[1](脚本)
〇黒
どうやら、オレは"変"らしい────
〇学校の校舎
〇教室
─── 昼休み ────
???「・・・・・・」
???(・・・また、あの香りがする)
???(どこからしてるんだろ・・・?)
???「平良(たいら)?」
???「メシ、食わないのか?」
平良 (たいら)「・・・・・・」
???「・・・聞いてないだろ、お前」
平良 (たいら)「知史(さとし)」
平良 (たいら)「また、香りがする」
知史 (さとし)「は?」
知史 (さとし)「・・・・・・」
知史 (さとし)「・・・ふたつほどツッコんでいいか」
知史 (さとし)「香りってなんだ またってなんだ」
平良 (たいら)「・・・うん、そうだな 分かりにくかったな」
平良 (たいら)「香りがするんだ」
平良 (たいら)「前にも何度かした香りで、オレは花の香りじゃないかと思ってる」
平良 (たいら)「・・・よく分からないけど」
知史 (さとし)「お前、今ので分からせるつもりか! 俺の方が分からんわ」
平良 (たいら)「・・・分かんないか?」
知史 (さとし)「分かるヤツがいたらここに連れて来い」
平良 (たいら)「・・・そうか・・・」
平良 (たいら)「・・・・・・」
平良 (たいら)「だけどな、知史 オレは事実を言ってるだけだし、どうしてかなんて────」
平良 (たいら)「!」
”オレが知りたい”と続けるつもりだった平良の言葉は、驚きに遮られる。
平良 (たいら)(・・・香りが、近づいてきてる?)
平良 (たいら)「・・・・・・」
平良 (たいら)(香りが動いて、こっちに───来てる?)
知史 (さとし)「おい、平良」
知史 (さとし)「・・・お前、大丈夫か」
知史 (さとし)「平良!?」
急に席を立った平良の動きを、知史は目を丸くして追った。
平良 (たいら)「オレのことは気にしないでいい 食べててくれ」
知史 (さとし)「・・・・・・」
知史 (さとし)「・・・っとに、相変わらずなヤツ・・・」
戸惑いながらも知史は放置された平良の弁当にフタをしてやる。
それから、知史は何事もなかったかのように机の上に置いてあった雑誌を広げ、昼食を再開させた。
”幼馴染みの腐れ縁”は知っている。
喜多川(きたがわ)平良は昔から”ああいう”ヤツなのだ────。
〇まっすぐの廊下
香りの元を捜す為、平良は目を閉じてゆっくりと深呼吸してみる。
平良 (たいら)(・・・真っ直ぐ)
迷わずそう判断し、平良は歩き出した。
〇学校の校舎
─── 始まりは5日前。
〇渡り廊下
渡り廊下を歩いていた時に、突然、甘い香りがすることに気がついた。
その時は何かの花の匂いだろうかと思った程度で、特に気にすることもなく───
けれど、それ以降、平良は時折その香りを感じるようになったのだ。
〇昔ながらの一軒家
学校から離れてしまえば香ることはない。
〇教室
その為、最初はクラスメイトか隣りのクラスあたりの女の子が香水でもつけているのだろうかと思っていた。
だが、そうなら香りが全くしない時間の方が圧倒的に長い理由が分からない。
──── そして3日目。
平良はそもそもそんなことよりももっと重要な問題があることに気がついた。
ほぼ1日中、学校では行動を共にしている知史をはじめ、他の誰もがその香りのことを全く気にしていない ───。
風紀にうるさく小言が多いことで有名な教師も、この香りには無反応だった。
誰も気にしていない。
いや、おそらく ─── ”誰も感じていない”のだろう。
そうして、平良は思ったのだ。
どうやら、オレは"変"らしい────
〇黒
〇教室
知史 (さとし)「香りってなんだ」
〇黒
〇まっすぐの廊下
平良 (たいら)(やっぱり、知史には分からないんだな)
平良 (たいら)(なんでオレだけ・・・?)
〇黒
〇教室
同級生「喜多川って、変なの」
同級生「変わってるなぁ、お前」
小さな頃から、よく言われていた。
今でこそ良く言えばマイペースなのだと思うが、昔は何がおかしいのかも分からず、
そう言われることに何も感じないわけではなかったけれど ───
知史 (さとし)「お前、行くなら行くって言えよ」
知史 (さとし)「いきなりだと分からないだろ!」
平良 (たいら)「ごめんね ・・・楽しくて」
知史 (さとし)「なんだよそれ 変なやつ」
平良 (たいら)「・・・・・・」
知史 (さとし)「行こうぜ!」
平良 (たいら)「!」
平良 (たいら)「うん!」
それでも一緒に笑ってくれる友達がいる。
どこか人とズレているのかもしれないが、平良にはそれで十分だった。
〇黒
〇まっすぐの廊下
平良 (たいら)(やっぱり、近づいてきてる・・・)
こちらが近づいていってるから、だけではおそらくない。
香りも動いている ───。
平良 (たいら)(この香り、やっぱり花・・・か?)
香りを感じるようになってから、一度、通学路の途中にある花屋に立ち寄ったことがあった。
そこでいくつか花の香りを嗅いでみたのだが、同じだと思えるものはなく ─── けれど、どうにも花のイメージが離れない。
何度か嗅ぐうちに、誰かがつけている香水などではないと妙に確信して、それからはずっと花のイメージだ。
間違いなく甘いのに、濃過ぎずどこか爽やかで、嗅いでいると心地が良い香り。
そんな香りを放つ花。
平良 (たいら)(どんな花なんだろう?)
哀しいかな、平良の想像力では具体的なイメージは何も浮かばない。
漠然と、ピンクや赤色の花びらだろうかと思う程度だ。
それどころか、今は"動く花"としておかしな想像までしてしまう。
平良 (たいら)「──── !!」
平良 (たいら)(・・・今までで、一番、強い香り・・・)
平良 (たいら)(─── 青い花)
平良 (たいら)(甘い香りの、綺麗な花 ────)
???「─── それでね ───」
???「─── リンはさぁ ───」
その子は友達と楽しそうに喋りながら、平良の横を通って行ってしまう。
通り過ぎた時に、視界の端に花が舞った。
甘い香りが、強く残される。
平良 (たいら)(─── あの子なんだ)
これまでに同じクラスになったことはない、顔も知らない女の子だった。
同学年なのはリボンの色で確かだが、それしか分からない。
一緒にいた子が「リン」と口にしていたように聞こえたが、それが彼女の名前なのかもしれない。
平良 (たいら)(やっぱり、花だった)
香りを放つ花を見つけて、その花を纏う女の子を見つけた。
平良 (たいら)「・・・・・・」
いつの間にか緊張していたのか、ふっと息をつくと体の力が抜けていく。
平良 (たいら)「・・・・・・」
自分の心臓がばくばくと忙しなく動いていることに平良が気づいたのは、それから数分後のことだった ───。
〇黒
素敵...素敵すぎる第一話ですね✨
「一目惚れ」や「ギャップ」ではなく「香り」🌸
主人公の少し変わった特徴で、物語がどう展開していくのか、想像が勝手に膨らんでしまいます❗️
音を聞いて色が思い浮かんだり、文字や数字に色がついて見える「共感覚」を思い出しました。平良には、特定の人物と香りに関して他の人が持っていない「共感覚」があるのかなあ、とふと思いました。いずれにしても不思議なファンタジー感のある展開ですね。
読みながら彼の感じるその花の匂いを想像していました。その彼女から、ある種の空気感を嗅ぎ取ったんでしょうね。どんなに素敵な女の子なのか興味が湧きます!