ホント変だよ?」
高橋 薫(晴夫)「いや・・・」
ユキ「ほら、スペシャルコロネ買いに行こ! なんなら奢ってあげるから!」
ユキ「きっと疲れてるんだよ! 甘いもの食べた方がいいよ、薫は!」
高橋 薫(晴夫)「ならば、白飯を・・・」
高橋 薫(晴夫)「すまないユキ。先に行っててくれ。 ちょっと用事を思い出した」
ユキ「そう? じゃ、購買で待ってるね」
高橋 薫(晴夫)「おい、何をしている」
高橋 薫(晴夫)「無断欠勤は許さないぞ」
高橋 晴夫(薫)「お父さん変なことしてないよね?」
高橋 薫(晴夫)「自分の体が気になるか? まあ、気持ちはわからなくないが」
高橋 晴夫(薫)「で? してないよね?」
高橋 薫(晴夫)「愛娘の体だ。『変なこと』はしてない トイレには何度か行ったが」
高橋 晴夫(薫)「してんじゃん!」
高橋 晴夫(薫)「やめてよ! 少しは遠慮してって!」
高橋 薫(晴夫)「お前は私に漏らせと言うのか?」
高橋 晴夫(薫)「そうは言わないけどさ」
高橋 薫(晴夫)「なら、構わんだろう。お互い様だ」
高橋 薫(晴夫)「細かい話は後でゆっくりするとしよう」
高橋 晴夫(薫)「どうしようかな・・・」
高橋 晴夫(薫)「こういうときに限って時間が長く感じる・・・」
「ちょっと、そこのお父さん」
サツ「こんなところで何をやってるんですか?」
高橋 晴夫(薫)「いえ、私はただ様子を・・・」
サツ「様子・・・?」
高橋 晴夫(薫)「ぐっ」

〇住宅街の公園
  男はブランコに揺れていた
高橋 晴夫(薫)「泣けてくるよ・・・」
高橋 晴夫(薫)「私、何やってるんだろ」
高橋 薫(晴夫)「だらしのない奴だ」
高橋 薫(晴夫)「大の大人がそんなところに陣取ってたら、 子どもたちも逃げて当然だろう」
高橋 晴夫(薫)「おじさんて・・・こんなに窮屈なの?」
高橋 薫(晴夫)「何が言いたい?」
高橋 晴夫(薫)「オシャレができないんだけど!」
高橋 晴夫(薫)「私の生きがいと言ってもいいのに、 それができない!」
高橋 晴夫(薫)「それが、凄く辛いんだ・・・」
高橋 薫(晴夫)「これでも社内ではオシャレだと言われているが」
高橋 晴夫(薫)「・・・」
高橋 晴夫(薫)「はぁ・・・」
高橋 晴夫(薫)「さっき、あまりにも退屈だったから、 服屋に行ってみたんだ」
高橋 晴夫(薫)「でも、無理だった」
高橋 晴夫(薫)「女性客の視線が痛くて・・・」
高橋 薫(晴夫)「その見た目で行ったら当然だ」
高橋 薫(晴夫)「おい、弱い者いじめか?」
ワル「あん?」
高橋 薫(晴夫)「みっともない奴らだ」
高橋 薫(晴夫)「群れることでしか吠えられないのか?」
ワル「何こいつ? 誰?」
ワル「へぇ、オレたちに説教?」
ワル「風紀委員ってこと?」
ワル「ははっ、おもしれー!」
ワル「てか、結構可愛いじゃん」
ワル「そんなん言わないでさ、 よかったらオレらと遊ばね?」
高橋 薫(晴夫)「断る」
高橋 薫(晴夫)「私は下賎な奴らとは相容れない主義だ」
高橋 薫(晴夫)「さっさと失せろ、三下め」
「なっ・・・!」
高橋 晴夫(薫)「──ん?」
高橋 晴夫(薫)「あっ!」
高橋 晴夫(薫)「あぁもう! お父さんったら!」
ワル「言ってくれるじゃんこの子」
ワル「手ェ出しちゃう? ねぇ出しちゃう?」
ワル「こう見えてオレら紳士なんだけどなぁ ま、仕方ねーかなぁ」
高橋 薫(晴夫)「ふっ、笑わせ──」
高橋 晴夫(薫)「はい、そこまでー!」
高橋 晴夫(薫)「ごめんねー皆さん方」
高橋 晴夫(薫)「うちのお父さ──娘は、 常識がなっていないんだ」
ワル「今度は誰、あんた?」
高橋 晴夫(薫)「よーく躾けておくから、 今回は見逃してもらえないかな?」
ワル「見逃すっつーか、そっちが絡んで来たんだけど」
高橋 晴夫(薫)「じゃあ、何もないってことだから!」
高橋 晴夫(薫)「それじゃあね」

〇線路沿いの道
高橋 晴夫(薫)「無茶しないでよ」
高橋 晴夫(薫)「仲裁がなかったらどうするつもりだったの?」
高橋 薫(晴夫)「どうもしない」
高橋 薫(晴夫)「最悪組伏せるさ」
高橋 晴夫(薫)「あのね、お父さん」
高橋 晴夫(薫)「今の体は女なんだから、 思い通りに行くなんて大間違いなんだからね」
高橋 晴夫(薫)「待ってよ!」
高橋 晴夫(薫)「ホント、早く戻りたい・・・」

〇シックなリビング
高橋 薫(晴夫)「──さて、これからどうする?」
高橋 晴夫(薫)「どうするって、元に戻らないとダメでしょ?」
高橋 薫(晴夫)「また、みんなで雷に撃たれるのか?」
高橋 晴夫(薫)「・・・」
高橋 薫(晴夫)「薫、明日は『私』として会社に行くんだ。 これ以上、仕事を滞らせるわけにはいかない」
高橋 薫(晴夫)「安心しろ。頼りになる奴がいる。 困ったらそいつに聞けばいい」
高橋 薫(晴夫)「どの道順応するしかないんだ。 今は周囲にばれないように上手くやろう」
高橋 晴夫(薫)「うん、そうだね・・・」
高橋 薫(晴夫)「おかえり」
高橋 薫(晴夫)「これは?」
高橋 睦実「夕飯のカップラーメン」
高橋 睦実「たまにはいいでしょ」
高橋 晴夫(薫)「作ってくれないの?」
高橋 睦実「作ってくれって、子どもじゃあるまいし・・・」
高橋 薫(晴夫)「仕方ない。腹は満たそう」
高橋 晴夫(薫)「だね・・・」
  一時間後、晴夫と薫は自室に戻り──
  リビングには二人の姿があった
高橋 慎太郎「ねぇ、これからどうするの?」
高橋 慎太郎「・・・聞いてる? 重大なことなのよ?」
高橋 慎太郎「あなた、上手くやり過ごしたんでしょうね?」
高橋 睦実「適当に」
高橋 慎太郎「いい加減ね。 ママ友の関係を崩すようなことしないでよ」
高橋 睦実「返せよ。いいとこだったのに」
高橋 慎太郎「私の体でそういう言動は慎んでくれる? みっともないのよ」
高橋 睦実「お説教は聞きたくない」
高橋 睦実「なら、アドバイスしてよ。 この先の面倒な日々とどう向き合うのか」
高橋 慎太郎「佐藤さんは愚痴に付き合えばいい」
高橋 慎太郎「鈴木さんは甘い物の話」
高橋 慎太郎「田中さんはお子さんの話」
高橋 慎太郎「簡単でしょう?」
高橋 睦実「・・・やっぱり、あんたはそういう人だよ」
高橋 睦実「そうやって、人をモノとしか見ていない」
高橋 睦実「で、そういうあんたはどうだった?」
高橋 睦実「久しぶりの学校は楽しかった? 何も問題はなかった?」
高橋 慎太郎「・・・こっちは、何もなかった」
高橋 慎太郎「話しかけてきたのは先生だけだった」
高橋 睦実「こう見えて文武両道なんだ」
高橋 睦実「一人でも上手くやれるもんさ」
高橋 睦実「まあ、気楽に過ごしなよ」
高橋 睦実(慎太郎)「母さんに心配される謂れはない」
高橋 睦実(慎太郎)「俺は一人でも平気だ」
高橋 睦実(慎太郎)「みんなにはばらさないでよね」
高橋 慎太郎(睦実)「慎太郎・・・」
高橋 慎太郎(睦実)「ええ、そうね・・・」

〇大きな箪笥のある和室
蓮司「ん? なんだろうな?」
蓮司「面白いことが起きている気がするわい」
  続く──

コメント

  • ストーリーを読んだ後で改めてタイトルを見ると、体の入れ替わりだけでなく「親の心子知らず」「子の心親知らず」にもかけていることが分かって「うまいな〜」と感心してしまいました。

  • 自分の体で自分を表現できないってこれほどストレスなことはないのだろうなあと思いながら読みました。親子だからこそ、自身の知られたくない部分もありますよね。

  • 2組同時に入れ替わるとは!父と長女は少し相手に対して理解を示し始めた感じはするけど、母と息子はまだまだって感じですね。これから先が楽しみです。おじいさんの策略でこうなってるとするとおじいさんすごい!!

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