読切(脚本)
〇病院の廊下
おんぎゃー!おんぎゃー!
健一「産まれた・・・か」
健一「・・・元気でな」
よし、急いで隔離だ!
防護ケース、閉めたか?
よし、それじゃ行くぞ!
ガラガラガラガラ・・・
〇病室のベッド
由梨恵「うぅ・・・ぐす」
健一「どうした。何を泣いているんだ。 立派に出産したんじゃないか」
由梨恵「だって・・・もうお別れだと思うと・・・」
健一「何を言ってる。すぐ会えるじゃないか」
健一「──リモートで」
〇グレー
『フルリモート家族』
〇サイバー空間
涼太朗さんがログインしました
健一「おぉ、涼太朗来たか」
愛佳「も―遅いよお兄ちゃん!」
涼太朗「時間丁度なんだから遅くはないだろ」
愛佳「そーかもしれないけどっ!」
友也「でもね。あのね。『ごふんまえこーどー』だよって、おとーさんやせんせーがいってたよ」
涼太朗「・・・ふん」
健一「お前、もう少し愛佳や友也を見習ったらどうなんだ?兄として恥ずかしくないのか?」
涼太朗「兄、ねぇ・・・」
涼太朗「で?なに?今日はみんなの前で小言を言うために呼んだの?用がないなら抜けるけど」
健一「お前は・・・っ!?」
健一「・・・はぁ。いや、今日はめでたい日だからやめておこう。もちろん用はある」
由梨恵「みんな元気かしら?今日退院したのよ」
由梨恵「それから・・・ちょっと待ってね」
乳児園のライブカメラが共有されました
愛佳「かっ、可愛いぃ~!」
由梨恵「ね、可愛いでしょ~」
由梨恵「みんなの妹、新しい家族よ。みんな優しく見守ってね」
愛佳「もちろんだよっ!」
友也「ボクも!もうお兄ちゃんだからね!」
涼太朗「・・・」
健一「まぁそういうわけだ。よろしく頼むよ」
涼太朗「よろしく、ね・・・。 税金は大丈夫なの?」
健一「税金、というと?」
涼太朗「はぁ、遠隔養育税(リモート税)に決まってるでしょ。 知らないとでも思ったの?」
涼太朗「子供が多いほど取られるんでしょ?四人になったんだからだいぶ取られるんじゃないの?」
健一「ん、あぁ、実は後で相談しようと思ってたんだが・・・。 涼太朗、少し生活費を減らしてもいいか?」
健一「バイトでもして自分の分を少し賄ってほしいんだ」
涼太朗「はぁ・・・やっぱりそうだ」
涼太朗「もうすぐ高3だってわかってる? 大学受験控えてるのにバイトってなんだよ!」
健一「それはわかってるんだが、長男だろ? 家族のために少しは──」
涼太朗「またそれ!? 長男?家族?」
涼太朗「画面越しに週に一回しか会わないのに、こんな時だけ家族って言われてもね!」
健一「お前!何てこと!」
涼太朗「だってそうだろ? 父さんが子供のころは、家族は同じ家に暮らすものだったって言ってたけど」
涼太朗「僕らにとってそれは同じ施設の友達や先生じゃないか!」
涼太朗「画面越しにこれが家族だよって言われてたまに会うだけの人のために、何で僕が損しなきゃいけないんだ!」
健一「ふざけるな! 父さんがどれだけ家族のことを想っていると思ってるんだ!」
涼太朗「知らないよ。 はぁ、もういいよ」
涼太郎さんがログアウトしました
健一「あ、おい! ・・・くそ」
健一「あぁ、すまない。 またみんなの前でケンカしてしまったな」
愛佳「ううん。 お父さんは悪くないよ。 私からもお兄ちゃんに言っておくね」
健一「あぁ・・・すまない」
〇男の子の一人部屋
涼太朗「くそっ! ・・・あぁもう!」
涼太朗(妹たちにも聞こえる状態でやらなくてもよかったのに。 自分が損する話になると押さえられない)
涼太朗(くそ・・・歯がゆい)
愛佳からのメッセージ
「お兄ちゃんちょっと話せる?」
涼太朗「・・・ま、来るよな」
「大丈夫だ。いつものとこか?」
愛佳からのメッセージ
「うん、よろ」
〇電脳空間
涼太郎さんがログインしました
愛佳「あ、お兄ちゃん」
涼太朗「なんだよ」
愛佳「も―分かってるでしょ! さっきの!友也も困った顔してたし、お母さんもきっと悲しんでるよ」
涼太朗「・・・お前、なんでそんなに家族を信じられるんだ?」
愛佳「えー? だって、家族だよ。血が繋がってるんだよ。それだけで強い絆じゃん!」
涼太朗「それだよ。 僕にはそれが全く分からない」
涼太朗「ま、父さん達が出している養育税や生活費のおかげで生活できているのには感謝してるさ」
涼太朗「でも、お金の義理だけだ。 家族の絆なんて無いさ」
涼太朗「大体、本当にあの父さんと母さんが本当の親かなんて分かんないじゃないか」
愛佳「何言ってるの? そんなの間違うわけないじゃん」
愛佳「赤ちゃんも可愛かったでしょ? 妹だよ? 嬉しいじゃん!」
涼太朗「ふん、それでお金がもらえるなら喜ぶさ。 でも、僕だけ損させられてるじゃないか」
愛佳「もーなんで損得でしか考えないの? お母さんが聞いたら悲しむよ」
涼太朗「あの人は、自分の幸せが家族の幸せー、くらいにしか思ってないだろ」
愛佳「もー何でそんなヒドイこと言うかな?」
愛佳「どうせイライラして、また意固地になってるだけでしょー!」
涼太朗「なってない!」
愛佳「そういうカッとなるとこ、お父さんそっくりだよ」
涼太朗「・・・!? あんなやつと一緒にするな!」
涼太郎さんがログアウトしました。
愛佳「あ・・・」
〇男の子の一人部屋
涼太朗「・・・」
涼太朗「あぁもう!」
涼太朗(父さんや愛佳に怒ったってどうしようもない。 そんなことは分かっているはずなのに)
涼太朗(表面取り繕って、良い条件が引き出せるように冷静に会話した方がいいはずなのに)
涼太朗(友達や先生の前ならできる簡単なことがなんでできないんだ・・・)
涼太朗「くそっ・・・!」
愛佳からのメッセージ
「お兄ちゃん、さっきはごめんね」
愛佳からのメッセージ
「お金のこと、私からもなんとかならないか、お父さんに言ってみるから来週も来てね!」
涼太朗「・・・はぁ」
「考えとくよ。ありがとう。」
涼太朗(愛佳はなんで絆なんて意味不明なもののために、こんなに動けるんだ?)
涼太朗「・・・理解不能だ」
〇黒
一週間後
〇サイバー空間
涼太朗さんがログインしました
健一「・・・」
愛佳「あっ、お兄ちゃん! 今週もちゃんと来てくれたんだ! よかったー!」
愛佳「来てくれないかと思ったよ」
涼太朗「ふん。 家族会議は内容こそ聞かれないものの、参加者の一覧はログに取られてんだぞ」
涼太朗「一定以下の参加率になると、学費の補助が減額されるんだよ」
愛佳「またお金ー!?」
愛佳「でも来てくれてよかったよ! ね、お父さん!」
健一「・・・ん? あぁ、まぁな」
涼太朗「そんなに嫌そうにウソ言わなくてもいいさ」
涼太朗「この前のお金の話も、どうせ僕には拒否権なんてないんだろ? だったら話すだけ時間の無駄なん──」
健一「すまなかった」
涼太朗「・・・え?」
健一「・・・すまなかった」
健一「一度お前抜きで、家族で話したんだ」
健一「そうしたら、母さんや愛佳が自分の分を涼太朗のために使っていいからと」
友也「ぼくもだよー!」
健一「あぁ、友也もだな」
友也「うん! ぼくのおこづかい、いもうとにつかえば、おにーちゃんのおかね、へらないでしょー!」
涼太朗「・・・」
愛佳「お金が原因でお兄ちゃんの受験の邪魔になるようなことにはしないよー!家族だからね!」
健一「父さんもな、4人兄弟だったんだ。 お金は全然なくて貧乏だったけど、すごく仲のいい家族だった」
健一「涼太朗はしっかりしているからな。 だから、お金のことについて少しお前に甘えてしまった」
健一「お金の件は何とかする。 もちろん、愛佳や友也の生活費やおこづかいも減らさない」
健一「・・・すまなかった」
涼太朗「な・・・なんだよそんな素直に謝るなんて気持ち悪い」
涼太朗「まぁ、僕もちょっと言い過ぎた。 悪かったよ」
涼太朗「お金さえ何とかしてもらえるなら、僕から特にいうことは無いさ」
愛佳「んもー! 違うでしょお兄ちゃん!」
愛佳「こういう時は、「ありがとう」だよ!」
涼太朗「・・・でも、今回はそもそも──」
愛佳「──おにいちゃん」
涼太朗「──ッ!」
涼太朗「・・・くそ、あ、ありがとう!」
〇男の子の一人部屋
涼太朗「ふう・・・今週の家族会議ノルマ完了」
涼太朗(愛佳が言うみたいな無条件の家族の絆があるなんて思わない)
涼太朗(でも、まぁ)
涼太朗(どうせ独り立ちするまでは、お金を出してもらわなければいけないんだ)
涼太朗(この家族という関係も、週一くらいなら悪くないかな──)
画面越しでしか家族に会えないという「異常事態」が「日常」になる時、自分は家族としてどう振る舞うべきか。違和感を払拭できずにふてくされている涼太朗の感覚が私にとっては一番自然なような気がしますが、愛佳に共感する方もいるでしょうね。良くも悪くも、家族の在り方の定義が揺らいでいる時代なのかもしれません。
家族ってなんなんだろう?とあらためて考えさせられました。いつからリモート関係なのかわかりませんが、一緒にいても話すことのない家族もいれば、リモートで喧嘩しながらも繋がっている家族もいるんですね。
空想かもしれないですが本当に起こり得る近未来、そんな印象を持ちました。このように「家族」の関係が希薄になったとき、家族形態がどのように変化するのか考えさせられますね。そんな中、愛佳ちゃんのような存在は、本当に尊いものですね!