やる気のない男、異世界を放浪する

jloo(ジロー)

やる気のない男(脚本)

やる気のない男、異世界を放浪する

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やる気のない男、異世界を放浪する
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〇怪しげな酒場
冒険者「ジーク、ここに座れよ。一緒に酒でも飲んで、話をしようぜ」
ジーク「いや、やめておくよ」
冒険者「ち、つれねぇな。もう少し愛想良くしろってんだよ」
ジーク「悪いな。あいにく、酒が飲めないんだ」
冒険者「俺と、飲みたくないだけだろうが」
  ギルドに酒場が併設されているお陰で、こういう奴に絡まれる。
  俺は仕事をこなしたいだけなのに、面倒なことこの上ない。
  ただ、こういった酒の付き合いを拒み続けていると段々と居場所が無くなって来る訳で。
  現に周囲の視線は冷たく、陰口も聞こえていた。
ギルドの受付嬢「いらっしゃい、ジーク。今日も、薬草摘みの依頼?」
ジーク「ああ、頼む」
ギルドの受付嬢「たまには、もう少し難しい依頼を受けてみても良いのに」
ギルドの受付嬢「貴方の実力だったら、ほら。こういう依頼なんかも・・・・・・」
ジーク「いつものやつで、頼むよ」
ギルドの受付嬢「はあ、分かったわ」
  モンスター討伐のようなリスクの高い依頼は、当然報酬も高い。
  だが俺は、食い扶持に困らなければ何でも良い。
  そんな依頼は、自己承認欲求の高い他の冒険者に任せれば良いのだ。
リズ「ちょっと、待ったぁ!」
ジーク「リズとシオンか・・・・・・何の用だ」
リズ「いつまでも、そんなしょぼい依頼を受けていて良いの?」
シオン「そうですよ。たまには、私達と一緒に依頼を受けましょうよ」
ジーク「あ、こら! 勝手に・・・・・・」
  シオンが、俺の持っていた依頼書を剥ぎ取る。そして、高難易度依頼に書き換えてしまった。
リズ「さあ、名前もサインしてっと・・・・・・これで、私たちはパーティーよ! よろしくね、ジーク」
ジーク「・・・・・・後悔するぞ」
シオン「ジークさんの【予測】スキルを使えば、怖いものなんて無いじゃないですか」
ジーク「そんなことは・・・・・・無い」
  一部の人間は、生まれつきスキルと呼ばれる特殊能力を持って生まれてくる。俺も、その一人だ。
  【予測】は、未来を事前に予測出来るというスキル。
  戦闘においては、非常に役に立つ。だが、ある問題も抱えている。
ジーク「どうあがいても、変えられない未来はある。無数にある可能性のどれもが、望んだ結果に向かわないことだってあるんだ」
シオン「またまた~、謙遜しちゃって」
リズ「とにかく、森に向かいましょう。ミノタウロスは、そこに居るはずよ」
ジーク「この依頼は、間違いなく失敗する。何で、それが分からないんだ」

〇薄暗い谷底
リズ「シオン!!」
  俺たちは、高難易度依頼であるミノタウロス討伐を果たすために森の奥深くまで来ていた。
  しかし戦闘中にシオンが沼地に足を取られて孤立してしまい、窮地に立たされる。
リズ「ジーク、【予測】スキルを使って! シオンを、助けて!」
ジーク「そんなもの、依頼を受ける前からやっている。だが、無理だ」
リズ「どうして、早くしないとシオンが!」
  瞬間、ミノタウロスの棍棒によってシオンの身体が大きく吹き飛ばされた。
  彼女は、木に強く打ち付けられ意識を失ってしまう。
リズ「く、シオン!」
  そこに駆けつけてきたリズの剣が、ミノタウロスを断ち切った。
リズ「ジーク・・・・・・どうして、シオンを助けに向かわなかったの!? 貴方は、シオンのすぐ近くに居たじゃない!」
ジーク「俺が助けに行っても、どの道攻撃を受けていた」
ジーク「それだけじゃ無い。この依頼でシオンが負傷する未来は、何をしても変わらなかったんだ。これでも、まだましな方さ」
リズ「【予測】スキルで分かった訳? それでも、助けに行くべきでしょう!?」
ジーク「どういう、意味だ? 俺は、最善を尽くしたつもりだが」
ジーク「そもそも、こんな高難易度の依頼を受けたことが間違いで・・・・・・」
リズ「うるさい! 貴方の、その涼しい顔がむかつくのよ。もう、私たちの前に顔を見せないで!」
  そう言って、リズはシオンを抱えて街に戻って行ってしまった。
  だから、後悔すると言ったのに。
  俺だって、助けたかったさ。だけどどんなに可能性を探っても、一つの抜け道も見つからなかったんだ。
ジーク「もう、街には戻れないかもな」
  リズは、あのギルドの看板だ。
  彼女が少しでも悪い噂を流せば、もう二度と俺に仕事が回ってくることは無いだろう。
  そうなれば、俺は生活が出来なくなってしまう。
ジーク「仕方ない、元々あの街に俺の居場所は無い。別の街に、向かうとするか」
  近くの街と言えば、イザヴェル国か。あそこには、大きなダンジョンがあるから稼ぎにも困らないはずだ。
ジーク「だが・・・・・・」

〇木の上
  空を、見上げる。
  俺は、まだ誰にも話した事の無い秘密を一つ隠し持っていた。
  決して、打ち明ける事の出来ない秘密。これを明かしてしまえば、多くの人間を傷つけることになるだろう。
  だから、俺は隠し続ける。その時が、来るまでは。

〇荒野
  俺はイザヴェル国に移動するために、荒れ地を進んでいた。
  彼女と出会ったのは、必然だった。
  道を見失わないために、定期的に【予測】スキルで未来を確認していたからだ。
ジーク「そこの、お前」
セフィル「な、何ですか? あなたは、一体?」
ジーク「この先は、危険だ。道を、変えろ」
セフィル「この先に、危険なモンスターがいるとか?」
ジーク「そうだ。怪我をしたくなければ、回り道をするんだな」
セフィル「どうして、そんなことが分かるのですか?」
ジーク「【予測】スキルを使った。このスキルを使えば、未来を見通すことが出来る」
セフィル「へえ、そんなスキルがあるんですね。初めて、知りました」
ジーク「とにかく、道を変えろ。分かったな」
  それだけ声を掛けると、俺は再び歩き出す。
  だがすぐに背後から、慌てるような声が聞こえて来た。
セフィル「ちょ、ちょっと待って下さい! 私は、この先にある街に行きたいのですが。もしかして、あなたも同じ行先なのでは?」
ジーク「イザヴェル国のことか?」
セフィル「はい! やっぱり、同じなんだ。もし良ければ、街までご一緒してもよろしいでしょうか」
ジーク「まあ、良いが」
セフィル「ありがとうございます。では、行きましょう!」
ジーク「その前に、名前を聞こうか。俺は、ジークだ」
セフィル「私は、セフィルよ」
ジーク「それと、その剣は? 装飾を見ると、普通の剣では無いようだが」
セフィル「ああ、これですか・・・・・・一応、騎士だったころの名残でして」
ジーク「今は、違うのか?」
セフィル「はい。私は追放騎士で、今は無職です。ちょっと、へまをやらかしてしまいまして」
ジーク「そうか。それで、隣街まで職探しか?」
セフィル「いえ。イザヴェル国は故郷なので、行く当ても無いから帰ろうかと思っていたところなんです」
ジーク「まあ、元騎士なら足手纏いになることも無いだろう。じゃあ、行くか」
  この先には、いくつもの難所が待ち構えている。彼女の存在は、頼りになるだろう。
  俺たちは、次の目的地である洞窟を潜り抜けるために覚悟を決めて歩き出した。

〇岩の洞窟
ジーク「セフィル、前方にモンスターだ。数は三体。ミノタウロスだな」
セフィル「分かりました。ここは私が引き受けます」
ジーク「俺が、裏に回るまで何とか耐えてくれ」
セフィル「お任せください、丈夫なのが取り柄なんです」
  セフィルは、本当に頼りになった。
  【予測】スキルをいくら使っても、彼女が死ぬ未来だけは見えることは無い。
ジーク「はぁああああああっ!」
  剣の一閃で、ミノタウロスたちは真っ二つになる。
ジーク「セフィル、助かった」
セフィル「こちらこそ。私も、ジークさんだけが頼りです」
  彼女は、微笑みかける。だが、俺の心中は穏やかでは無かった。
ジーク「セフィル、聞いてくれるか」
セフィル「はい、何でしょう」
  俺は、意を決して秘密を打ち明ける。
ジーク「実は、世界は三日後に滅びる」
セフィル「はい? え、それはどういうことでしょう?」
ジーク「【予測】スキルのことは、話しただろう。実は、それで世界の未来を予測してみたことがあるんだ」
セフィル「どうして、世界は滅びるんですか」
ジーク「魔王が、動き出すからだ。これまで大きな動きを見せてこなかったが、いよいよ本格的に活動を始めるようだ」
セフィル「それは、どうにもならないことなのでしょうか?」
ジーク「何百回も、何千回も試した。誰も傷つかない未来を目指して、色々行動も起こしてみた」
ジーク「だけど、駄目だった。だからこれまで、運命に身を委ねて俺のせいじゃないって言い聞かせて生きてきたんだ」
セフィル「ジークさん・・・・・・」
ジーク「分かったか。セフィルも最後に思い残したことの無いように、自分の好きなことをしろよ」
  俺はそれだけ言うと、立ち去ろうとする。
セフィル「待って下さい!」
  セフィルが、呼び止める。
セフィル「まだ、諦めるのは早いです!」
ジーク「いや、でも既に未来は決まっていて・・・・・・あらゆる予測をしても、世界が滅びる未来は変わらないんだ」
セフィル「それは、ジークさんが行動を起こした場合に限った話ですよね」
ジーク「何?」
セフィル「たまには、他人の力を信じてみてください。貴方は、一人じゃないから」
セフィル「イザヴェル国に、急ぎましょう。今ならまだ、辿り着けるはずです」
  セフィルは、走り出す。
  俺は、何が何やら分からないまま彼女の背中を追いかけた。

〇豪華な王宮
王「良く戻った、セフィル。ようやく、勇者としての使命を果たす気になったか」
セフィル「はい、陛下。時間がありません、すぐに城の全兵士を魔王城に向けて出陣させてください」
ジーク「おい、セフィル。どういうことだ。お前は、追放騎士じゃ無かったのか?」
セフィル「ごめんなさい。騎士を追放されたのは本当だけど、私は勇者なの」
セフィル「あなたに出会うまでは、魔王を倒す使命なんてどうでも良いと思っていた。だから、騎士を目指したの」
セフィル「だって、何千年も魔王は沈黙を続けている。今、動き出す可能性なんて考えていなかったから」
ジーク「そうだったのか・・・・・・」
セフィル「陛下、ここにいる男は世界の終末を予言しました。三日後、魔王は動き出します」
王「何だと、それは本当か?」
セフィル「はい。この男の能力は、私自身の目で確かめました」
王「成るほど、スキルか。分かった、全兵士を魔王城に向かわせよう。セフィル、お前もな」
セフィル「勇者としての使命を、今こそ果たして見せます」
ジーク「セフィル、ちょっと良いか」
セフィル「何、ジーク」
ジーク「俺も、同行させてもらえないか? 役に立てるかは、分からないけど」
セフィル「もちろん。本当に、一緒に来てくれるの?」
ジーク「ああ、俺もこの先の未来を見てみたい。今度は、俺自身の目で」
王「決まりだな。では、すぐに出立の準備を!」
セフィル「はっ!」

〇荒野
  こうして俺たちは、魔王城に向かうことになった。
  馬車を使うとは言え、道のりは厳しかった。
  だけど、今は世界の存亡の危機だ。御者も、必死で馬車を走らせる。
  二回目に日が昇りかけた頃、ようやく俺たちは魔王城の城内まで辿り着いた。

〇神殿の門
魔王「このタイミングで来たか、勇者よ。まるで、未来でも見通したようだな」
セフィル「あなたが、これから世界を滅ぼそうと画策していることは知っている」
魔王「戦う準備は、してきたようだな」
  魔王が、すっと立ち上がる。
  それからは、一瞬だった。激しい戦闘が、繰り広げられる。
ジーク「俺に、出来ること・・・・・・か」
  【予測】スキルを、使ってみる。だが、セフィルが勝つ未来は一つも見えなかった。
  でも、それは俺自身の可能性に過ぎない。セフィルを信じれば、必ず道は開くことが出来るはずだ。
ジーク「セフィル! その攻撃は囮だ。次撃に備えろ!」
セフィル「了解!」
魔王「ぐ・・・・・・あの小僧が、まさか・・・・・・」
セフィル「ジークの元には、行かせないわよ! あなたの相手は、私なんだから!」
魔王「ぐぉおおおおおおおおおおおお!!」
  俺に気を取られた魔王は、腹部にセフィルの剣を受けて倒れ込んだ。
  静寂。だが、それも一瞬。魔王城は、兵士たちの歓喜の声に包まれた。
兵士「うぉおおおおおおおおおおおお!! 千年以上の悲願が、ようやく!!」
兵士「勇者様、万歳!」
  歓声の中、セフィルが俺の元へと歩み寄ってくる。
  そして、手を差し出した。俺は、その手を強く握り返す。
セフィル「人間は、それぞれが影響を与え合って生きているんだよ」
セフィル「運命は、一つじゃないから。人間が集まるだけ、未来は可能性を広げるんだ」
ジーク「俺は、一人で何もかもうまくやろうと考えすぎていたのかもな」
セフィル「うん、これからは一緒に歩もう。輝かしい、未来のために!」
  運命は、姿を変えた。
  これまでは、抗いようの無い未来だと思っていた。
  だが今の俺には、希望への道が広がっている。
  怯えずに、進もう。この手に伝わる温もりを信じて、俺は前を向き立ち上がった。

コメント

  • 未来が分かったら楽勝かと思いきや、自分の力ではどうにも変えられない場合は絶望してやる気を失ってしまうんだ。ジークがセフィルと出会えて良かった。「人間が集まるだけ未来は可能性を広げる」っていい言葉ですね。

  • 私達の人生ってどういう出会いをするかによって、その運命も大きく変わってくるものだなあとあらためてかんがえさせられました。同時に人の意見や考えを柔和に聞き入れる能力も大事ですね。

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