ライバル

ゆでたま男

1(脚本)

ライバル

ゆでたま男

今すぐ読む

ライバル
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇田舎町の通り(看板あり)
  午後2時、コンビニからの帰り道。
  歩道には一生を終えたセミが転がっている。
  明日は、最後の甲子園だ。
  だが、宮本には、まったくといっていいほど無関係だった。
  三年間で、試合に出たのは一度だけ。しかも弱小チームとの練習試合のみ。
  高校生活はこれといって部活の思い出などないまま終わりそうだ。
  突然電話が鳴った。相手は、水島だ。小学生の時からの付き合いで、昔はよく一緒に野球をして遊んだ仲だった。
  だが、いつのころからか差が開き、水島は同じ野球部のエースピッチャーとなっていた。
  宮本は、疑問な声で電話に出た。
宮本「もしもし、なんだよ」
  「お前、暇だろ」
  なんと不躾なことをと思ったが、確かに暇を持て余してはいた。
宮本「ああ、まあな」
  「今からグローブ持って西波公園横のグラウンドにこいよ」
宮本「なんだよ急に」
  「いいから、わかったな」
  電話が一方的に切られた。
宮本「なんだ、あいつ」
  家に着くと、しぶしぶ、宮本はグラウンドに向かった。

〇グラウンドの隅
  グラウンドには、水島は、すでに来ていた。
宮本「どうしたんだよ、急に呼び出して」
水島「練習するんだよ」
宮本「練習?お前、こんなことしてるひまないだろ、明日は試合なんだから、体を休めないと」
  水島は、グローブをはめて、ボールを投げてきた。
宮本「おい、聞いてんのか?」
水島「お前だって試合だろ」
宮本「俺は、たんなる補欠だ」
  ボールを投げ返す。
水島「何で補欠やってんだよ」
宮本「下手だからに決まってんだろ」
水島「違うだろ。昔は、お前のが上手かった。お前、あの時わざとケガをした」
  あの時とは、おそらく中学生の時の話だろう。
  少年野球の地方大会を勝ぬいて、全国大会に出場を決めていた。
  今とは逆で、宮本はエースピッチャーで、水島は補欠だったのだ。誰よりも練習に打ち込んでいた水島を、宮本は知っていた。
  将来の夢をプロ野球選手と決めていたことも。それに比べて宮本は野球にそれほど情熱を持っていなかった。
  たまたま幼い頃から野球をしていて、たまたま良い成績を出しただけだった。
  そんな自分より、水島の方がふさわしいと、宮本には思えて仕方なかったのだ。
  その大会、水島の活躍でチームは優勝した。
水島「俺の代わりができるのは、お前しかいないんだよ」
宮本「何言ってんだよ」
  水島は距離をとってしゃがんだ。
  宮本は、ボールをしばし見つめてから、深呼吸を一つして力の限り投げた。
  ボールは鋭く空気を切り裂き、水島のグローブに収まった。
水島「それだよ、その球。昔と何にも変わってないな。明日は頼むぞ」
宮本「それはこっちのセリフだろ」
水島「じゃ、帰るわ」
  水島はボールを投げ返して、背を向けた。
宮本「おい、このボールは」
水島「そのボールはお前にやるよ」
宮本「いらねーよ、こんなボール」
  宮本はボールをグローブに投げ込んだ。

〇シックなリビング
  夕方、家にかえると、電話を片手に母親が声をかけてきた。
母「あんたどこにいってたの?先生から電話よ」
宮本「先生?なんだろう」
母「ほら、早く」
  受話器を受け取った。
  「おお、宮本か。実はな、水島が亡くなった」
  宮本は目を丸くした。
宮本「いつですか?」
  「昼頃だそうだ。子供を助けようとして、車にひかれたらしい」
宮本「そんなはずないですよ」
  「信じられないのは分るが、受け入れるより仕方ないんだ。お前に投げてもらうことになるから。水島のぶんまで頼むぞ」
宮本「あ、はい」
  電話を切った。

〇男の子の一人部屋
  自分の部屋に入って、ベッドにあおむけになると、涙があふれ出した。
宮本「水島、お前の気持ちは受け取った。絶対無だにはしない」
  ボールを強く握りしめた。
  完

コメント

  • ライバルのためを思ってヒーローの立場を譲っても、ライバルであればこそ、相手にとってはそれが心のしこりになる場合もあるでしょうね。水島が投げた最後のボール(思い)が宮本の心に間に合って届いてよかったです。

  • 人は本能的に自分の死期を予知するものなんだなあと感慨深くなりました。水島君は宮本君に大切な想いを告げられたことだけは悔いなく、空から彼の活躍を見守っているでしょうね。

  • 切ないお話です。
    自分の経験でもありますが、大切に思っている人こそ失ってから気づくこともありますよね。
    それが自分の力や糧となって、強く生きてほしいです。

成分キーワード

ページTOPへ