ザ・デイ・ビフォア

みもざ

ザ・デイ・ビフォア(脚本)

ザ・デイ・ビフォア

みもざ

今すぐ読む

ザ・デイ・ビフォア
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇線路沿いの道
  明日、僕はこの世からいなくなる
  今日は「その前日」だ
  所持金は580円 人に借りるあてもない
  住んでたアパートも解約した

〇ラーメン屋

〇ラーメン屋のカウンター
  『へいらっしゃい』
  最後の晩餐に選んだのは
  学生のころ毎日のように通っていたラーメン屋
  ・・・のはずだった
  『しょうゆラーメン 600円!?』
  テーブルに立てられたメニューを見て、絶句した
  10年前の記憶では550円だった
  値上がりしている
  『おにーさん何にする?』

〇ラーメン屋のカウンター
  どうしよう
  客は自分しかいない
  金がないから出直してきます、だなんて言えるはずもない
  いっそのこと食い逃げしてしまおうか
  『ふう』
  うつむいたまま答えようとしない僕を見て、おやじさんは面倒くさそうに溜息をついた
  ああ、こんなだから僕は・・・

〇ラーメン屋のカウンター
  『・・・はいよ。お代はいらないよ』
  カタンと音を立てて目の前に置かれたのは、夢にまで見たしょうゆラーメンだ
  『なん、で』
  『顔見ればわかるよ。麺伸びる前に食っちまいな』

〇ラーメン屋のカウンター
  視界が涙で歪んだ
  こんな自分にもまだ、与えてくれる人がいたのか
  『ありがとうございます・・・ありがとうございます・・・』
  号泣しながらラーメンをすすった
  その味は記憶よりも、ちょっとだけしょっぱい
  スープを最後まで飲み干して、床に土下座する
  『どうかこの店で、僕を働かせてください!!』
  『なんだって?』
  『ご馳走になってこんなお願いまでするなんて、失礼なのは承知です。でも僕、もう何もなくて』
  『最後にあなたにこの御恩を返したいんです!!』

〇霧の中
  その、前日のこと

〇病院の診察室
  『末期の膵臓癌です』
  『既に全身に転移しています』
  『余命は・・・持って半年・・・』
  『・・・』

〇病院の入口
  ラーメン屋という職業柄、腰を痛めることは多い
  今回もそうだろうと整体に通ったりしていたが、一向に治らないので病院に行ってみた
  誰がそこで余命を申告されるだなんて、想像しただろうか

〇ネオン街
  ガタン
  ふらふらと歩いているうちに、道端にあった何かを蹴飛ばした
  『占い・・・?』
  倒したのは小さな立て看板だった
  顔を上げると、街灯の影から若い女性がひょっこりと顔を出した
  『すみません、見えにくいところにこんなもの置いて!!』
  『いや、こっちこそぼんやりしててすまなかった』
  そう言いながら看板を戻すと、占い師は心配そうにオレの顔を覗き込む
  『あの・・・もしよろしければなんですが、占って行かれませんか?』
  まさかそんな勧誘をされるなんて
  オレは見るからに怪訝な顔になった
  『えっと、客引きとか、そういんじゃないんです。ただ、その』
  『ずいぶんとお辛そうな顔を、されているので』
  占い師の言葉にびっくりした

〇ネオン街
  そのまま椅子に座ると、今日起きた出来事を洗いざらい彼女に話す
  『・・・大して繁盛してる店じゃないが、学生時代の思い出だって言って、たまに食べにくる客がいる』
  『そういう奴らの場所をなくしてしまうのが不甲斐ないんだ』
  『失礼ですが、後を継いでくれるような方は・・・』
  『そんなのはいないね』
  占い師は、手相を見ていたオレの掌をそっと裏返した
  『もしよければ誰かに、何かを、与えてください』
  『え?』
  神妙な面持ちで言われた言葉の意味がわからず、思わず聞き返す
  『これは占いとは関係ありません』
  『実はわたし・・・今日で占い師をやめるんです』
  よくよく話を聞いてみれば、どうやら副業禁止の会社に昼間は勤めているらしい
  こうして占いをしていることが、偶然会社の上司に見つかってしまったとのこと
  『もともとお金に困って始めたわけじゃないんです』
  『ただ・・・会いたい人がいて』
  『会いたい人?』
  『学生のころに片思いしていた人なんです。でも卒業してしまってから、誰も連絡先がわからなくて』
  『こうして繁華街で占いをしていれば、いつか会えるかもしれないなんて、馬鹿なことを思ってました』
  『さっきの言葉はその人の受け売りです』
  『占い師をやめる、その前日に、誰かにこの言葉を伝えたいと思っていました』
  『そうだったのか』
  彼女は再び掌を表にすると、手相について一通り占ってくれた。
  しかし彼女のどんな言葉よりも、最初に言われた一言が心に刺さったままだった

〇ネオン街
  オレはこれまでの人生で、誰かに何かを与えたことがあっただろうか
  先のことなんて考えないで、いつもしたいことばかりして、結局何も残らなかった
  『誰かに何かを、与える、ねえ・・・』

〇ラーメン屋

〇ラーメン屋のカウンター
  『・・・いいよ』
  『えっ!?』
  おやじさんはしばらく黙っていたが、深く息を吐いてからそう言った
  『その代わり、こっちからも一つ頼みがある』
  『オレの余命はあと半年だ』
  『死に物狂いで働いて、この店を継いでほしい』
  思いもかけない言葉だった
  しかし、明日終わりにするはずだった人生だ
  迷う理由などなかった
  『よろしくおねがいします!!』

〇霧の中

〇線路沿いの道
  『はぁ。占いやめたら夜、暇になっちゃったな』
  『そう言えば、あのおじさんのやってるラーメン屋さん・・・』
  『通ってた学校のすぐ傍だったっけ。明日、行ってみようかな』

〇ラーメン屋
  そう、これは十年ぶりに僕が彼女と再会する
  「その前日」の物語

コメント

  • 人の運命が交差して巡り会う感動的なお話でした。
    お話の組み立て方がすごいですね!
    最後に二人が巡り会ったところがいいしめ方だと思いました。

  • とっても感動しました。捨てる命あれば払う命あり。死のうと思っている人が、生きたいと思っている人と運命の出会いは何かの巡り合わせでしょうか。

  • 出会いとか縁とか、希望とかチャンスとか、読んだ後沢山の言葉が頭を駆け巡りました。そして、ラーメン屋店主の寿命は延びたと信じたいです!

コメントをもっと見る(6件)

成分キーワード

ページTOPへ