カコの過去(脚本)
〇おしゃれなレストラン
海野 梼(うみの ゆすき)「君と外食しても楽しくない」
デート中に突如、彼から発せられた言葉。
彼女は、彼に理由を訊ねる。
砂糖 菓子(さとう かこ)「ユスキ。急に、どうしたの?・・・」
海野 梼(うみの ゆすき)「カコ、俺は──」
彼の口から出た言葉に、彼女は頭の中が真っ白になった・・・。
〇アパートのダイニング
その1時間後──。
砂糖 菓子(さとう かこ)「最っっっ低ぇーーーーーっ!!!!!」
破綻したデートから帰ってきた彼女は、水槽の前で愚痴を吐いていた。
砂糖 菓子(さとう かこ)「聞いてよ栄螺(さざえ)ーーー!!!」
栄螺(さざえ)「・・・・・・」
水槽の中の栄螺(さざえ)は先程もらったばかりのワカメをゆっくりと喰んでいる。
砂糖 菓子(さとう かこ)「本当にどうしようも無いんだけど・・・」
砂糖 菓子(さとう かこ)「彼氏に「同じ物を食べられないなんて、一緒にいる意味が無い。」とか言われた・・・」
砂糖 菓子(さとう かこ)「何よ・・・これ、フラレたの?」
砂糖 菓子(さとう かこ)「努力してどうにかなるものじゃないのに〜!」
彼女は、アレルギーや体質が原因で食べられない物が多い。
特に彼女は、呼吸困難になってしまうほどのアレルギーを持っていた。
砂糖 菓子(さとう かこ)「確かにシュラスコに行って、私がほとんど食べられなかったのは残念だけど・・・」
砂糖 菓子(さとう かこ)「私が牛肉を食べられないことを知っててシュラスコに行くか?普通さあああぁーーーーー!!!!」
彼女の怒りは留まることを知らない。
砂糖 菓子(さとう かこ)「あいつに誘われた時、私もシュラスコがどんなお店か知らなかったせいもあるけど!」
砂糖 菓子(さとう かこ)「サラダバーとか、焼きパイナップルを楽しめたから良かったじゃん!!」
砂糖 菓子(さとう かこ)「だいたい、一緒に同じ物が食べれない理由にあいつの偏食もあるってこと忘れてないっ!?」
砂糖 菓子(さとう かこ)「マ・ジ・で・腹立つうううぅぅぅ!!!!!・・・」
怒り狂う彼女の矛先は、ワカメの減ったチョレギサラダに向けられた。
砂糖 菓子(さとう かこ)「ムシャムシャ・・・」
砂糖 菓子(さとう かこ)「あー・・・食べたら落ち着いてきたかも」
砂糖 菓子(さとう かこ)「はぁ・・・」
砂糖 菓子(さとう かこ)「パクチーが好きなだけでサイコパス扱いするの、本当にやめてほしい・・・」
砂糖 菓子(さとう かこ)「紫蘇だって「食べ物じゃない」とか言うし・・・」
砂糖 菓子(さとう かこ)「あいつがナスとトマトとズッキーニが嫌いだから一緒にイタリアンも食べられない・・・」
砂糖 菓子(さとう かこ)「中華も好きじゃないって言うし・・・」
砂糖 菓子(さとう かこ)「フレンチもあいつは「量が少ないのと雰囲気が嫌い」とか言って食べられないし・・・」
砂糖 菓子(さとう かこ)「逆に何なら食べられるのよっ!?」
砂糖 菓子(さとう かこ)「カレーは良くてインドカリーは駄目って何!?」
砂糖 菓子(さとう かこ)「食べられないだけで、私は好き嫌い無いのにっ!!!」
栄螺(さざえ)「・・・・・・」
栄螺(さざえ)は、そんな彼女の愚痴も構わずにワカメをゆっくり吸い込んでいく。
砂糖 菓子(さとう かこ)「・・・こうしてサラダを一緒に食べてくれるのは、栄螺(さざえ)だけだよ?」
砂糖 菓子(さとう かこ)「ワカメだけじゃなくて、アカモクも一緒に食べてくれるもんね?」
砂糖 菓子(さとう かこ)「あいつの嫌いなヒジキも食べてくれるし!」
砂糖 菓子(さとう かこ)「・・・・・・」
砂糖 菓子(さとう かこ)「栄螺(さざえ)と食事した方が、あいつと食事するよりも楽しいなんて・・・」
砂糖 菓子(さとう かこ)「・・・・・・」
砂糖 菓子(さとう かこ)「・・・ヤバい、泣きそう!」
砂糖 菓子(さとう かこ)「笑えっ!自分っ!!!」
砂糖 菓子(さとう かこ)「笑うのだっ!!!!」
砂糖 菓子(さとう かこ)「ふぅーーーーーーーーっ!!!!!」
砂糖 菓子(さとう かこ)「・・・・・・」
砂糖 菓子(さとう かこ)「・・・ねぇ、今度はメカブも試そうか?」
砂糖 菓子(さとう かこ)「キャベツ雲丹(うに)ならぬキャベツ栄螺(さざえ)ってできないかな?」
砂糖 菓子(さとう かこ)「まだちょっとツラいけど、楽しいことを優先して生きなきゃ!」
砂糖 菓子(さとう かこ)「人生、勿体ないからね!」
砂糖 菓子(さとう かこ)「じゃ、買い物に行ってきまーす!」
本当だったら、まだ彼氏と一緒に居たはずの時間。
彼女は、無理矢理にでも有意義な時間にしようとスーパーへ出掛けた・・・。
〇スーパーマーケット
砂糖 菓子(さとう かこ)「スーパーが近い所にあるって最高!」
砂糖 菓子(さとう かこ)「夕飯の分も合わせて買っちゃおう!」
〇スーパーの店内
砂糖 菓子(さとう かこ)「ワカメとメカブ買って〜、キャベツ買って〜」
砂糖 菓子(さとう かこ)「お茶もできなかったからお菓子も買おう!」
砂糖 菓子(さとう かこ)「紅茶と合うお菓子あるかな〜?」
砂糖 菓子(さとう かこ)「あ・・・」
砂糖 菓子(さとう かこ)「あの駄菓子だ・・・」
彼女はふと、昔のことを思い出した・・・
〇ボロい駄菓子屋
友達1「カコちゃん、お菓子食べようよ!」
砂糖 菓子(さとう かこ)「あ・・・私、そのお菓子、食べれないの」
友達2「えー、乗り悪いなぁー」
友達3「食べなきゃ仲間じゃないよ〜?」
砂糖 菓子(さとう かこ)「ご・・・ごめん・・・」
友達4「ちょっと一口くらい良いじゃん」
砂糖 菓子(さとう かこ)「でも、アレルギーで・・・」
友達1「またそれぇ?ダルいなー」
友達2「じゃあ、カコだけ仲間外れね?」
砂糖 菓子(さとう かこ)「や・・・やだよぉ!」
友達3「だってカコ食べれないんでしょ?」
友達4「食べなよ〜、友達でしょ?」
砂糖 菓子(さとう かこ)「・・・・・・」
断りきれない彼女は、差し出された駄菓子を食べた・・・。
〇病室のベッド
案の定、幼い彼女は病院に運ばれた。
点滴に繋がれているが、幸い命に別状は無かった。
砂糖 菓子(さとう かこ)「ごめんなさい!ごめんなさい!」
母「あんた、死ぬかもしれなかったのよ!?」
母「何考えてるのっ!?」
砂糖 菓子(さとう かこ)「だって・・・」
母「あれほど食べちゃいけないと言ったでしょっ!!?」
砂糖 菓子(さとう かこ)「ごめんなさい・・・」
母「あんな駄菓子よりも、あんたの食費や薬代の方が高く付くんだからねっ!!!?」
母「これ以上お母さんも働けないんだから、余計な出費させないでっ!!!」
砂糖 菓子(さとう かこ)「ごめんなさい!!・・・」
〇黒
「ごめんなさい・・・」
「ごめんなさい・・・」
「ごめんなさい!!!・・・」
〇スーパーの店内
砂糖 菓子(さとう かこ)「・・・・・・」
砂糖 菓子(さとう かこ)「そんなこともあったっけ・・・」
砂糖 菓子(さとう かこ)「ま、食べられる物が少なくても美味しい物は他にもあるし」
砂糖 菓子(さとう かこ)「友達が居なくても学生生活は楽しめたし」
砂糖 菓子(さとう かこ)「お父さんが浮気相手と蒸発して、お母さんの気が少しおかしくなっても生きてこれたし」
砂糖 菓子(さとう かこ)「私がそういったアレルギーと虚弱体質でなければ・・・と思ったこともあるけど」
砂糖 菓子(さとう かこ)「べつにそれで自分が不幸だとは思ってないし」
砂糖 菓子(さとう かこ)「・・・誰が不幸に生きてやるものか」
砂糖 菓子(さとう かこ)「私が両親の不幸の元凶でも楽しく生きてやる」
砂糖 菓子(さとう かこ)「大丈夫、大丈夫。楽しい、楽しい・・・」
〇アパートのダイニング
〇アパートのダイニング
砂糖 菓子(さとう かこ)「ただいまー!」
砂糖 菓子(さとう かこ)「えっ!」
砂糖 菓子(さとう かこ)「ユスキ・・・から?」
海野 梼(うみの ゆすき)「もしもし!カコか?」
砂糖 菓子(さとう かこ)「ユスキ?・・・」
海野 梼(うみの ゆすき)「昼間は、ごめん」
砂糖 菓子(さとう かこ)「・・・・・・」
海野 梼(うみの ゆすき)「俺は、カコと別れたくてあんなことを言ったんじゃないんだ!」
砂糖 菓子(さとう かこ)「・・・違うの?」
海野 梼(うみの ゆすき)「君と同じ物が食べられなくて、つい、あんなことを言ってしまった」
海野 梼(うみの ゆすき)「カコの方が俺に合わせてくれていたのに・・・ごめん」
砂糖 菓子(さとう かこ)「・・・・・・」
砂糖 菓子(さとう かこ)「・・・ねぇ」
砂糖 菓子(さとう かこ)「いっそ、本当に別れようよ」
海野 梼(うみの ゆすき)「えっ!?」
砂糖 菓子(さとう かこ)「例えこの先、ユスキと一緒に暮らしても、食べる物が別々なのは変わらない」
砂糖 菓子(さとう かこ)「こんなことで苛つきを感じてしまうくらいなら、この先はたかが知れてる」
砂糖 菓子(さとう かこ)「食べる物が別々の家族像を、私は描けない」
砂糖 菓子(さとう かこ)「ユスキは私みたいな面倒臭い女じゃなくて、もっと普通のコを探しなよ」
海野 梼(うみの ゆすき)「カコ!俺は君を愛してるんだ!」
砂糖 菓子(さとう かこ)「そんなこと言って、どうせまた苛つかせてしまうかも・・・」
海野 梼(うみの ゆすき)「頑張ってカコと俺の共通する物を探す!!!」
海野 梼(うみの ゆすき)「俺は、カコと家族になりたいんだ!」
砂糖 菓子(さとう かこ)「・・・・・・」
海野 梼(うみの ゆすき)「カコの両親のことも、体質のことも、俺はちゃんと理解していきたい」
海野 梼(うみの ゆすき)「そのために俺は、可哀想なカコを、ひとりにできない!」
砂糖 菓子(さとう かこ)「!・・・・」
砂糖 菓子(さとう かこ)(こいつ、今・・・私のことを何て言った?)
砂糖 菓子(さとう かこ)(・・・「可哀想」だって?)
砂糖 菓子(さとう かこ)「・・・許さない」
海野 梼(うみの ゆすき)「え?」
砂糖 菓子(さとう かこ)「許さないっ!!! よくもそんなこと──」
海野 梼(うみの ゆすき)「カ・・・、カコ!?」
砂糖 菓子(さとう かこ)「もう掛けてこないでっ!!!」
海野 梼(うみの ゆすき)「カコ!!────」
砂糖 菓子(さとう かこ)「よくも私のことを「可哀想」だって言ったな?・・・」
砂糖 菓子(さとう かこ)「絶対に許さない・・・」
砂糖 菓子(さとう かこ)「あーあ、どうしよう・・・」
砂糖 菓子(さとう かこ)「かえって別れるのは辞めにしようかな?」
砂糖 菓子(さとう かこ)「このまま添い遂げて、私がユスキを飼い殺してあげるの」
砂糖 菓子(さとう かこ)「普通の生活なんて送らせはしない・・・」
砂糖 菓子(さとう かこ)「ユスキには私の人生を楽しくさせるためだけに生きてもらおう・・・」
砂糖 菓子(さとう かこ)「ねー?栄螺(さざえ)?」
栄螺(さざえ)「・・・・・・」
砂糖 菓子(さとう かこ)「ユスキ・・・絶対に、ユルサナイ・・・」
砂糖 菓子(さとう かこ)「大丈夫、ちゃんと愛してるあげるから・・・」
食べ物のアレルギーや好き嫌いが激しい人にとっては、食べ物ハラスメントの苦痛もあるんですね。梼にパクチーが好きなだけでサイコパス扱いされた菓子。最初は「んなわけあるか」と思ったけど、ラストでは「やっぱそうなのかも」ってなりましたね。将来、菓子が梼を飼殺しにするときの餌の種類や与え方を想像したら怖いなあ。
菓子さんの細やかな心情描写と、その愚痴を黙って聞く栄螺、この取り合わせはタマラナイですね!
ユスキさんのアレルギーへの無理解と無神経さに共感を覚えてしまいました。紫蘇もパクチーもイタリアンも美味しいのに!一生独りで牛丼屋から出てくるな、とでも言いたくなりますね。
ラストの菓子さんの歪んだ心情も、やはり受け止めてくれるのは栄螺だけですね。
時間も相まって、砂糖菓子というお名前を見ただけでお腹が減っておやつ食べたくなっちゃいました😜
同じ食べ物食べれないだけで酷いこと言うなあって最初は思っていたけど、やはり食べ物の趣味が合わなさすぎると大変なのかな?と思いました😙そして、菓子はどんな状況でもポジティブなところが羨ましいし、とても尊敬します😊