エピソード1 兄妹はまた旅立つ(脚本)
〇けもの道
グラン・グリラ大陸、ウェンネイル共和国北東、フィサート村。
村はずれの森。
ゼアード・ラバス「鹿一匹に猪一匹。これなら村の人たちも言い値で買ってくれるかな」
フィサートの村人A「いやー、ゼアードがいると狩りが楽で助かるよ」
フィサートの村人B「ホント!いきなり村に来て、仕事をくれ、なんて言うから怪しんだもんだけど、お前けっこういいやつだよな!剣の腕も立つし」
ゼアード・ラバス「あ、はは。みんなが助かってるなら・・・うん、なによりだよ」
フィサートの村人A「もう一匹くらい、狩っておきたいところだな。少し奥の方まで行こうぜ」
ガサガサ・・・
フィサートの村人B「ん?なんの音だ?」
ゼアード・ラバス「この感じは!みんな逃げろ!」
静森の大蜘蛛「フゥゥゥゥ、シャァァァァァ!」
フィサートの村人A「うわあああっ!」
フィサートの村人B「ま、魔獣だあぁ!?」
ゼアード・ラバス「二人とも・・・」
フィサートの村人A「ぜ、ゼアード!助けてくれ!魔獣になんか食われたくねぇ!」
フィサートの村人B「村で一番お前が強いんだ!なんとかしてくれよぉ!」
ゼアード・ラバス「・・・」
ゼアード・ラバス「二人とも、早く逃げるんだ。俺がなんとかするから」
フィサートの村人A「あ、ああ!」
フィサートの村人B「頼んだぞゼアード!」
ゼアード・ラバス「モチベーション下がるよな。こういうの」
静森の大蜘蛛「フシャアアアアア!」
ゼアード・ラバス「よしっ!やるか!」
ゼアードは腰の剣を抜き、魔獣に対峙した。
ゼアード・ラバス「たあぁ!」
静森の大蜘蛛「シュゥゥゥ・・・」
静森の大蜘蛛「? シャァァァ・・・」
ゼアード・ラバス「固い!やっぱ、剣だけじゃダメか!」
静森の大蜘蛛「シャァァァァァッ!」
ゼアード・ラバス「がっ!?」
蜘蛛の魔獣の爪が、ゼアードの右腕をかすめ、流れた血が剣に滴った。
ゼアード・ラバス「っ!やるしかっ!」
ゼアードは血の滴る剣を正中に構えると、血が剣に纏わりつき、刀身を赤黒く染めた。
ゼアード・ラバス「秘剣術、血刀・・・」
ゼアード・ラバス「「驟雨」!」
ゼアードの血が、幾本もの槍となって、剣から放たれる!
静森の大蜘蛛「ギシャアアァァァ・・・」
ゼアード・ラバス「はあ、はあ・・・」
フィサートの村人A「おい、ゼアード。なんだよ、今の?」
ゼアード・ラバス「! 二人とも、逃げたんじゃ?!」
フィサートの村人B「お前・・・「ヘレスィ」なのか?」
ゼアード・ラバス「っ!」
フィサートの村人B「自分の血を武器にする魔術なんて、天使が与えるものにはない!お前ヘレスィなんだろ!人工的に魔術を埋め込まれた人間兵器!」
フィサートの村人A「俺たちを欺いて、村で暮らしてたんだな!このことは村長に伝えさせてもらう!」
ゼアード・ラバス「・・・」
〇暖炉のある小屋
ゼアードの仮屋
ゼアード・ラバス「・・・」
エフィル・ラバス「あっ、お兄ちゃん、おかえり!狩りはどうだった?」
ゼアード・ラバス「ああ、エフィ、ただいま」
エフィル・ラバス「? どうしたのお兄ちゃん?」
ゼアード・ラバス「・・・ すまない、エフィ。この村には、もういられない」
エフィル・ラバス「・・・秘剣術、使ったの?」
ゼアード・ラバス「ああ、それで村の人にヘレスィだって、知られてしまって・・・」
エフィル・ラバス「・・・」
エフィル・ラバス「うん!お兄ちゃんのことだし、村の人たちを助けるために使ったんでしょ?だったらしょうがないよ!」
エフィル・ラバス「でも、そっか。この村穏やかで好きだったから、もうちょっと長く居たかったかなー、あはは」
ゼアード・ラバス「エフィ、ごめんな」
エフィル・ラバス「謝んないでよ。私たち、ヘレスィってだけで、なにも悪くないんだから」
〇村の眺望
次の日の早朝。
フィサート村の外につながる道程。
フィサートの村長「わかってくれよ。 村の連中は昨日の雰囲気じゃ、ヘレスィを追い出すのに躊躇がない。村人の意思を重んじたいんだ」
ゼアード・ラバス「ええ。 こうして村の人たちと会わないようにしてもらえるだけありがたいです」
フィサートの村長「それとこれも持ってけ。昨日の狩りの駄賃だ」
ゼアード・ラバス「えっ!いいんですか?」
エフィル・ラバス「それも、こんなにいっぱい!1000コリンは入ってるよ!」
フィサートの村長「してもらった仕事に対して対価を払って、なにが悪い」
フィサートの村長「俺は村長としてな、道理ってもんを通すようにしてんだ。 それだけだ」
ゼアード・ラバス「村長・・・」
エフィル・ラバス「ありがとう、村長!」
フィサートの村長「早く行け。村の連中が起きてくる前にな」
エフィル・ラバス「はい!」
ゼアード・ラバス「お世話に、なりました!」
〇外国の田舎町
フィサート村につづく街道。
ゼアード・ラバス「じゃ、いつも通り!」
エフィル・ラバス「馬車をヒッチハイクだね! 今度はどこまで行くの?」
ゼアード・ラバス「村長のおかげで先立つものはできた。 1000コリンもあれば、都市部でも仕事を見つけるまで暮らしていけるはずだ」
ゼアード・ラバス「だから目指すのは、首都レザーフだ!」
エフィル・ラバス「本格的に「命の天使」の情報を集めるんだね?」
ゼアード・ラバス「ああ。命の天使に会って、俺たちの「命を使う魔術」を取り除いてもらう」
エフィル・ラバス「そうすれば、私たちは普通の人間になる。もう差別されることもなくなる!」
エフィル・ラバス「頑張ろう、お兄ちゃん!」
ゼアード・ラバス「おう!」
二人が「レザーフまで」と書かれた紙を掲げてから、30分ほど。
馬車の男「よう、レザーフまでか!俺もちょうどそこにいるハニィたちに会いに行くんだ!俺の相棒なら三日で山を越えられるぜぇ!」
馬車の男「あんちゃん乗ってきな!彼女ちゃんもな!」
ゼアード・ラバス(声でかっ)
エフィル・ラバス「か、かのっ!?」
ゼアード・ラバス「ありがとうございます。あと俺たち兄妹です」
馬車の男「おぉう?そういえば髪と眼の色が同じかー!そいつは悪かったぁ!」
馬車の男「後ろの荷台に乗りなぁ!ハニィたちへのプレゼントがあるから、足の踏み場に気をつけてな!」
ゼアード・ラバス「は、はい。 行くぞ、エフィ」
エフィル・ラバス「彼女・・・彼女かぁ・・・えへへ」
ゼアード・ラバス「? エフィ?」
エフィル・ラバス「えっ?!わ、私なにも考えてないよ!」
ゼアード・ラバス「いや、なにボーッとしてるんだ。 せっかく乗せてもらえるんだから、早くしろって」
エフィル・ラバス「そ、そうだね、ごめんごめん」
〇荷馬車の中
馬車の男「少し狭いが、我慢して乗ってくれよ!」
ゼアード・ラバス「ありがとうございます」
馬車の男「おう!」
エフィル・ラバス「お兄ちゃん」
ゼアード・ラバス「ん?」
エフィル・ラバス「命の天使、絶対見つけようね!」
ゼアード・ラバス「ああ!」
ガタンッ、と馬車が動きだし、二人のからだを揺らした。
村人を助けてあげたのにヘレスィだと差別を受けるなんて理不尽だなあ。高度な魔術が使えるのに移動手段は昔ながらのヒッチハイクなところが雰囲気があっていいですね。
否応無しに村を後にする兄弟達に対し、村長がとったふるまいに心温まりました。2人の持つ良心が又良い出会いを招き、引いては目的の達成になることを願いたいです。