私はワタシを×したい!~元勇者さん家の家庭事情~

鳥飼

妹リリアを謎の女から守り抜け!(脚本)

私はワタシを×したい!~元勇者さん家の家庭事情~

鳥飼

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〇西洋の街並み
???「完熟たる身を宿し黒点を賜る熱き地の使者達よ!」
???「我が命に従い、憎き者を滅せよ!」
???「タンペット・ドゥ・バナーヌ!!」
リリア「きゃああ!足がっ!!」
  リリアの足元に大量のバナナの皮が出現し、彼女の足を滑らせる。
ケイン「リリア!!」
リリア「お兄様っ!!」
ケイン「リリア!荷物はいいから、近くの柵に捕まるんだ!」
リリア「でも!このオランジュは孤児院の皆さんにお届けしなければならない物!」
リリア「絶対に手放したりしませんわ!!」
  農園から分けてもらった果実の入った袋をリリアは決して離そうとはしなかった。
リリア「ああっ!!」
  踏ん張ろうにも腐った皮が足を絡め取り、袋を抱えた状態で彼女は横倒しに倒れてしまう。
ケイン「リリア!!」
???「そのまま崖下へ滑り落としてしまえ!行け!バナーヌ!!」
ケイン「すまない!この看板を借りるぞ!!」
店主「ええっ!?どうするんだい!?ケインさん!!」
ケイン「足場が悪いのなら、これで滑っていくまで!!」

〇中世の街並み
  ケインはバナナの皮が撒き散らされた道に看板を放り投げ、バランスを取りながら坂道を下っていく。
男の子「兄ちゃんかっこいい!スケボーみたいに乗りこなしてらあ!」
リリア「お兄様!!」
ケイン「掴まれ!!リリア!!」

〇大樹の下
  崖まであとわずかのところでケインは妹の体を掴み上げ、脇の草むらに転がった。
リリア「お兄様!大丈夫ですか!?」
ケイン「ああ、俺はこの通り無事だ。リリア、痛いところはないか?」
リリア「はい!オランジュも無事でしたし、私も大丈夫ですわ!!」
ケイン「それならよかった!」
???「──還れ!熱き使者達よ!」
ケイン「なぜお前はリリアを狙う!」
???「──お前だなんて酷いな。 私の名だって知っているだろうに」
ケイン「ふざけるな!妹を襲う輩の名など俺は覚えるつもりはない!」
リリア「お兄様。紳士たるもの女性に大声を出してはいけませんわ!」
ケイン「だが!君は何度となくあの女に襲われているんだぞ!?」
リリア「それでも私は、女性に声を荒げるお兄様の姿など見たくはありません」
ケイン「そ、そうか──」
???「覚えないというのなら何度でも名乗り、その身に刻み付けてやろう」
???「我が名は『リーリ』」
リーリ「ケインの妹「リリア」の命、必ずや貰い受ける!!」
ケイン「待て!リーリ!!」
リーリ「時間だ。──また会おう、ケイン」

〇大樹の下
リリア「消えてしまいましたね、リーリさん」
ケイン「自分を殺そうとする輩に『さん』付けなど無用だ」
リリア「でも、私にはあの方が苦しんでいるように見えますの」
リリア「きっと何かご事情があるんですわ」
ケイン「──俺にはさっぱりわからん」
ケイン「服が汚れてしまったな。家まで送っていこう。オランジュは俺が代わりに届けておくよ」
リリア「ありがとうございます。お兄様!」

〇空

〇睡蓮の花園
トーラス「嗚呼、その柔肌はまるで朝露に煌めく白百合のようだ」
マダム「まあ!トーラス様ったら♡」
トーラス「貴女という芳しい香りに私は蝶のように抗うことが出来ない──!」
トーラス「さあ。その瞳に私が映るまでどうかお側に・・・」
カーマイン「あ〜な〜た〜~!!」
トーラス「うわっ!カーマインさん!?」
カーマイン「ちょっと目を離した隙に客引きサボって女引っ掛けてるとはどういうつもりです!!」
カーマイン「またお小遣いを減らされたいようですわね!」
トーラス「ええっ!!これ以上減らされたらお姉ちゃんの店に行けない──」
カーマイン「黙らっしゃい!!」
トーラス「ひいぃっ!!」
マダム「お、お取り込み中のようですわね」
カーマイン「奥様、宅の主人が失礼致しましたわ!魔女の力が必要な時はぜひ私にご相談くださいませ!!」
カーマイン「若返りでも若いツバメとの出会いでも、簡単にご用意出来ましてよ?」
マダム「おほほほほ。私はこれで失礼しますわ!ごきげんよう~!」
カーマイン「さて、あ・な・た?お覚悟はよろしくて?」
トーラス「お、お許しおぉ~~!!」
リリア「お父様とお母様。本当に仲良しですわね♪」
ケイン「リリアにはそう見えるんだな」
リリア「ケンカするほど仲が良いって聞きましたけど?」
ケイン「そうとも言うな。あれも二人なりの触れ合いなのかもしれないね」
リリア「うふふ。そうですわね♪」

〇空

〇豪華な部屋
ケイン「ただいま!」
リリア「お帰りなさいませ!お兄様!」
ケイン「君のオランジュ。みんな喜んでいたよ!」
ケイン「今度、孤児院のみんなで収穫のお手伝いをしに行くみたいだよ」
リリア「まあ!私、農園と孤児院の皆さんが仲良くなれたらってずっと思っていましたの!」
ケイン「ああ。君のおかげで孤児院の子達のイメージもよくなるはず。頑張ったな!」
リリア「はい!!」
カーマイン「本当にリリアは聖女のようね」
カーマイン「まだ回復の力は弱いけれど、もっと町の人のお役に立てるよう頑張りましょう!」
リリア「ええ!勇者の娘として町の皆様の助けになれるよう、これからも努力しますわ!」
トーラス「ケインは自警団のホープ!リリアは町の聖女!元勇者の私としても鼻が高い!」
カーマイン「あら。そのお鼻、子供達に恥じぬようにへし折って差し上げましょうか?」
トーラス「あ、あはは。怖いこと言わないでよ〜?」
カーマイン「過去の栄光に縋って天狗になるなってこと!わかってる?元勇者さん?」
トーラス「はぁい。肝に銘じまーす!」

〇レンガ造りの家

〇英国風の部屋
トーラス「その娘、初めて顔を見せたのか」
ケイン「はい。今までの事件は些細な物でしたが、顔見せしてきたということは奴も本気」
ケイン「これ以上の仕打ちでリリアが狙われるかと思うと俺は!」
トーラス「ケイン!!」
ケイン「はい!父上!」
トーラス「相手はどんな顔だったか覚えているか?」
ケイン「目眩しの術で詳しい造形までは分かりませんが、俺と同じくらいの年齢かと思います」
トーラス「ほう──。で?」
トーラス「身長は?体重は?」
ケイン「父上、何を言って──!?」
トーラス「お胸は大きかったかい!?」
カーマイン「阿呆は黙らっしゃい!!」
トーラス「うごぁっ!!」
カーマイン「男同士で何をコソコソ話してるかと思ったら!くだらない!」
トーラス「ううっ、敵の詳細を知りたかっただけなのにぃ~」
カーマイン「もう一発喰らいたいのかしら?」
トーラス「もう結構でぇす・・・」
ケイン「リリアは自分のことより、あの女の事情を心配していました」
ケイン「それがあの子らしさなんでしょうが、俺は心配でなりません!」
カーマイン「そうね。リリアはいつも他者を優先し過ぎてしまうわ」
ケイン「街の警備をしているとはいえ、彼女のピンチにすぐに駆けつけられるとは限らないのが悔しいです」
カーマイン「はぁ。うちの夫がもう少し役に立てばよかったのに──」
トーラス「私は物理専門だから魔防は弱々なんだよね!えへへ♪」
カーマイン「だったら女の尻を追いかける代わりに、娘の盾役にでもなれないのかしら?」
トーラス「そんなこと言っちゃって、私が傷付いたら泣いちゃうくせに〜!」
カーマイン「ば、馬鹿おっしゃい!!」

〇森の中

〇けもの道
リリア「風よ貫け!ウィンド・アロー!」
リリア「えっ!?」
???「こんなところで夜遊びとは感心しないね?」
リリア「お父様!」
トーラス「リリアはもう寝たって聞いたんだけどなあ」
リリア「ごめんなさい。でも私、いつも守られてばかりで──」
トーラス「だから攻撃魔法を練習しようと思った」
リリア「はい」
トーラス「君の目標はヒーラーだよね?」
リリア「でも、自分を守るくらいなら!」
トーラス「小さな体で攻撃を繰り出すのはとても負担になる」
トーラス「だからケインもお母さんも君を守るのに徹しているんだ。わかるね?」
リリア「──はい」
トーラス「寝不足は成長の妨げになる。もう休みなさい」
トーラス「あ!今日のことは二人だけの秘密だ。私が家を抜け出した事も内緒にしておいてね?」
リリア「ふふ、わかりましたわ。お父様」
トーラス「──というわけで、君もお帰り願えるかな?」
リーリ「気付いていたのか」
トーラス「レディの事ならどんな気配も見逃さないさ」
リーリ「レディね。それ以上私に近づこうものなら、お前の妻が飛び込んでくるだろうな」
トーラス「あはは。流石の私も自分の【娘】には手を出さないよ」
リーリ「!?」
トーラス「リーリ。いや、リリア。君は一体何がしたい?」
リーリ「ただの色ボケだと思っていたのに」
トーラス「一応、この世界を救った元勇者なもんでね。勘だけは確かさ」
トーラス「ケインにはこういうのは期待しない方がいいとは思うけどね」
リーリ「──っ!!」
魔獣「退け!リーリ!」
リーリ「でもっ!!」
魔獣「行くぞ!」
リーリ「わかったわよ」
トーラス「やれやれ。うちの娘はどんな道をたどってしまったんだろうね」

〇荒廃した教会
リーリ「あのオヤジ大嫌い!お兄様も鈍感すぎ!!」
リーリ「リーリって久しぶりに呼ばれて嬉しかったのに──何で私だってわからないのよ!」
魔獣「わかった所であいつのことだ。混乱して自爆でもするんじゃないか?」
リーリ「そんなのダメ!必要なのはリリアだけなんでしょう!?」
魔獣「まあな。別にあいつが消えても俺は困らんが」
リーリ「そんな事言って!お兄様に何かあったら、アンタでも許さない!!」
魔獣「わかったから、いい加減落ち着け!」
リーリ「そうよ、狙うのはリリアだけ!」
リーリ「私はワタシを殺したいだけなんだから!!」

〇黒
  「私はワタシを×したい」・終

コメント

  • タイトルでネタバレしてるのに最後の最後までリーリの正体に気づけませんでした!ただの色ボケを装っていたお父さんが一番鋭くて全てお見通しだったのね。tempête de bananes(バナナ嵐)攻撃は斬新でした!

  • 兄×妹とファンタジーをありがとうございます……(尊)😇

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