家族の夢は叶えない!

奈尚

読切(脚本)

家族の夢は叶えない!

奈尚

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「作文『私の家族』」
「一年E組、住之江アサ」

〇教室
アサ「私の家には、ルールがあります」
アサ「朝ごはんは家族そろって食べること」
アサ「寝ている間は絶対に邪魔しないこと」
アサ「そして」

  家族の夢は、笑わないこと

〇一戸建て

〇明るいリビング
カイナ「くだらん。書き直せ」
アサ「ミュェェ! にゃんでぇぇ!?」
アサ「会心感激美文で名文 内申オール5間違いなし!」
アサ「って全私中で話題沸騰なのに!?」
アゲハ「おはよ、アサ。カイナ」
アサ「あ、おはよ。ママ」
カイナ「どこに名文が?迷文ならあるが」
カイナ「全編通して赤裸々すぎ能天気すぎだ」
カイナ「しかもなんだ、極めつけが」
アサ「将来は家族とずっと一緒にいられるように」
アサ「お家でゲームを宣伝する仕事がしたいでーす」
カイナ「絶対これ家族関係ねぇだろ。 ゲームしたいだけだろ」
アサ「ちっ、違うもん」
アサ「びゃー!「家族の夢は笑わない」って ルールじゃん」
アサ「兄ちゃんの反抗期ー!」
バク「おはようふたりとも。よく眠れたかー?」
バク「父さんはバッチリ・・・ふぁ」
アサ「お゛ばよ゛ゔ、ババー」
バク「ん?お袋がどうかしたか?」
カイナ「ふん、何を今さら」
カイナ「ルールにあるのはその夢じゃない」

〇ダイニング
カイナ「”こっち”だろ」
アゲハ「話は終わった?じゃあ朝食にしましょ」
バク「今朝はトーストに目玉焼きだぞ」
  我が家のルール。
  朝食は全員で食べること
四人(ひとり口パク)「いただきまーす」
アサ「卵、半熟だね。おいしーい」
バク「昨夜はどうだった。夢は見たかい?」
アゲハ「ええ、ぐっすりはっきり」
  それには深ぁい事情があって
バク「父さんは、今作っている知育パズル 『気ままにきおクマくん』が大ヒット」
バク「売り上げトップに躍り出る夢だったよ」
バク「子ども達の笑顔!はしゃぐ声!」
バク「あれはぜひとも叶えたいな」
アサ「あっ、ずっるーい!」
アサ「私の夢の方が絶対いい! 絶対叶えたいー!!」
バク「お、今日の対抗はアサか」
バク「だが父さんも負けられん」
バク「子ども達の未来とボーナスがかかっている」
  なんの話かって?
  そう、これは”夢”の話
  夜寝て見るアレの話だ

〇ソーダ
  うちのママとパパは、予知夢の力を
  持った『ドリームカップル』
  その夢は百発百中で
  ほんのり世界を平和にしていたらしい
アサ「だけど私達が生まれたら」
アサ「その力は私達にも少しずつ分散したみたいで」

〇ダイニング
アサ(今じゃ、家族全員が予知夢を見るんだ)
アサ(ただし、その中で ”当たる”のはひとつだけ)
アサ(夢に出てきた”手がかり”を一番 多く再現できた人の)
アサ(夢が叶う!)
バク「それから夢の中で──」
アゲハ「・・・・・・」
バク「? どうしたんだ、ママ」
アゲハ「あのね、実はみんなにお願いがあって」
アゲハ「協力してほしいの。 私の夢が”叶わない”ように」
アサ「えっ」
バク「一体どんな夢を見たんだい」
アゲハ「夢の内容は、ケンカ」
アゲハ「高校生くらいの子が不良にからまれてたの」
アゲハ「何度も殴られて」
アゲハ「血だらけになって・・・」
バク「悪夢だな」
バク「なんとしても”逆夢”にしなけりゃ」
バク「なに、家族で協力して」
バク「別の夢を叶えればいい話だ」
アサ「う、うん!」
アゲハ「ありがとう」
アゲハ「あと私が見た手がかりは、これ」
アゲハ「はい」
バク「これは、”鶏”?」
アサ「かわいいー」
アサ「でも、近くに鶏なんていたっけ」
バク「うーん、難問だな」
バク「僕が夢で見たのは”段ボール箱”だ」
バク「正直、何に使うかは分からないが」
バク「うちにある分を ひとりひとつ持って出かけてみよう」
アサ「はいはい!私のはお弁当」
アサ「手作りじゃなくてプラスチック容器で 何個も積み重なってた」
アサ「コンビニのとかお弁当屋さんのとか そんな感じ!」
バク「ほう」
バク「うーん、予想はしていたが 今日の手がかりもバラバラだな」
バク「後は・・・うん?」

〇シックな玄関
バク「カイナ。何している」
カイナ「見たら分かるだろ。学校行くんだよ」
バク「待て。話はまだ終わってない」
バク「ママのためにも家族が協力しなきゃだろ」
バク「お前はどんな夢を見たんだ」
バク「おい」
カイナ「言ったはずだ。 俺はもう一睡もしない」
カイナ「(エナドリを飲む音)」
カイナ「寝なければ夢も見ない」
カイナ「家族と話すこともない」
バク「カイナ!」
カイナ「ウゼェんだよ!!」
カイナ「夢に、変な力に振り回されるのは もうゴメンだ」
カイナ「俺は俺の好きに──」
カイナ「む・・・」
カイナ「・・・させてもらう」
バク「あ、おい!」
バク「なんなんだアイツは」
アサ(兄ちゃん最近、ずっとあんな調子だな)
アサ(前は楽しそうに夢を語ってたのに)
アサ(何かあったのかな)
アサ(それか、遅れて来た反抗期)
バク「まあいい。あいつは放っておこう」
バク「僕とアサで夢を叶えればいい。な?」
アサ「・・・うん」

〇通学路
アサ「よいしょ、と」
バク「よし、準備万端だな」
バク「僕も仕事に行く。アサもしっかりな」
バク「どっちが夢を叶えても恨みっこなし!だ」
アサ「うん」
アサ「行ってらっしゃい」
  さあ今日も
  ”夢”を賭けた戦いが始まる
アサ「やっるぞー!」
  絶対に叶えてやる
  今朝のあの、最ッ高な夢を──!

〇ソーダ
モモ「やあアサ。どうしたんだい」
モモ「えっ? 弁当を、俺に?」
モモ「嬉しいよ。 うん、もちろん一緒に食べよう」
モモ「アサとふたりなんて 楽しいに決まってるじゃないか」

〇通学路
アサ(幼なじみのモモ君)
アサ(サッカー部エースでイケメンで 絶賛ぶっちぎり片想いの彼と)
アサ(一緒に・・・ランチ・・・)
アサ「うおぉぉ」
アサ「断然正義!! 断固死守!!」
アサ「その為にはなんだって」
アサ「あれ?」
アサ「兄ちゃん?」
アサ「何してんだろ、塀に寄りかかって」
アサ「寝て、る・・・?」
カイナ「ん・・・限定、メニュー」
カイナ「5パック・・・」
カイナ「ハッ」
カイナ「む、今のは」
カイナ「ちっ」
アサ「あ、ちょ」
アサ「行っちゃった」
アサ「んもう、寝るのガマンなんかするから」
アサ「あっぶないなー、もう」
アサ「あ、ヤバ!もうこんな時間。 遅刻しちゃう!」
アサ「近道しないと」

〇狭い裏通り
アサ「急げ!急げ!」
アサ「さっぶーい」
アサ「んあ?」
アサ(わ、子ネコ!)
アサ(ノラかな。震えてる。寒そう)
アサ(どこか風をしのげる場所は)
アサ(でも、どこにも)
アサ「あ」
アサ(この箱ならちょうど・・・)
アサ(い、いやいやでも!)
アサ(これは夢を叶えるためのヒント)
アサ(これがなくなったら私の夢 叶わないかも)
アサ「・・・・・・」
アサ「──ううん、違った」
アサ「ほらこれ!入って」
アサ「大丈夫、ただの箱。 暖かいよ、ちょっとは」
アサ「ね!」
アサ「うんうん、ぴったり」
アサ「そうだよ」
アサ「私の夢よりキミの方が大事だよね」
アサ「ママの事は、パパもいるんだし」
アサ「手がかりは他にも──」
アサ「あ!」

〇店の入口
アサ「鶏の看板!」
アサ「ここは、お弁当、屋さん?」
アサ「わがまま山賊のグリル弁当 1日5食の限定メニュー・・・」
アサ「これだッ!」
アサ「手がかりがこれでそろう!」
アサ「たのもーッ!!」
「あの、看板の限定メニュー!」
「えっと」
「全部!ください!!」

〇大きな木のある校舎
アサ「くへー、セーフ!」
アサ「間に合ったぁ」
アサ「後は・・・」
アサ「あ」
アサ「モモ君!!」
モモ「やあ。どうしたんだい」
アサ「お、おはよ」
アサ「あ、あの、これ!」
アサ「お、お昼ッ! おべ、べ弁当!!」
モモ「えっ? 弁当を、俺達に?」
モモ「ありがとう。 うん、もちろんいただくよ」
アサ「じゃ、じゃあ」
モモ「おーいみんな!」
モモ「住之江さんから差入れだぞー」
アサ「へ?」
サッカー部員A「うおーやったぜ!」
サッカー部員B「お、限定のじゃんスゲー」
モモ「おかげで朝練がはかどるよ。 サンキュ」
アサ「朝、練・・・」
アサ「って、事は」
アサ「失敗じゃんバカー」
アサ「いい線いったと思ったのにぃ」
アサ(パパの方は)
アサ(うまくいったかな)

〇大きな木のある校舎

〇通学路
  そして1日が終わって帰り道
  ネットを確認。
  ケンカや暴行のニュースは流れてこない
アサ(ちゃんと回避できたっぽいな)
バク「おう、アサ」
アサ「パパ!お帰りなさい」
アサ「夢は?叶った?」
バク「いや、それが」
バク「『きおクマくん』に不具合が見つかってね」
バク「発売はまだ先になりそうだ」
アサ「じゃ、じゃあ・・・」
アサ「兄ちゃん!」
アサ「その腕に抱えてるのって」
カイナ「こけこっこー印のエナドリ。 コンビニ限定ハッカ味」
カイナ「毎朝ソッコー売り切れるこれを 5箱まとめ買い」
カイナ「今朝、俺が見た夢だ」
アサ「えーっ」
アサ「じゃあ兄ちゃんの夢が叶った ってコト!?」
アサ「ずッるーい!」
カイナ「ふたりだけじゃ危険だからな。 当然だ」
アサ「こンの」
アサ「兄ちゃんのバカ!反抗期ーッ!!」

  一方、その頃

〇殺人現場
テツヤ「畜生!」
テツヤ「なんで俺がクビなんだよ!!」
テツヤ「あ゛ーイライラする」
テツヤ「タバコは切れてやがるし」
テツヤ「パチンコは勝てねェし」
テツヤ「そうだ」
テツヤ「こうなったのも、元はといえば 俺を退部させた美勝高校」
テツヤ「そのサッカー部のせいだ! 何年も前の話だがな」
テツヤ「だったらその元凶をぶん殴って」
テツヤ「スッキリしなきゃなァ」

〇街中の道路
テツヤ「な、なんだ」
テツヤ「通行止め、だと・・・?」
工事中のおじさん「いやぁすまないね」
工事中のおじさん「本当は今朝で終わるはずだったんだが」
工事中のおじさん「昼食を買いにいった奴が なかなか帰ってこなくてね」
工事中のおじさん「遅れてしまってるんだよ」
工事中のおじさん「なんでも、狙っていた限定弁当や」
工事中のおじさん「エナドリが売り切れてたとかで」
テツヤ「ンだよ、それ」
テツヤ「向こうの道も」
テツヤ「おもちゃ屋の車とかで渋滞してやがるし」
テツヤ「しゃあねえ、回り道するか」

〇狭い裏通り
テツヤ「ん?」
テツヤ「箱」
テツヤ「が動いた?」
テツヤ「捨てネコ・・・?」
テツヤ「そうか・・・」
テツヤ「お前も独りぼっちか」
テツヤ「俺もさ」
テツヤ「あ゛ー!」
テツヤ「ヤメだ!ヤメヤメ!!」
テツヤ「殴り込みはヤメた」
テツヤ「その代わり」
テツヤ「お前を連れて帰る」
テツヤ「その方がスッキリできそうだ」
テツヤ「な!」

  私の家には、ルールがある
  家族の夢は、笑わないこと

コメント

  • 弁当やエナジードリンクの品切れが通行止め解除の遅延に繋がるとはw
    猫のお陰で事件が起きなくて良かった良かった。

  • 家族全員が予知夢を見るという面白い設定……さらに魅力的な天真爛漫で真面目な主人公にとても惹かれました。
    なぜこれで夢が回避できるのだろうと思っていたら、なんとピタゴラスイッチのように因果が巡って結果が出るとは。その過程も結果も面白く、また心温かくなりました。自分の夢は叶わずとも周りの幸せを産んでいるのですね。
     
    そしてカイナお兄さんは良いツンデレ。エナドリはほどほどに笑。

  • 予知夢が叶う、もとい予知夢を叶える為に手掛かりを探す行動に魅力を感じました!
    ママの場合は悪夢を回避する為に夢で見たヒントをそれぞれ教え合っていたのも素敵でした✨
    結果はお兄ちゃんの夢が叶ったかに思えましたが、もしかしたら悪夢を回避させる為の行動だったのかもですね。
    最後は悪夢に出てきた人物も人を傷付けずに猫に癒され、優しい世界に🐾
    エナドリ兄貴には野菜生活を贈りたいです🥕健康第一♪

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